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テスデイ版ドロライより『禁煙』
「ネクタイ、結んでくれよ」
ジャケットの前を開けたまま、テスカトリポカはデイビットに声をかけた。
節くれだった手には艶のある赤いネクタイが握られている。
デイビットは内心戸惑った。他人のものを結んだことはないのだが、と。
けれどそれを口にして断ってしまうのはいやで、了承の意を示すように顎を引く。
姿見の前に手近な椅子を持ってきて、背凭れに片手を置いて促す。
「座って」
ネクタイを手渡して、テスカトリポカは上機嫌で腰かける。それから長い髪を片方にまとめるように押さえて首元を晒した。
デイビットは白い襟を立ててネクタイを通す。自分のもののように、いつもと同じ手順で結んでいく。ただいつもより緊張感があって少しもたついた。
手元を覗くつもりで顔を近付けるが、嗅ぎ慣れた煙のにおいがしなくて、すんと小さく鼻を鳴らした。真新しいレザーのにおいがする。
普段は作らないディンプルを整えて、結び目を整えて、しっかりと首元まで締め上げる。
「キツくないか?」
「ああ」
鏡に映る姿を見つめながら、ふたりは言葉を交わす。
「どうだ?」
「似合っている」
「オマエは前からそんな調子だ」
「本当なのに」
召喚に応じるにあたって、テスカトリポカは人間の器を作った。“今の時代”に沿ったデザインとして。
黒衣を纏ったその出来映えを、今は、特に気に入っているらしい。
その“かたち”が、どう映るのか。
同じ色のコートを靡かせるマスターに訊ねたことがあった。
やはり今と変わらず、答えは本心からだった。
テスカトリポカはレザージャケットの前を閉めつつ立ち上がるとロングコートを肩にかけて、けれどそのまま出ていくわけでもなく、空いている手でデイビットを引き寄せる。
「服ににおいがつくっていうんでな。禁煙中なんだ」
「……だから?」
「口寂しいんだよ」
小首を傾げて、唇が触れそうなところまで来ておいて、そんなことを言う。待っているというていで笑みを浮かべるテスカトリポカに、デイビットは呆れたような顔をして、しかし重なる唇を受け入れる。
苦くないキスは初めてだったか。
ぼんやりと、今日は何を選ぶかを考える。
寄りかかるように、真新しいにおいのするジャケットに手を添えると柔らかな感触がした。
「ネクタイ、結んでくれよ」
ジャケットの前を開けたまま、テスカトリポカはデイビットに声をかけた。
節くれだった手には艶のある赤いネクタイが握られている。
デイビットは内心戸惑った。他人のものを結んだことはないのだが、と。
けれどそれを口にして断ってしまうのはいやで、了承の意を示すように顎を引く。
姿見の前に手近な椅子を持ってきて、背凭れに片手を置いて促す。
「座って」
ネクタイを手渡して、テスカトリポカは上機嫌で腰かける。それから長い髪を片方にまとめるように押さえて首元を晒した。
デイビットは白い襟を立ててネクタイを通す。自分のもののように、いつもと同じ手順で結んでいく。ただいつもより緊張感があって少しもたついた。
手元を覗くつもりで顔を近付けるが、嗅ぎ慣れた煙のにおいがしなくて、すんと小さく鼻を鳴らした。真新しいレザーのにおいがする。
普段は作らないディンプルを整えて、結び目を整えて、しっかりと首元まで締め上げる。
「キツくないか?」
「ああ」
鏡に映る姿を見つめながら、ふたりは言葉を交わす。
「どうだ?」
「似合っている」
「オマエは前からそんな調子だ」
「本当なのに」
召喚に応じるにあたって、テスカトリポカは人間の器を作った。“今の時代”に沿ったデザインとして。
黒衣を纏ったその出来映えを、今は、特に気に入っているらしい。
その“かたち”が、どう映るのか。
同じ色のコートを靡かせるマスターに訊ねたことがあった。
やはり今と変わらず、答えは本心からだった。
テスカトリポカはレザージャケットの前を閉めつつ立ち上がるとロングコートを肩にかけて、けれどそのまま出ていくわけでもなく、空いている手でデイビットを引き寄せる。
「服ににおいがつくっていうんでな。禁煙中なんだ」
「……だから?」
「口寂しいんだよ」
小首を傾げて、唇が触れそうなところまで来ておいて、そんなことを言う。待っているというていで笑みを浮かべるテスカトリポカに、デイビットは呆れたような顔をして、しかし重なる唇を受け入れる。
苦くないキスは初めてだったか。
ぼんやりと、今日は何を選ぶかを考える。
寄りかかるように、真新しいにおいのするジャケットに手を添えると柔らかな感触がした。