スネイプ先生の日常シリーズ
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うだるような暑さが続いていた夏の日。
ホグワーツで危険な水難事故が起きた。
放課後、暑さのあまり城の外にある湖で泳いで遊んでいた男子学生が大イカに足を引っ張られて溺れかけ、あわや命を落とすところだったのである。
幸い一緒にいた友達がすぐに異変に気付き救助したおかげで彼は一命を取り留めたのだが、ホグワーツの教員たちはこの事故を重く受け止めた。
まだまだこれからが暑さの本番。
彼らのように湖で泳ごうとする学生は増えてくるだろう。
問題なのは魔法使いの子供の多くは義務教育の過程で水泳を習っておらず、基本的な泳ぎ方はおろか水難事故の怖さ、溺れた際の対処法をまったく知らないことだ。
もちろん彼らは魔法が使えるので、もし溺れても魔法でなんとかなるのではないかと思われるかもしれないが、溺れた際に杖を持っているとは限らないし、冷静に呪文を唱えることだって不可能だろう。一瞬を争う事態では知識だけが頼りになるのである。
これまでホグワーツにはプールの授業など勿論なかったが、せめて最低限の泳ぎ方くらいは教育者として教えるべきなのではないかという意見が出始めた。
これから夏休みにも入るため、海や川に遊びに行く生徒たちも出てくるだろう。
未来ある若者の尊い命を守るため。
こうしてホグワーツで臨時のプールの授業が行われることになった。
「……おい、ハリー。僕暑すぎて幻覚が見えてるかも……あれスネイプじゃないか?」
クディッチピッチに出現した巨大な25メートルプール。
スクール水着に身を包んだハリー、ロン、ハーマイオニー含むその他の大勢の生徒たちはゆらりと現れた教師に唖然とした。
水泳の指導をするというからには、きっと魔法省のスポーツ課か何かから職員が派遣されてきて教えてくれるのだろうと思っていたのだ。
だがジリジリと日差しの照りつけるプールサイドに不機嫌そうな顔で現れたのはいつもの真っ黒なローブに身を包んだセブルス・スネイプだった。
(泳げるのか?その格好で?)
その場にいる全員の頭に同じ疑問が浮かんだが、彼の陰険でキレやすい性格を知る賢明な生徒達は誰一人としてそれを口にしなかった。
スネイプはいつもと変わらぬ威圧感をもってプールをぐるりと見渡すと、静かだがよく響く声で告げた。
「まず始めに基本の泳ぎ方を説明する。そのあとに溺れた際の浮き方と……」
静かな動揺が広がる中、授業開始の鐘が鳴ると彼は授業を始めた。
彼が教えるのは間違いないようだが、重たげなローブを脱ぐ気配はない。
一体どうやって泳ぎを教えるのだろうと全員が思っていると、スネイプは空中に向かって大きく杖を振った。
すると飛び込み台のある方にに大きな白いスクリーンが現れ「基本4泳法集」というタイトルの水泳の動画が映し出された。
(なるほど。そういう手があったか)
どうやら生徒達は動画を見て泳ぎ方を学び、スネイプ自身が泳ぎの見本を見せるわけではないようだ。
生徒達は密かにスネイプと泳ぐ羽目にならなくてよかったと胸をなでおろした。
ただでさえ近寄りがたい教師であるのに、彼にベタベタ足や腕を触られて泳ぎの指導をされるなんてごめんである。
スネイプはスクリーンを指さしながら魔法薬学の授業の時と変わらぬテンションで、淡々と動画を見せながら泳法の説明をしていく。
だがいつもと違うのは炎天下で行われているせいで、スネイプの声が段々と苦しげになってきたことだった。額には大粒の汗が流れ、黒い髪の毛はこめかみにいつもよりぺったりと張り付いている。
それでもスネイプは何回も腕で汗を拭いながら、必死に泳ぎ方の注意点やコツなどを述べていった。
(ローブ脱げばいいのに)
全員が暑くて死にそうになっているスネイプを見てそう思ったが、前にも述べた通りそんなことを言おうものなら自分の身が危ないので誰もツッコまなかった。
「……では実践に移る。全員プールに入れ」
ジリジリと照りつける日差しの中、立ったままで長いレクチャーを耐えていた生徒達はやっとプールに入れると喜んだ。
一斉にバシャン、バシャンとプールに入る生徒達。
きらめくブルーの水面。身体に染み渡るような心地良い水の冷たさ。ちょっと独特な塩素の匂いすらも新鮮で楽しい。
まだ水に入っただけであるのに、誰もが一気にテンションが上がり小さな子供のようにはしゃいでいた。
スネイプがいることなんてすっかり忘れ互いに水を掛け合って遊びだす生徒たち。
