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コールドネーム

「知ってるなら、別に訊かなくてもいいじゃない」
 後ろから夜魔の声が聞こえ、ダンテは肩越しに見やる。
「何のことだ?」
「名前よ」
 仮面を付けた夜魔は優雅に浮遊しながら前方に視線を向けた。示唆された先を追うと、少年の背に辿り着く。
「本人の口から聞かなきゃ意味がない」
「そう」
 答えに興味を失ったのか、淡白な声を返した夜魔は少年の背を見つめたまま黙り込んでしまった。それを会話の終わりと判断し、歩き出そうとしたダンテに再び声がかかる。
「訊いたくせに呼ばないのね、名前」
「今のところはな」
「そう。ならこれからも呼ばないで」
 またしても淡白な声ながら、はっきりと強制力を込めて告げた夜魔に、ダンテは顔を顰めた。振り返って煩わしげな目を向けるが、仮面で表情を隠した夜魔はまだ少年の背を見つめている。
「アタシ達はもう呼んでないの。彼が嫌がるから」
 ダンテは胸中に浮かび上がった、不快感にも似たそれを自覚して、ますます顔を顰めた。すうっと冷めた目で少年の背を一瞥する。
 代わりに、漸く夜魔はずっと向けていた視線を落とし、俯いた。
「アタシには、その理由がわからない」
 まだ弱々しい妖精で、けれどなんの重みもなく彼の名前を呼んでいた頃。
 今では遠く感じる。その背すらも。
 夜魔は、初めて会ったその時、少年が自ら名乗ったことを思い出した。
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