#15 挑戦する者たち
試合終了後……
雑誌編集者の集合写真撮影後、湘北メンバーは興奮冷めやらぬままフロアを後にする。
流川は部員たちの一番後ろを歩き、ふぅっと深く息を吐く。
肩にかけたタオルを忘れてしまうほど、今は全てを出し切り汗を拭くのさえ躊躇してしまう。
前を見ると部員たちの背中が見える。
眼鏡を外し、涙を浮かべる木暮。
こづき合いをする三井と宮城。
赤木に支えられながらヨロヨロと歩く桜木の姿。
皆、満ち足りた顔で歩いている。
流川は無表情でそれを眺めていた。
「……」
試合中…
自分の中で何かが爆発したような感覚が思い出される。
心の奥底にあった吹き溜まりが一気に外に弾けるような…
そんな不思議な感覚。
初めて体感するものだった。
それは、
覚醒した自分。
あれほど追い詰められた状況だったにも関わらず、自分でも信じられないほど気持ちを落ち着かせてプレイが出来た。
…そして、ラスト5秒。
前を走る桜木の姿を見た時、
自分も走らなければ、と思った。
ただ、ひたすらにリングに向かって走った。
二人のブロックにシュートを阻まれた時も…
かつての自分ならそのまま無理矢理シュートを打ったであろう。
いや、あの時…シュートに跳んだ時はあのまま意地でもシュートを打ち、何がなんでも決めるつもりでいた。
その刹那、その『声』は聞こえた。
『ーーーーー楓……っ!!』
馨の声が聞こえたような気がした。
その声はリングのみを見ていた自分の視界を一瞬で広くさせ、フリーになっていた桜木を見つけ、パスを出した。
…無我夢中で。
リングしか見えていなかった自分に届いた声。
会場にいる訳がないと思いつつも、馨の『声』には感謝している。
「……」
流川はピタリと立ち止まって後ろを振り返り、観客席を一望する。
「……」
いるはずのない姿を探してしまう。
いるはずないのに、隅々まで見渡してしまう。
「……流川くん?」
「…!」
立ち止まった流川に気付いた安西が声をかけると、流川はハッとなり振り向く。
「どうかしましたか?」
「…いえ。なんでもありません」
流川はもう一度チラリと振り返った後、フロアから立ち去った。
(ここにいるわけねーよな。アイツはアメリカだ…)
流川はまた一つ息を吐き出す。
『夏が終わったら、俺はアメリカだ』
『私も、アメリカに行く!』
(………)
「アメリカ」という言葉に、自分を奮い立たせる。
そして、自分の思いを揺るぎないものにする。
(アメリカか……ぜってー行ってやる)
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