今回は
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「北海道はァ!!変わってしまった!!!」
突然上がった大声に肩がこわばる。びっ……くりしたあ。出処である左隣を見ると、アシリパさんがどこか虚ろな目をしていた。
え、大丈夫?酔ってる?
「声でっか……ってアシリパさんそれオレンジジュースじゃなくね!?」
「あ~っ俺のファジ~~!!」
「紛らわしいもん頼んでんじゃねーよシライシ!おっさんはビール飲んどけ!」
「えぇ~?」
「北海道はァァ~~!!」
遂に立ち上がり熱弁を始めたアシリパさんを、向かいに座る杉元さんが宥めている。うん、落ち着いてね。周りのお客さんの迷惑にね、なっちゃうからね。
「ファジーって?カクテルですか?」
「ファジーネーブル。桃のリキュールにオレンジジュースだな」
「あ、美味しそうですね」
「頼むか?飲んでみろよ」
「いえ。未成年なので」
右隣から良からぬ誘いを持ちかける尾形さんにびしっ!と手のひらを向ける。にやにやするんじゃありません。飲みませんよ。
同級生の中には飲み会で飲酒している人もいるが、私はこれまでにも飲んだことが無いのでちまちまとカルピスをすすった。カルピスでも充分おいしい。飲み会ではいつも料理を楽しんでいる。
というか、アシリパさんも同い年なんだけどなあ……まあ事故だからしょうがないか。白石さんのせいなんだな、きっと。
「飲まなくてもいいが、ちったあ勉強しとけよ。失敗する前に」
「それは、もう、ほんとに、そう思います」
「甘くても度数の強いカクテルとかあるからな」
斜め向かい、尾形さんの向かいに座る谷垣さんが飲んでいるのは確かハイボールというお酒だ。見た目はお茶みたいだけど、立派なアルコールだというのだから恐ろしい。
尾形さんに至っては始めからずっと日本酒を飲んでいる。これは学校関係の知り合いで飲む人はほぼいない。飲んでる人の横で言うのもなんだけど、匂いだけで既に美味しくなさそうだった。大人っぽいなあ、と思う自分が子供っぽい。
まだ飲んだことがないから、自分にどのくらい耐性があるのかわからない。お酒の種類もよく知らないし、初めて飲んで泥酔して……なんて事態は避けたい。
「お前誕生日いつだ。来年成人したら飲みに連れてってやるよ」
「え、ほんとですか?」
「何かやらかしても、相手が俺なら問題ねえだろ」
いや問題なくはないですけど……まあ同い年の友達よりは幾分安心だ。大人だし。
「じゃあ、お願いします」
「他の予定入れんなよ」
「はい。楽しみです」
またにやにやしている尾形さんを見て、絶対に何もやらかさないようにしようと心に決めた。
来年の約束、か。
「ね~え~!尾形ちゃんばっかり華ちゃんと話しててズ~ル~イ~!」
「尾形てめぇ華さん独り占めすんなよ」
「うるせぇな。いいだろ俺のなんだから」
「なんだと!!華はみんなの華だぞ!!!」
「アシリパさん声おっきい~」
「みんなの華だろ谷垣ィ!!!」
「えっ俺?」
一歩引いていたはずの谷垣さんがアシリパさんに巻き込まれ、大分出来上がっている白石さんに絡まれる。そこへ杉元さんも加勢しアシリパさんは更に声高く演説を始めた。尾形さんはやっぱり静かにお酒を飲んでいるけれど、心做しか口元が緩んでいる気がする。
ふと、楽しそうだな、と思った。
あの時代を駆け抜けた仲間達が、"前"の私が……見送ってきた仲間達が、和やかに笑い合っている。なんて幸せな光景だろう。他愛のない会話を重ね、美味しいご飯を楽しんで、大きな不安も危険もなく……
何より、ここにいる。気兼ねなく未来の約束を交わせる世に。私の大切な人たちは、息をしてこの世を生きている。
「オイ」
ああ、つい考え込んでしまった。尾形さんの声ではっと我に返る。
「泣いてるのか」
「え?」
振り返った先、尾形さんがあまりにもびっくりした顔をしているから、こちらまでびっくりしてしまった。
あれ、そうか私、泣いていたのか。いつの間に。
「いや、あの、えーっと、これはですね」
「ぉわあっ華ちゃんどうしたの!?」
「大丈夫か!?」
「華!?どうした腹でも痛いのか!?」
「尾形ァ……てめぇ華さんに何しやがった」
「……」
「わー!違うんです違うんです!これはなんかその、」
なんかその、なんだろう。
悲しいわけじゃないけれど、"前"もこうなら良かったのにとは思う。勿論嬉しいけれど、手放しで喜ぶには、"前"の私が邪魔をする。
一斉にこちらを覗き込む心配そうな面々を見渡して、思うのは。そうだな、とりあえず。
「ただ、幸せだなあって」
右から伸びてきた腕がゆっくりと頭を撫でた。杉元さんのそれよりも幾分強く、けれど何倍も優しく。その不器用さにまた幸せを感じて、泣きながら笑った。
突然上がった大声に肩がこわばる。びっ……くりしたあ。出処である左隣を見ると、アシリパさんがどこか虚ろな目をしていた。
え、大丈夫?酔ってる?
