ほどきたいよ、赤い糸
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
────
私の部屋は簡素で、ベッドと壁に向いたデスク、それに椅子がひとつあるだけだったので、アナキンにその椅子に座るように頼んだ。
私はベッドに腰掛けた。
「水は」
私は無表情でアナキンに尋ねる。大歓迎して招いたわけではなかったが、礼儀のつもりだった。アナキンは首を横に振る。
「必要ない。僕が確認したいのは、オビ=ワンと君の関係について。それだけだ」
そして、まるで他愛ない話でもするような口調で言った。
「さあ、ナマエ。はっきり彼を愛してるって言ってくれたら話が早いんだが」
沈黙。
「……はい?」
思わず間抜けな声が出た。
空いた口が塞がらない。何をどう勘違いしたらそんな結論になるのか。
一から百まで、最初から最後まで、端から端まで間違っている。
何だ?まさかこれを一個ずつ正す必要があるのか?
「お前の目にどんなフィルターがついてるのかは知らないが、どう考えても何もないだろ!!ただの大事な友人だ!」
思わず頭を抱えてまくし立てる。本当に勘弁してくれ、という気持ちだった。ベッドサイドテーブルの水差しからグラスに自分の水を注ぐ。アナキンはこういう時、絶対に自分の思い込みを手放さない。今から始まるであろう長い言い合いに、心と喉を冷やす水は絶対に必要だった。
アナキンは私の呆れた態度にムッとしたらしい。今度は語気を強めて言った。
「へえ、ただの大切な友人?直々に訓練まで受けて、まるで彼の弟子が僕ではなく君のようだったよ。ずっと楽しそうに話をしていたし。それに君がマスターの宿舎に出入りするのも見た。次からは僕も一緒について行ってもいいかもな!」
アナキンは徐々に声を荒げ、嫉妬と怒りをあらわにすると、鋭く私を睨んだ。
「ぜひともそうしろ。むしろそうしてくれた方がオビ=ワンとの間に何もないって証明になるかもしれない。オビ=ワンは私のことなんか、ただの後輩みたいな存在にしか思ってない!」
皮肉をたっぷり込めて言い放つと、私は自分のグラスの水をひと息に飲み干す。
そしてベッドから立ち上がり、無言で流しへ向かった。
背後で足音がして、アナキンが立ち上がりついてくる気配が伝わってきた。
「なるほど。じゃあナマエ。次の訓練には僕も同行させてもらおうかな。彼が君を『ただの後輩』として見ているって、その根拠をこの目で確かめたいから」
流しにグラスを置く私の背中に、言葉が刺さるように届く。
一呼吸の間を置いて、アナキンは低く笑った。
「だけどあらためて言わせてもらうと、僕にはまったくそうは見えない。君がどれだけ否定しても、僕の目には君が誰よりも近い存在に映ってた。個人の見解ってやつだけど、参考にしてくれると嬉しいな」
「ああ、参考だけにしておく。真面目に受け取るには馬鹿馬鹿しい仮定だから」
「なんとでも。これも参考までに、否定するほど余計怪しいことに気づいたほうがいい」
ほとんど挑発的な口調だった。
私はゆっくりと振り返りながら、額を手で覆う。
怒りというより、疲れがどっと襲ってくる。
「……そもそも、まず……仮にオビ=ワンと私が近しい存在になったとして、それが何だ?お前には関係ないだろう」
「あるに決まってるだろ!」
その瞬間、アナキンの声が上ずる。
「君のことは、全部僕に関係がある!僕たちの話がまだ何一つ片付いてないのに、君が他の誰かに近づくなんて!」
「意味がわからない。お前との話が片付いてないないと私は誰とも話せないのか?」
私は流しから振り返り、呆れた声で返した。
「じゃあ何か?明日から私がその日に話した相手の名前や内容でもメモにして、お前に提出でもすれば満足なのか?」
