がラなら

 ソファーに座らせてからキッチンへ。グラスに注ぐだけの簡単な工程を取ってから、綺鶴は玲が鎮座するリビングへ戻った。
「ここ置いとくねー」
「ありがとう」
 よく冷えた液体は簡単に汗を流す。指先に溜まった水が、テーブルに小さな水溜まりを作った。
「……? 綺鶴ちゃん?」
 拍子の抜けた声が名を呼んだ。目線だけ上げれば、不思議そうな瞳と出会う。単に自分が座るスペースを開けているだけだというのに、どうして彼はそんな顔をしているのだろうか。綺鶴はそんなことを考えた。
「何してるんだ?」
「座るところないじゃない?」
「……ここがいいの?」
「うん」
 掴んだ両膝を更に外側へ押しやる。綺鶴は、やっとひと一人分の空間ができた玲の脚の間にぽすんと腰を下ろした。背中に触れる硬い胴体の感触が、気分を綻ばせた。
「あれ、玲くん?」
「……なに?」
「仕上げのおてては?」
 右手を彼の腕に添わせ、左手で自分の腹部を軽く叩く。綺鶴はにこりと微笑んだ。
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