プールは一気にガヤガヤと楽しげな声で満たされた。
「静かに……静かに!!」
キャッキャキャッキャとはしゃいでいた生徒達はプールサイドから飛んできたスネイプの怒声で我に返った。
そうだ。これは遊ぶ時間ではなく授業だったのだ。
暑さが耐え難くなってきたのか、スネイプは黒い服の一番上のボタンを外し、腕を少しだけめくりながら次の指示を出した。
「全員端に寄ってもう一方のサイドまで泳げ。笛を吹いたら終わりだ。始めろ」
スネイプの合図によって生徒達は一斉にバシャバシャと泳ぎ出した。
ほとんどの生徒がさっき見た動画の見様見真似だったが彼らは若さゆえに吸収するのも早く、難なくクロールや平泳ぎなど各々が好きな方法で泳いでいた。
スネイプは汗をダラダラと垂らしながらその様子を監視していた。
プールに興味など全くないが冷たい水の中にいる彼らがさすがに今は羨ましい。
このままでは熱中症で倒れると感じたスネイプは、生徒達が泳ぎに夢中になっている間にこっそりと水とコップを出現させ一気飲みした。キンキンに冷えた水を飲むと少しだけ生き返った気がした。
そうして少しだけ休むとスネイプはまた腕組みしながらプールに視線を戻し、溺れている生徒がいないか鋭く目を光らせた。
座学だけで教えた割には意外と皆泳げている。この様子なら大丈夫そうだ。彼らが泳いでいるうちに、もう一回だけ水分補給をしておこうとスネイプがコップに口を付けた時――
プールの中央付近で黒い物体が沈んでいるのが目に飛び込んできた。
近くにいるウィーズリーとグレンジャーが何かその物体に向かって何か叫んでいる。
スネイプは重たいローブと服をバッと脱ぎ去ると、躊躇いなくプールに飛び込んだ。
バッシャーーーーン!!!!!
突然飛び込んできたスネイプに生徒達は悲鳴を上げた。
そんな生徒達を気にする様子もなく、スネイプは溺れかかったクモのような不思議な泳ぎで必死にプールの中央へと向かっていく。
「ロングボトム!!!!!」
ザバッとプールの底から救い出されたのはネビルだった。どうやらプールの底にスイムキャップを落としてしまい、潜って拾おうとしていたところらしい。ゴーグルを付けていなかったせいでなかなか見付からず時間がかかったようだ。
「大丈夫か!?」
ネビルはやっと帽子を見つけて上に戻った瞬間、ハーハーと荒い息を吐きながら顔面に髪の毛が張り付き貞子のようになっているスネイプが「大丈夫か?」などと絶対に自分に向けて言わないであろう言葉を投げかけてきたので恐怖のあまり失神してしまった。
それを救助が間に合わず窒息してしまったのだと勘違いしたスネイプは慌ててネビルの身体をプールサイドに引っ張りあげた。
「おい!ロングボトム!しっかりしろ!!」
やはり人はパニックになると魔法使いであることを忘れてしまうのだろうか。
魔法界には一応リナベイト(蘇生せよ)という呪文があるのだが、スネイプは少しだけ考える様子を見せたあと、ネビルの心臓付近を規則的に押し始めた。
そうマグル式の救命措置を始めたのである。
スネイプはこの授業の講師役を務めるにあたって、魔法省の指定する救命救急講習を受けていた。そこでスネイプが学んだのは、救命活動においてはとにかく迅速な行動こそが生死を左右するということだ。
救命措置はとにかく早ければ早いほど蘇生率が高いということだ。
つい最近、悲惨な水難事故のケースをいくつも見せられたばかりのスネイプはそれらが脳内に浮かび焦っていた。早く。早くしなければ。
授業で生徒を死なせたとなれば大問題だ。
ぐたりと青い顔で横たわり、なかなか意識を取り戻さないネビル。
心臓マッサージを数回したあと、スネイプは覚悟を決めたように彼の顔の方に屈み込んだ。ネビルの顎をぐっと上向かせて気道を確保し、唇を軽く開かせる。そして自らの唇を寄せ……。
あと数センチでネビルの(おそらく)ファーストキスが奪われてしまいそうになったとき。
遠くからハーマイオニーが叫んだ。
「スネイプ先生!たぶんネビルは溺れていません!帽子が落ちてしまったので一緒に探してあげてたんです!!」
「……本当かミス・グレンジャー?」
「はい!!ネビルはびっくりして気を失っているだけだと思います」
そうハーマイオニーに言われてスネイプはネビルの胸に手を当ててみた。
確かに気を失ってはいるが自発呼吸はちゃんとある。顔面蒼白ではあるが少なくとも心臓マッサージや人工呼吸の必要はなさそうだ。
