気がつくと、周りは荒野だった。
　辺りには誰もいない。小さく木々と岩山がなんとか見える程度で、何もない場所に、私は一人でいた。

　ふと、私はとんでもないことに気がついた。

「……私、誰、だっけ」

　名前を思い出せないのだ。名前だけじゃない。ここはどこなのか、全く分からない。持ち物を探してみるけれど、私は白いワンピースを着ているだけで、何も持っていなかった。

　途方にくれていると、バイクが走ってくるのが見えた。ここにいてもしょうがない。とにかく町に行ってみないと。
　
　手を振って「おーい」とバイクに合図してみると、近づいてきた。乗っていたのは無精髭の男の人だった。男の人は私には聞こえない声で言った。

「…生きていたのか」