旬四季SSログ01
均一にメイキングされた布団。一枚噛ませた電気毛布も相まって、眠りにつくには最高の環境が構築されていた。
深く色付く葉たちが景色を彩るこの季節。夜の冷たさは、段々と肌に対して鋭利な毒へと変容しだす。そんな日は暖かな布団に包まれることがささやかな幸福であるが、そんなふかふかな温もりにも口説き落とせぬ者はいる。それが今夜の四季だった。
「明日は午前から打ち合わせでしょう。寝不足だと何も打ち合えませんよ」
「うぅ〜……でもすごくもったいない気がして眠れないっす……」
「何がもったいないんですか。むしろ今この瞬間がもったいないと思いますよ」
「だってジュンっちがいるのに……ねぇ、やっぱりもうちょっとだけ」
「ダメです。わがまま言わないで早く寝なさい」
寒がりな誰かによって早々に召喚された冬用の掛け布団が四季の体を埋めていく。予算の範囲ぎりぎりまで品質にこだわったそれは、なるほど確かに心地が良い。ほのかに熱を含んだ柔らかが、寝間着越しにしっとりと圧をかけてくる感覚はなかなかに気持ちの良いものだった。しかしそんな布団の優しさは駄々っ子に通用しない。もったいない。その一心故か、ちっとも訪れそうにない睡魔がむしろ素直なように思えた。
まだ夜を続けたい四季は食い下がる。こんなに穏やかな夜は、旬と屋根を共にしてから初めて経験するのだ。二度と得られない初物を、こんな形で不意にするのは四季にとって不本意。さりとて旬も引く気はない。布団越しに腹部を叩くその手からは、早く寝ろという彼の言が聞こえるようだ。
「……なら、おやすみのちゅーをしてほしいっす」
「おやすみの?」
「してくれたら大人しく寝るっすから。それだけお願い……」
旬の言い分はよくわかる。休息が不十分な状態で仕事をすることが如何に非効率であるか。そしてそれが生むかもしれない不利益への危惧。それによって誰にどんな迷惑をかけるのか。先々のことを考える周到さと、リスクを厭う慎重さ。そこから生まれた小言が正論であることも、四季はよく理解していた。とはいえ、正論で心を捩じ伏せる利口さなんて持ち合わせていない。なればこそ、それは旬にしてほしい。そんな甘えが四季の口を突いた。
それを受けた旬は一考するように顎を撫でる。しかし四季には確信があった。きっと十秒も経てば答えが出ること。そしてそれが音もなく訪れることも。四季は瞼を下ろして心の中でカウントを重ねる。一、二、三──そして十。上質な布団に負けぬほど期待に膨らんだ胸は、たった一秒ではち切れた。
「……それではせいぜい、良い夢を見てくださいね?」
鼻先で含みを持った声に囁かれる。低く響いたその声には、明らかに他意が含まれていた。それはまるで、負けず嫌いが仕返しをした時のような得意気。惚け顔を浮かべる四季の上で細やかな笑みを零した旬は、「おやすみなさい」の言葉と共に部屋から退出した。
「……いや、誰もエロいキスをしろなんて言ってないんすけど!?」
飛び起きた四季が叫ぶも、反して扉は物を言わない。無機質なそれは、残った感触を鮮明に際立たせる。
つまみ食われた下唇を噛みながら、四季は懊悩とした夜へ身を投げた。
深く色付く葉たちが景色を彩るこの季節。夜の冷たさは、段々と肌に対して鋭利な毒へと変容しだす。そんな日は暖かな布団に包まれることがささやかな幸福であるが、そんなふかふかな温もりにも口説き落とせぬ者はいる。それが今夜の四季だった。
「明日は午前から打ち合わせでしょう。寝不足だと何も打ち合えませんよ」
「うぅ〜……でもすごくもったいない気がして眠れないっす……」
「何がもったいないんですか。むしろ今この瞬間がもったいないと思いますよ」
「だってジュンっちがいるのに……ねぇ、やっぱりもうちょっとだけ」
「ダメです。わがまま言わないで早く寝なさい」
寒がりな誰かによって早々に召喚された冬用の掛け布団が四季の体を埋めていく。予算の範囲ぎりぎりまで品質にこだわったそれは、なるほど確かに心地が良い。ほのかに熱を含んだ柔らかが、寝間着越しにしっとりと圧をかけてくる感覚はなかなかに気持ちの良いものだった。しかしそんな布団の優しさは駄々っ子に通用しない。もったいない。その一心故か、ちっとも訪れそうにない睡魔がむしろ素直なように思えた。
まだ夜を続けたい四季は食い下がる。こんなに穏やかな夜は、旬と屋根を共にしてから初めて経験するのだ。二度と得られない初物を、こんな形で不意にするのは四季にとって不本意。さりとて旬も引く気はない。布団越しに腹部を叩くその手からは、早く寝ろという彼の言が聞こえるようだ。
「……なら、おやすみのちゅーをしてほしいっす」
「おやすみの?」
「してくれたら大人しく寝るっすから。それだけお願い……」
旬の言い分はよくわかる。休息が不十分な状態で仕事をすることが如何に非効率であるか。そしてそれが生むかもしれない不利益への危惧。それによって誰にどんな迷惑をかけるのか。先々のことを考える周到さと、リスクを厭う慎重さ。そこから生まれた小言が正論であることも、四季はよく理解していた。とはいえ、正論で心を捩じ伏せる利口さなんて持ち合わせていない。なればこそ、それは旬にしてほしい。そんな甘えが四季の口を突いた。
それを受けた旬は一考するように顎を撫でる。しかし四季には確信があった。きっと十秒も経てば答えが出ること。そしてそれが音もなく訪れることも。四季は瞼を下ろして心の中でカウントを重ねる。一、二、三──そして十。上質な布団に負けぬほど期待に膨らんだ胸は、たった一秒ではち切れた。
「……それではせいぜい、良い夢を見てくださいね?」
鼻先で含みを持った声に囁かれる。低く響いたその声には、明らかに他意が含まれていた。それはまるで、負けず嫌いが仕返しをした時のような得意気。惚け顔を浮かべる四季の上で細やかな笑みを零した旬は、「おやすみなさい」の言葉と共に部屋から退出した。
「……いや、誰もエロいキスをしろなんて言ってないんすけど!?」
飛び起きた四季が叫ぶも、反して扉は物を言わない。無機質なそれは、残った感触を鮮明に際立たせる。
つまみ食われた下唇を噛みながら、四季は懊悩とした夜へ身を投げた。