2.賭け次第
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「砂嵐のせいでよそ者を家に泊めたあと、いろいろ助けることになっただあ?」
私はカウンターに座ってあきれたように言った。
店の埃っぽい天井扇が、ときおり軋んだ音を立てる。私はそこに腰かけ、幼なじみをあきれた視線で見ていた。
「うん。パーツがこわれて不時着しちゃったんだって!」
「うわ……こんな辺境の星に不時着なんて、日頃の行いが相当悪いに違いないぞ。人とかめちゃくちゃ殺してそうな顔だったか?血の付いたナイフ舐めしゃぶってそうだったか?」
「まさか!」
アナキンが声を立てて笑う。それから店の奥にいるワトーに聞こえないように、そっと私に耳うちするために顔を寄せた。
「ナマエ驚くだろうなあ。そのおじさんね、ジェダイの剣を持ってたよ」
「ジェダイの剣……?ジェダイについて私はよく知らないけど、平和の守護者とか言われてるんだっけ?どうせ殺して奪ったやつかなんかだろ」
「あはは!おじさんも『そうだったらどうする?』って言ってた。でもさ、ありえないよ。ジェダイを殺せる人なんかいないから」
「どうだかなあ」
ひそひそと話し合っていると、アナキンがパッと私から顔を離す。
「でさ、お金が共和国通貨しかないんだって。だから修理で必要なパーツが買えないからこまってるみたいで。
──そしたら、ママが運命かもって言って、僕にレースに出ることをゆるしてくれたんだ!」
アナキンはぐっとにぎった拳を突き上げて、ひるむ様子もなく言った。目はきらきらと陽射しのように強い。
すると、店の奥から声が響く。
「坊主の操縦の腕はうたがっちゃいないが……参加料の壁は高いぞ」
言いながら、ワトーが紙幣を一枚一枚と数えつつ奥から出てきた。私も珍しくワトーの言葉にうんうんと頷いた。
アナキンはムッとしてワトーと私を見る。
「でもさ、コルサントへ行く使命があるんだって!困ったときは助け合いっていつもママが――」
アナキンの声は必死だ。
すると、そこへ来店を知らせるドアチャイムが鳴る。旅装をまとった長身の男と、グンガン人が入って来た。
男──アナキンから聞いた話ではクワイ=ガン・ジンというらしい。その彼は私たちのやり取りを一瞥し、まっすぐカウンターへと歩いてきた。彼はアナキンと目を合わせた後、私の方もちらりとみた。
確かに、盗賊や殺人鬼の類ではなさそうだった。
思慮深そうな男だ。バツが悪くおもわず目を逸らす。
すると、ワトーが彼に近づいた。
「おい、さっき坊主が言ってたぜ」
ワトーが笑うと、その羽根がさらに震えた。
「あんたが坊主のレースのスポンサーになるってな。で、どうやってエントリー代を払う?共和国のクレジットじゃ無理だろ」
「私の船を参加費として払おう」
クワイ=ガンはあっさりと言った。そしてすっと手のひらを開く。そこに浮かんだ掌サイズのホログラムは、銀色のヌビアン・スターシップだった。整った流線形の船体に、ワトーの目がぎょろりと見開く。
「ヌビアンか……悪くねえ」
「必要なパーツを除けば完璧だ」
ワトーのくぐもった羽音。私には、今まさに商人の脳裏でそろばんが弾かれるのが見えるようだった。
「だが、坊主は何に乗る? 前のレースで俺のポッドをぶっ壊しただろ。まだ修理途中で――」
「あれは僕のせいじゃない!」
アナキンが慌てて口を挟む。
「セブルバの熱線ガスのせいだったよ。僕はなるべく壊さないようにしたけど……」
「はん、まあな。確かに坊主の腕なら信じられる話だ」
アナキンの必死の弁解にワトーは鼻を鳴らした。
「で、用意するポッドは?」
「賭けで手に入れたものがある。史上最速と評判だ」
私は少し驚いた。たぶん、アナキンは彼自作のポッドレーサーで出る。だってそれしかない。それをクワイ=ガンも知っている。しかし、交渉を有利に進めるために、彼はそのアナキン自作機体を自分で手に入れたものとして話しているのだろう。
クワイ=ガンの言葉にワトーの口角が上がった。
「ふん、なるほどな。お前がポッドと参加料を出す。俺が坊主を貸す。賞金は五分五分……これでどうだ?」
「五分五分?」
クワイ=ガンは静かに首を振った。
「なら参加料に私の船は使わない、お前が出せ。しかし、勝ったら賞金はすべてお前のものだ。ただし私が必要な部品の代金だけ差し引いてもらう。負ければ私の船はお前のもの──これでどうだ?」
思わず息を呑んだ。だって一見すればワトーにとって有利すぎる取引だったからだ。
アナキンが勝てば、賞金はほぼすべてワトーのもの。クワイ=ガンの取り分は「必要な部品代」だけ。そして、アナキンが負けても、ワトーはまだ彼の船が手に入る。
どっちに転んでもワトーは得をする。なら断るはずがない。
交渉の基本である、相手に断らせない提案をきっちり満たしている。
しかし、一点気になるとすれば……確かにクワイ=ガンは勝ちさえすれば、失うものはほとんどない。でも、この男の望むものは本当にパーツだけなのだろうか?