アナキンの表情が私の皮肉に歪む。
「ハッ……それ、最高の案かもしれないな。それがいい、ナマエ。是非実行してくれよ!」
彼の口調もあからさまな怒気と皮肉を含んでいた。私は髪をかきあげてため息をついた。
「……第一に、アナキン。私たちはもう別れている。第二に、私はさっきからオビ=ワンとは何もないと明確に否定してる。それをお前は疑い、何なら真実として処理して勝手に怒っているが、私の話を聞く気がないならなぜここに来た?」
「明日長期でアウターリムの惑星の前線に遠征するだろ?しばらく会えなくなる前に色々僕たちのことを片付けたいと思って。君がまさかこんなに頑固にオビワンとのことを認めないとは思わなかったが……でもいいさ。こんな言い合いでも、僕は君と長くいられて嬉しいよ。君のほうはそう思ってなくてもね」
「なんで遠征について知ってるんだ」
アナキンがピタリと止まる。
あり得ないものをみるように私を見つめた。
「本気か?君は本当に最高だな」
アナキンの声が低くなる。何かの地雷を踏んだ合図だ。
「君が僕に伝えたんじゃないか、ナマエ!2サイクル前!それも覚えてないのか?そうか、そんなに僕との会話は取るに足らないんだな」
アナキンの声は鋭い。そうだっけ。覚えていない。
まずい、話せば話すほど墓穴を掘っている気がする。
しかし同時に自分でも苛立ちで心拍が上がっているのを自覚する。アナキンと話すと、どうにもこう、理屈じゃ抑えきれなくなる。アナキンの言動だって理不尽な部分があった。
「お前の方が理解し難いがな」
私の苦い声に、アナキンが眉を上げる。
「アナキン。回廊で、しかも私のパダワンの前であの話題を持ち出すなんてどういうつもりだったんだ?」
アナキンの目が細められる。
「僕は事実確認をしただけだ」
「事実確認のためにわざわざ『見返り』なんて言葉を選んだのか?」
「そうさ。君にしか通じない言葉を選んだんだ。嬉しい気遣いだろ」
私は奥歯を噛みしめた。
これ以上言い合っても、どうせまた言葉尻を捕まえられて話がこじれるだけだ。しかも明日は遠征前だというのに、朝からパダワンの訓練にも付き合うつもりでいる。支度も確認も当然まだ残っている。こんな不毛な応酬にこれ以上つき合っていられるほど、今夜の時間は決して暇ではない。
「……もういい」
「何が?ナマエ」
私が寝室に移動するとアナキンもついてくる。私は振り返りもせずぶっきらぼうに言った。
「着替える。だから見るな。どっか行ってろ」
「……今?」
アナキンはありえない、とでもいうように愕然とした。
「今だ。お前と違って、私は明日の遠征準備がある」
「そう。もちろん僕との話より、そっちのほうが大事だろうな」
皮肉っぽく返すが、どこかまだ納得していない様子だった。
アナキンはやがてベッドに腰掛け、私から目を逸らした。
が、沈黙は長く続かなかった。今度は、さらにからかいを思いついたかのように軽快な声で言った。
「ナマエ、何を着るんだ?」
「寝巻き」
突き放すように返すと、アナキンの軽快さは一気に苛立ちに変わる。アナキンの声は、挑発に熱がこもり始める。
「もっと詳しく教えてくれよ、ナマエ。その下は?」
「下着に決まってるだろ。それ以上不快なことを言ったら、今すぐお前を部屋から引きずり出すからな」
「ああ、黒いやつかな。違う?」
「黙れ!」
私は思わず、アナキンに向かって本気で怒鳴った。
「図星だった?オビ=ワンも君がその下着着てるとこ、喜んで見たがるんじゃないかな」
皮肉たっぷりに、そして攻撃的な嫉妬心を露わにして言い放った。
