ほどきたいよ、赤い糸
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「ソレスはすべての型の中でも最も内省的な型だ。極めれば動的な瞑想状態に入れる。その状態なら、すべての相手の動きを予測でき、迎撃の動きを正確にとらえることができると言われている」
オビ=ワンの教えは、実に整っていて、わかりやすい。私は夢中になって聞いていた。説明も、理論も、まるで無駄がない。
もちろん、自分のフォームが役に立たないとは思わない。戦場と実戦の中で削られて形になったそれは、実戦において十分な成果を上げてきた。
しかし長い歴史の中で無数の戦いと思想の中から磨かれたフォームというものには、それに伴う凄みがある。
オビ=ワンの滑らかな剣の流れには、精神の鍛錬や内省が刻まれている。
美と機能が両立しているあの構えは、戦うためでありながら、哲学、そして長年のジェダイの精神すら宿っている。
それから無事に訓練が終わった。帰路に着くと、夕方の光が寺院の回廊に差し込んでいる。
私とパダワンは並んで廊下を歩いていた。体には訓練の余韻がほんのり残る感覚。心地よい疲労だった。
「ソレスいいなあ」
私がつぶやいた言葉に、隣を歩くパダワンがすかさず身を乗り出してきた。
「でしょう!?」
「まるで自分がソレスを発明したかのようなドヤりぶりだな」
なぜか自信満々だ。
「そんな、恐れ多い。ただ、マスターケノービの教えを最大限に吸収して、自信をつけただけです」
「まだ教わり始めて6スタンダードデイなんだけど」
「6スタンダードデイにしてこの境地ですよ!マスター、僕にはきっと才能があります」
自信たっぷりに胸を張るパダワンを、私は苦笑しながら横目で見る。
「それを言うならまず、瞑想で寝落ちしないように。昨日も私のひじでつついて起こしたんだ」
「いやあれは……その…えへ」
「瞑想中に涎を垂らさない。あと、寝言」
「……精進します、マスター」
少し照れながら言うパダワンの横顔を見て、私はふっと息を漏らすように笑った。
回廊のかたい石の床は、夕陽によって淡くオレンジがかっていた。そこに静かに私たちの足音だけが響く。そんな時だった。
「オビ=ワンと、ふたり揃ってずいぶん仲がよさそうで羨ましいよ」
不意に、背後から聞き慣れた低い声が響いた。振り返らずともわかる。
アナキンだった。
「今度は僕も混ぜてほしいな、ナマエ」
げっ。という言葉を飲み込んで振り返ると、アナキンはいつの間にか背後の柱にもたれ、腕を組んで立っていた。その目は笑っているようで、色々な感情がないまぜになっているのが見てとれる。
私はごく自然に姿勢を正した。
「……見てたのか?」
「別に。君の声が聞こえたから、寄ってみただけさ。そうだな、すごく夢中になっていたようだったから。例えば、僕と話すより」
アナキンの一言一言がやたら鋭い。
「訓練には当然夢中になるだろう。逆にそれをどこからともなくずっと黙って見てたことにドン引きなんだが」
「引いてるのは僕のほうだ。君が毎日オビ=ワンとあんなに仲良くやってるなんて思わなかった」
「仲がいいと何か不都合がお前にあるのか?」
「とんでもない。でも、君がオビ=ワンと話してる時の顔が楽しそうで懐かしいとも思ったんだ。昔、僕を避ける前の君が僕と話してたときみたいだった」
とげとげしい応酬の中で、パダワンが不安そうに私とアナキンを見比べる。彼は状況を和らげようとしたのか、おずおずとアナキンの前に一歩出た。
「あの。こんにちは、マスタースカイウォーカー。えっと、この前はシエンの型を教えてくださってありがとうございました」
アナキンは面白そうにパダワンを見下ろす。意地悪な光が目に宿っていた。
「やあ。君のシエンの訓練が、あれからどうなったか気になっていたんだ」
オビ=ワンの訓練帰りで、その訓練すら見ていたにも関わらず、白々しくアナキンは尋ねた。
「それが、実は……ソレスの型に移ったんです!なんだか僕にはこっちのほうがしっくりきて」
パダワンは純粋な笑顔で元気に頷く。私は内心で頭を抱えた。なんでそんなに素直なんだお前は。なぜわざわざ火に油をぶっかけて炎上させるのか。