そんな大きなリスクを背負ってまで?
顎に手を当てて考えつつ、男の真意を見ようとした。打算か、信念か。それとも別の何かか──けれど、どうも掴みづらい。
すると、すかさずアナキンが口を挟んだ。
「待っておじさん!ナマエのお父さんに賞金をわけてあげたいんだよ。約束しちゃったし」
「……アニ、良いって」
私はぎょっとしてから、そっとアナキンの袖を引いた。恥ずかしさと、どこか罪悪感の入り混じった気持ちに胸にざわついた。けれど、アナキンはまっすぐな目でクワイ=ガンを見上げた。
彼はちらりと私を見下ろす。無言のまま何かを計っているようだった。
「そうか……共和国通貨ならいくらか渡せるんだが」
アナキンの顔がパッと明るくなる。
「あ……それがいいよ!ナマエのお父さんは行商人だからさ、いろんな通貨を取引につかうんだ!ありがとうおじさん!」
その笑顔に、私は反論をのみこんだ。ありがたい気持ちと、まだ罪悪感があった。
「で、どうだ?この条件は」
クワイ=ガンが視線をワトーに戻す。落ち着いた口調のまま、その目だけが鋭く値踏みする。ワトーの羽根が止まる。計算は早かった。
「……へっ。どちらに転んでも俺が得、か」
満足げに笑みをこぼすと、高音でカッと笑った。
「取引成立だ! まったく、お前の友達はとんでもない賭け師だな!」
私はカウンターに座ってあきれたように言った。
店の埃っぽい天井扇が、ときおり軋んだ音を立てる。私はそこに腰かけ、幼なじみをあきれた視線で見ていた。
「うん。パーツがこわれて不時着しちゃったんだって!」
「うわ……こんな辺境の星に不時着なんて、日頃の行いが相当悪いに違いないぞ。人とかめちゃくちゃ殺してそうな顔だったか?血の付いたナイフ舐めしゃぶってそうだったか?」
「まさか!」
アナキンが声を立てて笑う。それから店の奥にいるワトーに聞こえないように、そっと私に耳うちするために顔を寄せた。
「ナマエ驚くだろうなあ。そのおじさんね、ジェダイの剣を持ってたよ」
「ジェダイの剣……?ジェダイについて私はよく知らないけど、平和の守護者とか言われてるんだっけ?どうせ殺して奪ったやつかなんかだろ」
「あはは!おじさんも『そうだったらどうする?』って言ってた。でもさ、ありえないよ。ジェダイを殺せる人なんかいないから」
「どうだかなあ」
ひそひそと話し合っていると、アナキンがパッと私から顔を離す。
「でさ、お金が共和国通貨しかないんだって。だから修理で必要なパーツが買えないからこまってるみたいで。
──そしたら、ママが運命かもって言って、僕にレースに出ることをゆるしてくれたんだ!」
アナキンはぐっとにぎった拳を突き上げて、ひるむ様子もなく言った。目はきらきらと陽射しのように強い。
すると、店の奥から声が響く。
「坊主の操縦の腕はうたがっちゃいないが……参加料の壁は高いぞ」
言いながら、ワトーが紙幣を一枚一枚と数えつつ奥から出てきた。私も珍しくワトーの言葉にうんうんと頷いた。
アナキンはムッとしてワトーと私を見る。
「でもさ、コルサントへ行く使命があるんだって!困ったときは助け合いっていつもママが――」
アナキンの声は必死だ。
すると、そこへ来店を知らせるドアチャイムが鳴る。旅装をまとった長身の男と、グンガン人が入って来た。
男──アナキンから聞いた話ではクワイ=ガン・ジンというらしい。その彼は私たちのやり取りを一瞥し、まっすぐカウンターへと歩いてきた。彼はアナキンと目を合わせた後、私の方もちらりとみた。
確かに、盗賊や殺人鬼の類ではなさそうだった。
思慮深そうな男だ。バツが悪くおもわず目を逸らす。
すると、ワトーが彼に近づいた。
「おい、さっき坊主が言ってたぜ」
ワトーが笑うと、その羽根がさらに震えた。