私は着替え終わってからリビングに出て、早歩きでアナキンの元に近づく。そして彼のチュニックのえりを掴み上げた。
「いい加減にしろアナキン!!」
アナキンは少しだけ表情をこわばらせたが、すぐに興奮したように口角をあげた。今自分にこちらの注意が完全に向いていることを、彼は心底気にしていた。
「やっと僕を見た。いつもいい子ぶってるくせに、今の君のその苛立ってる顔、オビ=ワンに見せてやりたいな……」
アナキンは乾いた笑いをこぼす。ふざけた響きのくせに、その声は熱を帯びていた。
私は歯を食いしばったまま、さらに襟を引き寄せる。
「黙れ」
吐き捨てるように言ったのに、アナキンは引かない。
むしろその空色の目は、ようやく欲しかったものを手に入れたみたいに、ぎらついていた。
「わかるか?さっきまで、君は僕を見もしなかった。でも、今は……」
低く言いながら、アナキンは私の襟を掴む手首に触れた。
そのまま片手ずつ、逃がさないようにぐっと掴み返される。
「離せ」
アナキンは答えなかった。
次の瞬間、アナキンは私の両手を掴んだまま強く引いた。
息が詰まる。
不意に体勢を崩した私は、そのままベッドに座るアナキンの膝へ倒れ込むような格好になった。受け身も取れないまま、片膝がマットレスに沈む。気づけば私はほとんど彼に覆いかぶさる姿勢で、彼の腕の中にいた。すぐ目の前にはアナキンの顔があった。
「僕が何を言っても腹を立てて、こうでもしなきゃこっちを向かない。忘れて、突き放して、どうでもいいみたいな顔をして……君がいつも優先するのは任務、君の弟子、ジェダイの掟、正しさ。でも、今は違う」
彼の息が頬にかかる。
振り払おうと力を込めても、アナキンの腕はびくともしない。
「今の君は、僕だけを見てる」
その言葉に、かっと頭に血が上った。
「そんなことのためにお前のマスターを、オビ=ワンを引き合いに出したのか?」
「君たちの関係を疑ってたのは本当だ」
アナキンは即座に言った。
「でも、君に見てもらうためにマスターを引き合いに出したとして……もしそうだったとしても、それが何だ?」
「恥を知れ」
私の即答に、アナキンは溜息まじりに笑った。
「傷付くよ、君に忘れられて終わるのが嫌なだけなのに。それで色々考えて、こうして仕掛けて……結果こうなってる。泣けるくらい健気だろ」
「何が健気だ。気味が悪い」
吐き捨てたのに、アナキンは傷つくどころか、ますますおもしろそうに目を細めた。
怒鳴られている。睨まれている。胸ぐらまで掴まれている。それでも、その全部が自分だけに向いていることがたまらないようだった。
アナキンはゆっくりと私の首元へ手を伸ばした。
肌に触れるか触れないかのところをなぞる、その慎重さがかえって腹立たしい。
「ナマエ」
低く呼ばれて、肩がわずかに強張る。
「僕だけが勝手だと思いたい?」
その指先が鎖骨の中心をかすめるように下りる。
「僕だけがどうかしてると?」
熱っぽく、言い聞かせるような声音だった。
「ナマエ、僕には君も同じだけめちゃくちゃに見える」
胸の奥がざわつく。
怒りだけでは片づけられない、不快な動揺だった。
「……執着を手放せないのはわかる。でも、アナキン」
説得するような口調になりかけた、その瞬間だった。
アナキンの目が、すっと険しく細まる。
「オビ=ワンやマスターヨーダのように、僕を諭そうとするな」
声は低いのに、妙に鋭かった。
「まるで僕が、自分を制御できていないように言うな」
「違うのか?」
「違う」
きっぱりと言い切る。迷いも、自嘲もなかった。ただ不愉快そうな、強い否定だけがある。
「欲や恐れを持つだけで、暗黒面に落ちるわけじゃない。違いは、それに呑まれるか、制御できるかだ」
「そして自分にはできると?」
