スネイプ先生の日常シリーズ
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「ホグワーツでジャパンスタイルの夏祭りをやろうと思うのじゃ」
ホグワーツ初の夏祭りの開催は常に目新しくてキラキラしたものに目がないダンブルドアの思い付きで決まった。
どこで目にしたのか分からないが、彼は色鮮やかな浴衣を着て盆踊りを踊る人達や、美味しそうな屋台の立ち並ぶジャパンの伝統的な夏祭りの風景にいたく惹かれたらしい。
夏祭りは夏休みに入る数日前に行われることになった。つまり帰省の数日前だ。
この時期の生徒達はもう期末テストから解放され、荷造りをして家に帰るのを待つだけである。夏祭りは一学期を頑張った生徒たちのご褒美的イベントでもあった。
生徒達はダンブルドアが絶賛する「ジャパニーズスタイルの夏祭り」とは一体どんなものなのか皆目見当がつかなかったがフェスティバルというからには楽しいのだろうと、それなりに期待していた。
それに行われるのは日が沈んだ夕刻からだという。普段ならさっさと寮に追いやられている時間だ。夜に合法で騒いでもいいイベントなど楽しくないわけがない。未知のイベントを楽しみに生徒達は試験勉強に精を出した。
そしてやってきた夏祭りの日。
ハリー、ロン、ハーマイオニーはいつものごとく三人で仲良く校舎の外を目指した。
今日の三人は浴衣に甚平としっかりお祭りルックである。ハーマイオニーは浴衣に合わせて髪の毛をアップスタイルにしており、ロンは顔を赤らめながらチラチラとその姿を盗み見ていた。
彼らがどうやって浴衣や甚平を調達したか?
昨日の夜、どの生徒もダンブルドアが大広間に用意した大量の浴衣や甚平の中から各自が自分で好きな衣装を選んだのだ。
想像以上にジャパンのお祭りルックは人気で、一部のスリザリン女子の中では可愛い浴衣を巡って大喧嘩している人達もいたとかいないとか。
いつもの重たげなローブと打って変わって、
今日は全員が爽やかで異国情緒溢れる浴衣姿である。慣れない下駄でよたよたと歩くのも楽しい。小物として並べられていたうちわや扇子を持っている人もいる。
夏祭りの会場への道はぼんやり光る赤い提灯が等間隔に浮いていた。
提灯には平仮名で「はにーでゅーくす」「さんぼんのほうき」などと協賛者らしきお店の名前が書いてある。もちろん平仮名が読める人など誰もいないのだが、うなぎがくねったような不思議な文字は多くの生徒の興味を引いた。
遠くから楽しげな太鼓やお囃子の音が聞こえてくる道を生徒達はワクワクしながら進む。
会場に着くと中央には大きなやぐらがあり、その周りをぐるりと囲むように様々な屋台が出ていた。
「すっげえー……僕もっとちゃっちい感じかと思ってた」
「とっても綺麗ね。イギリスでは見られない風景だわ」
三人は初めて見るジャパニーズスタイルのお祭りに口をあんぐりと開けた。イギリスのお祭りとは何もかもが違う。
会場はすでに多くの生徒たちが集まっていて混雑していた。まだ蒸し暑い七月。外の暑さと人混みの熱気で三人の額にはすでに汗が浮かんでいる。
三人はまずどこから回るかを話し合った。
入口に飾られていたプログラムによればあとで盆踊りを皆で踊る時間があるらしい。
それまでまだ時間があるので、三人はひとまず何のお店が出ているかぐるっと一周見て回ることにした。
「ハリー、見てみろよ大イカ焼きだって。アイツ可哀想についに食われちまったんだよ」
「ロン!よく見て!実際に使用しているイカは食用の違うイカですってテントの端に小さく書いてあるわ!」
フード屋台エリアにはわたあめ、焼きそば、ベビーカステラ、焼き鳥、ラムネ、あんず飴、焼きとうもろこしなど日本のお祭りの定番フードの店が立ち並んでいた。まだ蒸し暑い季節ゆえかフローズンバタービールの店も出ている。
店を切り盛りする人はホグワーツのOBやOGと思わしき人達やホグズミードの飲食店の人達、そしてホグワーツの教職員と様々だ。
ホグワーツ初の夏祭りと聞いて今日という日を盛り上げるために多くの大人達が協力してくれたのである。
運営側の人々も異国の雰囲気漂うお祭りを楽しみながら、お酒片手にはしゃぐ生徒達を嬉しそうに見ていた。
会場には食べ物の店のみならずお祭りならではのゲームができる店もあった。
輪なげにクジ引き、射的に金魚すくい。
