編み直した色は
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物心ついた時から、ナマエはいつもアナキンと一緒にいた。
──寺院に来る前も、そして、寺院に来てからも。
かけがえのない絆で、他の友人たちとの関係とはどこか違っていた。
強い信頼、そして深い結びつき。お互いがいれば他に何もいらないと、いつしか思うようになっていた。
きっとそれは献身と呼べるものだった。しかし同時に、どこか危ういものでもあった。柔らかな糸が無意識のうちに幾重にもきつく結ばれ、ゆるめる隙間もない。そんな繋がりだった。
以前、ナマエは共に前線に立った友人を亡くしかけたことがある。
その日を境に、戦場に立つと体がすくんだ。
そんな彼女を支え、戦いの中で手を引いてくれたのは、いつもアナキンだった。
────
バトルドロイドのブラスターの赤い閃光が夜を切り裂く。
焦げた草と土のにおいがする。ナマエはライトセイバーを構えたまま、ただ硬直していた。
──動かなきゃ。わかってる。
それでも体がすくむ。息が苦しい。
「動けナマエ!!考えるより先に動いて戦え!!ジェダイだろ!」
聞きなれた叱咤だった。
なのに耳が遠く、頭が霞む。まるで水の中にいるようだった。
「ナマエっ!!」
焦げ跡だらけのローブをひるがえし、アナキンがナマエの前へと滑り込む。そのライトセイバーの光が、彼の背中を青く縁取った。
次の瞬間。
地響きのような、大きな砲撃音。
熱と衝撃波。
そして、視界を埋める赤い残光。
──耳鳴り。
「くっ……!」
アナキンがナマエをかかえて後方へ下がる。二人は泥の上で転がり、振り返った。
ぬかるんだ地面を駆けてバトル・ドロイドが迫ってくる。
ナマエの腕をひっぱって、アナキンが素早く立ち上がる。
二人はすばやく体勢を立て直し、ライトセイバーでブラスター弾を弾き返して防衛をしていた。すると、突然アナキンがあっという間に距離を詰める。それから力強く、三機まとめて両断した。
やっぱり、アナキンはすごい。
ナマエは安堵の息とともに、彼に駆け寄ろうとした。
しかし──
ブラスターの鋭い発砲音。まだ敵が残っていた。
アナキンの右肩装甲が裂け、火花と血が同時に噴き出す。
「アナキン!」
ほとんど悲鳴だった。
彼は痛みを押し隠すように顔を顰め、振り返らずにナマエに叫ぶ。
「気にするなっ!敵を見続けろ、フォースを感じろ、恐怖に飲まれるな。動けないなら、せめて伏せていろ!」
言葉は冷静だったが、明らかに痛みを堪えている声だ。ナマエはその背中を見ていることしかできなかった。
その後、ほんの数分で戦闘は終わった。
こちらの増援が来たのだ。つまり、ナマエとアナキンの増援までのライン防衛の耐久戦は成功したということになる。
だがそれは、アナキンの消耗と引き換えに。
戦いが終わったというのにナマエの体はまだ震えていた。
勝利の余韻など、どこにもなかった。
──────
ジェダイ寺院の医療棟、照明が隅々まで行き届く廊下。清潔な白い壁と床のこの場所は、足を踏み入れたときから、すっと鼻に抜ける医薬品の香りがする。
「アナキンが君をかばったと聞いた」
重い足取りで奥に進もうとした時、オビ=ワンに声をかけられる。苦笑まじりだが、その眼差しは穏やかだった。
「オビ=ワン」
「君も顔色がずっと悪いな、ナマエ」
「……」
「大丈夫か?」
その問いに、ナマエはしばらく沈黙したのち、ようやく重たい口を開いた。
「……本当に不甲斐ないんだ。どんな顔でアナキンに会えば、いいのか。私のせいで、怪我を……」
俯いたまま、かすれた声で言った。
オビ=ワンは静かに息をつくと、隣に並んで壁にもたれた。
「ナマエ、君が戦いを恐れるのは理解できる。恐怖は、無知でも弱さでもない。生きている証だ」
オビ=ワンの言葉は穏やかだったが、そこには彼自身の戦いに対する疲労と悼みの色もあった。
「戦いに痛みの恐怖はつきものだ。
どれだけの前線で勝利して、どんな戦果を上げたとしても、そこには代償がある。勝利にも敗北にも、必ず犠牲と痛みがついて回る。その大きさに関係なくだ。
──しかしそれが、戦争というものだ」
「……」
「私たちジェダイは兵士ではない。
しかし、平和を守る者である以上、戦わざるを得ない時がある。……そして、前線で戦う私たちには常に喪失が積みあがる。そんな戦いのなかで、君は何のために戦う?」
オビ=ワンの言葉が刺すように鋭さを増す。
何のため?