「できる。少なくとも、自分の感情から目を逸らして、存在しないふりをしている連中よりはね」
嘲笑うような言葉に、私は眉をひそめた。しかしアナキンは私の反応を気にもせず言葉を続ける。
「僕は、自分が君を手放したくないとわかっている。失いたくないとも思ってる。でも、それを見ないふりはしない。その感情を制御すらできる」
その目はまっすぐだった。自信に輝き、絶対的に自分を信じている。そして、ぞっとする。
自分は例外だと、まるで最初から決まっているように、彼は自分を当然のように規格の外へ置いている。
「……自分だけは大丈夫だと思ってるのか。傲慢だな」
「君にだけは言われたくない」
アナキンの声が、わずかに低くなる。
「君は僕との関係を執着だと言った。ジェダイにはふさわしくない、いずれ互いを駄目にするから離れるべきだと。別れるのに都合のいい口実とはいえずいぶん立派な理屈だったよ」
皮肉を含んだ声に、私は口をつぐむ。
「でも、君だって弟子のためなら何でもする」
アナキンの腕に、少しだけ力がこもった。
「無茶な任務にも出る。命令にも逆らう。自分の立場も安全も後回しにする。そして、あの弟子が望んだものを手に入れるためなら、僕に見返りを払うことまで選んだ」
「それは」
「でも君はそれを執着とは違うと言い張る」
言い終える前に、アナキンが遮る。その口元にかすかな笑みが浮かぶ。
「ナマエ。君が弟子を手放せず、そのために自分さえ差し出すのは献身で、僕が君を手放したくないのは執着なのか?」
言葉に詰まった。
「違う。弟子は私が守る責任がある。お前との関係とは……」
「名前を変えただけだろ」
ぴしゃりと言い切られる。
「弟子への執着を責任と呼んで、友人への執着を忠義と呼んで、任務への執着を使命と呼ぶ。そうやって正しい理由をつければ、君の感情だけは綺麗なものになる」
「お前と一緒にするな」
「どうして?」
アナキンは私の反発を待っていたように、かすかに目を細めた。
「君の失いたくない気持ちってのは僕のより上等なのか?君のは献身で、僕のは執着だと?」
「私は、お前みたいに相手を自分のものにしようとはしない」
「多分ね。でも不誠実さで言えば君には負けるよ」
言葉に詰まった。
「僕たちの関係を終わらせたいから、ジェダイの掟という口実を使ったんだろう。執着は危険だと言えば、僕が何を言っても君の方が正しく見えるから」
その声は熱を帯びながらも、彼の感情が怒りを通り越しているかのように、むしろ静かだった。怒鳴られるより、ずっと逃げ場がない。
アナキンはぐいと私を胸元へ引き寄せた。
「君は僕と何も変わらない。失いたくないもののためなら、君だって選ぶ。掟よりも、命令よりも、自分で正しいと決めた相手を」
彼の顔が近づく。
「ただ君は、自分の執着に、僕より聞こえのいい名前をつけているだけだ」
私の部屋は簡素で、ベッドと壁に向いたデスク、それに椅子がひとつあるだけだったので、アナキンにその椅子に座るように頼んだ。
私はベッドに腰掛けた。
「水は」
私は無表情でアナキンに尋ねる。大歓迎して招いたわけではなかったが、礼儀のつもりだった。アナキンは首を横に振る。
「必要ない。僕が確認したいのは、オビ=ワンと君の関係について。それだけだ」
そして、まるで他愛ない話でもするような口調で言った。
「さあ、ナマエ。はっきり彼を愛してるって言ってくれたら話が早いんだが」
沈黙。
「……はい?」
思わず間抜けな声が出た。
空いた口が塞がらない。何をどう勘違いしたらそんな結論になるのか。
一から百まで、最初から最後まで、端から端まで間違っている。
何だ?まさかこれを一個ずつ正す必要があるのか?
