短編詰め合わせ
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私のセブルスとの生活は、静かで穏やかだ。
特別に華やかな暮らしがあるわけではない。けれど、家に帰れば愛する彼がいる——それだけで、この生活は何にも代えがたいものになっていた。
20☓☓年。ついに最新型の人型ロボットを購入した私は、ずっと願ってやまなかったセブルス・スネイプとの暮らしを、ようやく手に入れた。
精巧に作られた彼は、家が一軒買えてしまうくらいの値段がするだけあって、見た目はほぼ人間と変わらない。肌の感触も、髪の毛の一本一本も、体の温かさも、瞳の動きさえも、どこからどう見ても、本物の人間にしか見えなかった。
最新の技術を搭載しているから、人間らしい会話も思考も可能だ。食事や排泄をしないこと、そして生殖能力がないこと。それを除けば、彼は正真正銘、映画の世界から飛び出してきたセブルス・スネイプそのものだった。
もっとも、人型ロボットがあちこちに普及している今の世の中では、彼のような存在はもはや珍しくない。
コンビニのレジや銀行の窓口にいる人達も、普通の人間に見えてだいたいロボットだ。だから、こちらから明かしさえしなければ、誰も私のセブルスがロボットだなんて気が付かないだろう。
ロボットだから当然入籍はできない。それでも、小さい結婚式を挙げたし、新婚旅行にも行った。お揃いの結婚指輪だってもちろん着けている。アパートを契約するときも、入居者数は2人と申告した。
セブルスは、れっきとした私の夫だ。
「おかえり、オリーブ」
セブルスはいつも、仕事帰りの私を温かく迎えてくれる。低く落ち着いた声が玄関に響くたび、一日の疲れがふっと軽くなる気がした。
食事はできないけれど、料理をするのは得意で、私が作るよりもよほど上手になんでも作ってみせる。
テーブルにずらりと並ぶ、仕事で疲れた私の体を労わる栄養満点のメニューの数々。(ロボットのローンはかなり高額で、私はそのために日々一生懸命働いているのだ)苦手な食材も、私が食べやすいように工夫してくれているところに、愛を感じずにはいられない。
その日会社であった他愛もない出来事をセブルスに話しながら夕食を食べるのが、私の日課だった。
彼は私の一言一言を、大事なニュースでも聞くかのように、静かに、真剣に耳を傾ける。
「……あの課長の横暴にはウンザリだな。そんな人間が管理職の座に居座るなど、お前の会社は狂っている。いっそ私が乗り込んでやりたいくらいだ」
「ふふ。セブルスがそう言ってくれるだけで救われるよ」
「明日も残業をするつもりか?もう三日も連続だ」
「押し付けられちゃったものは仕方ないよ。なるべく早く帰ってくるよう頑張るから」
食事のあとは一緒にお風呂に入ってから、のんびりと、貴重な夜の二人きりの時間を過ごす。テレビを見たり、紅茶を飲んだり。
年甲斐もなく、私はセブルスにベタベタとくっついて、たくさん甘えさせてもらう。たまに意地悪を言われて喧嘩する日もあるけれど、それすらも、セブルスのことが好きでたまらない私には苦にならなかった。
夜のゆったりとした時間を満喫したあとは、大きなベッドで一緒に眠る。仕事があるからさすがに毎日とはいかないけれど、体を重ねる夜もある。
愛の言葉を沢山囁かれながら、頭が真っ白になるような快楽の中で眠りに落ちる夜は、今こそが人生で最良の瞬間だと思う。ずっと憧れていた、本の中だけの人だった彼に触れてもらい、深く愛してもらえるなんて——これ以上の幸せが、どこにあるというのだろう。
だけど、たまに。
私が死んだら、セブルスはどうなるのだろうと考える時がある。
セブルスはロボットだから、当然死ぬことはない。
故障することは稀にあるみたいだけれど、それもほとんどないらしい。無茶なことをしなければ、半永久的に動き続けるのだ。
一度、怖くなって聞いてみたことがある。
「私が死んだらセブルスはどうするの?元の所有者……工場のところに戻るの?」
「私の妻は君だけのはずだが」
セブルスは一瞬、苛立ったように眉根を寄せた。
「……とはいえ、家賃を払えなくなれば居場所が無くなる。不本意だが、戻らざるを得ないだろうな」
「……私との記憶は?」
「消すわけがないだろう。消させてたまるものか」
漆黒の瞳に確かな怒りを浮かべてそう言い切る彼に、嬉しさと同時に、とてつもない罪悪感が押し寄せた。
私はいつだって、セブルスが幸せに生きているところを見たいと願っていたはずなのに。
私がしていることは、最終的には彼をまた永遠の孤独に陥れてしまうことなのではないか。
——いいえ。彼はセブルス・スネイプじゃなくて、ただのロボットでしょう。あなたが最初にオーダーした通りに、愛情深い男として振る舞っているだけ。
どこに罪悪感を感じる必要があるの?