が、もう遅い。
「へえ」
アナキンは穏やかに相槌を打つ。けれど、その目は明らかに好意ではない感情に細められる。
「なら、あの時の熱意は冷めたってことか。寂しい話だ」
「え!いえ、そういうわけじゃ!」
パダワンは焦って否定するが、アナキンはもうパダワンの方を見ていなかった。
私の方に目を向け、口元にわずかな笑みを浮かべる。アナキンが何かを言う前に私は慌てて弟子をフォローしようと口を開く。
「アナキンの言うことは気にするな。訓練の時間は有限だ。無駄にできない。効率的に自分にあった方法で成果を身につけていくべきだ」
アナキンの短い笑いが私の言葉にかぶる。それからアナキンは私を見て言った。
「確かに。興味の対象が変わったらすぐに、そして効率的に次へ行くべきだ。そうだろ、ナマエ?」
その目に射すような静けさを感じて、私はわずかに眉をひそめた。
「何が言いたい?私は弟子についての話をしている」
「ああ……そうだな。僕もだ」
「そうは聞こえなかったが」
「そうかな?僕はただ……思ったんだよ。ほら、パダワンにシエンを教える代わりの『見返り』ってやつをさ、君が頑張った割には……当の君のパダワンときたら、目移りが早いのは少し君が不憫だと思って」
「アナキン」
警告の意味を込めて遮ると、彼は口角だけ上がってるような作った笑みを浮かべる。穏やかなのは表面だけだ。
見返り。
結局あの後、関係を戻すことはしなかった。でも確かに私はアナキンの欲した『別の見返り』に付き合った。底のない沼のような関係になってることはわかっている。最近の就寝前の悩みの種だ。
「……マスター、見返りって……」
パダワンの声は小さかったが、確かに聞こえた。彼の目が、私とアナキンの間を交互に見ている。状況を理解しきれないまま、何か大事なことが自分の知らないところで起きているのだろうかと心配しているようだった。
「お前が気にする必要はない。大したことのない、ただの友人同士の貸し借りの話だ。……カンティーナで一杯奢るとか」
平静を装って、なんでもないことのように答える。
「えっと。マスター……僕……ごめんなさい。もし、ご迷惑をおかけしたなら……」
「していない」
私は即座に言った。
「お前は自分の意志でソレスを選んだ。お前自身の選択について私に謝る必要はない。それはいいことだった」
「彼にとってはね。でも君にとっていいことだったのかどうか、僕はそっちが気になるな」
アナキンの低い笑いが、重たく空気を割る。
「ナマエ、君はパダワンのために本当に何でもする。弟子には献身的だ。でも、僕に対しては?君は以前なら僕に」
「アナキン、やめろ」
「やめる?何を。事実を言うことを?」
アナキンはパダワンの横を通り過ぎて、一歩さらに私に近づいた。
その態度は穏やかで、けれど目だけが、決して笑っていない。ここまで言っているが、結局アナキンはパダワンに事実を伝えるつもりなどないのだろう。彼は自分の立場の重さをよく分かっている。
だからこのすべてはただ私を苛立たせるための茶番にすぎない。
「個人的な話をしたいなら、場所を選べ」
それを言った瞬間、アナキンの口元にふっと笑みが走る。まるでそれを待っていたかのような、余裕と皮肉の混じった笑みだった。
「場所を選んだら、その態度は変わるかな」
「かもな」
「なら話が早い。嬉しいな、ナマエ」
その声は、本当に嬉しそうではあった。しかし同時に後戻りできない熱を帯びている。
パダワンは明らかに困惑している。 私はそれを見て、ひとつ息をつくと、努めて冷静な声を出した。
「……今日はもう遅い。明日も早いから、もう休め」
パダワンは私の言葉に心配そうに私を見つめたが、やがて私とアナキンに一礼して早歩きでその場を去った。
私は一度深く息をついて、目を閉じる。
アナキンの視線は、その間も私の動きをひとつも見逃さずに追っていた。
私はアナキンに目で合図して、回廊を再び歩き始めた。アナキンも黙ってついてくる。結局、私は彼を自分の宿舎へ招くことにした。
このまま外で立ち話を続ければ、誰に見られてもおかしくない。言葉の選び方ひとつであらゆる誤解を生みそうな空気を、このまま放ってはおけなかった。
