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#16 前に進むその思い


「水沢、なにかあったの?」


目に涙をうっすら浮かべる水沢。

先ほどの勢いといい、何かおかしい。

すると水沢がうつむきながら静かに口を開く。


「……あの…」

「…どうしたの?」


水沢はぎゅっと唇を噛んだ後、絞り出すように声を出す。


「俺…もうバスケができないんです」

「え……!なんで……」


わずかにあふれた涙を拭く。


「骨関節結核って知ってますか?」

「……」


知らない単語を聞いて、馨は静かに首を振る。


「結核菌が血液に入って、関節が菌に侵される病気です。」

「結核…?」


水沢は視線を海に向けたままコクリと頷く。


骨関節結核。


結核は肺の病気だが、稀に結核菌が血液内に進入し、骨髄を侵す。

主に関節に発症。炎症を起こし、痛みを伴い、運動は制限されてしまう。

水沢の右膝はその骨関節結核に侵されていた。

多少の違和感はあったものの、痛みがなかったので対して気にしていなかった。

それが仇となり、耐えられないほどの痛みに変わっていた時にはすでに進行が進んだ状態だった。


「俺は右膝に病気が見つかって…バスケのような激しいスポーツは無理だって言われました…」

「そんな…」


中学1年の時からバスケに一直線で純粋で、その技術をどんどん身につけていった水沢は、この2年の間にバスケができない体になっていた。


『流川先輩のようにプレイしたい』


そう意気込んでいたのに。

そんな人物からバスケを取り上げる病気。

…なんて残酷なことだろう。


「もう、治らないの?」

「…手術はしました」

「結果は?」

「術後は少し麻痺がありました……今のところ普通に生活する分には問題ありません」

「手術をしたら治るんじゃないの?」

「……」

「……」


水沢の声が涙声になる。


「術後は医者が驚くほど良好です。でも…」

「バスケは、無理、なの?」

「……はい……」

「……っ」


いたたまれなくて目をぎゅっと瞑る。

今まで涙をこらえてきた水沢の目から大粒の涙が溢れ落ちる。

激しい運動は無理な病気。

最後に憧れの先輩と本気の1on1をして、自分を認めてくれた。

バスケに対して吹っ切れていたものの、この悲しみだけはどうしても消すことはできなかった。

水沢は流れた涙を拭いた。


「俺はもう勝負できませんけど…馨先輩はできるじゃないですか」

「水沢…」

「手術する前に流川先輩と勝負しました。最初は『流川先輩と一緒にバスケができればそれでいい』って思ってたんです。でも、流川先輩に『自分とバスケしたいってことは勝負したいことなんだろ』って言われました。」

「…勝負……」

「流川先輩はこんな俺に本気でぶつかってきてくれました。それに俺、来年湘北に行きます。……俺、見たいです。流川先輩と馨先輩がまた1on1やってるとこ」

「……」

「それに、色々気にするなんてらしくないですよ、先輩。」


水沢がにっこりと笑う。

自分はバスケができるのに、バスケがやりたくてもできない相手に励まされている。

自分は忘れてしまっていたのだろうか。

アメリカでバスケをしているうちに、気弱になって。

どんな相手にでも立ち向かう気持ちを忘れてしまっていたのだろうか…


「らしくない、か。そうだね。水沢の言う通りだ」


『自分とバスケしたいということは、勝負したいということ』


その言葉を言った人物から勝負を挑まれた。

つまり勝負したいということは……

その時、さあっと海からの風が髪を巻き上げる。


「あんたの言う通りだ。らしくないね」


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