あとはぼくが気づくだけ。
りょうすけくんは、距離が近い。
これはきっと、年下の兄妹がいるからなんだろうな、と思う。そう思いたい。
だってぼくは男だから。
今日だって撫でられたりしたし、話す距離が近かった。
ぼくがかわいいから…なのはわかっているけど。
でも、でも…これは、同性に対しての可愛がり方とは違う気がするのだ。
○◯
下校でざわつく昇降口を、ぼくは調理室へ向かって歩いていた。そんな中、一際はっきり聞こえる声が近づいてきて、後ろからぎゅっと抱き締められる。
「優太!会いたかったぞぉ~!」
「…もぉ~声大きいし近い~!」
「すまん!」
謝りはするけど行動はしない。悪びれる様子も、ない。
困惑を隠したまま、少し声のトーンを上げて言う。
これを友達は“ぶりっこ”という。
「優太はかわいいなぁ~!」
抱き締めたまま頬を擦りよせてくる。
年上のお姉さんがたに可愛がられたくて始めたこのキャラが、まさか、男の心まで射止めてしまうなんて。
りょうすけくんは女の子兄妹の長男だから、余計に世話を焼きたくなってしまうんだろう。きっと、弟として。
「もう、離れてよぉ~」
男に可愛がられたくてやっているわけではない。ましてや一般よりもゴツいりょうすけくんだ。やめてくれ、と何度も思った。でも、今は、嫌じゃない自分がいる。
ぼくを見つけては駆け寄ってきて、手を焼いてくれて、可愛がってくれて。彼が女の子だったらどれだけよかっただろうか。
未だ離れようとしないりょうすけくんをちらりと見る。
目が合うと遊びたがっている犬みたいに目を輝かせる。
なんか、かわいくみえてきた。って…
いやちょっとまって。違う。違う!
髪の毛もつやつやさらさらで、柔軟剤の匂いがふわっと…って、違う!
「もう離れてぇ~!」
ぐいぐいと引き剥がしにかかる。力が強くて全然離れてくれない。もう勘弁して。
心臓がバクバクうるさい。
りょうすけくんが近くに来ると最近ぼくは冷静でいられなくってしまう。
意識しないようにすればするほど、良く見えてきてしまう。……良くないってば!!
そんな葛藤よりも、この状況から逃れるための策を考えなければ。
ぐちゃぐちゃになった頭で必死に考える。
ぼくは今、調理室に向かおうとしてて、それで……
「ぶ、っ部活!間に合わなくなっちゃうよ!」
「ハッ!そうだった!」
なんとかひねり出せた言葉だった。
単純なりょうすけくんは廊下にある時計も見ずに「時間は待ってくれないな」なんて言ってる。
これでようやく解放された。
今日がユニット練習日でなくて本当によかった。
そう思った時、ちゅっとおでこに柔らかい感触。
「また明日な!優太!」
太陽みたいな笑顔で、光を散らして去っていく。
「うん、また明日ね」
力なく返すけど、もう聞こえてはいないだろう。
もう表情は見えない。けれどもきっと、さっきみたいなキラキラ笑顔なんだろうな。
こんなの変だ。
顔に集まる熱とか、どれだけ心臓がうるさくったって、自分の気持ちを認めたくは無かった。
りょうすけくんのキラキラにあてられて、少し変になっているだけなのだ。
去り際、りょうすけくんの耳が真っ赤になっていたことをぼくは知らない。
くるりと背を向けた後どんな表情かなんて、このときのぼくには予想できるわけなくて。
ただただ、違うと自分に言い聞かせながら調理室へ急ぐ、それだけで精一杯だった。
_.
これはきっと、年下の兄妹がいるからなんだろうな、と思う。そう思いたい。
だってぼくは男だから。
今日だって撫でられたりしたし、話す距離が近かった。
ぼくがかわいいから…なのはわかっているけど。
でも、でも…これは、同性に対しての可愛がり方とは違う気がするのだ。
○◯
下校でざわつく昇降口を、ぼくは調理室へ向かって歩いていた。そんな中、一際はっきり聞こえる声が近づいてきて、後ろからぎゅっと抱き締められる。
「優太!会いたかったぞぉ~!」
「…もぉ~声大きいし近い~!」
「すまん!」
謝りはするけど行動はしない。悪びれる様子も、ない。
困惑を隠したまま、少し声のトーンを上げて言う。
これを友達は“ぶりっこ”という。
「優太はかわいいなぁ~!」
抱き締めたまま頬を擦りよせてくる。
年上のお姉さんがたに可愛がられたくて始めたこのキャラが、まさか、男の心まで射止めてしまうなんて。
りょうすけくんは女の子兄妹の長男だから、余計に世話を焼きたくなってしまうんだろう。きっと、弟として。
「もう、離れてよぉ~」
男に可愛がられたくてやっているわけではない。ましてや一般よりもゴツいりょうすけくんだ。やめてくれ、と何度も思った。でも、今は、嫌じゃない自分がいる。
ぼくを見つけては駆け寄ってきて、手を焼いてくれて、可愛がってくれて。彼が女の子だったらどれだけよかっただろうか。
未だ離れようとしないりょうすけくんをちらりと見る。
目が合うと遊びたがっている犬みたいに目を輝かせる。
なんか、かわいくみえてきた。って…
いやちょっとまって。違う。違う!
髪の毛もつやつやさらさらで、柔軟剤の匂いがふわっと…って、違う!
「もう離れてぇ~!」
ぐいぐいと引き剥がしにかかる。力が強くて全然離れてくれない。もう勘弁して。
心臓がバクバクうるさい。
りょうすけくんが近くに来ると最近ぼくは冷静でいられなくってしまう。
意識しないようにすればするほど、良く見えてきてしまう。……良くないってば!!
そんな葛藤よりも、この状況から逃れるための策を考えなければ。
ぐちゃぐちゃになった頭で必死に考える。
ぼくは今、調理室に向かおうとしてて、それで……
「ぶ、っ部活!間に合わなくなっちゃうよ!」
「ハッ!そうだった!」
なんとかひねり出せた言葉だった。
単純なりょうすけくんは廊下にある時計も見ずに「時間は待ってくれないな」なんて言ってる。
これでようやく解放された。
今日がユニット練習日でなくて本当によかった。
そう思った時、ちゅっとおでこに柔らかい感触。
「また明日な!優太!」
太陽みたいな笑顔で、光を散らして去っていく。
「うん、また明日ね」
力なく返すけど、もう聞こえてはいないだろう。
もう表情は見えない。けれどもきっと、さっきみたいなキラキラ笑顔なんだろうな。
こんなの変だ。
顔に集まる熱とか、どれだけ心臓がうるさくったって、自分の気持ちを認めたくは無かった。
りょうすけくんのキラキラにあてられて、少し変になっているだけなのだ。
去り際、りょうすけくんの耳が真っ赤になっていたことをぼくは知らない。
くるりと背を向けた後どんな表情かなんて、このときのぼくには予想できるわけなくて。
ただただ、違うと自分に言い聞かせながら調理室へ急ぐ、それだけで精一杯だった。
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