旬四季SSログ01
今夜も嫌な空気が全身を突き刺す。山梨に比べれば寒暖差のショックは少ないが、だからといってこの体が冷えを疎む事実は変わらない。冷え症に効果的な食べ物を摂取したり、入浴の仕方も意識してみたり。見聞きしたものはなるべく取り入れてはいるのだが、そもそも「寒いのが嫌い」という絶対的事実のせいか、どうにもうまくいかない。今夜もまたよく冷えた布団の中で縮こまる羽目になるのか、と旬はすぐ先の憂鬱に溜息した。
ドアノブに手をかける。こいつも握ると冷たいから、袖を無理やり引き伸ばし手の平を守らせる。行儀だとか服の傷みなどは気にしていられない。もうこれ以上冷気に振り回されるのは勘弁だった。よく肥えた生地越しでもうっすら漂うひんやり感。それに思わず舌を打ちそうだった。
「あ、ジュンっち。いいところに!」
「……人の部屋で何をしてるんです?」
「待って待って。別にお宝探しとかしてないから。今のオレは善意のヒーローっすよ」
「善意のヒーロー……?」
扉を開けばそこは日常。しかし僅かのノイズも混じっていた。それは洋々と旬のベッドを整えている。問うても、新たな疑問を刻まれるだけだった。
「電気毛布を持ってきたんす。今つけたところだからもうちょっと待つっすよ〜」
「電気毛布? 何でまた」
「この寒さはジュンっちにキツいっしょ? オレのお下がりだけど、すっげーあったまるのはガチなんで!」
四季は得意満面に掛け布団をぱしぱしと叩く。せっかく整えたのに自分で崩すなんて、と旬は思ったが、あえてその言葉は控えた。
「というわけでヒーローはここで撤退させてもらうっす! じゃあねジュンっち、よい夢を!」
代わりに別の言葉をと口を開いた、しかし同時に四季はからりと笑ってみせる。ベッドに添えていた体はとっくに離れ、彼の手は既にドアノブに。そのあっさりした態度は、旬の頭を急激に沸騰させた。
「んっ、ぅえっ?」
気が付くと、四季の右手を掴んでいた。後ろに引かれた四季は簡単によろけ、旬のすぐ前で体勢を崩している。振り向いた顔は豆鉄砲を食らったそれだった。
「あ、もしかしてスイッチの使い方わからない? あれっすよ、毛布とつながってるやつを……」
「……が、……ればいいだろ」
「え?」
「君がいればいいだろ」
なんて的外れ。素っ頓狂な説明をする四季へさらに苛立ちが加速した。その勢いに任せて言葉を投げつけると、彼の目はますます丸くなる。
「電気毛布なんて寝る時切るでしょう。その後の寒さはどうすればいいんですか」
「いや、それまでには寝てるんじゃないっすか……?」
「寝れません。空気の冷たさで目が覚めます」
「え、よっわ」
「は?」
「すみません何でもないっす」
旬の絶対零度の声を受けた四季は即座に謝辞を示す。たまにどうかと思うでもないが、今夜はそれが都合にいい。旬は少しまごつく口を動かした。
「君がいるなら、一晩くらいは我慢してあげますよ」
「寝相悪くても?」
「今夜はよくしてください」
「それができたら最初からオレが添い寝してたんす!」
「おや、そうでしたか。でも寝相は抑えてくださいね」
掴んだ手を握りながら、旬はベッドまで歩んでいく。後ろでは四季が「無茶言わないでほしいっすー!」と喧しく喚いていた。その声は、今夜が寝心地のいい夜になりそうな色を持っている。旬はそっと、電気毛布のスイッチを切った。
ドアノブに手をかける。こいつも握ると冷たいから、袖を無理やり引き伸ばし手の平を守らせる。行儀だとか服の傷みなどは気にしていられない。もうこれ以上冷気に振り回されるのは勘弁だった。よく肥えた生地越しでもうっすら漂うひんやり感。それに思わず舌を打ちそうだった。
「あ、ジュンっち。いいところに!」
「……人の部屋で何をしてるんです?」
「待って待って。別にお宝探しとかしてないから。今のオレは善意のヒーローっすよ」
「善意のヒーロー……?」
扉を開けばそこは日常。しかし僅かのノイズも混じっていた。それは洋々と旬のベッドを整えている。問うても、新たな疑問を刻まれるだけだった。
「電気毛布を持ってきたんす。今つけたところだからもうちょっと待つっすよ〜」
「電気毛布? 何でまた」
「この寒さはジュンっちにキツいっしょ? オレのお下がりだけど、すっげーあったまるのはガチなんで!」
四季は得意満面に掛け布団をぱしぱしと叩く。せっかく整えたのに自分で崩すなんて、と旬は思ったが、あえてその言葉は控えた。
「というわけでヒーローはここで撤退させてもらうっす! じゃあねジュンっち、よい夢を!」
代わりに別の言葉をと口を開いた、しかし同時に四季はからりと笑ってみせる。ベッドに添えていた体はとっくに離れ、彼の手は既にドアノブに。そのあっさりした態度は、旬の頭を急激に沸騰させた。
「んっ、ぅえっ?」
気が付くと、四季の右手を掴んでいた。後ろに引かれた四季は簡単によろけ、旬のすぐ前で体勢を崩している。振り向いた顔は豆鉄砲を食らったそれだった。
「あ、もしかしてスイッチの使い方わからない? あれっすよ、毛布とつながってるやつを……」
「……が、……ればいいだろ」
「え?」
「君がいればいいだろ」
なんて的外れ。素っ頓狂な説明をする四季へさらに苛立ちが加速した。その勢いに任せて言葉を投げつけると、彼の目はますます丸くなる。
「電気毛布なんて寝る時切るでしょう。その後の寒さはどうすればいいんですか」
「いや、それまでには寝てるんじゃないっすか……?」
「寝れません。空気の冷たさで目が覚めます」
「え、よっわ」
「は?」
「すみません何でもないっす」
旬の絶対零度の声を受けた四季は即座に謝辞を示す。たまにどうかと思うでもないが、今夜はそれが都合にいい。旬は少しまごつく口を動かした。
「君がいるなら、一晩くらいは我慢してあげますよ」
「寝相悪くても?」
「今夜はよくしてください」
「それができたら最初からオレが添い寝してたんす!」
「おや、そうでしたか。でも寝相は抑えてくださいね」
掴んだ手を握りながら、旬はベッドまで歩んでいく。後ろでは四季が「無茶言わないでほしいっすー!」と喧しく喚いていた。その声は、今夜が寝心地のいい夜になりそうな色を持っている。旬はそっと、電気毛布のスイッチを切った。