似て非なる、ただひとつ
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「おおっと!お堅い分析官様とプラスチック野郎が楽しくおしゃべりか?」
昼前、ウォーターサーバーの横。
私がファイルを抱えてコナーと話していると、ギャビン・リードのからかうような声が背後から聞こえた。彼はあからさまな嘲笑を浮かべ、私とコナーに近づいてきた。ため息をついてギャビンを見やる。コナーは何も言わず背筋を伸ばしたまま、視線だけを彼にやった。
「どうしたよ?恋人プレイで潜入捜査の会議中か? 分析官のナマエとアンドロイドね、正直どっちが機械かも正直わかりづれえし、良いペアだよな」
「ギャビン、お前の相手をしている暇はない。それに、私とコナーは全くそういう関係じゃない」
ギャビンが私の頭に腕を休めて寄りかかってくる。彼が馴れ馴れしくて、かつ失礼なのは今に始まったことではない。顔をしかめて身をよじらせ、彼から距離をとった。
「それ……いつも、やめろ」
「あいかわらず可愛げねぇな」
ギャビンは肩をすくめ、鼻を鳴らした。そしていかにも面白がるように私とコナーを交互に見る。
「人間よりもそのプラスチック野郎の方がお前の好みってこった。良い男の趣味してるな、ナマエ。なあ、もう突っ込んでもらったか?」
その瞬間、空気がぴんと張り詰めるのを感じる。私はぎょっとしてコナーに視線だけをやった。彼は微動だにせず、ギャビンを凝視している。しかしそのこめかみのLEDが、鋭い警告のように黄色く点滅していた。
「ギャビン」
コナーのひときわ大きく、鋭い声。
「不適切な発言は慎んでいただきたい。所属同僚への性的な示唆を含む侮辱的発言として記録され、場合によってはハラスメントの報告対象になります」
「ああ出たよ、うるせえのがな。ただの冗談だろ?てめえのソーシャルスキルプロトコルにはジョークで笑うって機能はねえのかよ」
「品のない侮辱的なジョークを許容するプログラムはありません」
「そうか?じゃ追加しとけ」
コナーの強く握られた拳がわずかにふるえている。しかし、ギャビンはますます面白がって嘲笑を続ける。
「冗談が通じねえのも変わんねえな。マジでキレやがって。いよいよ、ようこそ人間が持つ感情の世界へって感じだな。
──さしずめ自分の女に近づくなとか、自分のものに手出すなってか?一丁前になったな、アンドロイドがよ」
あきれて顔を手で覆う。明らかにやりすぎだった。なぜこの男はこんなにもアンドロイド……特にコナーに敵意を向け続けるのか。
「おいギャビン、コナーにこれ以上つっかかるのはやめろ。あと、私を挟むな」
「だって気になるんだよ。この変異体がもっと感情的になったら?なあプラスチック野郎、どうするよ。俺がナマエに触ったら?どう反応するんだ?」
はっと息を飲んだ。今度こそ、コナーのLEDが赤に変わる寸前まで光を濃くする。まずいと思って、それを押しとどめるように、私は先に言葉を挟んだ。
「ここまでだ、ギャビン。この場で誰もお前を歓迎してないのがわからないか?」
「はっ……お前が俺を歓迎してくれたことってあったか?え、ナマエ?」
「ああ、なかったかもな。ほらもう行け。忙しい」
ちらりとギャビンにガラス張りの署長室に目をやるよう目配せする。その先で、ファウラー署長が眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。明らかに私たちが長く話し込んでたことをよく思っていない。とはいえ私たちはギャビンから一方的に絡まれていただけだが。
完全なる被害者。署長がそれをわかってくれていればいいが。
さすがに署長に睨まれて、興醒めしたのかギャビンは舌打ちして踵を返す。
コナーはしばらくその背中を無言で見送っていた。私は横目で彼を見る。
「……そんなに睨んで、あいつの背中に穴でもあけるつもりか?」
私の声に、コナーがはっと我に返ったように瞬きをする。そしてようやくギャビンの背中から視線を外し、私を見た。
「アンドロイドである私がとても感情的になって……人間であるあなたの方が冷静に彼に対処していたので……不思議な気分です」
「慣れだよ」
「その慣れは良くない。ナマエ、なぜもっとあなたは……」
コナーは途中まで言いかけて黙ると、静かに目を伏せた。 LEDが徐々に黄色、そして青に戻り始めていた。