日本のお祭り定番の楽しい出店が勢揃いだ。
特にハグリッドの射的が大人気のようで、誰かが大きな景品を撃ち落とす度に歓声が上がっていた。
早くあっちのほうも見てみたいとやや速歩きになる三人。
「あともう少しで一周ね。ねえ、あの店は何かしら。なんか空いてるわね」
「っ!ハーマイオニーそっちはだめだ!」
会場の端っこに位置する黄色い看板の店に近付こうとしたハーマイオニーをロンは慌てて止めた。
「何よロン!!いきなり引っ張らないでちょうい!帯が緩んじゃったわ!」
「よく見ろよ!!スネイプだ」
ロンが指差す先にはファンシーな文字で「チョコバナナ」と書かれたテントの下で殺気を放っているスネイプがいた。
スネイプも(おそらくダンブルドアに)強制的に着替えさせられたのか、今日は育ちすぎた蝙蝠を彷彿とさせる黒のローブではなく、濃いグレーの浴衣に下駄という姿である。
スネイプはもともと黒髪なこともあり、日本人に似ているせいか、なかなかにジャパンスタイルが似合っているのだが称賛の言葉をかける者など当然誰もいない。
それにしてもなぜスネイプがチョコバナナの屋台担当なのだろうか。今日という日こそ彼は生徒が羽目を外しすぎないように見張る係、つまり警備員的な役目が相応しいように思えるのだが、何故か彼はカラフルなバナナを大量生産させられている。せめてまだフランクフルトとかのほうがマシだっただろう。
スネイプの座るテーブルの前には大きな氷でできた器があり、そこにはピンクやソーダ色のチョコバナナが大量に突き刺さっていた。
テーブル部分の光景だけ切り取れば、華やかな縁日の一部という感じなのだが店主が陰気なスネイプなのでなんとも異様な光景である。
大量のチョコバナナとスネイプ。
他のフード系屋台はどこも賑わっているというのに、スネイプの屋台にはまったく人が来ていなかった。それも当然だ。この屋台だけ雰囲気が「違い 」すぎる。
三人は興味本位でしばらくスネイプの様子を陰から観察しはじめた。
スネイプは誰も客が寄り付かないにも関わらず、そんなことを気にする様子もなく淡々とチョコバナナを作り続けていた。
バケツの中からバナナを取り出し、皮を剥き、丁寧に筋を取ってから串に刺す。
しっかりと串に刺したあとはピンクやホワイトの溶かしたチョコレートにバナナをくぐらせ、ムラにならないよう均一にチョコを纏わせる。
チョコでコーティングした後はカラースプレーやアラザンを上からぱらぱらとトッピングして完成だ。いつもは繊細な魔法薬を調合する手が今日は可愛らしいデコレーションを散りばめている。飾り付けが終わると、スネイプはバナナに手が触れないよう慎重に氷の器に刺した。
氷のトレーの上に並べてはいるが、暑い季節ゆえすぐ溶けてしまうのと、衛生面が心配なのかスネイプは仕上げに冷却魔法までかけていた。無駄に手が込んでいる。
スネイプは何本かチョコバナナを作り終えると、差し入れで貰ったのか後ろに置いてあった透明なカップに入ったビールをぐぐっとあおり、仏頂面ではあるが少しだけ満足気な顔をした。
普段のスネイプなら仕事中に酒を飲むなんてことは絶対にあり得ないのだが、もはや彼もこんなお祭りムードの中ではそんなことはどうでもいいらしい。むしろこんなワケの分からない仕事、酒を飲まないとやっていられないのかもしれない。
騒がしい会場をぼうっと見つめ、一息付くとまた彼はチョコバナナ作りを再開し始めた。
売れようが売れまいが、作れと言われた分をさっさと作って帰りたい。そんなオーラがぷんぷんと漂っていた。
「オエー。スネイプの作ったものなんて死んでも食べたくないね」
一連の流れを観察したあと、ロンが道端に吐くふりをしながら言った。
「まったくもって同感だよロン」
ハリーも顔を引きつらせ苦い顔だ。
イギリスではまず見ることのないチョコバナナ。ぜひとも味わってみたいが、作った人がスネイプとなれば話は別である。
生徒達は皆全ての食べ物が食べられるように、あらかじめ一枚ずつ全部の屋台で使えるチケットが配られていたがチョコバナナチケットを使う出番はなさそうだと二人は思った。
「ハリー。あっちに行こう……僕タコヤキってやつが気になる」
天敵スネイプの視界に入らないように遠回りをして次の屋台に行こうとしたハリーとロンをハーマイオニーは引き止めた。