勝利のためか?共和国のため?
ナマエの唇がわずかに動いた。
「私は……」
オビ=ワンは目を逸らさなかったが、その視線は彼女の発言する様子を励ますようでもあった。ナマエは深く息をすいこんだ。
「もし、私たちがこのクローン戦争に勝ったとしても……その場にアナキンがいなかったら、オビ=ワンがいなかったら……仲間たちが、もう隣にいなかったら……」
息を呑んで、言葉を続ける。
「そんな勝利に、私は価値を見出せない」
戦争という大局のなかでは、たとえジェダイであっても、一人ひとりの命は統計の点に過ぎないのかもしれない。
それでもせめて、自分の手の届く範囲だけでも、一人も欠けずにこの戦争を越えたい。
「私はもう、生き延びるだけの戦いを終わりにしたい」
沈黙が落ちる。
それを破ったのは、オビ=ワンの、穏やかで芯のある声だった。
「なら、その思いが君のジェダイとしての本質だ」
そっと顔を上げてナマエがオビ=ワンを見る。
戦場で剣を振るう理由は、階級や命令からではない。自分自身の本質と意思であるべきだ。
わかっていたのに、どうしてずっと怯えていたんだろう?
クローン戦争が始まって、その最中で大怪我をする友人を見た。それ以来、胸の底に沈んでいた重石。それは、大切な仲間が血を流すたび、深く沈んでいった。
しかし今、オビ=ワンの励ましによって、その重みがようやくほどけていくのを、ナマエは感じていた。
オビ=ワンに一礼して、ナマエは医療室の扉に向かう。その先では、バクタパッチを肩に当てたアナキンがベッド上で半身を起こしていた。
彼の肩の怪我はまだ新しく、痛々しい。それでも彼はナマエを見ると、いつもの笑みを浮かべた。
「ナマエ、来るって分かってた」
「アナキン、本当にすまなかった」
「え?ああ、いいんだ、それは。それより、フルーツをたくさん貰ったけど、君もどう?多いから、腐らせると悪いし」
彼は気にも留めていないような様子で、ベッドサイドのかごから果物をひとつ放り投げる。
ナマエはそれを難なくキャッチし、手のひらに収まった果実をしばらく見つめた。
苦笑がこぼれる。胸の奥が思わず軋んだ。
彼を守られるどころか、彼の傷の理由になった。それなのにアナキンは、自分を責めもしない。
それはアナキンもまた、戦場に立つ恐怖を知っているから。
でももう甘えることはできない。ここまで、ずいぶん長い間、彼には頼りすぎた。
「ナマエ、ほら。ここに座ってくれ」
アナキンは柔らかく微笑んでベッドのそばをたたいた。
「いや、実はすぐに行くつもりだったんだ」
「え?どうして、来たばかりじゃないか」
「顔を見るだけの予定だったんだ。やらなきゃいけないことが……山積みで」
オビワンの言葉が頭に過ぎる。そしてこの瞬間、ナマエは決意を抱いていた。彼の隣に立って、彼の背中を守れるジェダイになりたい。
そのためには、どんな努力も惜しまないつもりだった。
「それはここで僕の相手をするよりも大事なこと?」
「そうだ」
あっさりした返答に、アナキンはわざとらしく眉を上げた。
「絶対違うね。僕の相手をする方がどう考えても大事さ、そのやらなきゃいけないことってよりは。でもまあ…いいよ」
アナキンのおどけた口調にナマエはおかしそうに口元をゆるめた。
「これで終わりと思わない方がいい。確かに今はいつもみたいに僕がいないから、君は自由を謳歌してるかもしれない。でも全快して医療室を出られるようになったら四六時中君の周りにまとわりついてやる、ナマエ。それで君の……」
「なら、はやく全快するんだな」
「何だよ?まだ僕が話してるじゃないか!」
アナキンはまだ文句を言っていたが、ナマエはすでに小さく笑ってから彼に手を挙げ、それから扉を通り抜ける。
