みすレイSS(全年齢)
夜。月と星だけが揺蕩う時間に、レイモンドは目を開ける。この時頃は肌に馴染む。何となく、夜こそが自分の時間であるような気がするのだ。しかし今この時は、親しんだ友に迎えられるような穏やかさより、うっすらとした嫌悪感を感じている。夢見が悪かったのだ。
元よりレイモンドは眠るのが上手い方ではない。眠れはしても、あの床下での記憶が彼の心臓を刺激する。眠りとは暗くて狭い、意識があらぬ所へ放り出される孤独な行為だ。暗く狭い場所はあの密室を想起させる。瞼の中で、幼い自分が泣き出すのだ。しかし今この帳に住むのはかつての自分ではない。別の、少年だ。
「れ、いさん……?」
少し上からうすらぼけた声が落ちる。腕の中で動くレイモンドにつられたのか、三角が起きたらしい。重くて上手く上がらない瞼を擦り、レイモンドを見ていた。
「すまない。起こしてしまったね」
「いえ、気にしないでください……あの、何かありました?」
三角は聡い。レイモンドが何を言わずとも、少なくとも現在があまり良い気分でないことくらいはすぐに理解する。たまに、少し困る視線だった。
「やはり拭えないんだよ。ケンタくんのことが」
「……あなたは、彼の願いを叶えたんですよ」
「やっぱりキミはワタシに甘すぎるよ。そう言ってくれる気持ちはありがたいけれど……こればかりは、ワタシの見方だね」
きっとレイモンドはこれからも、人を殺したという自意識を抱えるのだろう。どれだけ三角が慰め温もりをくれようと、握ったドライバーの感触が忘れられない。チョーカーとぶつかる金属音のよくこびりつくこと。もしかしたら、血のぬめりよりも堪えたかもしれない。
「俺はずっと隣にいます」
「……うん」
「もう三角なんて嫌いって言われても、離れてなんてあげませんからね」
「はは、キミは執念深いねえ」
「そのおかげであなたとこうできるなら得しました」
ふやけた笑みを作った三角は、レイモンドの首とシーツの隙間に手を滑り込ませ彼を抱き寄せる。後頭部に添えられた手の平が大きい。小柄なレイモンドは簡単に収まってしまった。
まっさらな手が髪を撫でる。すとん、すとんと宥めるように。それに心が凪ぐかといえば、レイモンドはそこまで流されやすい男ではないのだが。しかし少なくとも、温もりだけは心地好い。
「カイナさん」
声は穏やかに愛をなぞる。夜冷えの中に落とされたそれは静かに空気と入り交じる。耳に、よく溶けた。
「……そろそろ、寝ようか」
レイモンドが額を緩めると、三角もゆるりと頬の丘を盛り上げる。
音のない口付けが、レイモンドを眠りへ導いた。
元よりレイモンドは眠るのが上手い方ではない。眠れはしても、あの床下での記憶が彼の心臓を刺激する。眠りとは暗くて狭い、意識があらぬ所へ放り出される孤独な行為だ。暗く狭い場所はあの密室を想起させる。瞼の中で、幼い自分が泣き出すのだ。しかし今この帳に住むのはかつての自分ではない。別の、少年だ。
「れ、いさん……?」
少し上からうすらぼけた声が落ちる。腕の中で動くレイモンドにつられたのか、三角が起きたらしい。重くて上手く上がらない瞼を擦り、レイモンドを見ていた。
「すまない。起こしてしまったね」
「いえ、気にしないでください……あの、何かありました?」
三角は聡い。レイモンドが何を言わずとも、少なくとも現在があまり良い気分でないことくらいはすぐに理解する。たまに、少し困る視線だった。
「やはり拭えないんだよ。ケンタくんのことが」
「……あなたは、彼の願いを叶えたんですよ」
「やっぱりキミはワタシに甘すぎるよ。そう言ってくれる気持ちはありがたいけれど……こればかりは、ワタシの見方だね」
きっとレイモンドはこれからも、人を殺したという自意識を抱えるのだろう。どれだけ三角が慰め温もりをくれようと、握ったドライバーの感触が忘れられない。チョーカーとぶつかる金属音のよくこびりつくこと。もしかしたら、血のぬめりよりも堪えたかもしれない。
「俺はずっと隣にいます」
「……うん」
「もう三角なんて嫌いって言われても、離れてなんてあげませんからね」
「はは、キミは執念深いねえ」
「そのおかげであなたとこうできるなら得しました」
ふやけた笑みを作った三角は、レイモンドの首とシーツの隙間に手を滑り込ませ彼を抱き寄せる。後頭部に添えられた手の平が大きい。小柄なレイモンドは簡単に収まってしまった。
まっさらな手が髪を撫でる。すとん、すとんと宥めるように。それに心が凪ぐかといえば、レイモンドはそこまで流されやすい男ではないのだが。しかし少なくとも、温もりだけは心地好い。
「カイナさん」
声は穏やかに愛をなぞる。夜冷えの中に落とされたそれは静かに空気と入り交じる。耳に、よく溶けた。
「……そろそろ、寝ようか」
レイモンドが額を緩めると、三角もゆるりと頬の丘を盛り上げる。
音のない口付けが、レイモンドを眠りへ導いた。
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