「いや、原因は僕でした。ギャビンは……僕が気に入らないんです。僕をさらに苛立たせようとして、より挑発するための手段としてあなたを巻き込み、あんな発言をした。だから……すみません」
「あいつの性格の問題について、お前が私に謝る必要はない。気にするな、コナー」
そうは言っても、コナーはまだ俯いていた。私はちょっと考えて、さらに彼をたしなめるための言葉を選んだが、口を開く前にコナーが絞り出すようにつぶやいた。
「そんなふうに思っていない……」
「え?」
つい聞き返してしまうと、コナーは困惑したように視線を逸らす。戸惑っているような苦い表情だった。
「自分の女だとか、ものだとか、あなたのことをそんなふうに思ったことはない。人間関係は所有では成り立たない。僕は君が僕を尊重してくれているように、僕もあなたを尊敬している」
「……どうしたコナー、ギャビンの戯言を真に受ける必要はない」
「わかっています。僕はただ……」
しかし、静かに目が伏せられる。
「いえ。突然、すみませんでした」
そう呟いたコナーのLEDは、再び黄色に点灯していた。どうもぎこちない。言いたいことを、強く我慢しているように見えた。
気になったが、それを詮索する気はなかったし、彼の話す準備ができていないなら無理に促す必要もない。共有したいことがあるなら、おそらく彼はすぐに話す。私はただ、深く息を吐いた。そして、そもそもやろうとしてたことを再開しようと、ウォーターサーバーから水を汲み始めた。
コナーはまだ悶々としているようで、何かを言いたげにしていたが、私はひらひらと手を振って制し、すぐそばの観葉植物まで歩く。
すると、私の後ろをついてきていたコナーがふと尋ねる。
「……その水は飲むためではなく、観葉植物用ですか?」
「ああ。1階オフィスでは新人扱いだろ?早速、雑用係だ。水やりなんか押し付けられた」
言葉の端々に、わざと不満を滲ませた。
「ウォーターサーバーの水で水やりですか。常温にもどしてからのほうがいいですよ。冷水は根を痛めます。あと、ミネラルが多いと土に蓄積が…」
「アドバイスどうも。そんなにやりたいなら代わってくれてもいいんだぞ、コナー」
皮肉交じりの私の言葉に、コナーは肩をすくめて小さく笑った。
「まさか。ありがたい水やりの権限は、このオフィスの新人であるあなたのものです。どうぞ私にかまわず」
「お前……最近制定されたアンドロイド権利法さえなければ、スクラップにしてやるところだぞ!」
私の冗談めいた文句にも、コナーは澄ました表情のまま微笑んでいる。ギャビンとのいざこざのあとだったが、場の緊張がほぐれたようで安堵の息をついた。ゆっくりと、万年青の葉を軽く揺らしながら水を注ぐ。静かな水音が穏やかにオフィスに響いた。
すると、ふとコナーが何かに気付いたように口を開く。
「そういえば、あなたのデスクにも花がありますね」
すぐそばの私のデスクの細く小さい一輪挿しのシリンダーに目を向けた。本物そっくりの水仙が挿してある。
「ああ、あれか。あれは造花だから水は換えなくていいんだよ」
「ええ。そもそも水も入ってませんしね。しかし、デスクに花を飾るタイプだとは思っていませんでした」
「友人にもらったんだ。生花じゃすぐに枯らすだろうって、気を利かせて造花を選んでくれて。まあ、ほら。私はまめなタイプじゃないしな」
少し自虐的に笑いながら答えると、コナーは静かに首を傾げ、微かに視線を下げた。
「造花なら枯れる心配はありませんね。管理の手間もいらない」
「ああ、楽で助かる」
「……ええ」
その短い返事がどこか奇妙で、私は思わずコナーを見上げた。コナーはふたたびさっきのように何かを考え込むように視線を逸らしていたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻る。何か気になることでもあったのだろうか?と私が不思議に思っていると、コナーは微笑んで、ふと私のデスクの置き時計を見た。
「そろそろ準備をしましょうか、ナマエ。午後の聴取の時間です」
「ああ、そうだったな」
ウォーターサーバーの紙コップを、手の中でくしゃっと潰す。それから離れたゴミ箱に投げ入れた。しっかり入ったので、どうだ、と胸を張って得意げにコナーに振り返る。コナーは肩をすくめておかしそうに口元を緩める。それに対して私は遊び心から肘で彼の横をつつき、そのまま二人で通路に出た。コナーはただ静かに私の後をついてくる。彼がさっき何を考えていたのか気になったが、今は仕事が先だ。これが落ち着いたら、また話せばいい。
「行くぞ」