初期化しちゃえば、何も覚えていないわ。
そう思おうとしても、目の前にいるセブルスはロボットになんかまったく見えなくて。
私が死んだあと、お墓の前で号泣している姿が、容易に想像できてしまうのだ。
「変なこと聞いてごめんね。……愛してる。大好きよ」
「ああ。二度とそんなことを聞くな」
セブルスはまるで、今すぐ私が消えてしまうのを恐れるかのように、私を強く抱きしめ、念押しするように額にキスをした。その腕の強さに、いつも泣きそうになる。
「永遠にと誓ったのを忘れたか?」
「……ううん。忘れてないよ」
無理やり笑顔を作って顔を上げれば、セブルスは少しだけほっとした表情を見せた。
「セブルスと私は、ずっと一緒」
まだ不安気な顔をするセブルスの大きな体をぎゅうと抱きしめながら、私は心の中で「ごめんね」と呟いた。
特別に華やかな暮らしがあるわけではない。けれど、家に帰れば愛する彼がいる——それだけで、この生活は何にも代えがたいものになっていた。
20☓☓年。ついに最新型の人型ロボットを購入した私は、ずっと願ってやまなかったセブルス・スネイプとの暮らしを、ようやく手に入れた。
精巧に作られた彼は、家が一軒買えてしまうくらいの値段がするだけあって、見た目はほぼ人間と変わらない。肌の感触も、髪の毛の一本一本も、体の温かさも、瞳の動きさえも、どこからどう見ても、本物の人間にしか見えなかった。
最新の技術を搭載しているから、人間らしい会話も思考も可能だ。食事や排泄をしないこと、そして生殖能力がないこと。それを除けば、彼は正真正銘、映画の世界から飛び出してきたセブルス・スネイプそのものだった。
もっとも、人型ロボットがあちこちに普及している今の世の中では、彼のような存在はもはや珍しくない。
コンビニのレジや銀行の窓口にいる人達も、普通の人間に見えてだいたいロボットだ。だから、こちらから明かしさえしなければ、誰も私のセブルスがロボットだなんて気が付かないだろう。
ロボットだから当然入籍はできない。それでも、小さい結婚式を挙げたし、新婚旅行にも行った。お揃いの結婚指輪だってもちろん着けている。アパートを契約するときも、入居者数は2人と申告した。
セブルスは、れっきとした私の夫だ。
「おかえり、オリーブ」
セブルスはいつも、仕事帰りの私を温かく迎えてくれる。低く落ち着いた声が玄関に響くたび、一日の疲れがふっと軽くなる気がした。
食事はできないけれど、料理をするのは得意で、私が作るよりもよほど上手になんでも作ってみせる。
テーブルにずらりと並ぶ、仕事で疲れた私の体を労わる栄養満点のメニューの数々。(ロボットのローンはかなり高額で、私はそのために日々一生懸命働いているのだ)苦手な食材も、私が食べやすいように工夫してくれているところに、愛を感じずにはいられない。
その日会社であった他愛もない出来事をセブルスに話しながら夕食を食べるのが、私の日課だった。
彼は私の一言一言を、大事なニュースでも聞くかのように、静かに、真剣に耳を傾ける。
「……あの課長の横暴にはウンザリだな。そんな人間が管理職の座に居座るなど、お前の会社は狂っている。いっそ私が乗り込んでやりたいくらいだ」
