旬四季SSログ01
「妬けますね」
他愛ない会話の応酬に空白の呼吸が生まれて静まった部屋に、僕の言葉は大層良く広がっていく。五文字の冷や水を見舞われた四季くんは、含んだばかりの炭酸飲料を味わうことなく飲み干して、ぱちくり、ぱちくり瞬いた。
「なーに? そんなに気に入らないんすか、ハヤトっちが? 先月みんなでお仕事したでしょー?」
「ええそうですね、気に入りません。僕はここから二ヶ月君と会えないのに、ハヤトは君と冠番組が決定なんて」
「ま、うちでMCってなったらオレたちが選ばれるのも必然っていうか? 今度からふたりで一緒にバリバリトークしまくるっすよ〜」
「ほう。ずいぶん自信があるようで」
「口には自信あるっすよ! この数年でハイパー鍛えられたっす!」
にやけ面の四季くんが肘で僕を小突く。無遠慮なそれは脇腹を滑るように……というには少し圧が強い力加減で、うりうり〜なんて嘯いた。口は達者になったところで、人間数年ぽっちでそうそう根底は変わらない。相変わらず僕の怒らせ方はとても上手だ。変わったとするなら……それがわざとである、というところか。
「打ち合わせも順調なんすよー。偉い人がオレのキャラをサイコー! ってスゲー気に入ってくれてて。それでオレにオファーが来たらしいっす」
「ハヤトは?」
「それこそライブのMCが決め手みたいっす。ほら、ハヤトっちってオレらの手綱握るのうまいじゃん?」
「ああ……君の飼い主役ですか。それなら僕の方が適任だと思いますけどね」
「きゃー、オレジュンっちに飼われちゃうっすかー? 何かエローい」
四季くんはからからと笑いながら僕へ擦り寄る。あざとい仕草は、まるで飼い主のご機嫌取りでもするかのよう。その首に誰かの輪なんて、かけられるつもりもないくせに。それでもまっさらな首に手を重ねてやると、自ら肌を埋めてくるのが憎らしい。挑発する目つきだって、それこそ彼が形容したように。
「ジュンっち、めんどくさいのは変わんないっすね」
「冗談でしょう? こんなにもあけすけに心を曝け出しているのに」
「まっさかぁ。ジュンっちが嫉妬して、素直に妬きますなんて言えるような人じゃないって、もうとっくにバレてるけど?」
顎を預けて、好きに擽らせる四季くん。一見主導権は僕にあるようなのに、それでも僕はイニシアチブを取ったなんて思えない。彼を見下ろす僕を見上げるその瞳は、僕を通り過ぎて、更に深くを見ているようだ。
「何がそんなに羨ましいの?」
そして、貫く。よく通る声が凛と響いて、鼓膜から脳髄まで浸透していった。
あぁ、だから、僕は、君のことが、こんなにも。
「……よく動く口が恨めしいってだけですよ」
僕にはまだまだ難しいことを軽やかにやってのけるところ。誰よりも心に訴えかける力を持ったその声も、知りませんって顔をしながら僕の奥底を見抜く目も。全部全部、腹が立つ。
三日月を刻んだ唇に噛み付いたって、それを手にできないってわかっているのに。器用に誘う君の全てが羨ましい……なんて、そんなことは口が裂けたって言ってやらない。
他愛ない会話の応酬に空白の呼吸が生まれて静まった部屋に、僕の言葉は大層良く広がっていく。五文字の冷や水を見舞われた四季くんは、含んだばかりの炭酸飲料を味わうことなく飲み干して、ぱちくり、ぱちくり瞬いた。
「なーに? そんなに気に入らないんすか、ハヤトっちが? 先月みんなでお仕事したでしょー?」
「ええそうですね、気に入りません。僕はここから二ヶ月君と会えないのに、ハヤトは君と冠番組が決定なんて」
「ま、うちでMCってなったらオレたちが選ばれるのも必然っていうか? 今度からふたりで一緒にバリバリトークしまくるっすよ〜」
「ほう。ずいぶん自信があるようで」
「口には自信あるっすよ! この数年でハイパー鍛えられたっす!」
にやけ面の四季くんが肘で僕を小突く。無遠慮なそれは脇腹を滑るように……というには少し圧が強い力加減で、うりうり〜なんて嘯いた。口は達者になったところで、人間数年ぽっちでそうそう根底は変わらない。相変わらず僕の怒らせ方はとても上手だ。変わったとするなら……それがわざとである、というところか。
「打ち合わせも順調なんすよー。偉い人がオレのキャラをサイコー! ってスゲー気に入ってくれてて。それでオレにオファーが来たらしいっす」
「ハヤトは?」
「それこそライブのMCが決め手みたいっす。ほら、ハヤトっちってオレらの手綱握るのうまいじゃん?」
「ああ……君の飼い主役ですか。それなら僕の方が適任だと思いますけどね」
「きゃー、オレジュンっちに飼われちゃうっすかー? 何かエローい」
四季くんはからからと笑いながら僕へ擦り寄る。あざとい仕草は、まるで飼い主のご機嫌取りでもするかのよう。その首に誰かの輪なんて、かけられるつもりもないくせに。それでもまっさらな首に手を重ねてやると、自ら肌を埋めてくるのが憎らしい。挑発する目つきだって、それこそ彼が形容したように。
「ジュンっち、めんどくさいのは変わんないっすね」
「冗談でしょう? こんなにもあけすけに心を曝け出しているのに」
「まっさかぁ。ジュンっちが嫉妬して、素直に妬きますなんて言えるような人じゃないって、もうとっくにバレてるけど?」
顎を預けて、好きに擽らせる四季くん。一見主導権は僕にあるようなのに、それでも僕はイニシアチブを取ったなんて思えない。彼を見下ろす僕を見上げるその瞳は、僕を通り過ぎて、更に深くを見ているようだ。
「何がそんなに羨ましいの?」
そして、貫く。よく通る声が凛と響いて、鼓膜から脳髄まで浸透していった。
あぁ、だから、僕は、君のことが、こんなにも。
「……よく動く口が恨めしいってだけですよ」
僕にはまだまだ難しいことを軽やかにやってのけるところ。誰よりも心に訴えかける力を持ったその声も、知りませんって顔をしながら僕の奥底を見抜く目も。全部全部、腹が立つ。
三日月を刻んだ唇に噛み付いたって、それを手にできないってわかっているのに。器用に誘う君の全てが羨ましい……なんて、そんなことは口が裂けたって言ってやらない。