アナキンはナマエの背中を見送りながら、つまらなさそうにフルーツをかじった。もっと構ってくれてもいいのに。ベッドにもたれて天井を見上げると、傷が鈍く疼く。アナキンはかじりかけのフルーツをかごに戻し、ふてくされたように枕に沈み込んだ。
────
数日後、訓練棟。
暗い天頂から冷たい風が吹き込む時間。ナマエは一人でフォームⅣの構えを取っていた。
疲労から足はもつれ、腕は重い。前線から戻ったばかりで体も痛い。
けれど、止めたくない。
あの日から、ナマエの一日は就寝前の型の復習と、夕刻の模擬戦で終わるようになった。それを続けて早くも数日が経つ。オビ=ワンがすれ違うたびに苦笑して「やり過ぎるなよ」と声を掛ける。クローン・トルーパーのレックスは片手を上げて「最近燃えてますね」と茶化す。
ふとした時にはいつも、肩を抉ったアナキンの傷跡を思い出す。その後悔が、いつもナマエを怠惰ではいられなくしてくれていた。
汗を拭ってもう一度構えなおす。
すると、ふと声が響いた。
「ナマエ、就寝時間ぎりぎりなのに最近頑張ってるね」
声をかけてくれたのは良く知らないジェダイの一人だった。
「そ……そうでもない」
正直な答えだった。頑張りを認められることへの気恥ずかしさもあったが、本当にまだまだだと思っていた。
瞑想も、ライトセイバーの扱いも、一朝一夕で身につくものではない。
それでも、取り組んでることを見てくれるひとはいるんだな、とナマエは照れくさい気持ちになった。
「そんなことない。頑張ってね、君のこと応援してる」
そのジェダイは優しく手を振って去っていった。ナマエは小さく手を上げて、それに応える。そしてその指先が静かに下りると、ナマエはそのまま自分の手のひらを見つめた。
──誰かに認めてもらえている。それはとても嬉しいことだ。だけど、一番に自分を認めて欲しい相手は、言わずもがなアナキンだった。戦いで負ったアナキンの傷。あのとき、肩から流れた血の赤さが、目の奥にこびりついて離れない。彼の隣に立ちながら、ただ怯えていたあの時の自分から、早く変わりたい。
夜明け前の空気はまだ冷たく、息を吐くとわずかに白くなった。周囲には再び誰の気配もない。そう思っていたが、不意に微かな風が背後をなぞった。
振り向くより早く、声がした。
「ちゃんと休まないと効率のいい訓練ができないぞ」
パッと振り向くと、今度はアナキンが柱に寄りかかり、腕を組んでこちらを見ていた。ナマエはあわてて彼に駆け寄る。
アナキンは目を細め、口元をゆるめてそれを見た。
自分を見つけると駆け寄ってくれる彼女が、いつも可愛くて仕方なかった。
「アナキン、いつの間にっ?というか、体は?」
「とっくに。見た目ほど悪くなかった」
アナキンは自分の肩を回してみせた。ナマエはほっと息をつく。
「前回の前線、ぎりぎりで増援が来て、僕たちは勝っただろう?ちょっとした奇跡だった。それで……ほら、僕も全快した。まあ、全快というか、ほとんど。だからその祝いに、コルサント下層のいつもの店で外食でもどうかなって思ってたんだけど」
一瞬、ナマエの顔がぱっと明るくなる。
けれど、その光はすぐに翳って、やがて視線が落ちた。
「いや……えっと、しばらくは難しいんだ」
「訓練のためか?少しくらいは休んだほうが……」
「休めないんだ。次の前線は2サイクル後。時間は少ない。とにかく早く、アナキンの隣に立っても恥ずかしくないジェダイになりたいって……なるって決めたから」
穏やかだが、有無を言わせぬ声。それ以上アナキンはナマエに何も言えなかった。彼女がこうして自分の背中を追ってくれているのは嬉しい。
なのに、彼の胸の中にはなぜか釈然としない困惑があった。
「わかった。でもせめてちゃんと休んだほうがいい。それで気が変わったら、いつでも僕に声をかけてくれ」
