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gnsnCP系SSまとめ(全年齢)
放浪者の名前
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本日は大変お日柄もよく。それは稲妻で覚えた挨拶のひとつだ。今日はそんな言葉で会話が始まるのも頷けるほど日照りのよい朝だった。ただそんな太陽とは裏腹に、蛍の心模様は雨の匂い立つ曇り空と似ている。太陽の眩しさが鬱陶しいのと、任務の報告がてらに巻き込まれた井戸端会議に乗り切れないのが理由だった。姦しい女性達の話題は、色恋についてである。
「それで言ってやったの。私は通い妻じゃない! って」
「いいぞいいぞー! もっと啖呵切ってやりな!」
なんでも、想いを寄せる男から雑な扱いを受けているとか。最初は満足していたが、段々それを当たり前に享受する相手に不満を持つようになった。たったこれっぽっちで済む説明を爛々照りの下で四〇分もされてはたまったものじゃない。蛍も喜怒哀楽を知る者、めんどくさいなぁと呟きたくなる時もあるのだ。
「あの、ところで通い妻って何?」
面倒ではあったが、話の中に出た知らない単語は気になった。小さな知的好奇心に甘えて問うと、己をそう自嘲した女性が再沸騰する。やっと落ち着いた愚痴を再発させてしまったことに、蛍はげんなりとした。
「ということがあったの」
何とか逃れて残りの任務をこなした蛍は塵歌壺に訪れていた。いい加減調度品や材料の整理をせねばと奮起しつつの行動だったが、彼女がそれをすることはなかった。もう既に終わっていたからだ。そして彼女はダイニングテーブルに着き、出来たての昼食を摂っている。蛍の前面に着いている放浪者は、なぜか苦そうな顔をしていた。
「……どうして、僕にそんな話をするのかな」
「え、ただの雑談だったんだけど。嫌だった?」
「食事時に聞きたいものではないね。嫌味ったらしい」
「嫌味……?」
今日こんなことがあったんだ、と話していただけなのに、それがなぜ彼への嫌味になるのだろう。放浪者がまず悲観的に物を見ることは把握しているが、どういう回路の繋ぎ方をしているかまでは分かっていない。しかし嫌味と言うからには、何か自分と重ねているのだろうか。艶々に炊かれた白米を咀嚼しながら考え込む。
「あなたのことをそう思ったことないよ」
「ふん。どうだか」
推察は合っていたらしい。蛍の言葉で放浪者はそっぽを向いた。
「本当だよ。むしろ頻繁に私の世話させちゃって申し訳ないくらい」
「せっかく来たのに散らかってるとイライラするんだよ。大体置きっぱなしにするな。仕舞うくらいできるだろう」
「そう思ってるんだけど、物だけ置いてトンボ返りすること多いから……つい」
「つい、じゃないよ。まったく。野宿より簡単だと思うんだけど?」
「はは……」
放浪者は更に蛍の無精に小言を重ねる。ぐうの音も出ない指摘に蛍はただ「はい、はい」と頷くしかなかった。その間に全ての皿が空になり、やはりこの話題はチョイスミスだったかと認識させられた。
「洗い物は私がするよ。あなたは寛いでて」
「いいよ、僕がやるから」
「頼りきりはダメなんじゃなかったの?」
「新しい調度品を置きに来たんだろう? ならそれを優先するといい。今日は暇だからやってあげるよ」
言うや否や、放浪者は蛍が集めた食器を攫ってしまった。てきぱき動いてしまうから、蛍が間に挟まる余地もない。あっという間に静かになったダイニングテーブルを惚けた顔で見下ろすのが関の山だった。
「君に関しては頼りすぎると感じるくらいがちょうどいい。せいぜい僕をこき使うことだね、旦那様?」
そして放浪者は、慣れた手つきで襷をかけながら目を細める。いたずらっぽい笑みに、なぜか胸が痒くなった。
数日後、件の女性と再会する。最後に見た時とは打って変わって明るい顔の彼女は、ようやく意中の人から名のつく関係をもらったそう。蛍は呆れながら、よかったねと祝福した。
「それで言ってやったの。私は通い妻じゃない! って」
「いいぞいいぞー! もっと啖呵切ってやりな!」
なんでも、想いを寄せる男から雑な扱いを受けているとか。最初は満足していたが、段々それを当たり前に享受する相手に不満を持つようになった。たったこれっぽっちで済む説明を爛々照りの下で四〇分もされてはたまったものじゃない。蛍も喜怒哀楽を知る者、めんどくさいなぁと呟きたくなる時もあるのだ。
「あの、ところで通い妻って何?」
面倒ではあったが、話の中に出た知らない単語は気になった。小さな知的好奇心に甘えて問うと、己をそう自嘲した女性が再沸騰する。やっと落ち着いた愚痴を再発させてしまったことに、蛍はげんなりとした。
「ということがあったの」
何とか逃れて残りの任務をこなした蛍は塵歌壺に訪れていた。いい加減調度品や材料の整理をせねばと奮起しつつの行動だったが、彼女がそれをすることはなかった。もう既に終わっていたからだ。そして彼女はダイニングテーブルに着き、出来たての昼食を摂っている。蛍の前面に着いている放浪者は、なぜか苦そうな顔をしていた。
「……どうして、僕にそんな話をするのかな」
「え、ただの雑談だったんだけど。嫌だった?」
「食事時に聞きたいものではないね。嫌味ったらしい」
「嫌味……?」
今日こんなことがあったんだ、と話していただけなのに、それがなぜ彼への嫌味になるのだろう。放浪者がまず悲観的に物を見ることは把握しているが、どういう回路の繋ぎ方をしているかまでは分かっていない。しかし嫌味と言うからには、何か自分と重ねているのだろうか。艶々に炊かれた白米を咀嚼しながら考え込む。
「あなたのことをそう思ったことないよ」
「ふん。どうだか」
推察は合っていたらしい。蛍の言葉で放浪者はそっぽを向いた。
「本当だよ。むしろ頻繁に私の世話させちゃって申し訳ないくらい」
「せっかく来たのに散らかってるとイライラするんだよ。大体置きっぱなしにするな。仕舞うくらいできるだろう」
「そう思ってるんだけど、物だけ置いてトンボ返りすること多いから……つい」
「つい、じゃないよ。まったく。野宿より簡単だと思うんだけど?」
「はは……」
放浪者は更に蛍の無精に小言を重ねる。ぐうの音も出ない指摘に蛍はただ「はい、はい」と頷くしかなかった。その間に全ての皿が空になり、やはりこの話題はチョイスミスだったかと認識させられた。
「洗い物は私がするよ。あなたは寛いでて」
「いいよ、僕がやるから」
「頼りきりはダメなんじゃなかったの?」
「新しい調度品を置きに来たんだろう? ならそれを優先するといい。今日は暇だからやってあげるよ」
言うや否や、放浪者は蛍が集めた食器を攫ってしまった。てきぱき動いてしまうから、蛍が間に挟まる余地もない。あっという間に静かになったダイニングテーブルを惚けた顔で見下ろすのが関の山だった。
「君に関しては頼りすぎると感じるくらいがちょうどいい。せいぜい僕をこき使うことだね、旦那様?」
そして放浪者は、慣れた手つきで襷をかけながら目を細める。いたずらっぽい笑みに、なぜか胸が痒くなった。
数日後、件の女性と再会する。最後に見た時とは打って変わって明るい顔の彼女は、ようやく意中の人から名のつく関係をもらったそう。蛍は呆れながら、よかったねと祝福した。