愛妻家スネイプ先生シリーズ
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30代に入ってから体調がいい日がない。
別にどこか体に悪いところがあるとかそういうわけじゃない。
認めたくないけど、単にゆっくりと老化が始まっている証拠だろう。
今年何度目か分からない風邪を引いた私はベッドの中で申し訳なさを抱えて丸まりながら、セブルスがキッチンで昼食を準備する様子を眺めていた。
木のトレーに乗せられて運ばれてきたのは、セブルスお手製の温かい野菜たっぷりミネストローネとふかふかのパンだった。
デザートには薄く丁寧に剥かれたりんご。
トレーの脇には一緒にお昼の薬も用意されている。
「美味しい……私が作るときと同じ材料なのにどうしてセブルスが作るとこんなに味が違うんだろう」
私達の好物であるミネストローネは、よく食卓に登場するメニューだけれど、私が作るとどうも塩気が強くなってしまったり、ぼやけた味になってしまうことが多い。たぶん欲張って野菜を入れすぎるのがよくないのだと思うのだけど、セブルスはさすが魔法薬のプロというだけあって、そこらへんの水分の調整なんかが上手なんじゃないかと思っている。
「私にはそう違いは感じられないがな」
セブルスは素っ気なく返しながら、シンクで洗い物を始めた。
「ううん。セブルスが作るほうがずっと美味しいよ」
ふーふーと息を吹きかけスープを口に運ぶ私の様子を、彼は背中で気配を感じながら見守っている。その黒のエプロン姿が新鮮で、私はスープをすするのも忘れてつい見入ってしまった。
世間からは高度な魔法薬しか作れない偏屈な男だと思われているかもしれないが、私の知る家でのセブルスは驚くほど家庭的で、料理も家事も何でも器用にこなしてしまう。
もう「家事は女性の仕事」なんて時代でないことは分かっているけれど、自分より遥かに手際よく、完璧に家の中を回していく彼の姿を見ていると、ふと、暗い澱のような感情が湧き上がってくる。
私という存在は、本当に彼の妻に相応しいのだろうかと。
セブルスは一日中動き回っていても疲れを見せないのに、私は掃除機をかけるだけでエネルギーを使い果たしてしまう。
そして今日のように頻繁に体調を崩しては寝込み、彼に負担をかけてばかりだ。
もっと元気で、体力があって、彼をしっかり支えられるような人と結婚した方が、セブルスは幸せだったんじゃないだろうか。
なんでセブルスは私を選んだんだろう。
カツン、とスプーンが皿に当たる音が響き、私の手が止まる。
それを見逃さない人だった。セブルスは振り向くと、すぐにその気難しい眉の間に深い皺を刻んだ。
「また何か変なことを考えているな。風邪のときに悲観的になるのは君の悪い癖だ」
「……何も考えてないよ」
「どうせまた私なんて……と考えていただろう」
「勝手に心読まないでよ」
「読まなくても分かる。何年一緒にいると思っているんだ」
セブルスは呆れたように息を吐くと、タオルで丁寧に手を拭き、エプロンを外してベッドサイドへと歩み寄ってきた。見下ろす黒い瞳に射すくめられ、私はシーツを握りしめながら、胸に溜まったモヤモヤを吐き出すように言葉をこぼした。
「だってさ、こんなに体弱かったら私セブルスより長生きできないかもとか考えちゃって。長生きするとかしないとか以前に私はどんどん足腰が弱っていくのに、セブルスはおじいちゃんになってもピンピンしてる光景がなんだか目に浮かんで……」
「まったく。君はせっかくのスープを食べながら何十年も先の未来に絶望していたというのかね」
セブルスの唇の端がおかしそうに、けれどどこか柔らかく綻んだ。彼は呆れたように息を吐くと、ふかふかのパンをひとくちサイズにちぎり、私の口元へ、半ば強引に突っ込んできた。
「そんな無駄なことに思考を割く暇があるなら、これを食べて一秒でも早く眠りたまえ。病人の思考は当てにならん」
「でも……私よりもっと体力のある人だったら」
「ない」
「え?」
「そんな仮定の話に興味はない」
しつこい私にセブルスは不機嫌そうに眉をひそめた。
「私は君と結婚した。君が勝手に頭の中で別の誰かを連れてきて比較したところで意味があるか?」
「でも……」
「それに、だ」
セブルスは私が飲み干した空のスープ皿を手に取ると、ムッとしたような顔で言った。
「今さら私を返品したいと思っても、残念だがクーリングオフの期間はとっくに過ぎている。潔く今の配偶者との生活を受け入れたまえ」
珍しいセブルスの冗談に思わず笑うと、彼はふんと鼻を鳴らして立ち上がった。
彼の言葉に、さっきまで胸の奥に沈んでいた重たい気持ちが少しずつ溶けていく。
我ながら単純だと思う。
けれど、セブルスがそう言うのなら本当にそうなのだろう。
弱い部分も含めて愛してくれると彼が言うのなら、私はそんな私にできる限りの形で愛を返せばきっといいのだ。
「セブルス……ありがとう。早く治すね」
返事の代わりに降ってきたおでこへの優しいキスに、私は確かな愛を感じながら、毛布を引き寄せた。
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