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gnsnCP系SSまとめ(全年齢)
放浪者の名前
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憂鬱は、よく晴れた朝に迎えられた。この目が太陽に焼かれることは決してないが、それでも嫌味ったらしく照るそいつに眉を顰めずにはいられない。まったく何がそんなに嬉しいのか。そんな憎まれ口を叩かずにはいられないほど、罪を背負う体にとってこの光は酷だった。
目線を下ろせば、旅人が指先を木肌に立てて幹を登る姿が見える。その顔のなんて滑稽か。小さな声を途切れ途切れに漏らして一生懸命に。そうまでして己の元に登頂したいのかと放浪者は呆れ半分な気持ちだった。
「で、言いたいことってなんだい? 先に言っておくけど、『誕生日おめでとう』みたいな言葉は聞きたくないよ」
これで先手は打てた。既にそいつに加えてケーキまで食べているのだ、これ以上胸焼けするのは御免である。言われた旅人は目をぱちくりとさせているが、今は彼女よりも足元の危うい猫達が気がかりだった。特に胸の飾りにちょっかいをかける茶トラ。目先のおもちゃに夢中で足場がおざなりになっている。少し説教をしながら彼──あるいは彼女か──の尻を抱え腿に置いてやると、茶トラ猫は安心したように寛ぎ始めた。
「モテモテだね?」
「蹴り落とすよ」
「その前に私が蹴り落とすよ」
「だったらこいつらも道連れだよ」
「それは困ったな」
蛍が猫を撫でると、その子は鬱陶しそうに首を振り、放浪者へ助けを求めるように腿へしがみついた。
「ふっはは……! 嫌われたね?」
「なんで……?」
放浪者に撫でられてる猫は気持ち良さそうに目を閉じている。その様子に蛍は不満の半目を作るが、それも彼には愉快なものだった。
「ふん、物好き共め」
わざわざ己に寄らずとも数多の人から愛されるだろうに。この世は存外、そんな阿呆が多い。例えばつい数時間前の連中だとか。
「ねぇ、放浪者」
蛍が彼の名を呼んだ。視線を横にずらせば、膝に頬を埋めた姿が映る。太陽光で薄く透けた金の髪が、彼女の肌を擽っていた。
「いつか聞く勇気が出たらさ、あなたからおねだりしてね」
主語のない台詞は、しかし彼の核を正確に捉えていた。どうやら彼女は目がやたらと良いらしい。思考でも覗かれたかと紛うほど鋭い言葉は居心地が悪かった。
「……そんな時が、来たらね」
それは果たせるかも分からない、約束未満のやり取り。しかし蛍は静かに頷き肯定した。
空はよく晴れている。青々としたその下で、二人はしばらく揺れる葉を眺めていた。
目線を下ろせば、旅人が指先を木肌に立てて幹を登る姿が見える。その顔のなんて滑稽か。小さな声を途切れ途切れに漏らして一生懸命に。そうまでして己の元に登頂したいのかと放浪者は呆れ半分な気持ちだった。
「で、言いたいことってなんだい? 先に言っておくけど、『誕生日おめでとう』みたいな言葉は聞きたくないよ」
これで先手は打てた。既にそいつに加えてケーキまで食べているのだ、これ以上胸焼けするのは御免である。言われた旅人は目をぱちくりとさせているが、今は彼女よりも足元の危うい猫達が気がかりだった。特に胸の飾りにちょっかいをかける茶トラ。目先のおもちゃに夢中で足場がおざなりになっている。少し説教をしながら彼──あるいは彼女か──の尻を抱え腿に置いてやると、茶トラ猫は安心したように寛ぎ始めた。
「モテモテだね?」
「蹴り落とすよ」
「その前に私が蹴り落とすよ」
「だったらこいつらも道連れだよ」
「それは困ったな」
蛍が猫を撫でると、その子は鬱陶しそうに首を振り、放浪者へ助けを求めるように腿へしがみついた。
「ふっはは……! 嫌われたね?」
「なんで……?」
放浪者に撫でられてる猫は気持ち良さそうに目を閉じている。その様子に蛍は不満の半目を作るが、それも彼には愉快なものだった。
「ふん、物好き共め」
わざわざ己に寄らずとも数多の人から愛されるだろうに。この世は存外、そんな阿呆が多い。例えばつい数時間前の連中だとか。
「ねぇ、放浪者」
蛍が彼の名を呼んだ。視線を横にずらせば、膝に頬を埋めた姿が映る。太陽光で薄く透けた金の髪が、彼女の肌を擽っていた。
「いつか聞く勇気が出たらさ、あなたからおねだりしてね」
主語のない台詞は、しかし彼の核を正確に捉えていた。どうやら彼女は目がやたらと良いらしい。思考でも覗かれたかと紛うほど鋭い言葉は居心地が悪かった。
「……そんな時が、来たらね」
それは果たせるかも分からない、約束未満のやり取り。しかし蛍は静かに頷き肯定した。
空はよく晴れている。青々としたその下で、二人はしばらく揺れる葉を眺めていた。