がラなら
軽いふわ心地が頬に触れる。擽ったさに瞼を動かせば、真一文字に差し込む光が眼球を刺激した。人口灯は寝起きに浴びるには刺激が強い。手の平でソファーを沈めながら体を起こせば、二時間前と風合いの変わらぬリビングが佇んでいた。
「うわ、寝すぎた……」
仮眠のつもりだったのに、と綺鶴は胸中でごちる。狂った予定に眉を顰めつつ時計を見れば、蛍光グリーンが二時四〇分と教えた。お腹が空いた。
「……面倒、だなぁ……」
かといって、無視をさせまいと言わんばかりに腹部は空っぽなことを感覚で訴えてくる。いっそまた寝てしまおうか。締切まで猶予がないわけでもないのだし、何もいま体に鞭を打ってまで進める必要もないのでは。寝惚けた脳は、そんな怠惰な甘えばかりを打ち出してくる。しかし綺鶴の中には、早く三稿を羽柴へ渡したい気持ちもある。そういえば、明日の昼には上げたくて仮眠を取ったのだと思い出した。綺鶴は半端に被った毛布を剥ぐ。深夜特有のひんやりとしたもの寂しい空気が、毛布に温く包まれていた部分を掠める。そういえば、最近もこんな気持ちになったと彼女はふと思い出した。
あれが何だったのかは、よく分からない。夢心地な気もするが、しかし確かに現実であったと、はっきり確信があった。昼寝に見る夢のような足元覚束ぬ不思議な話だが、そもそも今の綺鶴には幼馴染の恋人がいる方がよっぽど非現実的な事実なのだ。それに比べたら、あのようなことは『まぁ有ること』と飲み込みやすい。
感触なんて、触れて離れてしまえばすぐに消える。脆く刹那的なはずのそれが、まだ手首に残っているような気がするのはなぜなのか。まるでヒビの入った骨が痛み続けるように、暖かい人肌の記憶が皮膚にある。
幻聴が聴こえた。困ってしまうくらい優しくて、思わず寄りかかりたくなる甘い低音が名を撫でる。羞恥が爪の先まで震わせた。だってそんなの、威厳がない。しょうもない強がりが、寝過ごし中のPCへ手を伸ばさせた。
「うわ、寝すぎた……」
仮眠のつもりだったのに、と綺鶴は胸中でごちる。狂った予定に眉を顰めつつ時計を見れば、蛍光グリーンが二時四〇分と教えた。お腹が空いた。
「……面倒、だなぁ……」
かといって、無視をさせまいと言わんばかりに腹部は空っぽなことを感覚で訴えてくる。いっそまた寝てしまおうか。締切まで猶予がないわけでもないのだし、何もいま体に鞭を打ってまで進める必要もないのでは。寝惚けた脳は、そんな怠惰な甘えばかりを打ち出してくる。しかし綺鶴の中には、早く三稿を羽柴へ渡したい気持ちもある。そういえば、明日の昼には上げたくて仮眠を取ったのだと思い出した。綺鶴は半端に被った毛布を剥ぐ。深夜特有のひんやりとしたもの寂しい空気が、毛布に温く包まれていた部分を掠める。そういえば、最近もこんな気持ちになったと彼女はふと思い出した。
あれが何だったのかは、よく分からない。夢心地な気もするが、しかし確かに現実であったと、はっきり確信があった。昼寝に見る夢のような足元覚束ぬ不思議な話だが、そもそも今の綺鶴には幼馴染の恋人がいる方がよっぽど非現実的な事実なのだ。それに比べたら、あのようなことは『まぁ有ること』と飲み込みやすい。
感触なんて、触れて離れてしまえばすぐに消える。脆く刹那的なはずのそれが、まだ手首に残っているような気がするのはなぜなのか。まるでヒビの入った骨が痛み続けるように、暖かい人肌の記憶が皮膚にある。
幻聴が聴こえた。困ってしまうくらい優しくて、思わず寄りかかりたくなる甘い低音が名を撫でる。羞恥が爪の先まで震わせた。だってそんなの、威厳がない。しょうもない強がりが、寝過ごし中のPCへ手を伸ばさせた。
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