試しにもう一回強めにペチペチと彼の頬を数回叩いてみるとギョッとした顔でネビルが目を覚ました。
「ごごご、ごめんなさい!!!!」
またいきなり眼前にオバケのような形相のスネイプが現れ、ネビルは泣きそうな顔で必死に謝った。
ネビルは大きな怒声が降ってくるのを覚悟して、震えながらスネイプの顔を見上げる。
が、スネイプは何か言いたそうな顔をしたあと無言のままグイッと手荒にネビルを立たせ、プールの方に押しやった。
「……起きたのならプールに戻れ」
ネビルはあのスネイプに何も嫌なことをされず解放されたのが信じられないという顔のままプールに戻っていった。
突然の騒動にシーンと静まりかえったプール。
スネイプが痛いほどの視線を感じてそちらに目をやれば、全員が物珍しそうにスネイプの水着姿を見ていた。
ある者はギョッとした顔をし、ある者はスネイプの身体を上から下までジロジロと無遠慮に見ている。
初めて公開されたスネイプの半裸に誰もが見てはいけない物を見てしまったような顔をしている。
だから水泳の指導など嫌だったのだ。
言い出しっぺのくせに「私はもうオバサンどころかおばあさんだから水着姿になんてなれないわ」
「セブルスが一番若いから一番泳げるでしょ」という理由で指導役を押し付けた上司達が恨めしい。
何も自分じゃなくてもマダム・フーチとか他に適任者がいそうなものなのに。
自分だって座学の講習を受けただけでまともに水泳を習ったことなどなく、泳ぎに自信などない。
そんな経緯があって水泳の先生役を押し付けられたスネイプだったがもちろん生徒の前で水着になるつもりはなかった。
が、万が一生徒が溺れるようなことがあった場合に備えて、一応ローブの下には水着を着ていたのだ。この男はそういうところが変に真面目なのである。
彼が着ていたのは、マグルの店で買ったごくごく普通の黒いボクサー水着だが、年中身体をぴっちりとした黒衣で覆っているスネイプには違和感がありすぎた。なんというか肌色の見える面積が広すぎて落ち着かない。
テロテロとした薄い素材で大切な所だけを隠した姿を生徒に見られるのは死ぬほど恥ずかったが授業は続行するしかない。あと30分は時間が残っている。
生徒の前でこんな無防備な姿を見せるのは嫌で仕方なかったが、水着姿になるとさっきの拷問のような暑さはかなり和らいだ。
一度脱いでしまえば今更またあの太陽光を無駄に吸収してしまうローブを羽織る気にもなれず、仕方なくスネイプはヤケクソでその後は水着姿のまま授業を続けた。
いろいろとハプニングはあったがこうして第一回目のプールの授業は終わった。
スネイプ率いる授業ではあったが、多くの生徒は初めてのプールを満喫し早くも次回を楽しみにしていた。
もっともネビルにとってはスネイプにファーストキスを奪われかけるというトラウマを植え付けられ、スネイプにとっては生徒の前で半裸をさらし続けなければならないという苦痛の時間になってしまったのであるが。
もうやりたくない。これがスネイプの本音だったが、プールのカリキュラムは全5回で組まれてしまっている。
やるしかないのだ。
すべては尊いクソガ……子供達の命を守るという崇高な理念のため。
少なくとも次回は炎天下で死にかけないよう、中に着込む服の枚数を減らそうと心のなかで誓ったスネイプであった。
一応また水着は着てくるつもりのようだが、意地でも水着姿は極力晒したくないらしい。
だがスネイプは知らなかった。
プールの後、一部の女子たちの間で「スネイプ先生は脱ぐと凄い」と評判になっており、次回のプールでも彼をなんとか水着姿にし、こっそり持ち込んだカメラでその姿を納めようと画策していたことを……。
あるS寮の女子生徒の声「びっくりしました。スネイプ先生があんなにいい身体をしていたなんて。なんていうか先生って脱ぐと年相応に肌とかまだピチピチしててやっぱり若いんだなあ…って分かって。ってこの発言はなんだか誤解を生みそうですね(笑)
でも本当にただ痩せてるだけなのかと思ったら意外と引き締まったカラダでガッチリしていて、脚も長くて……。
それに胸板が予想以上に厚くて……男らしいところにキュンとしてしまいました。
あのバカでマヌケのロングボトムが先生に人工呼吸されそうになったとき、私ドキドキしすぎて鼻血が出てしまったんです。濡れて乱れた髪の毛なんかもとってもセクシーで……。次のプールが今から待ちきれません!」
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