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#15 挑戦する者たち


沢北は何度話しても語りつくせないような感じで話を進める。

沢北の顔にはもう「悲しみ」はなかった。

活き活きとしていて、喜びにあふれている。


「あのシュートを見た時ね、自分も負けられないと思ったよ。大きな選手相手にあれほどのプレイをするなんて。勇気をもらったというか…自信をもらったよ。本当に、ありがとう」


沢北はまっすぐ馨を見つめ、お礼を言った。

馨には沢北の目がキラキラ輝いているように見えた。


「…いえ、私の方こそお礼を言わなければ」

「えっ?」

「私も見たんです。アメリカで、沢北さんを」

「本当に!?」


沢北は思わず立ち上がり、声を大きくする。


「ど、どこで?」

「アメリカの高校と日本の強い高校が試合をするって聞いて…そこで山王工業…沢北さんを見ました」

「そ、そうだったのか…」


馨は見ていた。

アメリカのチームと山王の練習試合を。

自分より大きくて、自分より巧い選手に挑み続ける沢北を…。


「あのときの沢北さんを見て、私もあのシュートに自信が持てたんです。私はアメリカでずっとくじけていた人間だから…感謝される立場じゃないです」


伏し目がちに力なく話をする馨を見て、沢北は自分の姿と重ね合わせて見ていた。

アメリカで落ち込んでいた時の自分と。

自分に自信が持てず、先が見えず、どうしたらいいか判らなかった時の自分と。


「…キミは何か迷ってるの?」

「…迷ってる?」

「うん。…それとも、何かを見出せずにもがいてるの?」

「……」

「監督が言っていたよ。『負けた事があるというのはいつか、大きな財産になる』って。俺はアメリカに行って『負けた』事でアメリカに留学する事を決めたし、一つの技術を見につけた。そしてこの試合では流川というプレイヤーに出会えたし、あなたにも会えた」


自分が発した言葉に、沢北自身も驚いていた。

今の今まで意識していなかったけれど、『大きな財産』が何なのか、はっきりと理解した。

『負けた』先に何があったのか、今やっと自覚した。

そうか。

監督が言っていたのはこういう事だったのか。

目の前の彼女は、まだ『負け』の先にある何かをまだ自覚していないようだ。

いや、自覚していないだけで、きっと何か見つけているはず。

自分のように…


「君も何か見つけたんじゃないのかい?」

「何か、…って何?」

「それは君が決める事じゃないかな」

(私が、見つけたこと…?)


なんだろう…


「……」


表情を曇らせている馨に沢北はそれを感じとった。


「…あなたもアメリカで何かあったの?」

「!」

「顔に出てるからすぐにわかるよ」


静かに微笑む沢北を見て、今度は馨が話し始める。


「…私もアメリカで負けた人間です。意地張ってアメリカに行ったけど、『負けて』しまって…くじけて何も出来ずにただがむしゃらに色々やって…自分でも何をしているのかわからなくなっちゃって…」

「でも、あのシュートを見せてくれたのは君だ」

「……」

「『負けた』ことは無駄ではないと思うよ」

「沢北さん…」


立ち上がったまま自分を見下ろす沢北を見上げた。

沢北の姿はとても大きなもののように感じた。

辛い経験を自分の力で乗り越えてきた「王者」の姿だった。



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