リトル・シークレット
…五十嵐の双子が男の子です…
「ね、ボクたちがむむちょこのコト、好きって言ったらどっちを選ぶ?」
放課後、むむちょこと教室でふたりきり。
今日は月に1度のユニットリーダーの会議があって、俺はわとくん、むむちょこはラッキー先輩を待っていた。
唐突な質問にも関わらず、特に考えることもなく返事は返ってきた。
「変わった質問をするのね。貴方たち、いつも2人で1人って言ってるでしょう?どちらなんてあるのかしら」
「……うーん、確かにね」
痛いところを突かれた。
今まで散々言ってきたことがまさか仇になるなんて。
2人で1人。いつも俺たちが口にしていること。これは揺らぎようのない俺たちの意思だし、どちらが欠けるなんて考えられない。これからもそれは変わることはないだろうけど、つい、欲が出てしまった。
いつからだろう、自分の半身であるわとくんよりも親しくなりたい、そう考えるようになったのは。
もし、この質問への答えが、俺だったなら。
…わとくん、だったなら。
「おかしななと」
こっちがこんなに頭を悩ませているというのに、クスクスと面白そうに笑う。
彼女がこんな風に笑うところは、俺たちと、ラッキー先輩以外知らないと思う。それぐらい信頼されているということ。
それが嬉しくもあり、これ以上なく俺たちを苦しめている。
「そんなに面白い?」
「ええ」
やめてよ、とは言うけど、彼女に笑われる分には悪い気はしない。
頬杖をついて彼女が満足するまで見つめてみる。俺たちを見分けることは出来るくせに、ささやかな気持ちを乗せた視線には全く気づかないんだから、ほんとに嫌になる。
ひとしきり笑った後に、目線が合う。
なんだろう、と思ったのも束の間。
「でも、夢々は貴方たちのことは好きよ」
ふわりと笑って言う。
なんてずるい子なんだろう。平等というのは時に残酷だ。なんてどこかで聞いたことあるけど、まさにその通り。
彼女にとっては俺たち2人に違いなんてないんだろう。
「…でも2人セットで、でしょ」
自虐的な意味を込めて呟く。
端から期待していなかったと言えば嘘になる。と言っても、本当に極わずかだけど。
昔からそうだったじゃないか、俺たちは平等でいつも一緒だ。
「それもそうだけれど、全くそうとは言いきれないわね」
「え?」
「だから、個人でもよ。貴方達、似てはいるけど性格も仕草も全然違うじゃない。わとの明るい性格が、なとの穏やかな性格が、それぞれ好きなのよ。おわかり?」
性格、仕草?何を言っているんだろう。
確かにちょっと違うところはあるかもしれないけれど、全然違うということはないはずだ。
だって…
「2人で1人、で、あったとしてもよ。一緒にい過ぎて分からないのね。でも、夢々は知ってるわ」
「…なにを?」
「例えば、今日、なとの襟足、いつもよりおとなしいみたい、とか。右目がちょっと3重になりかけてる、とかね」
「なにそれっ!」
予想以上のマニアックな返答に動揺して声が大きくなってしまった。
対するむむちょこは、なぜかちょっと気恥ずかしそうにしている。
「…夢々は貴方達で毎日間違い探しをしているのよ。…もちろんとっても退屈な時間だけよ?」
「相当暇なんだね、むむちょこ」
「暇じゃないわ、退屈なの」
まさか、自分たちにそんなに関心を持っているとは思わなかった。間違い探しっていうのは、なかなか微妙ではあるけれど…。
彼女は続けて「わとには内緒よ」なんていう。
…少し、優越感。
不意に教室のドアが開く。
その先にはわとくんだけが立っていた。
「なとくん、むむちょこおまたせ~」
「おつかれ、わとくん」
お疲れ様のハグをする。むむちょこにもハグをしようとしていたけれど避けられていた。
