東の空から太陽が登り始めてきた頃、車は街の郊外にある人が住んでいるのかどうか怪しい一軒家の前に止まった。

「ここだ。」

リゾットはエンジンを止め、車から降りるとトランクに積んでおいたアヴァのスーツケースを降ろし、助手席のドアを開ける。

「grazie」

来たときと同じようにエスコートされるアヴァは、少し動揺しながらも差し出された手を取り車を降りた。

「まだ起きてる奴はいないだろう」

そう言いながらリゾットはアヴァのスーツケースを持ち二人で玄関へと向かう。

「ここに住んでるメンバーがいるの？」

前のチームでは、アジトはただの仕事場で仮眠のスペースはあったが自宅は別にあったアヴァはリゾットの顔を見て質問をする。

「あぁ。俺を含め5人だ」

中に入ってみると、外観とは裏腹に人が住める程の小綺麗さは保っていた。
だが、共有スペースであろうリビングに入ると床に空になった瓶が転がっていたり、灰皿にタバコの吸い殻が山のようになっていたりと悲惨な状態だった。
潔癖症とまでは行かないが、汚い部屋が嫌いなアヴァは顔を引きつらせる。

「男所帯なものでな…すまない」

顔を引きつらせたアヴァを見て、リゾットは申し訳なさそうに言った。

「し、仕方ないわよね。男所帯だったんだもの」

なるべくきれいな隅にスーツケースを置いて、リビングに入る。
革張りの少し大きめのソファに、ピンクブロンドの髪が垂れているのが見えた。
近づいて見ると、変わったアイマスクをした男が寝ている。
どこか見たことのあるような男の寝顔を眺めていると、リゾットに声をかけられた。

「チームのメンバーには夜が明けたら紹介する。それまでは部屋にいるなり好きにしてくれて構わない」

「わかったわ」

頷くと、シャワー室やアヴァの部屋の場所を教え、リゾットはリビングを出て自室であろう廊下の一番奥の部屋に入っていった。
アヴァは、好きにしろって言われたしと思いながら、パンツのポケットからタバコとライターを取り出してリビングの大きな窓へ向かい繋がっているテラスに出てタバコを吸い始める。

「アヴァ…？」

名前を呼ばれて振り向くと、さっきまでソファで寝ていたピンクブロンドの男が驚いたような顔をして起き上がり、アヴァを見ていた。

「アヴァ…アヴァなのか？」

男はソファから降りて確かめるようにアヴァの名前を呼ぶ。

「たしかに私はアヴァよ。でも、貴方の事は知らないわ。人違いじゃない？」

煙を吐いて男に言う。
すると、何かを諦めた様な表情で「そう、だな…人違いだ。」と言って背を向け、リビングを出て行った。

変わった人、そう思いながら置いてあった灰皿に短くなったタバコを押し付け新しいタバコに火をつけた