「待って!スネイプ先生が可哀想だわ」
一人だけ眉を下げ、真剣な面持ちでスネイプの屋台を見つめるハーマイオニー。
「ハーマイオニー、君いまスネイプが可哀想って言ったかい?」
ロンは眉間に皺を寄せ、信じられないといったように聞き返す。
「ええ。言ったわ。スネイプ先生が可哀想よ。あんなに大量に作ってるのに誰も買いに来ていない……残ったらどうするつもりなのかしら?」
「さあ。屋敷しもべ妖精のご飯にでもなるんじゃないか?」
「ロン!!屋敷しもべ妖精は残飯処理係じゃないわ!ねえ、私たちで買いに行きましょ」
声を荒げて怒るハーマイオニーにロンは呆れた顔をしながら言う。
「なあ、ハーマイオニー。あんなの自業自得じゃないか。スネイプは日頃の行いが悪いから誰も来ないんだぜ。同情する必要がどこにあるっていうんだい?他の先生のところは賑わってるじゃないか。それが答えだろ。僕は行かないよ」
「でもあんなに一生懸命作ってるのに……それにバナナが勿体ないわ。ハリーは行くわよね?」
「僕は……えーと、アー……うーん」
「もういいわ!二人が行かないなら私行ってくる!!」
フンと鼻を鳴らしスネイプの屋台に向かおうとするハーマイオニーをハリーとロンは慌てて引き止めようとしたが、彼女は親友たちの腕を振り切ってスタスタと行ってしまった。
首にかけたガマ口ポーチからチョコバナナのチケットを取り出している。
「おい……本当に行っちゃったよ。信じられない……ハーマイオニーって心臓に毛が生えてるのかい?」
ハリーとロンは仕方なく人混みの影からハーマイオニーを見守ることにした。
ハーマイオニーがスネイプの屋台に近づくとスネイプはゆっくりと顔を上げた。
予想外の来客に一瞬驚いた顔をしたが、客があの自分の頭の良さを鼻にかけたグリフィンドール生だと分かると露骨に嫌な顔をした。
「こんばんは。スネイプ先生。チョコバナナ一つください」
そんなスネイプを気にする様子もなくハーマイオニーはピシッとチケットを差し出す。
スネイプは渋々それを受け取ると、集計用のカゴにいれた。記念すべき一枚目だ。
「……好きなやつを選べ」
「それじゃあ……このピンクので」
ハーマイオニーは星型のトッピングシュガーがたくさんかかったピンクの可愛らしいチョコバナナを指さした。
「袋に入れるか」
「いえ、そのままで」
スネイプがチョコバナナを渡すとハーマイオニーは小さく「ありがとうございます」と言った。
店主としての努めを果たしたスネイプはハーマイオニーが受け取るなり「早く帰れ」といわんばかりにプイッと横を向き再びチョコバナナ作りを再開した。
塩対応にも程があるが、ハーマイオニーはこれで少なくとも一本のチョコバナナの命を救うことができたと満足気な顔をしていた。
それにチョコバナナはキンキンに冷えていてとても美味しそうだった。とてもスネイプが作ったと思えないくらい完成度が高い。
早くロンたちのところに戻って食べよう。
ハーマイオニーが屋台を後にしようとしたとき、スネイプが低い声で彼女を呼び止めた。
「ミス・グレンジャー」
「は、はい?」
まさかチョコバナナを買いに来ただけなのに「人気がないのを気を遣ってるフリをしてバカにしに来た」などといって減点でもする気なのだろうか。
ハーマイオニーは強張った顔で後ろを振り向いた。
だがスネイプが発したのは予想外の言葉だった。
「串を持ったまま走り回るな。危険だ」
「は、はあ……分かりました」
「と、全員に注意喚起しろと言われている。もう行っていい」
スネイプは素っ気なくそれだけ言うと、しっしっと猫を追い払うように手を振り、ドロドロのチョコレートにまた視線を落とした。
串のある食べ物はたしかに危険だ。
中高生に等しい年齢の彼らであっても慣れない浴衣に、慣れない下駄で串付きのフードを持って騒がれたら危険な事故が起きないとはいえない。目や喉に刺さったりしたら大変だ。セキュリティはガバガバなホグワーツであるが、無駄にそういうところにはうるさかった。
余談であるが会場の端にはマダム・ポンフリーが常駐する救護テントも用意されており、暑さで気分が悪くなった生徒や下駄で派手に転んで怪我をした生徒が手当をされていた。
ハーマイオニーは減点ではなくて良かったとホッとしながら、二人のところへ戻った。
ハーマイオニーが帰ってくるとハリーとロンは安堵の表情で帰還を祝った。
