旬四季SSログ01
カレンダーが黒で日付を知らせる日。その時は、例え人々に人気の街であっても、太陽が高い内に赴いてしまえば衆を意識する必要も薄れる。こういう時は、時間を選ばない己の職種を少し有難く思う。ようやく店頭に並んだ目当てを手中に迎えた旬は、満足気に開けたばかりの店を後にした。
「何買ったんすかー?」
「返答がわかりきっているので答えたくないんですが……」
「何すかそれ! もしかしたらビックリギョーテンなリアクションが返ってくるかもしれないじゃないっすか!」
「……伝記です」
「え、本屋さんで電気……?」
「本当、こういう時ばかりは裏切りませんね……」
数秒前脳内で描いた通りの言動を見せた四季に溜め息を吐く。伝記、という言葉を正確に変換できない彼は、そんな旬を置いて不思議そうに首を捻っていた。
「でもその形は絶対に本っすよね……デンキ、って本があるんすか?」
「平たく言うと、インタビューや資料を元に、誰かがそれまでに行ったことや修めた実績をまとめた本です。記録みたいなものですね」
「うへぇ……何かスゲー難しそう……面白いんすか、それ」
「僕は面白いですよ。知らない世界を覗いているようで、結構良い刺激になるんです。四季くんも食わず嫌いはせず、一度くらい読んでみても良いのでは?」
「無理無理無理! 話だけで頭が割れそうっす!」
旬の言葉に対し、四季は勢い良く首を振る。まるで教科書を目の前に出された時のような強い拒絶反応。苦渋を隠さぬ青い顔は、穏やかな街並みに対しひどく浮いていた。それを細く笑うと、四季はぶすりとする。それすらも旬にはおかしかった。
「あっ! オレの人生をデンキにするってどうっすか⁉︎」
「四季くんの伝記ですか? 何を記録するっていうんです」
「そりゃもちろん、オレがHigh×Jokerと出会うまでっすよ! 感動のストーリーでメガヒットっす!」
「ずいぶん自信がありますね」
「だってサイコーの話っすから。涙なしには見れないっすよ〜」
そうして四季は、かつての記憶を綴り始める。当時の体育館に思いを飛ばし、滔々と。
正直投げやりな気分だったこと。斜に構えてぼんやりしていたのが今では申し訳ないこと。隼人がマイク越しに話し始めた瞬間、心に何かが掠めたこと。その直後、体育館ごと震えるような衝撃が走ったこと。それらは欠片、旬も体験した出来事。既に幾度聞いた話だが、相変わらず四季の言葉に擦り切れた気配はない。それは、あの瞬間が、今でも彼の中でとびきり輝いていることの証左だった。
「ね。ベストセラー、間違いないっしょ?」
真正面から、綻び。陶酔すら漂う、蕩けたその顔。その中で一際煌めく瞳は眩い。太陽すら飲み込むその輝きは、到底紙面には収まりきらないだろう。浮かんでは消える言葉たちを文字には起こさず、旬はお腹が空いたと呟いた。
「何買ったんすかー?」
「返答がわかりきっているので答えたくないんですが……」
「何すかそれ! もしかしたらビックリギョーテンなリアクションが返ってくるかもしれないじゃないっすか!」
「……伝記です」
「え、本屋さんで電気……?」
「本当、こういう時ばかりは裏切りませんね……」
数秒前脳内で描いた通りの言動を見せた四季に溜め息を吐く。伝記、という言葉を正確に変換できない彼は、そんな旬を置いて不思議そうに首を捻っていた。
「でもその形は絶対に本っすよね……デンキ、って本があるんすか?」
「平たく言うと、インタビューや資料を元に、誰かがそれまでに行ったことや修めた実績をまとめた本です。記録みたいなものですね」
「うへぇ……何かスゲー難しそう……面白いんすか、それ」
「僕は面白いですよ。知らない世界を覗いているようで、結構良い刺激になるんです。四季くんも食わず嫌いはせず、一度くらい読んでみても良いのでは?」
「無理無理無理! 話だけで頭が割れそうっす!」
旬の言葉に対し、四季は勢い良く首を振る。まるで教科書を目の前に出された時のような強い拒絶反応。苦渋を隠さぬ青い顔は、穏やかな街並みに対しひどく浮いていた。それを細く笑うと、四季はぶすりとする。それすらも旬にはおかしかった。
「あっ! オレの人生をデンキにするってどうっすか⁉︎」
「四季くんの伝記ですか? 何を記録するっていうんです」
「そりゃもちろん、オレがHigh×Jokerと出会うまでっすよ! 感動のストーリーでメガヒットっす!」
「ずいぶん自信がありますね」
「だってサイコーの話っすから。涙なしには見れないっすよ〜」
そうして四季は、かつての記憶を綴り始める。当時の体育館に思いを飛ばし、滔々と。
正直投げやりな気分だったこと。斜に構えてぼんやりしていたのが今では申し訳ないこと。隼人がマイク越しに話し始めた瞬間、心に何かが掠めたこと。その直後、体育館ごと震えるような衝撃が走ったこと。それらは欠片、旬も体験した出来事。既に幾度聞いた話だが、相変わらず四季の言葉に擦り切れた気配はない。それは、あの瞬間が、今でも彼の中でとびきり輝いていることの証左だった。
「ね。ベストセラー、間違いないっしょ?」
真正面から、綻び。陶酔すら漂う、蕩けたその顔。その中で一際煌めく瞳は眩い。太陽すら飲み込むその輝きは、到底紙面には収まりきらないだろう。浮かんでは消える言葉たちを文字には起こさず、旬はお腹が空いたと呟いた。