「声でっか……ってアシリパさんそれオレンジジュースじゃなくね!?」
「あ~っ俺のファジ~~!!」
「紛らわしいもん頼んでんじゃねーよシライシ!おっさんはビール飲んどけ!」
「えぇ~?」
「北海道はァァ~~!!」
遂に立ち上がり熱弁を始めたアシリパさんを、向かいに座る杉元さんが宥めている。うん、落ち着いてね。周りのお客さんの迷惑にね、なっちゃうからね。
「ファジーって?カクテルですか?」
「ファジーネーブル。桃のリキュールにオレンジジュースだな」
「あ、美味しそうですね」
「頼むか?飲んでみろよ」
「いえ。未成年なので」
右隣から良からぬ誘いを持ちかける尾形さんにびしっ!と手のひらを向ける。にやにやするんじゃありません。飲みませんよ。
同級生の中には飲み会で飲酒している人もいるが、私はこれまでにも飲んだことが無いのでちまちまとカルピスをすすった。カルピスでも充分おいしい。飲み会ではいつも料理を楽しんでいる。
というか、アシリパさんも同い年なんだけどなあ……まあ事故だからしょうがないか。白石さんのせいなんだな、きっと。
「飲まなくてもいいが、ちったあ勉強しとけよ。失敗する前に」
「それは、もう、ほんとに、そう思います」
「甘くても度数の強いカクテルとかあるからな」
斜め向かい、尾形さんの向かいに座る谷垣さんが飲んでいるのは確かハイボールというお酒だ。見た目はお茶みたいだけど、立派なアルコールだというのだから恐ろしい。
尾形さんに至っては始めからずっと日本酒を飲んでいる。これは学校関係の知り合いで飲む人はほぼいない。飲んでる人の横で言うのもなんだけど、匂いだけで既に美味しくなさそうだった。大人っぽいなあ、と思う自分が子供っぽい。
まだ飲んだことがないから、自分にどのくらい耐性があるのかわからない。お酒の種類もよく知らないし、初めて飲んで泥酔して……なんて事態は避けたい。
「お前誕生日いつだ。来年成人したら飲みに連れてってやるよ」
「え、ほんとですか?」
「何かやらかしても、相手が俺なら問題ねえだろ」
いや問題なくはないですけど……まあ同い年の友達よりは幾分安心だ。大人だし。
「じゃあ、お願いします」
「他の予定入れんなよ」
「はい。楽しみです」
またにやにやしている尾形さんを見て、絶対に何もやらかさないようにしようと心に決めた。
来年の約束、か。
「ね~え~!尾形ちゃんばっかり華ちゃんと話しててズ~ル~イ~!」
「尾形てめぇ華さん独り占めすんなよ」
「うるせぇな。いいだろ俺のなんだから」
「なんだと!!華はみんなの華だぞ!!!」
「アシリパさん声おっきい~」
「みんなの華だろ谷垣ィ!!!」
「えっ俺?」
一歩引いていたはずの谷垣さんがアシリパさんに巻き込まれ、大分出来上がっている白石さんに絡まれる。そこへ杉元さんも加勢しアシリパさんは更に声高く演説を始めた。尾形さんはやっぱり静かにお酒を飲んでいるけれど、心做しか口元が緩んでいる気がする。
ふと、楽しそうだな、と思った。
あの時代を駆け抜けた仲間達が、"前"の私が……見送ってきた仲間達が、和やかに笑い合っている。なんて幸せな光景だろう。他愛のない会話を重ね、美味しいご飯を楽しんで、大きな不安も危険もなく……
何より、ここにいる。気兼ねなく未来の約束を交わせる世に。私の大切な人たちは、息をしてこの世を生きている。
「オイ」
ああ、つい考え込んでしまった。尾形さんの声ではっと我に返る。
「泣いてるのか」
「え?」
振り返った先、尾形さんがあまりにもびっくりした顔をしているから、こちらまでびっくりしてしまった。
あれ、そうか私、泣いていたのか。いつの間に。
「いや、あの、えーっと、これはですね」
「ぉわあっ華ちゃんどうしたの!?」
「大丈夫か!?」
「華!?どうした腹でも痛いのか!?」
「尾形ァ……てめぇ華さんに何しやがった」
「……」
「わー!違うんです違うんです!これはなんかその、」
なんかその、なんだろう。
悲しいわけじゃないけれど、"前"もこうなら良かったのにとは思う。勿論嬉しいけれど、手放しで喜ぶには、"前"の私が邪魔をする。
一斉にこちらを覗き込む心配そうな面々を見渡して、思うのは。そうだな、とりあえず。
「ただ、幸せだなあって」
右から伸びてきた腕がゆっくりと頭を撫でた。杉元さんのそれよりも幾分強く、けれど何倍も優しく。その不器用さにまた幸せを感じて、泣きながら笑った。