今回は
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ある人は、熱に侵されて見た懐かしい悪夢だと言った。
ある人は、近しい誰かの走馬灯だと言った。
ある人は、生まれたときから自分と共にあるものだと言った。
そして私は、よく出来た一人称映画のようだと思った。
前世の記憶が戻るタイミングは人それぞれだそうだ。思い出す程度も、それぞれ。私のようにある瞬間に全てを思い出した人もいれば、一部分だけの記憶をずっと持ち続けてきた人もいるらしい。
記憶が戻り以前の仲間達と再会してからというもの、私の日常は目まぐるしく回っていた。
極狭い世界の中で生きていた私の交友関係は一気に広がったし、思い返すことの出来る以前の情景は日に日に精度を増していく。彼らと会う回数を重ねる度に、那浜華がよりはっきりとした形を持って私の中に存在してきていた。それはそれで、今の私が薄れていくようでこわくもある。
これまでは家と大学を往復する毎日だったが、外へ出かける用事も増えた。前回の飲み会に来られなかった『不死身』のメンバーのうち何人かを交えてご飯に行ったり、アシリパさんや杉元さんがよく誘ってくれるのでたくさん遊びに行くようになった。
そして何より、イメージに反して尾形さんが行動的なのである。
いや、イメージに反してなんて言ってしまうと失礼かもしれないが、でもわかってほしい。あの尾形さんが、ほぼ毎週どこかへ連れて行ってくれるのだ。意外ですよね。意外じゃないですか?私は意外でした。先日もご飯に行ったアシリパさん杉元さん白石さんにその話をしたら、皆さん同様に目を丸めて意外だと言っていたので、やっぱりそういう認識で合ってるらしいです。
先週は少し遠くのショッピングモールへ車を出して連れて行ってくれたし、そのときにパスタが好きだという話をしたら今週は美味しいパスタ屋さんを紹介してくれると言う。尾形さんがパスタ屋さんに行ってるの想像出来ないんですけど……と正直に三人に打ち明けたところ(流石に本人には言えませんが)、白石さん曰く
「それはさあ、華ちゃんのために調べてくれるんだと思うけど」
「あ、そうなんですかね?」
「だってあの顔でパスタとか絶対食べないでしょ」
私もそう思ったとはいえ、そこまではっきり言い切られるとこちらが苦笑してしまう。私よりも今回の尾形さんと付き合いの長い二人も頷いていたので、本当にそうなのかもしれない。
私のためにお店を調べる尾形さんを想像しようとして、あまりにも想像がつかなくて諦めた。
「俺らはよく知ってるけど、尾形ちゃんって、華ちゃんのことが本当に大好きなんだよね」
なんでも尾形さんは小さい頃から前の記憶があって、ずっとかつてのメンバーを探していたのだという。かつてのメンバーというか、その中から私を見つけようとしていたらしい。
そこまでしてもらうだけの価値が、果たして私にあるのだろうか。とは、ついぞ最後まで聞けなかった。
そういえば、私は大学でアシリパさんに会ったとき全ての記憶が戻ってきたわけなんですが、そのおかげで思い出した人が身近に一人いたので、紹介したいと思います。
「……鯉登さん」
「ん?なんて?」
こちらは、元・鯉登少尉であり、現・私の友人です。
健康的な肌色も、レポート用紙とにらめっこして少し寄っている特徴的な眉毛も、逞しい手脚も間違いない。この人は、共に樺太を旅した鯉登音之進少尉殿だ。元だけど。
「なんでもないよ。レポート進んだ?」
「あと一息だ」
彼には、前世の記憶が無い。私の記憶がアシリパさんと会うまで戻らなかったように、彼の記憶も私からは得られないらしい。今は私が一方的に覚えている状態だ。
思い出した方がいいのかどうかは、その人による。少し寂しいけれど。
彼とは今回の苗字が近く、何かと接点が多かったので入学後最初に仲良くなった男子だった。学部は違えど結構仲良しで、こうして一緒にレポートをやったりもするし、先日は剣道部の試合があると言うので応援に行ってきた。一年生なのに、素人の私にもわかるくらい強かった。