私が声をかけると、コナーは穏やかに頷いた。
昼前、ウォーターサーバーの横。
私がファイルを抱えてコナーと話していると、ギャビン・リードのからかうような声が背後から聞こえた。彼はあからさまな嘲笑を浮かべ、私とコナーに近づいてきた。ため息をついてギャビンを見やる。コナーは何も言わず背筋を伸ばしたまま、視線だけを彼にやった。
「どうしたよ?恋人プレイで潜入捜査の会議中か? 分析官のナマエとアンドロイドね、正直どっちが機械かも正直わかりづれえし、良いペアだよな」
「ギャビン、お前の相手をしている暇はない。それに、私とコナーは全くそういう関係じゃない」
ギャビンが私の頭に腕を休めて寄りかかってくる。彼が馴れ馴れしくて、かつ失礼なのは今に始まったことではない。顔をしかめて身をよじらせ、彼から距離をとった。
「それ……いつも、やめろ」
「あいかわらず可愛げねぇな」
ギャビンは肩をすくめ、鼻を鳴らした。そしていかにも面白がるように私とコナーを交互に見る。
「人間よりもそのプラスチック野郎の方がお前の好みってこった。良い男の趣味してるな、ナマエ。なあ、もう突っ込んでもらったか?」
その瞬間、空気がぴんと張り詰めるのを感じる。私はぎょっとしてコナーに視線だけをやった。彼は微動だにせず、ギャビンを凝視している。しかしそのこめかみのLEDが、鋭い警告のように黄色く点滅していた。
「ギャビン」
コナーのひときわ大きく、鋭い声。
「不適切な発言は慎んでいただきたい。所属同僚への性的な示唆を含む侮辱的発言として記録され、場合によってはハラスメントの報告対象になります」
「ああ出たよ、うるせえのがな。ただの冗談だろ?てめえのソーシャルスキルプロトコルにはジョークで笑うって機能はねえのかよ」
「品のない侮辱的なジョークを許容するプログラムはありません」
「そうか?じゃ追加しとけ」
コナーの強く握られた拳がわずかにふるえている。しかし、ギャビンはますます面白がって嘲笑を続ける。
「冗談が通じねえのも変わんねえな。マジでキレやがって。いよいよ、ようこそ人間が持つ感情の世界へって感じだな。
──さしずめ自分の女に近づくなとか、自分のものに手出すなってか?一丁前になったな、アンドロイドがよ」
あきれて顔を手で覆う。明らかにやりすぎだった。なぜこの男はこんなにもアンドロイド……特にコナーに敵意を向け続けるのか。
「おいギャビン、コナーにこれ以上つっかかるのはやめろ。あと、私を挟むな」
「だって気になるんだよ。この変異体がもっと感情的になったら?なあプラスチック野郎、どうするよ。俺がナマエに触ったら?どう反応するんだ?」
はっと息を飲んだ。今度こそ、コナーのLEDが赤に変わる寸前まで光を濃くする。まずいと思って、それを押しとどめるように、私は先に言葉を挟んだ。
「ここまでだ、ギャビン。この場で誰もお前を歓迎してないのがわからないか?」
「はっ……お前が俺を歓迎してくれたことってあったか?え、ナマエ?」
「ああ、なかったかもな。ほらもう行け。忙しい」
ちらりとギャビンにガラス張りの署長室に目をやるよう目配せする。その先で、ファウラー署長が眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。明らかに私たちが長く話し込んでたことをよく思っていない。とはいえ私たちはギャビンから一方的に絡まれていただけだが。
完全なる被害者。署長がそれをわかってくれていればいいが。
さすがに署長に睨まれて、興醒めしたのかギャビンは舌打ちして踵を返す。
コナーはしばらくその背中を無言で見送っていた。私は横目で彼を見る。
「……そんなに睨んで、あいつの背中に穴でもあけるつもりか?」
私の声に、コナーがはっと我に返ったように瞬きをする。そしてようやくギャビンの背中から視線を外し、私を見た。
「アンドロイドである私がとても感情的になって……人間であるあなたの方が冷静に彼に対処していたので……不思議な気分です」
「慣れだよ」
「その慣れは良くない。ナマエ、なぜもっとあなたは……」
コナーは途中まで言いかけて黙ると、静かに目を伏せた。 LEDが徐々に黄色、そして青に戻り始めていた。
「いや、原因は僕でした。ギャビンは……僕が気に入らないんです。僕をさらに苛立たせようとして、より挑発するための手段としてあなたを巻き込み、あんな発言をした。だから……すみません」
「あいつの性格の問題について、お前が私に謝る必要はない。気にするな、コナー」