それよりも彼女は自分の相方がいないことを気にしてる様だった。
「らきちゃんは?」
「3年生と話し込み中~。先に部屋行っててだってさ~」
自分たち2年生とは違って、3年生でも話し合うことがあるんだろう。むむちょこもそんな気はしていたという様子でため息をついた。
「そうなの。ありがとう、それじゃあ失礼しますわ」
そそくさと荷物をまとめて立ち去ろうとする。
もう少し名残惜しんでくれても良いのに。さっきまで好き、とか可愛いことを言っていたのに。
「潔すぎる~~」
「ええ~、俺来たばっかりだよ~?」
俺たちからのブーイングにも顔色を変えず、少しだけ面倒くさそうに「はいはい」という。
「また明日ね、なと、わと」
さらりと頭をなで、少しだけ微笑んでから彼女は教室から出ていった。
〇
普通は逆でしょ、とか、もうちょっと話そうよ、って言えば良かったんだろうけど…。
「…あーあ、なんも言い返せなかったな」
わとくんがため息まじりに言う。
俺も同じくため息をつく。
「ずるいよね、普通男の頭なでる~?」
「ま~俺たちが可愛いからってのはわかるけど~」
「ね~」
わとくんの口から自分の思ってる言葉が出てくる。
2人で1人だから。全く同じ気持ち。
ゴソゴソと移動する準備をして、教室から出て数歩。
「そう言えば、むむちょこと2人きりでなんのお話してたの?」
「…わとくんとラッキー先輩が遅いね、って話!」
「そっか~、ま、今日はちょっと長引いちゃったしね」
「うんうん、」
〇〇
割り当てられたレッスン室に向かう途中、俺は嘘を吐いた。
本当はそんな話はしていない。
大切なわとくんにも、言いたくなかった。
ほんの小さな秘密だけど、2人の秘密っていうのが嬉しかったから。
もっと彼女の、俺だけが知ってることが増えたなら。わとくんも知らない、2人だけの秘密。
小さな、俺だけの秘密。
_
「ね、ボクたちがむむちょこのコト、好きって言ったらどっちを選ぶ?」
放課後、むむちょこと教室でふたりきり。
今日は月に1度のユニットリーダーの会議があって、俺はわとくん、むむちょこはラッキー先輩を待っていた。
唐突な質問にも関わらず、特に考えることもなく返事は返ってきた。
「変わった質問をするのね。貴方たち、いつも2人で1人って言ってるでしょう?どちらなんてあるのかしら」
「……うーん、確かにね」
痛いところを突かれた。
今まで散々言ってきたことがまさか仇になるなんて。
2人で1人。いつも俺たちが口にしていること。これは揺らぎようのない俺たちの意思だし、どちらが欠けるなんて考えられない。これからもそれは変わることはないだろうけど、つい、欲が出てしまった。
いつからだろう、自分の半身であるわとくんよりも親しくなりたい、そう考えるようになったのは。
もし、この質問への答えが、俺だったなら。
…わとくん、だったなら。
「おかしななと」
こっちがこんなに頭を悩ませているというのに、クスクスと面白そうに笑う。
彼女がこんな風に笑うところは、俺たちと、ラッキー先輩以外知らないと思う。それぐらい信頼されているということ。
それが嬉しくもあり、これ以上なく俺たちを苦しめている。
「そんなに面白い?」
「ええ」
やめてよ、とは言うけど、彼女に笑われる分には悪い気はしない。
頬杖をついて彼女が満足するまで見つめてみる。俺たちを見分けることは出来るくせに、ささやかな気持ちを乗せた視線には全く気づかないんだから、ほんとに嫌になる。
ひとしきり笑った後に、目線が合う。
なんだろう、と思ったのも束の間。
「でも、夢々は貴方たちのことは好きよ」
ふわりと笑って言う。
なんてずるい子なんだろう。平等というのは時に残酷だ。なんてどこかで聞いたことあるけど、まさにその通り。