ナマエが彼の誘いを断るのは珍しい。
何とも言えない気持ちだったが、アナキンはそれを振り払う。それから彼女の髪にそっと手を伸ばした。くしゃっと優しく、髪をかき混ぜる。昔からの癖だった。
そしてアナキンは彼女の横をすり抜けて歩き出した。
ナマエは、髪を整えながらその背中を目で追う。だがすぐに、また構えを取り直し、訓練に戻った。
アナキンは訓練棟の出口付近まで歩いたところで、ふと立ち止まる。
静かな空気に、ライトセイバーの音が微かに響いていた。振り返ると、彼女がまだ黙々と剣を振っている姿が見えた。
アナキンはしばらくその場に立ち尽くした。
何も言わずに、ただその小さな背中を見つめながら。
────
さらに数日が経った。
訓練場では、ライトセイバーの訓練用刃が淡く明かりをゆらしていた。
ナマエは額に垂れた汗を手の甲でぬぐい、呼吸を整えて再び構えを取る。
今、ナマエは彼女に指導を申し出てくれたジェダイマスターの一人と模擬戦をしていた。
一歩、踏み込む。中心線を狙った斜め斬り。そのまま軌道を回転させて、水平に鋭く返す。模擬刃に当たれば、容赦なく感電の痛みが走る。
視界の端でライトセイバーの光が走る。反射より早く、軸足を返して後退し回避した。以前の自分ではできなかった動きだ。
「ここまで」
マスターが鋭い声で終了を合図する。
「体力の課題はまだあるものの、動きの精度は良くなった」
それから彼はうなずいてナマエを見る。その目には誇らしさが宿っていた。
「頑張ったな、ナマエ」
「ありがとうございます」
返事をしながら、喉奥がかすれた。数日前までライトセイバーを持つと手に震えがあったような自分が、今は綺麗なフォームで師との模擬戦ができている。信じられないのはナマエ自身だった。
──けれど、もっと速く、もっと正確に。
……彼のように。
目を閉じれば、アナキンが戦場でブラスターの光を弾き、数機のドロイドを瞬時に両断したときの姿が浮かんだ。その背中に、近づけているんだろうかとナマエはふと考える。
しかし、やがて再びナマエは、訓練刃を握りしめてその考えを打ち消した。いや、今の自分は正しい方に進んでる。そうだと確信している。
手も腕も汗で濡れていて、服も髪も肌に張り付いている。息も荒い。けれど、不快さはなかった。むしろ、ここまでこれた達成感に、ナマエは心の奥が熱くなっていくのを感じていた。
──────
一方その頃。
アナキンは静かな空間に身を置いていた。
修復中のスターファイターのハンガー。照明は間接灯だけが灯り、機械の冷たい金属音だけが響いている。
──ナマエとの交流は、ここ最近で急に少なくなっていた。
彼女の様子は変わらない。彼への態度も、言葉も。
以前より前向きになったようにも見える。
──「アナキン、今日はマスターにめちゃくちゃ褒められた」
──「また模擬戦で勝てたんだ!」
──「これからは守ってもらうためじゃなくて、一緒に戦うために隣に立てると思う」
ナマエが笑顔で話す時、アナキンも彼女の成長に喜ぶはずだった。それなのにこの違和感はなんなのか。
心のどこかが、ずっとざわついていた。
なぜ、こんなにも遠くなったように感じるんだろう?彼女は笑ってくれている。前よりも強くなった。
アナキンは拳を握って、自分に言い聞かせた。戸惑っているだけだ、友人の急な成長に。怖がる必要も、焦る必要もない。それでも、彼の心の霧は晴れなかった。
それは、ナマエの成長という光に照らされて、アナキンの中にわずかに生まれ始めた影のようだった。その深い暗さを、アナキンは自分の中ではっきりと感じていた。
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