旬四季SSログ01
「二時頃になったら呼びに来るから。それまでにご飯食べておいてね」
「了解!」
「わかりました。プロデューサーさんも、きちんと食べてくださいね?」
「あはは……うん、ありがとう。旬」
扉前で去る準備を整えている背中に釘を刺すと、気まずそうな苦笑いが返ってくる。食べる、という言葉がないことに旬が眉を動かすも、それを見つける前にプロデューサーはぱたぱたとどこかへ行ってしまった。
「まったく……僕たちに言う前に、自分のこともきちんとしてほしいですね」
「まぁそれは俺も思うけど……ほら、ジュンも怒ってないで食べよう? 時間なくなっちゃうよ」
すっかり締め切られた扉を睨み付ける旬。小言に緩く同意を示しつつも、隼人は旬に食事を促す。レジ袋を漁り始めた彼に続いて、旬も片隅のバッグを開いた。
隼人は包装を破き、中から出したパンの頭に齧り付く。ふんわり香るパンの風味とジャムの甘味が口内に広がると、思わず頬が綻ぶ。久々にありつけた好物を深く堪能していたその時、ふと目の前のものが視界に入った。
「あれ、ジュン、弁当なんだ?」
「はい。昨晩の残りを詰めました」
「自炊始めたって本当だったんだ! ラジオで聴いた時びっくりしたよ!」
「そんな嘘つきませんよ。尤も、まだ胸を張れる出来ではありませんが」
「えー、でも見た目は美味しそうだよ。何かジュンって感じ!」
「何ですか、それ」
テーブルの上にあるのは、学生時代によく見た包みと弁当箱。しかし中身は旬のお手製。よもやその中に旬の手料理が詰められている様を見る日が来るとは、当時の隼人は夢にも思っていなかった。家を出ると人は変わるな、と胸中でごちる。
「すっごい美味しそう。一口もらってもいい? 俺のパンもあげるから」
「パンは遠慮します。どれにしますか?」
「んー……じゃあ卵焼きで!」
弁当箱を一通り眺めて、素手でも食べられそうなものを指名する。すると旬はホイルカップごと隼人の前に差し出した。
ぱっと見は綺麗なようで、しかしところどころ破けた卵焼き。仕事で料理に触れることはあれど、本格的に自炊をするようになったのは大体四ヶ月前という本人の言を思い出して、微笑ましさが込み上げた。少し不恰好だけど、綺麗な狐色を纏ったそれは、世辞でもなく本当に美味しそう。果たしてどんな味なのかと胸を躍らせながらそれを口に含んだ。
しかしその瞬間、胸に芽吹いていた朗らかは一瞬にして弾け飛んだ。
「かっ……らぁ! えっ⁉︎ ひっ、ちょ……辛っ!」
「ハヤト⁉︎ 大丈夫ですか、ハヤト!」
卵焼き。砂糖で甘かったり、醤油でしょっぱかったり。人によってはネギやハムを混ぜ込んだり。好みが明瞭化しやすい品ではあるが、今隼人を襲ったのは完全な想定外だった。
辛い。とてつもなく、辛いのである。
「卵焼きって、こんなに辛くなるものだっけ……?」
「えっと……まぁ、辛めに作っているので……」
水を差し出しながら旬は答えるが、しかしそれでは納得できないほどの刺激だ。最早痛いと形容するのが適切なほどの爆弾である。しかし同じものを食した旬は、これを平然とした顔で食べていた。以前の彼なら飛び上がっていたはずのものだというのに。
「……熱いなぁ……」
「そんなに辛かったですか……? すみません、まさかそこまでだとは……」
小さなぼやきに旬が眉を落とす。確かにとんだ刺激物ではあるが、今隼人を火照らせているのは別のもの。しかし隼人の言葉の真意を汲めなかった旬は、不思議そうに首を傾げていた。
「了解!」
「わかりました。プロデューサーさんも、きちんと食べてくださいね?」
「あはは……うん、ありがとう。旬」
扉前で去る準備を整えている背中に釘を刺すと、気まずそうな苦笑いが返ってくる。食べる、という言葉がないことに旬が眉を動かすも、それを見つける前にプロデューサーはぱたぱたとどこかへ行ってしまった。
「まったく……僕たちに言う前に、自分のこともきちんとしてほしいですね」
「まぁそれは俺も思うけど……ほら、ジュンも怒ってないで食べよう? 時間なくなっちゃうよ」
すっかり締め切られた扉を睨み付ける旬。小言に緩く同意を示しつつも、隼人は旬に食事を促す。レジ袋を漁り始めた彼に続いて、旬も片隅のバッグを開いた。
隼人は包装を破き、中から出したパンの頭に齧り付く。ふんわり香るパンの風味とジャムの甘味が口内に広がると、思わず頬が綻ぶ。久々にありつけた好物を深く堪能していたその時、ふと目の前のものが視界に入った。
「あれ、ジュン、弁当なんだ?」
「はい。昨晩の残りを詰めました」
「自炊始めたって本当だったんだ! ラジオで聴いた時びっくりしたよ!」
「そんな嘘つきませんよ。尤も、まだ胸を張れる出来ではありませんが」
「えー、でも見た目は美味しそうだよ。何かジュンって感じ!」
「何ですか、それ」
テーブルの上にあるのは、学生時代によく見た包みと弁当箱。しかし中身は旬のお手製。よもやその中に旬の手料理が詰められている様を見る日が来るとは、当時の隼人は夢にも思っていなかった。家を出ると人は変わるな、と胸中でごちる。
「すっごい美味しそう。一口もらってもいい? 俺のパンもあげるから」
「パンは遠慮します。どれにしますか?」
「んー……じゃあ卵焼きで!」
弁当箱を一通り眺めて、素手でも食べられそうなものを指名する。すると旬はホイルカップごと隼人の前に差し出した。
ぱっと見は綺麗なようで、しかしところどころ破けた卵焼き。仕事で料理に触れることはあれど、本格的に自炊をするようになったのは大体四ヶ月前という本人の言を思い出して、微笑ましさが込み上げた。少し不恰好だけど、綺麗な狐色を纏ったそれは、世辞でもなく本当に美味しそう。果たしてどんな味なのかと胸を躍らせながらそれを口に含んだ。
しかしその瞬間、胸に芽吹いていた朗らかは一瞬にして弾け飛んだ。
「かっ……らぁ! えっ⁉︎ ひっ、ちょ……辛っ!」
「ハヤト⁉︎ 大丈夫ですか、ハヤト!」
卵焼き。砂糖で甘かったり、醤油でしょっぱかったり。人によってはネギやハムを混ぜ込んだり。好みが明瞭化しやすい品ではあるが、今隼人を襲ったのは完全な想定外だった。
辛い。とてつもなく、辛いのである。
「卵焼きって、こんなに辛くなるものだっけ……?」
「えっと……まぁ、辛めに作っているので……」
水を差し出しながら旬は答えるが、しかしそれでは納得できないほどの刺激だ。最早痛いと形容するのが適切なほどの爆弾である。しかし同じものを食した旬は、これを平然とした顔で食べていた。以前の彼なら飛び上がっていたはずのものだというのに。
「……熱いなぁ……」
「そんなに辛かったですか……? すみません、まさかそこまでだとは……」
小さなぼやきに旬が眉を落とす。確かにとんだ刺激物ではあるが、今隼人を火照らせているのは別のもの。しかし隼人の言葉の真意を汲めなかった旬は、不思議そうに首を傾げていた。