「お前の目にどんなフィルターがついてるのかは知らないが、どう考えても何もないだろ!!ただの大事な友人だ!」
思わず頭を抱えてまくし立てる。本当に勘弁してくれ、という気持ちだった。ベッドサイドテーブルの水差しからグラスに自分の水を注ぐ。アナキンはこういう時、絶対に自分の思い込みを手放さない。今から始まるであろう長い言い合いに、心と喉を冷やす水は絶対に必要だった。
アナキンは私の呆れた態度にムッとしたらしい。今度は語気を強めて言った。
「へえ、ただの大切な友人?直々に訓練まで受けて、まるで彼の弟子が僕ではなく君のようだったよ。ずっと楽しそうに話をしていたし。それに君がマスターの宿舎に出入りするのも見た。次からは僕も一緒について行ってもいいかもな!」
アナキンは徐々に声を荒げ、嫉妬と怒りをあらわにすると、鋭く私を睨んだ。
「ぜひともそうしろ。むしろそうしてくれた方がオビ=ワンとの間に何もないって証明になるかもしれない。オビ=ワンは私のことなんか、ただの後輩みたいな存在にしか思ってない!」
皮肉をたっぷり込めて言い放つと、私は自分のグラスの水をひと息に飲み干す。
そしてベッドから立ち上がり、無言で流しへ向かった。
背後で足音がして、アナキンが立ち上がりついてくる気配が伝わってきた。
「なるほど。じゃあナマエ。次の訓練には僕も同行させてもらおうかな。彼が君を『ただの後輩』として見ているって、その根拠をこの目で確かめたいから」
流しにグラスを置く私の背中に、言葉が刺さるように届く。
一呼吸の間を置いて、アナキンは低く笑った。
「だけどあらためて言わせてもらうと、僕にはまったくそうは見えない。君がどれだけ否定しても、僕の目には君が誰よりも近い存在に映ってた。個人の見解ってやつだけど、参考にしてくれると嬉しいな」
「ああ、参考だけにしておく。真面目に受け取るには馬鹿馬鹿しい仮定だから」
「なんとでも。これも参考までに、否定するほど余計怪しいことに気づいたほうがいい」
ほとんど挑発的な口調だった。
私はゆっくりと振り返りながら、額を手で覆う。
怒りというより、疲れがどっと襲ってくる。
「……そもそも、まず……仮にオビ=ワンと私が近しい存在になったとして、それが何だ?お前には関係ないだろう」
「あるに決まってるだろ!」
その瞬間、アナキンの声が上ずる。
「君のことは、全部僕に関係がある!僕たちの話がまだ何一つ片付いてないのに、君が他の誰かに近づくなんて!」
「意味がわからない。お前との話が片付いてないないと私は誰とも話せないのか?」
私は流しから振り返り、呆れた声で返した。
「じゃあ何か?明日から私がその日に話した相手の名前や内容でもメモにして、お前に提出でもすれば満足なのか?」
アナキンの表情が私の皮肉に歪む。
「ハッ……それ、最高の案かもしれないな。それがいい、ナマエ。是非実行してくれよ!」
彼の口調もあからさまな怒気と皮肉を含んでいた。私は髪をかきあげてため息をついた。
「……第一に、アナキン。私たちはもう別れている。第二に、私はさっきからオビ=ワンとは何もないと明確に否定してる。それをお前は疑い、何なら真実として処理して勝手に怒っているが、私の話を聞く気がないならなぜここに来た?」
「明日長期でアウターリムの惑星の前線に遠征するだろ?しばらく会えなくなる前に色々僕たちのことを片付けたいと思って。君がまさかこんなに頑固にオビワンとのことを認めないとは思わなかったが……でもいいさ。こんな言い合いでも、僕は君と長くいられて嬉しいよ。君のほうはそう思ってなくてもね」
「なんで遠征について知ってるんだ」
アナキンがピタリと止まる。
あり得ないものをみるように私を見つめた。
「本気か?君は本当に最高だな」
アナキンの声が低くなる。何かの地雷を踏んだ合図だ。
「君が僕に伝えたんじゃないか、ナマエ!2サイクル前!それも覚えてないのか?そうか、そんなに僕との会話は取るに足らないんだな」
アナキンの声は鋭い。そうだっけ。覚えていない。
まずい、話せば話すほど墓穴を掘っている気がする。
しかし同時に自分でも苛立ちで心拍が上がっているのを自覚する。アナキンと話すと、どうにもこう、理屈じゃ抑えきれなくなる。アナキンの言動だって理不尽な部分があった。
「お前の方が理解し難いがな」