そうは言っても、コナーはまだ俯いていた。私はちょっと考えて、さらに彼をたしなめるための言葉を選んだが、口を開く前にコナーが絞り出すようにつぶやいた。
「そんなふうに思っていない……」
「え?」
つい聞き返してしまうと、コナーは困惑したように視線を逸らす。戸惑っているような苦い表情だった。
「自分の女だとか、ものだとか、あなたのことをそんなふうに思ったことはない。人間関係は所有では成り立たない。僕は君が僕を尊重してくれているように、僕もあなたを尊敬している」
「……どうしたコナー、ギャビンの戯言を真に受ける必要はない」
「わかっています。僕はただ……」
しかし、静かに目が伏せられる。
「いえ。突然、すみませんでした」
そう呟いたコナーのLEDは、再び黄色に点灯していた。どうもぎこちない。言いたいことを、強く我慢しているように見えた。
気になったが、それを詮索する気はなかったし、彼の話す準備ができていないなら無理に促す必要もない。共有したいことがあるなら、おそらく彼はすぐに話す。私はただ、深く息を吐いた。そして、そもそもやろうとしてたことを再開しようと、ウォーターサーバーから水を汲み始めた。
コナーはまだ悶々としているようで、何かを言いたげにしていたが、私はひらひらと手を振って制し、すぐそばの観葉植物まで歩く。
すると、私の後ろをついてきていたコナーがふと尋ねる。
「……その水は飲むためではなく、観葉植物用ですか?」
「ああ。1階オフィスでは新人扱いだろ?早速、雑用係だ。水やりなんか押し付けられた」
言葉の端々に、わざと不満を滲ませた。
「ウォーターサーバーの水で水やりですか。常温にもどしてからのほうがいいですよ。冷水は根を痛めます。あと、ミネラルが多いと土に蓄積が…」
「アドバイスどうも。そんなにやりたいなら代わってくれてもいいんだぞ、コナー」
皮肉交じりの私の言葉に、コナーは肩をすくめて小さく笑った。
「まさか。ありがたい水やりの権限は、このオフィスの新人であるあなたのものです。どうぞ私にかまわず」
「お前……最近制定されたアンドロイド権利法さえなければ、スクラップにしてやるところだぞ!」
私の冗談めいた文句にも、コナーは澄ました表情のまま微笑んでいる。ギャビンとのいざこざのあとだったが、場の緊張がほぐれたようで安堵の息をついた。ゆっくりと、万年青の葉を軽く揺らしながら水を注ぐ。静かな水音が穏やかにオフィスに響いた。
すると、ふとコナーが何かに気付いたように口を開く。
「そういえば、あなたのデスクにも花がありますね」
すぐそばの私のデスクの細く小さい一輪挿しのシリンダーに目を向けた。本物そっくりの水仙が挿してある。
「ああ、あれか。あれは造花だから水は換えなくていいんだよ」
「ええ。そもそも水も入ってませんしね。しかし、デスクに花を飾るタイプだとは思っていませんでした」
「友人にもらったんだ。生花じゃすぐに枯らすだろうって、気を利かせて造花を選んでくれて。まあ、ほら。私はまめなタイプじゃないしな」
少し自虐的に笑いながら答えると、コナーは静かに首を傾げ、微かに視線を下げた。
「造花なら枯れる心配はありませんね。管理の手間もいらない」
「ああ、楽で助かる」
「……ええ」
その短い返事がどこか奇妙で、私は思わずコナーを見上げた。コナーはふたたびさっきのように何かを考え込むように視線を逸らしていたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻る。何か気になることでもあったのだろうか?と私が不思議に思っていると、コナーは微笑んで、ふと私のデスクの置き時計を見た。
「そろそろ準備をしましょうか、ナマエ。午後の聴取の時間です」
「ああ、そうだったな」
ウォーターサーバーの紙コップを、手の中でくしゃっと潰す。それから離れたゴミ箱に投げ入れた。しっかり入ったので、どうだ、と胸を張って得意げにコナーに振り返る。コナーは肩をすくめておかしそうに口元を緩める。それに対して私は遊び心から肘で彼の横をつつき、そのまま二人で通路に出た。コナーはただ静かに私の後をついてくる。彼がさっき何を考えていたのか気になったが、今は仕事が先だ。これが落ち着いたら、また話せばいい。
「行くぞ」
私が声をかけると、コナーは穏やかに頷いた。
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