スキお礼SS
アイドル活動を初めてから半年くらい経った頃に、プロデューサーちゃんがオレに言った言葉。それは『慣れは油断にもなるから気をつけること』だった。初めはよくわからなかったその言葉も、実際に仕事でやらかしちゃえば嫌でもわかってしまうもので。そうして失敗から反省して、プロデューサーちゃんのアドバイスを噛み締めながら、気を引き締めて仕事に向き合ってきた。それが何年過ぎても絶対に変えなかったオレのやり方、だった。
なんで今その言葉を思い出したかというと、今が正しく「慣れが油断につながった」から。
「……ここどこ〜!」
付き合ってから二年。そして出会ってからは五年。そんなオレは今、カレシであるジュンっちの家で迷子になっていた。
「え、右じゃなかったっけ……でもこんなところ知らない……あれ? オレどこから来た?」
ジュンっちの実家はメガメガデカい。普通の一軒家何個分? ってくらいの立派なお家だ。最初の頃はジュンっちやナツキっち、お手伝いさんの案内がなきゃ即迷子になったものだ。当時はジュンっちの部屋に辿り着くことも簡単にできなくて、ハヤトっちやハルナっちと一緒に魔王のダンジョンだと騒いでジュンっちに怒られたのが懐かしい。そう、その時のことが『懐かしい』と思えるくらいにはジュンっちの実家には何度も来てて、今では魔王の部屋にだってひとりで行けるんだ。だから一番近くのトイレくらい楽勝! ……って思って歩き出したのが数分前。魔王のダンジョンは、ジュンっちがひとり暮らしをしている間に第二形態へと進化していた、というわけだ。
「はーあ……これならジュンっちについて来てもらえばよかった……」
部屋を出る前、ジュンっちはついて行こうかと言ってくれた。今思えば、内装が変わってるから目印を頼りにしていたオレを気遣ってくれてたんだってわかる。でもそこまで頭が回ってなかったオレは、大口を叩いて部屋を出てしまった。その結果がこれじゃあどうしようもない。お酒だって飲める歳になったのに、オレは未だに自分のことすら把握できていない子どものまま。用を足すのにスマホなんて持たないから、助けを呼ぶことだってできない。現在地すら発信できないオレは、廊下でひとり立つしかできなかった。
「うう……トイレ行きたいよぉ……」
「だから言ったでしょう。僕も一緒の方がいいって」
「へっ?」
「まったく……やっぱり迷っていたんですね」
振り向いたら、呆れ顔のジュンっちが腕を組んでいた。その顔を見た瞬間、惨めになっていた気持ちは吹き飛んで、一気に安心感が心を埋める。もう自分が大人だってことも忘れて、小さな子どもみたいにジュンっちに駆け寄った。
「わーん! ジュンっち、会いたかったっすー! もう一生このままかと思ったー!」
「そんなことにはさせませんよ。実家で遭難されてはたまったものじゃない」
「やっぱりジュンっちの実家はダンジョンっすよー!」
「またそんなことを……ほら、ここで育った魔王が来たんですから、迷うことはありませんよ。トイレはこっちです」
ジュンっちは、オレの手を握って来た道を戻っていく。くどくどと小言をぼやいてるけど、手の平から伝わる熱は優しい。
魔王なんて言ってごめんなさい。ジュンっちは恐ろしい魔王なんかじゃなくて、優しいお巡りさんみたいな人だったよ。オレは頼りがいのある手を握り返しながら、ちょっと小さい背中についていった。
なんで今その言葉を思い出したかというと、今が正しく「慣れが油断につながった」から。
「……ここどこ〜!」
付き合ってから二年。そして出会ってからは五年。そんなオレは今、カレシであるジュンっちの家で迷子になっていた。
「え、右じゃなかったっけ……でもこんなところ知らない……あれ? オレどこから来た?」
ジュンっちの実家はメガメガデカい。普通の一軒家何個分? ってくらいの立派なお家だ。最初の頃はジュンっちやナツキっち、お手伝いさんの案内がなきゃ即迷子になったものだ。当時はジュンっちの部屋に辿り着くことも簡単にできなくて、ハヤトっちやハルナっちと一緒に魔王のダンジョンだと騒いでジュンっちに怒られたのが懐かしい。そう、その時のことが『懐かしい』と思えるくらいにはジュンっちの実家には何度も来てて、今では魔王の部屋にだってひとりで行けるんだ。だから一番近くのトイレくらい楽勝! ……って思って歩き出したのが数分前。魔王のダンジョンは、ジュンっちがひとり暮らしをしている間に第二形態へと進化していた、というわけだ。
「はーあ……これならジュンっちについて来てもらえばよかった……」
部屋を出る前、ジュンっちはついて行こうかと言ってくれた。今思えば、内装が変わってるから目印を頼りにしていたオレを気遣ってくれてたんだってわかる。でもそこまで頭が回ってなかったオレは、大口を叩いて部屋を出てしまった。その結果がこれじゃあどうしようもない。お酒だって飲める歳になったのに、オレは未だに自分のことすら把握できていない子どものまま。用を足すのにスマホなんて持たないから、助けを呼ぶことだってできない。現在地すら発信できないオレは、廊下でひとり立つしかできなかった。
「うう……トイレ行きたいよぉ……」
「だから言ったでしょう。僕も一緒の方がいいって」
「へっ?」
「まったく……やっぱり迷っていたんですね」
振り向いたら、呆れ顔のジュンっちが腕を組んでいた。その顔を見た瞬間、惨めになっていた気持ちは吹き飛んで、一気に安心感が心を埋める。もう自分が大人だってことも忘れて、小さな子どもみたいにジュンっちに駆け寄った。
「わーん! ジュンっち、会いたかったっすー! もう一生このままかと思ったー!」
「そんなことにはさせませんよ。実家で遭難されてはたまったものじゃない」
「やっぱりジュンっちの実家はダンジョンっすよー!」
「またそんなことを……ほら、ここで育った魔王が来たんですから、迷うことはありませんよ。トイレはこっちです」
ジュンっちは、オレの手を握って来た道を戻っていく。くどくどと小言をぼやいてるけど、手の平から伝わる熱は優しい。
魔王なんて言ってごめんなさい。ジュンっちは恐ろしい魔王なんかじゃなくて、優しいお巡りさんみたいな人だったよ。オレは頼りがいのある手を握り返しながら、ちょっと小さい背中についていった。