私の苦い声に、アナキンが眉を上げる。
「アナキン。回廊で、しかも私のパダワンの前であの話題を持ち出すなんてどういうつもりだったんだ?」
アナキンの目が細められる。
「僕は事実確認をしただけだ」
「事実確認のためにわざわざ『見返り』なんて言葉を選んだのか?」
「そうさ。君にしか通じない言葉を選んだんだ。嬉しい気遣いだろ」
私は奥歯を噛みしめた。
これ以上言い合っても、どうせまた言葉尻を捕まえられて話がこじれるだけだ。しかも明日は遠征前だというのに、朝からパダワンの訓練にも付き合うつもりでいる。支度も確認も当然まだ残っている。こんな不毛な応酬にこれ以上つき合っていられるほど、今夜の時間は決して暇ではない。
「……もういい」
「何が?ナマエ」
私が寝室に移動するとアナキンもついてくる。私は振り返りもせずぶっきらぼうに言った。
「着替える。だから見るな。どっか行ってろ」
「……今?」
アナキンはありえない、とでもいうように愕然とした。
「今だ。お前と違って、私は明日の遠征準備がある」
「そう。もちろん僕との話より、そっちのほうが大事だろうな」
皮肉っぽく返すが、どこかまだ納得していない様子だった。
アナキンはやがてベッドに腰掛け、私から目を逸らした。
が、沈黙は長く続かなかった。今度は、さらにからかいを思いついたかのように軽快な声で言った。
「ナマエ、何を着るんだ?」
「寝巻き」
突き放すように返すと、アナキンの軽快さは一気に苛立ちに変わる。アナキンの声は、挑発に熱がこもり始める。
「もっと詳しく教えてくれよ、ナマエ。その下は?」
「下着に決まってるだろ。それ以上不快なことを言ったら、今すぐお前を部屋から引きずり出すからな」
「ああ、黒いやつかな。違う?」
「黙れ!」
私は思わず、アナキンに向かって本気で怒鳴った。
「図星だった?オビ=ワンも君がその下着着てるとこ、喜んで見たがるんじゃないかな」
皮肉たっぷりに、そして攻撃的な嫉妬心を露わにして言い放った。
私は着替え終わってからリビングに出て、早歩きでアナキンの元に近づく。そして彼のチュニックのえりを掴み上げた。
「いい加減にしろアナキン!!」
アナキンは少しだけ表情をこわばらせたが、すぐに興奮したように口角をあげた。今自分にこちらの注意が完全に向いていることを、彼は心底気にしていた。
「やっと僕を見た。いつもいい子ぶってるくせに、今の君のその苛立ってる顔、オビ=ワンに見せてやりたいな……」
アナキンは乾いた笑いをこぼす。ふざけた響きのくせに、その声は熱を帯びていた。
私は歯を食いしばったまま、さらに襟を引き寄せる。
「黙れ」
吐き捨てるように言ったのに、アナキンは引かない。
むしろその空色の目は、ようやく欲しかったものを手に入れたみたいに、ぎらついていた。
「わかるか?さっきまで、君は僕を見もしなかった。でも、今は……」
低く言いながら、アナキンは私の襟を掴む手首に触れた。
そのまま片手ずつ、逃がさないようにぐっと掴み返される。
「離せ」
アナキンは答えなかった。
次の瞬間、アナキンは私の両手を掴んだまま強く引いた。
息が詰まる。
不意に体勢を崩した私は、そのままベッドに座るアナキンの膝へ倒れ込むような格好になった。受け身も取れないまま、片膝がマットレスに沈む。気づけば私はほとんど彼に覆いかぶさる姿勢で、彼の腕の中にいた。すぐ目の前にはアナキンの顔があった。
「僕が何を言っても腹を立てて、こうでもしなきゃこっちを向かない。忘れて、突き放して、どうでもいいみたいな顔をして……君がいつも優先するのは任務、君の弟子、ジェダイの掟、正しさ。でも、今は違う」
彼の息が頬にかかる。
振り払おうと力を込めても、アナキンの腕はびくともしない。
「今の君は、僕だけを見てる」
その言葉に、かっと頭に血が上った。
「そんなことのためにお前のマスターを、オビ=ワンを引き合いに出したのか?」
「君たちの関係を疑ってたのは本当だ」
アナキンは即座に言った。
「でも、君に見てもらうためにマスターを引き合いに出したとして……もしそうだったとしても、それが何だ?」
「恥を知れ」
私の即答に、アナキンは溜息まじりに笑った。
「傷付くよ、君に忘れられて終わるのが嫌なだけなのに。それで色々考えて、こうして仕掛けて……結果こうなってる。泣けるくらい健気だろ」
