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法廷のギグ

「やあ、おデコくん」
「……どうも。牙琉検事」
 渋々といった体で挨拶する弁護士に、検事はただにこやかに笑う。彼は基本的に温和だ。
「キミと法廷に立つのは久しぶりだね。今日は熱いギグがやれそうだ」
 髪を軽く掻き上げたその指先が、狙いを定めるように弁護士を指した。気取った振る舞いが実に様になる男だ。傍聴席からうっとりした女性の声が少なからず挙がる。本日も例に漏れず、検事の熱心なファンが入廷しているらしい。
(相変わらず、だなあ……)
 指さされた弁護士はその気障ったらしさに苦い顔をした。いつまで経っても彼のリズムには乗れそうにない。当の本人はどこ吹く風といった様子だが。それにももう慣れつつある。
 しかしだ。お互い、違う音を奏でていながら、旋律が重なる時がある。唯一、真実を追求する時がそれだ。
 確かな真実へ向けて、音程も拍子もしっちゃかめっちゃかな即興演奏になる。
 それが検事の言う、熱いギグ──なのかもしれない。と、推考も程々に、弁護士は結論付ける。彼にとっては、真実を見据える目が誠実であることを知っていれば十分だった。
 高らかに木槌が打ち鳴らされ、開廷を告げる。
 検事が小気味よく指を鳴らせば、まさしく演奏の開始を告げるようでもあった。
 その音を聞き、弁護士は襟を正した。
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