「あんたが坊主のレースのスポンサーになるってな。で、どうやってエントリー代を払う?共和国のクレジットじゃ無理だろ」
「私の船を参加費として払おう」
クワイ=ガンはあっさりと言った。そしてすっと手のひらを開く。そこに浮かんだ掌サイズのホログラムは、銀色のヌビアン・スターシップだった。整った流線形の船体に、ワトーの目がぎょろりと見開く。
「ヌビアンか……悪くねえ」
「必要なパーツを除けば完璧だ」
ワトーのくぐもった羽音。私には、今まさに商人の脳裏でそろばんが弾かれるのが見えるようだった。
「だが、坊主は何に乗る? 前のレースで俺のポッドをぶっ壊しただろ。まだ修理途中で――」
「あれは僕のせいじゃない!」
アナキンが慌てて口を挟む。
「セブルバの熱線ガスのせいだったよ。僕はなるべく壊さないようにしたけど……」
「はん、まあな。確かに坊主の腕なら信じられる話だ」
アナキンの必死の弁解にワトーは鼻を鳴らした。
「で、用意するポッドは?」
「賭けで手に入れたものがある。史上最速と評判だ」
私は少し驚いた。たぶん、アナキンは彼自作のポッドレーサーで出る。だってそれしかない。それをクワイ=ガンも知っている。しかし、交渉を有利に進めるために、彼はそのアナキン自作機体を自分で手に入れたものとして話しているのだろう。
クワイ=ガンの言葉にワトーの口角が上がった。
「ふん、なるほどな。お前がポッドと参加料を出す。俺が坊主を貸す。賞金は五分五分……これでどうだ?」
「五分五分?」
クワイ=ガンは静かに首を振った。
「なら参加料に私の船は使わない、お前が出せ。しかし、勝ったら賞金はすべてお前のものだ。ただし私が必要な部品の代金だけ差し引いてもらう。負ければ私の船はお前のもの──これでどうだ?」
思わず息を呑んだ。だって一見すればワトーにとって有利すぎる取引だったからだ。
アナキンが勝てば、賞金はほぼすべてワトーのもの。クワイ=ガンの取り分は「必要な部品代」だけ。そして、アナキンが負けても、ワトーはまだ彼の船が手に入る。
どっちに転んでもワトーは得をする。なら断るはずがない。
交渉の基本である、相手に断らせない提案をきっちり満たしている。
しかし、一点気になるとすれば……確かにクワイ=ガンは勝ちさえすれば、失うものはほとんどない。でも、この男の望むものは本当にパーツだけなのだろうか?
そんな大きなリスクを背負ってまで?
顎に手を当てて考えつつ、男の真意を見ようとした。打算か、信念か。それとも別の何かか──けれど、どうも掴みづらい。
すると、すかさずアナキンが口を挟んだ。
「待っておじさん!ナマエのお父さんに賞金をわけてあげたいんだよ。約束しちゃったし」
「……アニ、良いって」
私はぎょっとしてから、そっとアナキンの袖を引いた。恥ずかしさと、どこか罪悪感の入り混じった気持ちに胸にざわついた。けれど、アナキンはまっすぐな目でクワイ=ガンを見上げた。
彼はちらりと私を見下ろす。無言のまま何かを計っているようだった。
「そうか……共和国通貨ならいくらか渡せるんだが」
アナキンの顔がパッと明るくなる。
「あ……それがいいよ!ナマエのお父さんは行商人だからさ、いろんな通貨を取引につかうんだ!ありがとうおじさん!」
その笑顔に、私は反論をのみこんだ。ありがたい気持ちと、まだ罪悪感があった。
「で、どうだ?この条件は」
クワイ=ガンが視線をワトーに戻す。落ち着いた口調のまま、その目だけが鋭く値踏みする。ワトーの羽根が止まる。計算は早かった。
「……へっ。どちらに転んでも俺が得、か」
満足げに笑みをこぼすと、高音でカッと笑った。
「取引成立だ! まったく、お前の友達はとんでもない賭け師だな!」
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