「この後は授業か?」
「うん。今日は次で終わりでね、そのあとバイトの面接に行くの」
「バイト?意外だな」
「なにが?」
「お前はサークルにも入っていないし、勉強第一なんだと思っていた」
確かに勉強は大切だと思うけど、サークルに入らなかったのは中高の強制部活動に飽き飽きしていたからだ。私は遊ぶお金くらい自分で稼げたらと思うし、いつまでも尾形さんをはじめとする大人社会人組に払っていただくのも申し訳ない。人生経験としてもアルバイトはしてみたかった。
それに、すごく素敵なお店を見つけてしまったのだ。丁度アルバイトを募集しているとのことだったので、勢いそのままに面接までこぎつけた。いいところだから今度一緒に行こうねと誘えば、面接に受かったら遊びに行くと言うので、落ちても行こうよと笑った。
「ところでさ、出身って鹿児島だっけ」
「ああ」
「結構標準語だよね」
「気を付けてるからな」
「へえ」
そういえば元の少尉も基本的には標準語だったな。鹿児島弁、薩摩弁?は独特だというし、通じないことがあるんだろう。実際以前耳にした彼の早口薩摩弁は本当に何を言っているかわからなかった。無理ゲーだった。
……彼も、いつか何かの拍子に思い出すのかもしれない。それか、一生思い出すことはないのかもしれない。どちらへ転ぶかはわからないけれど、私は、今回の気兼ねない関係が結構気に入っている。
「私達さ、友達だよね」
「ん? ああ」
「これからも仲良くしてね」
彼に記憶が戻ることで、この関係が変わってしまうのは嫌だった。今回の彼は気さくで優秀でいつも人気者だけれど、私にとっては数少ない友人なのだ。
「お前は時々突拍子もないことを言うよな」
「えっ、ごめん」
「いや別に構わないが」
今まで話しながらも休まず動いていたペン先が止まり、きょとんとした表情で顔を上げた彼が「そうだな、うん、」と口の中で呟いたのがギリギリこちらまで届いてくる。
「こちらこそ、これからもよろしく頼む」
叶うのならば今回は、このやわらかな関係が続くことを。
ある人は、近しい誰かの走馬灯だと言った。
ある人は、生まれたときから自分と共にあるものだと言った。
そして私は、よく出来た一人称映画のようだと思った。
前世の記憶が戻るタイミングは人それぞれだそうだ。思い出す程度も、それぞれ。私のようにある瞬間に全てを思い出した人もいれば、一部分だけの記憶をずっと持ち続けてきた人もいるらしい。
記憶が戻り以前の仲間達と再会してからというもの、私の日常は目まぐるしく回っていた。
極狭い世界の中で生きていた私の交友関係は一気に広がったし、思い返すことの出来る以前の情景は日に日に精度を増していく。彼らと会う回数を重ねる度に、那浜華がよりはっきりとした形を持って私の中に存在してきていた。それはそれで、今の私が薄れていくようでこわくもある。
これまでは家と大学を往復する毎日だったが、外へ出かける用事も増えた。前回の飲み会に来られなかった『不死身』のメンバーのうち何人かを交えてご飯に行ったり、アシリパさんや杉元さんがよく誘ってくれるのでたくさん遊びに行くようになった。
そして何より、イメージに反して尾形さんが行動的なのである。
いや、イメージに反してなんて言ってしまうと失礼かもしれないが、でもわかってほしい。あの尾形さんが、ほぼ毎週どこかへ連れて行ってくれるのだ。意外ですよね。意外じゃないですか?私は意外でした。先日もご飯に行ったアシリパさん杉元さん白石さんにその話をしたら、皆さん同様に目を丸めて意外だと言っていたので、やっぱりそういう認識で合ってるらしいです。
先週は少し遠くのショッピングモールへ車を出して連れて行ってくれたし、そのときにパスタが好きだという話をしたら今週は美味しいパスタ屋さんを紹介してくれると言う。尾形さんがパスタ屋さんに行ってるの想像出来ないんですけど……と正直に三人に打ち明けたところ(流石に本人には言えませんが)、白石さん曰く
