Do you think .


Do you think .








「ア、イタイタ。パイセン」


REC合間の休憩に、軽快な声色で近づいて来たのは、なにかと人騒がせな我らがバンドマスターだった。軽快な言葉とともにヨッ、と言いたげに片手を上げまるで親しげに近寄ってくるものだから、尚更俺は眉を顰めるしかなかった。


「……ンダヨ。邪魔シニ来タノカ?」
「チョットチョット、パイセン酷ナイ?束ノ間ノメンバーノ歓談ッテヤツデショ?」
「オ前ガ話シ掛ケテクル時ハ大抵ロクナ事ネエンダヨ。ドウセ下ラネエコトダロ」
「エ~、酷ナイ?」
「ドウセ詩織関連ノコトダロウガ」
「オ!流石パイセン、鋭イヨネ」
「シカモ図星カヨ……」


ハア、と深い溜息を零してはやれやれと首を横に振る。コイツの人騒がせなのは昔からではあるから、もうメンバーや俺は慣れたものではあるが───どうもコイツは、「特定の人間」の事となるとどうにも面倒事にしか発展した試しがない。それ即ち「先輩だから」という観点から気に掛けているのなら結構だが、コイツの場合は確実にプライベートな、個人の感情を抱えている。執着や感情の類はウチのスポークスマンと同じだが、それより面倒なのは───本人、…ヤツらは、それを一切認めようとはしない。


「アノナ。オ前ガ考エルヨウナモンハネエッテ何遍モ言ッテンダロ。何度言エバ分カル?」
「エ~。デモサア、パイセン明ラカニ詩織チャンニハ優シクナイ?」
「オ前ガ気立ッテルカラソウ思ウダケダロ。俺ハ俺前ラトハ違エンダ」
「パイセン言イ方悪クナイ?何、気立ッテルッテ。俺ハ何時モ沈着冷静ナエースナンダケド?」
「自分デエースッテ言ウンジャネエヨ……」


また深い溜息を零しながらも苛立ちに任せてゴシ、と灰皿に煙草を擦り付ける。何が面白いのかヤツはニヤニヤと表情を浮かべたまま俺のことを見ていた。


「───ナニナニ、パイセン。マサカ図星?」
「今ノ何処ヲソウ見テ思ッタンダヨ。阿呆カ」
「エ~、違ウノ?ツマンナイナ~。」
「俺ハドッカノシャクレトハ弄リ甲斐モネエヨ」
「ヤダナ、パイセン。ソノ言イ方ダト俺ガ虐メテルミタイヤン」
「違ウノカ?放ッテオケバイイモノヲ、オ前モ逐一絡ミニ行ッテルダロ」
「一々反応スルジャンケンガ面白イカラサ。本人ハ分カリ難クシテルツモリナンダロウケド、誰ヨリモ分カリヤスクテ笑ッチャウンダヨネ」


そう言ってヤツはテーブルの近くに転がっていたボールペンをトントン、と先端を机に立てるよう仕草をして、───その仕草を見遣り、俺は思わずニヤリと口角を上げてしまった。


「ソレヲ言ウナラオ前モ、ダケドナ」
「───ナニガ?俺ハ詩織チャンノ事ハ先輩トシテ気ニ掛ケテルダケヤケド?」
「ソノ気ニ掛ケテル距離ッテノガ近スギルンダヨ」
「エ~、デモサア……」


ヤツが何かを言いかけたタイミングで、ちょうど───運がいいのか悪いのやら、話の中心となっていた狼が数回のノックとともに顔を出した。


「オ疲レサマデス。──ヤケニ珍シイ面子デスネ」
「ハッ、白白シイナア。本当ハ直前マデ聞イテタンデショ?ジャンケン」
「何ノ事ダカ。俺ハタマタマ部屋ニ入ッテ休憩ヲ取ロウトシタダケデスヨ」


数秒、たった一瞬の隙。ヤツが持つペットボトルが少し強めに握られていることを確認しては、テキーラの言う通り「分カリヤスイナ」と思わず顔を歪めた。

「相変ワラズ「平常心ニ見セル」ノハ得意ノ範囲内ダナ。シャクレ」
「───何ノ事ダカ」


ソレに呼応するようにシャクレは眼を少し細めた
、が───ソレも一瞬の出来事。ヤツは部屋の隅の1人がけのソファに腰を下ろす。数秒の静寂の後、火種を撒いたのは意外にも、───否、大概予想は出来たが。カミカゼの方だった。カミカゼはシャクレの方へ身を乗り出すように話を切る。


「ネエジャンケンサア。ブッチャケ、詩織チャンノコトドウ思ッテンノ?」
「コレマタ急ナ質問デスネ、カミカゼサン。ドウ、トハ?」
「君、昔カラ詩織チャントハ距離近イジャン。流石ニ後輩ダカラ、ッテ言イ訳ハ通ジナイト思ウンダケド?」


