#16 前に進むその思い


富ヶ丘中時代の1コ下の後輩、水沢イチロー。

流川を尊敬している彼は、流川と共にバスケをする馨の事も同様に尊敬していた。

彼は興奮気味で自転車を放り出し、倒れんばかりに走り込む。


「かっ…馨先輩!!水沢です!お久しぶりです!お元気ですか!?いつ…、いつアメリカから帰ってきたんですか?俺、もう心配で…流川先輩はお元気ですか?おっ、俺は見ての通り元気ですけど…」

「お、落ち着きなさいよ…!一気に質問しない!」


一気にまくし立てる水沢をなだめ、私は見ての通り元気だから、と、隣に座らせる。


「お元気そうでなによりです!流川先輩もお元気ですか?」

「いつもと変わらず、無口だよ」


ニコリと返す馨に、水沢は一人納得したようにぶつぶつと独り言を言う。


「そっか…!流川先輩も元気なんだ…」


本当に素直な子だと、馨は目を細める。


「いつアメリカから帰ってきたんですか?急だったから、心配しましたよ」

「ついこの間だよ。あの時は…バカだったよ、ホント。水沢には心配かけちゃったね」

「……やっぱり、稲村先輩のことが原因だったんですか?」

「……」

「他の男バスのメンバーは、何とも思ってないですから」

「うん、ありがとう。頭ではわかってるつもりなんだけど、気持ちがね…」

「あんなこと考えてるの、稲村先輩だけですから!」


流川と馨が中学2年の時。

二人に対してとある事件を起こした、当時キャプテン3年の稲村。

この事件をきっかけに馨はアメリカへ行き、流川のバスケはより攻撃的なものとなった。


「馨先輩はまた流川先輩とバスケやってるんですか?」

「いや、まだ…」

「えっ!まだって…どうしてですか?」

「…勝負しろとは言われたけど…」


そう言ったまま、馨は黙ってしまう。


「勝負、しないんですか?」

「……」

「勝負、した方がいいですよ。馨先輩」



水沢の目に力がこもる。


「馨先輩は流川先輩と勝負できるんですから、するべきです!」

「でも、今の私では…」

「性別が違うからですか?身長差があるからですか?昔の馨先輩はどこいったんですか!?」

「……」

「俺は、俺は流川先輩と勝負したくてもできないんですよ??」

「……勝負できない?どういうこと?水沢」


今にも泣きそうになる水沢に馨はようやく気づく。

水沢の右足を持つ手にグッと力が入っている。


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