BSR

見知らぬ一羽

 市は、その男が髪飾りとしている羽根に目がいった。華美な着物も気配もただ敬遠するだけの物だったが、それだけはきれいだと感じた。
 すると珍しく自分を見つめる市に気付いたのか、男が声をかけてきた。どうしたんだいと訊ねられ、狼狽えつつも小さく口を開く。
「きれいな羽根……」
 囁きに男は目を丸くして、それから市の視線が髪飾りにあると知り、手慣れた仕種で羽根を一枚、髪から抜いた。
 気に入ったならと男は差し出したが、市は小さく首を振った。自分が持っていてもきれいじゃないから、そう言った。
 それに対し、今度は男が首を振った。そんなことはないと柔らかに笑う。
「あんたが持ってたら、もっと綺麗になるよ」
 わからず首を傾げていると男の手が触れて、びくりと肩を揺らす。市の怖がりように男は苦笑しながらも、か細い手に羽根を握らせた。
「俺より、恋してるあんたの方が」
 目を細めた男を、踵を返した姿を驚きのままに見つめ、市は殊更ゆっくりと理解するように、自分を呼ぶ夫の声を聞くまでずっと立ち尽くしていた。
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