「何が健気だ。気味が悪い」
吐き捨てたのに、アナキンは傷つくどころか、ますますおもしろそうに目を細めた。
怒鳴られている。睨まれている。胸ぐらまで掴まれている。それでも、その全部が自分だけに向いていることがたまらないようだった。
アナキンはゆっくりと私の首元へ手を伸ばした。
肌に触れるか触れないかのところをなぞる、その慎重さがかえって腹立たしい。
「ナマエ」
低く呼ばれて、肩がわずかに強張る。
「僕だけが勝手だと思いたい?」
その指先が鎖骨の中心をかすめるように下りる。
「僕だけがどうかしてると?」
熱っぽく、言い聞かせるような声音だった。
「ナマエ、僕には君も同じだけめちゃくちゃに見える」
胸の奥がざわつく。
怒りだけでは片づけられない、不快な動揺だった。
「……執着を手放せないのはわかる。でも、アナキン」
説得するような口調になりかけた、その瞬間だった。
アナキンの目が、すっと険しく細まる。
「オビ=ワンやマスターヨーダのように、僕を諭そうとするな」
声は低いのに、妙に鋭かった。
「まるで僕が、自分を制御できていないように言うな」
「違うのか?」
「違う」
きっぱりと言い切る。迷いも、自嘲もなかった。ただ不愉快そうな、強い否定だけがある。
「欲や恐れを持つだけで、暗黒面に落ちるわけじゃない。違いは、それに呑まれるか、制御できるかだ」
「そして自分にはできると?」
「できる。少なくとも、自分の感情から目を逸らして、存在しないふりをしている連中よりはね」
嘲笑うような言葉に、私は眉をひそめた。しかしアナキンは私の反応を気にもせず言葉を続ける。
「僕は、自分が君を手放したくないとわかっている。失いたくないとも思ってる。でも、それを見ないふりはしない。その感情を制御すらできる」
その目はまっすぐだった。自信に輝き、絶対的に自分を信じている。そして、ぞっとする。
自分は例外だと、まるで最初から決まっているように、彼は自分を当然のように規格の外へ置いている。
「……自分だけは大丈夫だと思ってるのか。傲慢だな」
「君にだけは言われたくない」
アナキンの声が、わずかに低くなる。
「君は僕との関係を執着だと言った。ジェダイにはふさわしくない、いずれ互いを駄目にするから離れるべきだと。別れるのに都合のいい口実とはいえずいぶん立派な理屈だったよ」
皮肉を含んだ声に、私は口をつぐむ。
「でも、君だって弟子のためなら何でもする」
アナキンの腕に、少しだけ力がこもった。
「無茶な任務にも出る。命令にも逆らう。自分の立場も安全も後回しにする。そして、あの弟子が望んだものを手に入れるためなら、僕に見返りを払うことまで選んだ」
「それは」
「でも君はそれを執着とは違うと言い張る」
言い終える前に、アナキンが遮る。その口元にかすかな笑みが浮かぶ。
「ナマエ。君が弟子を手放せず、そのために自分さえ差し出すのは献身で、僕が君を手放したくないのは執着なのか?」
言葉に詰まった。
「違う。弟子は私が守る責任がある。お前との関係とは……」
「名前を変えただけだろ」
ぴしゃりと言い切られる。
「弟子への執着を責任と呼んで、友人への執着を忠義と呼んで、任務への執着を使命と呼ぶ。そうやって正しい理由をつければ、君の感情だけは綺麗なものになる」
「お前と一緒にするな」
「どうして?」
アナキンは私の反発を待っていたように、かすかに目を細めた。
「君の失いたくない気持ちってのは僕のより上等なのか?君のは献身で、僕のは執着だと?」
「私は、お前みたいに相手を自分のものにしようとはしない」
「多分ね。でも不誠実さで言えば君には負けるよ」
言葉に詰まった。
「僕たちの関係を終わらせたいから、ジェダイの掟という口実を使ったんだろう。執着は危険だと言えば、僕が何を言っても君の方が正しく見えるから」
その声は熱を帯びながらも、彼の感情が怒りを通り越しているかのように、むしろ静かだった。怒鳴られるより、ずっと逃げ場がない。
アナキンはぐいと私を胸元へ引き寄せた。
「君は僕と何も変わらない。失いたくないもののためなら、君だって選ぶ。掟よりも、命令よりも、自分で正しいと決めた相手を」
彼の顔が近づく。
「ただ君は、自分の執着に、僕より聞こえのいい名前をつけているだけだ」