スキお礼SS

 お家。ふたりっきり。そこに本をひとつまみ。

 数ヶ月ぶりのデートは、ジュンっちの部屋で隣り合って読書の時間。よく雑誌のインタビューとかバラエティのトークで別々に行動する恋人の話を聞いたけど、その時は全然理解できなかった。だってせっかく好きな人との貴重なデートなのに。どうせ会うなら外で待ち合わせて街へ遊びに行って、一日中バリバリ騒ぎたい。とびっきりの楽しいを好きな人と一緒にできるなんてサイコーのゼイタクだ。お家デートも好きだけど、それだって一緒にゲームをやるとかが良い。それぞれが違うことをするなんて、そんなのデートの意味がない。
 ……って思ってたけど、いざやってみるとこれがメガメガ楽しい。オレは家から持ってきたお気に入りのマンガを、ジュンっちはお仕事の関係で……ツンドク? していた小説をそれぞれ読んでいる。やってることはどっちも「本を読む」で、わざわざ会わなくてもできることだ。でもジュンっちと一緒にいるってだけで、不思議と気持ちが落ち着いて、のんびりした気分でマンガを読める。ワクワクドキドキしながら読むのが好きだったけど、こうしてホッとした気分でまったりするのも良いなって考え直した。今まで意味わかんないっす! って言っちゃった人たちにちょっと申し訳ない半分、良いことを教えてくれてありがとう半分。そんな気持ちで右肩にジュンっちの気配を感じながら、オレは大好きなマンガに没頭し……ようと、した。
「にゃあ」
 気配が一気に濃くなった。肩に硬い重みを感じたすぐ後、隣から聞き覚えのある声が。でも喋ったのは、絶対にジュンっちから出ない単語。え、今の何? 気のせい? 空耳?
「……にゃー」
 いや、やっぱり空耳なんかじゃない。確かにジュンっちは口を動かして、ネコっちの鳴き真似をしていた。オレの肩に乗っけたほっぺをすりすりさせて、にゃあにゃあって気まぐれに鳴いている。
「あの……ジュンっち……?」
「にゃあー」
「え、えっ? 待って、え? 何すかこれ?」
 混乱するオレを無視して、ジュンっちはほっぺ同士をくっつけた。マジで何? どういうことなの? オレは目をグルグルさせる。だって、ジュンっちがにゃあにゃあって言ってるんすよ。なんかやたらブスッとした声で一生懸命。こんなの、もしオレがエジソンだったとしても絶対わかんないって。過去イチの奇行を見せるジュンっちの気持ちをどうにか探ろうと思考停止中の頭に喝を入れたその瞬間、首筋にいるジュンっちが喋りだした。
「四季くん、僕は格好良いですか?」
「へ……?」
「今の僕は、君にどう映っていますか?」
「どう、って……」
 今のジュンっちは、オレの首筋に頭を乗っけてて、上目遣いでオレを見上げてて……何となく、いつもより不満そう。でも触れているところから伝わるジュンっちのほっぺの柔らかさとか、あったかさとか、腕越しに感じる身体の凛々しさとか。あれとそれとこれとが一気に押し寄せていて、何だか、もう。
「……好きだなって、思うっす」
 そんな言葉しか、浮かばないよ。
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