「ソレヲオ前ガ言ウノカ」と思わす噴き出してしまいそうになるが、どうにか耐えて唾液を飲み込む。何故なら、俺はもうこの2匹のくだらないやり取りをまるで娯楽のように観戦していたからだ。


「ドウ、モ何モアリマセンガ。彼女ハタダ、同ジ道ヲ進ム夢追イ人、同業者、トイウダケナノデ」
「同業者、ッテ便利ナ言葉ダヨネ。ソノ言葉サエアレバドンナニ距離ガ近クテモ赦サレルンダシ」
「………褒メテイタダイテイルンデスカネ?」
「サア?君ガソウ思ウナラソウナンジャナイ?」

カミカゼの皮肉的な言葉に一呼吸置いて褒めている、と態とらしく解釈するのも流石策士だな、とは思った。多種の言葉を適切に操り、バンドの広報を担うスポークスマンだけの事はある。
そしてまた一瞬の沈黙。それを打ち破ったのはカミカゼ───かと思いきや。


「タダ、───個人的ナ見解、ニハナリマスケレドモ。俺ハ、カミカゼサンハタナカサンノ接シ方ニ何処カゴ不満ガアルヨウニ……見エマシタケドネ」
「ヤッパリ盗ミ聞キシテタンジャン」
「タマタマ入ル直前ニ聞コエテキタノデ」
「フーン?相変ワラズ言イ訳上手ダネ」


勝ち筋も落ち所もない不毛な軽い口喧嘩、だが外野から見れば目に見えて火花が散りあっているこの状況に俺は我慢が出来ず「フハッ」と息を漏らして笑い混じりに2匹に決定的で、確信的な言葉を投げ飛ばした。


「───要ハオ前ラ、俺ニ嫉妬シテルダケダロ?」


と俺が言えば、それは図星だったのか旗また別か、一瞬の静寂がまた訪れた。今度はいとも簡単に分かりやすく、先程まで不毛な言い争いを繰り広げた2匹はぴたりと硬直した後──それを訂正するかのように、いち早くテキーラが口を開いた。


「───ハア?パイセン、ソレハ違ウヨ。俺ハ詩織チャンガ心配ナダケ!詩織チャンハ可愛イカラサア、「牙ヲ隠シテル」狼ニ食ベラレルカモシレナイヤン?」
「詩織カラシタラ余計ナ世話ダト思ウケドナ」
「ダカラ俺ハチャント詩織チャンヲ守ッテアゲテルダケ!ジャンケンハ多分パイセンニ妬イテルダロウケド」
「ソレコソカミカゼサンノ思イ過ゴシカト。俺モ詩織サンニハ幸セニナッテ欲シイダケデスシ」


それで終着、或いはどちらも認めればいいものを、シャクレの言い草に分かりやすくテキーラはギロ、と視線を向けた。本人は平静を保っているつもりだが、明らかすぎる。


「ヘエ~、───随分ト良イ先輩面ダヨネジャンケン。ホントハ自分ガ幸セニシタイ癖ニネ?」
「ソコマデ俺ニ意見スルトハ、マサカカミカゼサンハ別ノ意図ガオ有リナンデスカ?」
「オ。言ウネ。デモ残念、俺ハタダ詩織チャンガ他ノ狼ニ食ベラレソウニナッタラ守ッテアゲルダケ。手段ハ「幾ラデモ」アルシ?」


どちらか一匹が言えば揚げ足を取るかのようにもう一匹が追撃する、全く埒が明かないと判断した俺は、薄く溜息を零しては口を開こうとしたが───


「お待たせしました~!再開させていただきます!!!」


──と、救いなのか旗また違うのか、再開を知らせるスタッフの声が部屋の外から響き渡ると、その声とともに一斉に腰を上げた。腰を上げて部屋の扉を開けるとともに、同じくテキーラも薄い溜息交じりにまるで捨て台詞かのように零した。


「──マ、オ固イパイセント厨二病拗ラセテルジャンケンニハ分カンナイカナ~?コレバッカリハサ」
「少ナクトモ、オ前ラミタイナ拗レタモンニハ分カリタクモネエヨ」
「エ~、何ガ?俺ハ純粋ニ詩織チャンガ好キナダケヤケド?可愛イシ。ネ、ジャンケン?」
「確カニ、詩織サンニハ何処カ惹カレテシマウトコロガアリマスネ」
「ア~、固イ固イ。モット晒ケ出シテイインダヨ?ホラ、酒飲ンダ時ハ色々スゴイジャン、君。」
「仕事トプライベートハ分ケル主義ナノデ」


またもやその不毛な争いを続けながらスタジオに向かう2匹の少し後ろで同じく歩き始める俺は、2匹の後ろ姿を眺めて小馬鹿にしたように、独り言のように言葉を落とした。


「────オ前ラ、ソレ丸々纏メテ「嫉妬」ッテ言ウンダヨ」


ひたすらに「自分は違う」と主張はしているが──2匹とも、アイツに向けている感情も、執着も。同類だと言うことを。