「ソレスはすべての型の中でも最も内省的な型だ。極めれば動的な瞑想状態に入れる。その状態なら、すべての相手の動きを予測でき、迎撃の動きを正確にとらえることができると言われている」
オビ=ワンの教えは、実に整っていて、わかりやすい。私は夢中になって聞いていた。説明も、理論も、まるで無駄がない。
もちろん、自分のフォームが役に立たないとは思わない。戦場と実戦の中で削られて形になったそれは、実戦において十分な成果を上げてきた。
しかし長い歴史の中で無数の戦いと思想の中から磨かれたフォームというものには、それに伴う凄みがある。
オビ=ワンの滑らかな剣の流れには、精神の鍛錬や内省が刻まれている。
美と機能が両立しているあの構えは、戦うためでありながら、哲学、そして長年のジェダイの精神すら宿っている。
それから無事に訓練が終わった。帰路に着くと、夕方の光が寺院の回廊に差し込んでいる。
私とパダワンは並んで廊下を歩いていた。体には訓練の余韻がほんのり残る感覚。心地よい疲労だった。
「ソレスいいなあ」
私がつぶやいた言葉に、隣を歩くパダワンがすかさず身を乗り出してきた。
「でしょう!?」
「まるで自分がソレスを発明したかのようなドヤりぶりだな」
なぜか自信満々だ。
「そんな、恐れ多い。ただ、マスターケノービの教えを最大限に吸収して、自信をつけただけです」
「まだ教わり始めて6スタンダードデイなんだけど」
「6スタンダードデイにしてこの境地ですよ!マスター、僕にはきっと才能があります」
自信たっぷりに胸を張るパダワンを、私は苦笑しながら横目で見る。
「それを言うならまず、瞑想で寝落ちしないように。昨日も私のひじでつついて起こしたんだ」
「いやあれは……その…えへ」
「瞑想中に涎を垂らさない。あと、寝言」
「……精進します、マスター」
少し照れながら言うパダワンの横顔を見て、私はふっと息を漏らすように笑った。
回廊のかたい石の床は、夕陽によって淡くオレンジがかっていた。そこに静かに私たちの足音だけが響く。そんな時だった。
「オビ=ワンと、ふたり揃ってずいぶん仲がよさそうで羨ましいよ」
不意に、背後から聞き慣れた低い声が響いた。振り返らずともわかる。
アナキンだった。
「今度は僕も混ぜてほしいな、ナマエ」
げっ。という言葉を飲み込んで振り返ると、アナキンはいつの間にか背後の柱にもたれ、腕を組んで立っていた。その目は笑っているようで、色々な感情がないまぜになっているのが見てとれる。
私はごく自然に姿勢を正した。
「……見てたのか?」
「別に。君の声が聞こえたから、寄ってみただけさ。そうだな、すごく夢中になっていたようだったから。例えば、僕と話すより」
アナキンの一言一言がやたら鋭い。
「訓練には当然夢中になるだろう。逆にそれをどこからともなくずっと黙って見てたことにドン引きなんだが」
「引いてるのは僕のほうだ。君が毎日オビ=ワンとあんなに仲良くやってるなんて思わなかった」
「仲がいいと何か不都合がお前にあるのか?」
「とんでもない。でも、君がオビ=ワンと話してる時の顔が楽しそうで懐かしいとも思ったんだ。昔、僕を避ける前の君が僕と話してたときみたいだった」
とげとげしい応酬の中で、パダワンが不安そうに私とアナキンを見比べる。彼は状況を和らげようとしたのか、おずおずとアナキンの前に一歩出た。
「あの。こんにちは、マスタースカイウォーカー。えっと、この前はシエンの型を教えてくださってありがとうございました」
アナキンは面白そうにパダワンを見下ろす。意地悪な光が目に宿っていた。
「やあ。君のシエンの訓練が、あれからどうなったか気になっていたんだ」
オビ=ワンの訓練帰りで、その訓練すら見ていたにも関わらず、白々しくアナキンは尋ねた。
「それが、実は……ソレスの型に移ったんです!なんだか僕にはこっちのほうがしっくりきて」
パダワンは純粋な笑顔で元気に頷く。私は内心で頭を抱えた。なんでそんなに素直なんだお前は。なぜわざわざ火に油をぶっかけて炎上させるのか。
が、もう遅い。
「へえ」
