花冷え
自然と瞼が持ち上がる。ほんの少しの惚け時間。メメは静かに体を起こした。既に慣れ切った鼻には届かぬ椿の香りが、彼女の足跡を空につける。朝だ。モーニングには少し早い。さて、時間まで何をしていようか。そんな事を考えながらスカートへ脚を入れた。
ふと何かが脳裏を掠める。ベッドから抜け出して着替えるまで、こんなに早かっただろうか。メイクされたままの綺麗な、誰も使っていない片方のベッド。そこに視線を投げやれば、呑気な寝息を立てる少年が横たわっている。何となく、池の向こうの小屋に住む少年と風貌が似ている気がした。なぜこんな映像が過ぎるのだろう。彼とは言葉どころか、きちんと顔を見たこともないのに。一人部屋で人恋しいのだろうか。ドアを潜ればいろんな子供達と談笑し合えるというのに。ここに来てから慣れか欲が出たのだろうか。ひとりが当たり前の日々だったというのに。それとも不憫に思ったのだろうか。隔離されるほどの病を患って、このアヴリルでも人と関わりのないあの少年を。自分はこんなに親切な人間だっただろうか。メメは不思議な気分だった。
なぜこうも鮮明に浮かぶのだろう。そこにいるのが当たり前で、それを自分は受け入れて。すやすや眠る少年の顔を見て、楽しい気分になってみたり。なぜこんなものが浮かぶのか。まったく心当たりのないそれは気味が悪いはずなのに、やけに心地が良かった。そんな奇妙な光景をぼうっと見ていると、窓の外からぱたぱた屋根を小気味に叩く音が鳴る。雨が降ったようだ。
『てるてる坊主とか作ってみる〜?』
聞いたこともない、間延びした声が聞こえる。振り返ったが誰もいない。当然だ、ここはメメの一人部屋。誰かがここにいるはずなどない。それなのに、この感覚は何だろう。自分の中身が抜けたような物足りない感覚。ぐう、と腹の虫が鳴いた。
「……朝、だもんな」
気が付けば七時を越えている。もうダイニングも開いている。メメは腹を埋めるため、ひとりドアの向こうへ向かった。
ふと何かが脳裏を掠める。ベッドから抜け出して着替えるまで、こんなに早かっただろうか。メイクされたままの綺麗な、誰も使っていない片方のベッド。そこに視線を投げやれば、呑気な寝息を立てる少年が横たわっている。何となく、池の向こうの小屋に住む少年と風貌が似ている気がした。なぜこんな映像が過ぎるのだろう。彼とは言葉どころか、きちんと顔を見たこともないのに。一人部屋で人恋しいのだろうか。ドアを潜ればいろんな子供達と談笑し合えるというのに。ここに来てから慣れか欲が出たのだろうか。ひとりが当たり前の日々だったというのに。それとも不憫に思ったのだろうか。隔離されるほどの病を患って、このアヴリルでも人と関わりのないあの少年を。自分はこんなに親切な人間だっただろうか。メメは不思議な気分だった。
なぜこうも鮮明に浮かぶのだろう。そこにいるのが当たり前で、それを自分は受け入れて。すやすや眠る少年の顔を見て、楽しい気分になってみたり。なぜこんなものが浮かぶのか。まったく心当たりのないそれは気味が悪いはずなのに、やけに心地が良かった。そんな奇妙な光景をぼうっと見ていると、窓の外からぱたぱた屋根を小気味に叩く音が鳴る。雨が降ったようだ。
『てるてる坊主とか作ってみる〜?』
聞いたこともない、間延びした声が聞こえる。振り返ったが誰もいない。当然だ、ここはメメの一人部屋。誰かがここにいるはずなどない。それなのに、この感覚は何だろう。自分の中身が抜けたような物足りない感覚。ぐう、と腹の虫が鳴いた。
「……朝、だもんな」
気が付けば七時を越えている。もうダイニングも開いている。メメは腹を埋めるため、ひとりドアの向こうへ向かった。
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