1.砂の中の萌芽
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
荒涼とした砂漠、それが私の故郷だった。
その惑星──タトゥイーンのやけつくほど乾燥した空気は、双子の太陽が軌道周回しているためだった。
治安も悪い。無法者だらけで宇宙港も少ない。共和国通貨すらほとんどの場所でつかえない。
住む場所をえらべたなら、だれもこんな星に住まなかっただろうに。住人には入植者も多いみたいだったけど、何を思ってこんなところに。
自分の故郷をそんなふうに思いながら、惑星の図鑑をめくった。
その時。
「ナマエ!」
家の正面ドアから響いたのは、無邪気で活発な声。その少年、アナキン・スカイウォーカーは私の歳の近い友達だった。
私は本を抱えて立ち上がり、玄関のそばに向かう。
「アニ、今日は早いな。もう仕事終わったのか」
「ワトーがもう今日はいいって。いつもこうだといいのに」
「お前ドロイド作ってだろ。あれにアニ2号とか紙でも貼り付けてワトーのところに出勤させたらいいんじゃないか。多分気づかれないぞ」
「もう、ナマエ!」
アナキンは私の適当な助言にに呆れたようにむくれた。それから床を見つめてふう、とため息をつく。
「本当にそんなことできればいいのに」
「………」
「あのさ、ぼく時々ナマエがうらやましい。だってナマエはタトゥイーンにいなきゃいけないわけじゃない。ぼくとちがって君は、その…奴隷じゃないから」
アナキンは奴隷として、ワトーという彼の所有者のもとで廃品屋で働いていた。器用だから重宝されているが、それは彼が不自由である事実を決して変えない。
「だからナマエって、ほんとはどこにでも行けるんだろ?」
「行けないよ。船もないし。アニだって、奴隷でも規則にしたがって働けば生活が保障されてるから、食いっぱぐれることはないだろ?そこはいいなって」
「奴隷がわるくないだって?」
「そこまで言ってないけど」
少しムッとして言ったアナキンに私は肩をすくめた。
「私と父は......自由かもしれないけど、楽な生活でもないしなあ」
──フェンロ=ジュド。
それが私の養父だった。
40代のヒューマンで、一見、気難しそうなしかめっ面だが、笑うと目元にやさしげなしわができる。
白さを混じらせたこげ茶の髪を無造作に後ろへ撫でつけてて、体格はやたらがっしりしていた。
彼は行商人だった。毎日ジャンドランドからモス・エスパ、モス・アイズリーまでタトゥイーン内あちこちで廃品に交易品などよろずに売っている。身内をこう表現するのも何だが、おだやかながら商魂たくましい人だった。
とはいえ、これまた生活は不安定だった。そのため、私もフェンロを支えるためにカンティーナでの食器洗いをしている。
主に仕事は夜からなので、それまでの時間はアナキンとは交流することができた。
「だから最近の夕食は、フェンロと二人で塩と砂糖を交互に舐めてしょんぼりとしてるぞ」
「ナマエ、また大袈裟に言ってるでしょ?もう騙されないからね!」
「ははは」
笑って誤魔化す。最近アナキンはこの手の適当な冗談に引っ掛からなくなった。とはいえ、生活が厳しいのは事実だったが。
ふとアナキンは仕事のことを思い出したのか、しみじみとつぶやいた。
「自由になりたいな……」
「自由に憧れる?」
私は本を玄関横の棚に置いてアナキンにたずねた。アナキンはため息をつく。
「憧れない日なんかない。ママと自由になれればいいのに。ここよりもっといい場所に行きたい。そういう冒険が欲しい。わくわくするには砂漠はつまらない」
「いつか叶うよ」
「ナマエも一緒に連れて行くんだよ。ナマエはずっと僕のそばにいるんだ。それで僕がママとナマエを守るんだ」
「守る?アニが?私を?」
思わず小さく笑った。
「今笑ったの?」
アナキンは少し怒ったように言った。
「だって、アナキンが守ってくれるって言ったから。私より背が低いのに?」
からかうようにひじでアナキンの脇腹をつついてやる。すると、アナキンは不満で眉をひそめた。
「ほんの少しだけじゃないか!」
アナキンは自分の身長についてからかわれるのがいつも気に入らなかった。それから私の隣に立って、私と自分の身長を比較しようとした。
しかしそのとき、彼は棚に置いた私の本にぶつかる。ばさりと落ちて本が床に広がった。アナキンはあわててすぐに本をひろって返そうとしたが、彼の目は本の中で美しく描かれた惑星に向けられた。
興味をそそるページを見つけたようだった。
「ねえ、ナマエ!ほら、これ!」
「うん?」
「見て、見て!コルサント!共和国の首都惑星だって知ってた?大きくていっぱい人がいるんだろうな」
アナキンの目は興奮で輝いていた。
「このアウターリムからはめちゃくちゃ遠いだろうな」
「コルサントは上院が活動する場所、だってさ。高いビルがたくさんある大きな街かあ…首都だからきっとえらい人たちがたくさん住んでるんだ。僕も大きな街を見てみたい」
「政治家になれば住めるな。どこの求人に応募したらなれるんだ政治家って」
「ナマエが政治家?無理だよ!絶対銀河がむちゃくちゃになる」
アナキンが声を立てて笑う。
「失礼な。そういうアニはどうなんだ?」
「まさか!ワトーのちょっとの小言にさえ耐えられないのに!政治家なんていやだよ、がまんが多そう。
──パイロットがいいな、そういうのよりも」
アナキンは本を見つめながら、すっかり未来の自分の空想にふけっているようだった。それから私は、ふと思い出したことをたずねる。
「パイロットといえば。ブーンタ・イブ・クラシックのためのポッドレースマシンはどうなったんだ?作ってただろう。なんども手伝わされた。レースまでもう…あと数スタンダードデイ後じゃないか」
「実はね、ナマエ。なんと、もう完成してるんだ。すぐに走れるよ!」
「……すぐに?」
そう言って、私はアナキンの自信満々な宣言にじとっとした目になる。
するとアナキンはバツが悪そうに照れ笑いを浮かべる。
「……多分。いや、あとは……まあ、エンジン駆動のテストが必要かな?えへ」
「ほら出た」
「でも!エンジンとリパルサーの調節は終わってるんだ!」
「へえ、本当か?」
「もちろん!疑うなら、見においでよ!」
アナキンはすぐにうなずき、私の手首をつかんだ。
「こっち!」
そう言って、彼は勢いよく私をドアの外へ引っ張り出した。結局、私の家からアナキンの家はとても近い。
1/2ページ