アナキンは穏やかに相槌を打つ。けれど、その目は明らかに好意ではない感情に細められる。
「なら、あの時の熱意は冷めたってことか。寂しい話だ」
「え!いえ、そういうわけじゃ!」
パダワンは焦って否定するが、アナキンはもうパダワンの方を見ていなかった。
私の方に目を向け、口元にわずかな笑みを浮かべる。アナキンが何かを言う前に私は慌てて弟子をフォローしようと口を開く。
「アナキンの言うことは気にするな。訓練の時間は有限だ。無駄にできない。効率的に自分にあった方法で成果を身につけていくべきだ」
アナキンの短い笑いが私の言葉にかぶる。それからアナキンは私を見て言った。
「確かに。興味の対象が変わったらすぐに、そして効率的に次へ行くべきだ。そうだろ、ナマエ?」
その目に射すような静けさを感じて、私はわずかに眉をひそめた。
「何が言いたい?私は弟子についての話をしている」
「ああ……そうだな。僕もだ」
「そうは聞こえなかったが」
「そうかな?僕はただ……思ったんだよ。ほら、パダワンにシエンを教える代わりの『見返り』ってやつをさ、君が頑張った割には……当の君のパダワンときたら、目移りが早いのは少し君が不憫だと思って」
「アナキン」
警告の意味を込めて遮ると、彼は口角だけ上がってるような作った笑みを浮かべる。穏やかなのは表面だけだ。
見返り。
結局あの後、関係を戻すことはしなかった。でも確かに私はアナキンの欲した『別の見返り』に付き合った。底のない沼のような関係になってることはわかっている。最近の就寝前の悩みの種だ。
「……マスター、見返りって……」
パダワンの声は小さかったが、確かに聞こえた。彼の目が、私とアナキンの間を交互に見ている。状況を理解しきれないまま、何か大事なことが自分の知らないところで起きているのだろうかと心配しているようだった。
「お前が気にする必要はない。大したことのない、ただの友人同士の貸し借りの話だ。……カンティーナで一杯奢るとか」
平静を装って、なんでもないことのように答える。
「えっと。マスター……僕……ごめんなさい。もし、ご迷惑をおかけしたなら……」
「していない」
私は即座に言った。
「お前は自分の意志でソレスを選んだ。お前自身の選択について私に謝る必要はない。それはいいことだった」
「彼にとってはね。でも君にとっていいことだったのかどうか、僕はそっちが気になるな」
アナキンの低い笑いが、重たく空気を割る。
「ナマエ、君はパダワンのために本当に何でもする。弟子には献身的だ。でも、僕に対しては?君は以前なら僕に」
「アナキン、やめろ」
「やめる?何を。事実を言うことを?」
アナキンはパダワンの横を通り過ぎて、一歩さらに私に近づいた。
その態度は穏やかで、けれど目だけが、決して笑っていない。ここまで言っているが、結局アナキンはパダワンに事実を伝えるつもりなどないのだろう。彼は自分の立場の重さをよく分かっている。
だからこのすべてはただ私を苛立たせるための茶番にすぎない。
「個人的な話をしたいなら、場所を選べ」
それを言った瞬間、アナキンの口元にふっと笑みが走る。まるでそれを待っていたかのような、余裕と皮肉の混じった笑みだった。
「場所を選んだら、その態度は変わるかな」
「かもな」
「なら話が早い。嬉しいな、ナマエ」
その声は、本当に嬉しそうではあった。しかし同時に後戻りできない熱を帯びている。
パダワンは明らかに困惑している。 私はそれを見て、ひとつ息をつくと、努めて冷静な声を出した。
「……今日はもう遅い。明日も早いから、もう休め」
パダワンは私の言葉に心配そうに私を見つめたが、やがて私とアナキンに一礼して早歩きでその場を去った。
私は一度深く息をついて、目を閉じる。
アナキンの視線は、その間も私の動きをひとつも見逃さずに追っていた。
私はアナキンに目で合図して、回廊を再び歩き始めた。アナキンも黙ってついてくる。結局、私は彼を自分の宿舎へ招くことにした。
このまま外で立ち話を続ければ、誰に見られてもおかしくない。言葉の選び方ひとつであらゆる誤解を生みそうな空気を、このまま放ってはおけなかった。