彼女にとっては俺たち2人に違いなんてないんだろう。
「…でも2人セットで、でしょ」
自虐的な意味を込めて呟く。
端から期待していなかったと言えば嘘になる。と言っても、本当に極わずかだけど。
昔からそうだったじゃないか、俺たちは平等でいつも一緒だ。
「それもそうだけれど、全くそうとは言いきれないわね」
「え?」
「だから、個人でもよ。貴方達、似てはいるけど性格も仕草も全然違うじゃない。わとの明るい性格が、なとの穏やかな性格が、それぞれ好きなのよ。おわかり?」
性格、仕草?何を言っているんだろう。
確かにちょっと違うところはあるかもしれないけれど、全然違うということはないはずだ。
だって…
「2人で1人、で、あったとしてもよ。一緒にい過ぎて分からないのね。でも、夢々は知ってるわ」
「…なにを?」
「例えば、今日、なとの襟足、いつもよりおとなしいみたい、とか。右目がちょっと3重になりかけてる、とかね」
「なにそれっ!」
予想以上のマニアックな返答に動揺して声が大きくなってしまった。
対するむむちょこは、なぜかちょっと気恥ずかしそうにしている。
「…夢々は貴方達で毎日間違い探しをしているのよ。…もちろんとっても退屈な時間だけよ?」
「相当暇なんだね、むむちょこ」
「暇じゃないわ、退屈なの」
まさか、自分たちにそんなに関心を持っているとは思わなかった。間違い探しっていうのは、なかなか微妙ではあるけれど…。
彼女は続けて「わとには内緒よ」なんていう。
…少し、優越感。
不意に教室のドアが開く。
その先にはわとくんだけが立っていた。
「なとくん、むむちょこおまたせ~」
「おつかれ、わとくん」
お疲れ様のハグをする。むむちょこにもハグをしようとしていたけれど避けられていた。
それよりも彼女は自分の相方がいないことを気にしてる様だった。
「らきちゃんは?」
「3年生と話し込み中~。先に部屋行っててだってさ~」
自分たち2年生とは違って、3年生でも話し合うことがあるんだろう。むむちょこもそんな気はしていたという様子でため息をついた。
「そうなの。ありがとう、それじゃあ失礼しますわ」
そそくさと荷物をまとめて立ち去ろうとする。
もう少し名残惜しんでくれても良いのに。さっきまで好き、とか可愛いことを言っていたのに。
「潔すぎる~~」
「ええ~、俺来たばっかりだよ~?」
俺たちからのブーイングにも顔色を変えず、少しだけ面倒くさそうに「はいはい」という。
「また明日ね、なと、わと」
さらりと頭をなで、少しだけ微笑んでから彼女は教室から出ていった。
〇
普通は逆でしょ、とか、もうちょっと話そうよ、って言えば良かったんだろうけど…。
「…あーあ、なんも言い返せなかったな」
わとくんがため息まじりに言う。
俺も同じくため息をつく。
「ずるいよね、普通男の頭なでる~?」
「ま~俺たちが可愛いからってのはわかるけど~」
「ね~」
わとくんの口から自分の思ってる言葉が出てくる。
2人で1人だから。全く同じ気持ち。
ゴソゴソと移動する準備をして、教室から出て数歩。
「そう言えば、むむちょこと2人きりでなんのお話してたの?」
「…わとくんとラッキー先輩が遅いね、って話!」
「そっか~、ま、今日はちょっと長引いちゃったしね」
「うんうん、」
〇〇
割り当てられたレッスン室に向かう途中、俺は嘘を吐いた。
本当はそんな話はしていない。
大切なわとくんにも、言いたくなかった。
ほんの小さな秘密だけど、2人の秘密っていうのが嬉しかったから。
もっと彼女の、俺だけが知ってることが増えたなら。わとくんも知らない、2人だけの秘密。
小さな、俺だけの秘密。
_
1/1ページ