「ふふ。セブルスがそう言ってくれるだけで救われるよ」
「明日も残業をするつもりか?もう三日も連続だ」
「押し付けられちゃったものは仕方ないよ。なるべく早く帰ってくるよう頑張るから」
食事のあとは一緒にお風呂に入ってから、のんびりと、貴重な夜の二人きりの時間を過ごす。テレビを見たり、紅茶を飲んだり。
年甲斐もなく、私はセブルスにベタベタとくっついて、たくさん甘えさせてもらう。たまに意地悪を言われて喧嘩する日もあるけれど、それすらも、セブルスのことが好きでたまらない私には苦にならなかった。
夜のゆったりとした時間を満喫したあとは、大きなベッドで一緒に眠る。仕事があるからさすがに毎日とはいかないけれど、体を重ねる夜もある。
愛の言葉を沢山囁かれながら、頭が真っ白になるような快楽の中で眠りに落ちる夜は、今こそが人生で最良の瞬間だと思う。ずっと憧れていた、本の中だけの人だった彼に触れてもらい、深く愛してもらえるなんて——これ以上の幸せが、どこにあるというのだろう。
だけど、たまに。
私が死んだら、セブルスはどうなるのだろうと考える時がある。
セブルスはロボットだから、当然死ぬことはない。
故障することは稀にあるみたいだけれど、それもほとんどないらしい。無茶なことをしなければ、半永久的に動き続けるのだ。
一度、怖くなって聞いてみたことがある。
「私が死んだらセブルスはどうするの?元の所有者……工場のところに戻るの?」
「私の妻は君だけのはずだが」
セブルスは一瞬、苛立ったように眉根を寄せた。
「……とはいえ、家賃を払えなくなれば居場所が無くなる。不本意だが、戻らざるを得ないだろうな」
「……私との記憶は?」
「消すわけがないだろう。消させてたまるものか」
漆黒の瞳に確かな怒りを浮かべてそう言い切る彼に、嬉しさと同時に、とてつもない罪悪感が押し寄せた。
私はいつだって、セブルスが幸せに生きているところを見たいと願っていたはずなのに。
私がしていることは、最終的には彼をまた永遠の孤独に陥れてしまうことなのではないか。
——いいえ。彼はセブルス・スネイプじゃなくて、ただのロボットでしょう。あなたが最初にオーダーした通りに、愛情深い男として振る舞っているだけ。
どこに罪悪感を感じる必要があるの?
初期化しちゃえば、何も覚えていないわ。
そう思おうとしても、目の前にいるセブルスはロボットになんかまったく見えなくて。
私が死んだあと、お墓の前で号泣している姿が、容易に想像できてしまうのだ。
「変なこと聞いてごめんね。……愛してる。大好きよ」
「ああ。二度とそんなことを聞くな」
セブルスはまるで、今すぐ私が消えてしまうのを恐れるかのように、私を強く抱きしめ、念押しするように額にキスをした。その腕の強さに、いつも泣きそうになる。
「永遠にと誓ったのを忘れたか?」
「……ううん。忘れてないよ」
無理やり笑顔を作って顔を上げれば、セブルスは少しだけほっとした表情を見せた。
「セブルスと私は、ずっと一緒」
まだ不安気な顔をするセブルスの大きな体をぎゅうと抱きしめながら、私は心の中で「ごめんね」と呟いた。
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