だがまだ疑いは拭えないようで心配そうな面持ちで、さっそくチョコバナナを食べようとするハーマイオニーを止めようとする。
「なあ、ハーマイオニー本当に食べるのかい?やめたほうがいいぜ。絶対毒入りだって」
「ロン!スネイプは先生よ!毒なんて入れるはずがないわ!それに作るところを見てたでしょ!」
「スネイプのことだぜ……チョコレートに変な物とか混ぜてるかも」
「ロン!それ以上言うと怒るわよ!食欲がなくなること言わないでちょうだい」
しつこく毒入りだと主張するロンを無視して、ハーマイオニーはガブリとピンクのチョコバナナに齧りついた。
もぐもぐと咀嚼し、ごくんと飲み込むと、ハーマイオニーは目を見開いた。
「お、美味しい!!」
チョコバナナといえば大抵は甘すぎるチョコレートにこれまた大量の砂糖の塊でコーティングされているのが定番だが、スネイプ製のチョコバナナは甘さ控えめだった。
おそらく甘いミルクチョコ以外にダークチョコレートも混ぜているのか、チョコ部分はすっきりとした甘さでバナナ本来の甘さを引き立てている。本体が甘過ぎない分、トッピングシュガーの人工的な甘さがちょうど良くマッチしていて、全体的にとてもバランスの取れた味だ。それにキンキンに冷えているおかげで、最後までドロドロにならず食べられそうだ。
「ちょっと!二人も買ってきなさいよ!本当に美味しいわ!私もう一本食べたいくらい」
ハーマイオニーはパクパクとあっという間にスネイプ製チョコバナナを食べてしまった。
「遠慮しとくぜ……ハーマイオニー。そんなに気に入ったなら僕の分のチケットもあげるよほら」
「ハリーは?スネイプも今日くらいは何も言ってこないわよ!」
「ハーマイオニー……あいつは僕の存在自体が気に食わないんだ。お祭りだろうとなんだろうと甚平の着方がおかしいとか言って減点してくるよ……」
「もう!!いいわ!私、他の子たちにスネイプ先生のチョコバナナが美味しいって宣伝してくるわ!大体なんでスリザリン生ですら買いに行ってないのかしら?じゃあ私行くわね。また盆踊りの時に合流しましょう」
ハーマイオニーは鼻息荒く一気にそう言うと、映える写真を撮るのに忙しそうなスリザリンの女子がたむろする方へと向かっていった。
「なあ……なんでハーマイオニーはいきなりスネイプのことをあんなに心配しはじめたんだ?せっかくのお祭りなのに……僕、ハーマイオニーが屋敷しもべだけじゃなくてスネイプを守る会とか始めたら友達でいられる自信ないよ」
時々謎の正義感とパッションを見せるハーマイオニーにロンの顔は不安げだ。
「流石にそれはないさロン……さあもう行こう。僕あっちの店も見てみたい」
せっかくの楽しいお祭り。スネイプのことなんて忘れてパーっと楽しもうと二人は屋台巡りを再開した。
ロンはハーマイオニーとも一緒にお祭りを回れなかったことがちょっとだけ寂しくもあったが、気が付けばチョコバナナ事件のことなど二人の頭から吹き飛び、しっかりとお祭りをエンジョイし楽しい夜を過ごした。
ホグワーツ初の夏祭りは大成功。
帰り道はまた来年もやって欲しいという生徒たちの興奮した声でいっぱいだった。
ハーマイオニーだけは最後まで沢山の生徒にスネイプ先生のところのチョコバナナを買った?ぜひ食べてみて!と声を掛けていたのだが、やぐらの上で歌うダンブルドアの大き過ぎる歌声や盆踊りのBGMにかき消され、彼女の活動はほとんど功をなさなかった。
スネイプ自身はハーマイオニーが必死に駆けずり回ってくれていることなどつゆ知らず、黙々とチョコバナナを作り続けていた。
悲しきかなセブルス・スネイプは非常に有能な男であるのにどんな無茶な仕事でもやれと言われた仕事はやってしまう男なのである。それが法に反するようなことでも、可愛らしいチョコバナナ作りであっても――。どこかズレた男。それが彼だ。
そして楽しかったお祭りの次の日。
ハーマイオニーの必死の宣伝も虚しく、スネイプのチョコバナナは予想通り大量に売れ残ったらしい。
翌日の大広間の朝食にはカラフルなチョコバナナがズラリと並び、生徒達は渋々スネイプが睨みをきかせる中、一本ずつ食べる羽目になったとか。
ダンブルドア「フードロスは許さんぞい」
おしまい
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