「それはさあ、華ちゃんのために調べてくれるんだと思うけど」
「あ、そうなんですかね?」
「だってあの顔でパスタとか絶対食べないでしょ」
私もそう思ったとはいえ、そこまではっきり言い切られるとこちらが苦笑してしまう。私よりも今回の尾形さんと付き合いの長い二人も頷いていたので、本当にそうなのかもしれない。
私のためにお店を調べる尾形さんを想像しようとして、あまりにも想像がつかなくて諦めた。
「俺らはよく知ってるけど、尾形ちゃんって、華ちゃんのことが本当に大好きなんだよね」
なんでも尾形さんは小さい頃から前の記憶があって、ずっとかつてのメンバーを探していたのだという。かつてのメンバーというか、その中から私を見つけようとしていたらしい。
そこまでしてもらうだけの価値が、果たして私にあるのだろうか。とは、ついぞ最後まで聞けなかった。
そういえば、私は大学でアシリパさんに会ったとき全ての記憶が戻ってきたわけなんですが、そのおかげで思い出した人が身近に一人いたので、紹介したいと思います。
「……鯉登さん」
「ん?なんて?」
こちらは、元・鯉登少尉であり、現・私の友人です。
健康的な肌色も、レポート用紙とにらめっこして少し寄っている特徴的な眉毛も、逞しい手脚も間違いない。この人は、共に樺太を旅した鯉登音之進少尉殿だ。元だけど。
「なんでもないよ。レポート進んだ?」
「あと一息だ」
彼には、前世の記憶が無い。私の記憶がアシリパさんと会うまで戻らなかったように、彼の記憶も私からは得られないらしい。今は私が一方的に覚えている状態だ。
思い出した方がいいのかどうかは、その人による。少し寂しいけれど。
彼とは今回の苗字が近く、何かと接点が多かったので入学後最初に仲良くなった男子だった。学部は違えど結構仲良しで、こうして一緒にレポートをやったりもするし、先日は剣道部の試合があると言うので応援に行ってきた。一年生なのに、素人の私にもわかるくらい強かった。
「この後は授業か?」
「うん。今日は次で終わりでね、そのあとバイトの面接に行くの」
「バイト?意外だな」
「なにが?」
「お前はサークルにも入っていないし、勉強第一なんだと思っていた」
確かに勉強は大切だと思うけど、サークルに入らなかったのは中高の強制部活動に飽き飽きしていたからだ。私は遊ぶお金くらい自分で稼げたらと思うし、いつまでも尾形さんをはじめとする大人社会人組に払っていただくのも申し訳ない。人生経験としてもアルバイトはしてみたかった。
それに、すごく素敵なお店を見つけてしまったのだ。丁度アルバイトを募集しているとのことだったので、勢いそのままに面接までこぎつけた。いいところだから今度一緒に行こうねと誘えば、面接に受かったら遊びに行くと言うので、落ちても行こうよと笑った。
「ところでさ、出身って鹿児島だっけ」
「ああ」
「結構標準語だよね」
「気を付けてるからな」
「へえ」
そういえば元の少尉も基本的には標準語だったな。鹿児島弁、薩摩弁?は独特だというし、通じないことがあるんだろう。実際以前耳にした彼の早口薩摩弁は本当に何を言っているかわからなかった。無理ゲーだった。
……彼も、いつか何かの拍子に思い出すのかもしれない。それか、一生思い出すことはないのかもしれない。どちらへ転ぶかはわからないけれど、私は、今回の気兼ねない関係が結構気に入っている。
「私達さ、友達だよね」
「ん? ああ」
「これからも仲良くしてね」
彼に記憶が戻ることで、この関係が変わってしまうのは嫌だった。今回の彼は気さくで優秀でいつも人気者だけれど、私にとっては数少ない友人なのだ。
「お前は時々突拍子もないことを言うよな」
「えっ、ごめん」
「いや別に構わないが」
今まで話しながらも休まず動いていたペン先が止まり、きょとんとした表情で顔を上げた彼が「そうだな、うん、」と口の中で呟いたのがギリギリこちらまで届いてくる。
「こちらこそ、これからもよろしく頼む」
叶うのならば今回は、このやわらかな関係が続くことを。