今回は
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「あの、尾形さん……?」
気がつくと逞しい腕に抱かれていた。懐かしさにパンクしそうになる。自分の深い深いところから、いろんなものが溢れてくる。
アシリパさんとの集合場所へ向かうと、そこには何故か尾形さんがいて、心臓が止まるかと思った。
懐かしさやら、愛しさやら、恐ろしさやら、少しの怒りやら、とぐろを巻く感情の渦に自分という存在が吸い込まれていくようだった。久しぶり、とか、どうしてここに、とか、沢山言うべきことがあったと思う。だけどどれも声にはならず、驚いて固まった足のせいで生まれた微妙な空白を挟んで、数秒見つめあった。目がそらせない。いつもは憎たらしいほどポーカーフェイスのくせに、山ほどの感情を雄弁に湛えた目が、私を見ている。
先に動いたのはあちらだった。
大きな一歩で距離をつめてくる。蛇に睨まれた蛙の気分だ。こわばった身体はぴくりとも動かせない。一歩、また一歩。あっという間に目の前に立ったと思ったら、次の瞬間抱きしめられた。一瞬呼吸を忘れる。
相変わらずよく鍛えられた身体で驚いた。まさか今世でまで軍人でもなかろうに。とてもあたたかくて、熱い。鼻の奥がツンとする。漸く我に返り、小さくとも抗議の声を上げる。
「ここ、外……学校なので、あの……苦しいし……聞いてますか?」
「やめろ尾形。華が困ってる」
私と同様呆けていたのだろうアシリパさんが助け舟を出してくれる。しかし腕は緩むどころがかえって圧が増した。まるで絶対に離さないというように。ちょっと、まじで、苦しい。
なんとか動く手でとんとんと叩いてギブアップの意を示す。ほんの少しだけ緩んだ気がするけれど、それでも始めより幾分強いままだ。
頭の上で、喉がうなった。ともすれば聞き間違いかと思うほどかすかなその声は、あんなに長く過ごした前世でも聞いたことがないほど弱々しい。
「すまなかった」
……それは、一体、何に対して?
今こうしていること?それとも、もっとずっと前のこと?
私を残していったこと?
すうっと、何かが引いていく。風に巻かれた枯葉が地面に落ちるように、ゆっくり、静かに。本来のあるべき場所へと帰るように。
「尾形さん、顔を見せてください」
努めて優しい声音を出す。
ややあって、私と彼の身体が漸く少し離れた。まだ腕は巻き付いたままだ。目線よりもずいぶん上にある顔を見つめる。髪型は見慣れたオールバックだけれど、両顎にあったはずの傷はない。思わず見えない手術跡をなぞった。くすぐったそうに目を細め、それでも深い黒の瞳は私を離さない。
数多の感情を塗り重ね濁り、限りなく闇に近い黒となった目が、何故だか今にも泣き出しそうに見えた。
「見つけてくれて、ありがとうございます」
「……遅くなった」
待っていました、ずっと。前の私も、今の私が生まれてからも、ずっと。嘘じゃない。私が海を越えてこの土地へたどり着いたのは、きっとあなたに会うためだ。あなたに会うために、また生まれてきたのだと。
たとえどれ程疎まれようと、憎まれようと、それでも傍にいると決めたのだ。そう誓ったのは以前の私だけれど、今の私も、幸い心変わりはないらしい。尾形さん、ともう一度名前を呼べば、腰に巻かれた腕に力がこもる。
「以前はっきりと言葉にしたことはありませんでした。でも今回は、言わせてください」
“前回”のような障害は、きっともうないだろう。あったとしても、今の私なら臆さない。逃げる方が余程辛いものだと思い知っている。
「私、尾形さんのことが好きです」
そのポーカーフェイスを一日に二度も崩せるのは、私だけだと自惚れてもいいだろうか。
気がつくと逞しい腕に抱かれていた。懐かしさにパンクしそうになる。自分の深い深いところから、いろんなものが溢れてくる。
アシリパさんとの集合場所へ向かうと、そこには何故か尾形さんがいて、心臓が止まるかと思った。
懐かしさやら、愛しさやら、恐ろしさやら、少しの怒りやら、とぐろを巻く感情の渦に自分という存在が吸い込まれていくようだった。久しぶり、とか、どうしてここに、とか、沢山言うべきことがあったと思う。だけどどれも声にはならず、驚いて固まった足のせいで生まれた微妙な空白を挟んで、数秒見つめあった。目がそらせない。いつもは憎たらしいほどポーカーフェイスのくせに、山ほどの感情を雄弁に湛えた目が、私を見ている。
先に動いたのはあちらだった。
大きな一歩で距離をつめてくる。蛇に睨まれた蛙の気分だ。こわばった身体はぴくりとも動かせない。一歩、また一歩。あっという間に目の前に立ったと思ったら、次の瞬間抱きしめられた。一瞬呼吸を忘れる。
相変わらずよく鍛えられた身体で驚いた。まさか今世でまで軍人でもなかろうに。とてもあたたかくて、熱い。鼻の奥がツンとする。漸く我に返り、小さくとも抗議の声を上げる。
「ここ、外……学校なので、あの……苦しいし……聞いてますか?」
「やめろ尾形。華が困ってる」
私と同様呆けていたのだろうアシリパさんが助け舟を出してくれる。しかし腕は緩むどころがかえって圧が増した。まるで絶対に離さないというように。ちょっと、まじで、苦しい。
なんとか動く手でとんとんと叩いてギブアップの意を示す。ほんの少しだけ緩んだ気がするけれど、それでも始めより幾分強いままだ。
頭の上で、喉がうなった。ともすれば聞き間違いかと思うほどかすかなその声は、あんなに長く過ごした前世でも聞いたことがないほど弱々しい。
「すまなかった」
……それは、一体、何に対して?
今こうしていること?それとも、もっとずっと前のこと?
私を残していったこと?
すうっと、何かが引いていく。風に巻かれた枯葉が地面に落ちるように、ゆっくり、静かに。本来のあるべき場所へと帰るように。
「尾形さん、顔を見せてください」
努めて優しい声音を出す。
ややあって、私と彼の身体が漸く少し離れた。まだ腕は巻き付いたままだ。目線よりもずいぶん上にある顔を見つめる。髪型は見慣れたオールバックだけれど、両顎にあったはずの傷はない。思わず見えない手術跡をなぞった。くすぐったそうに目を細め、それでも深い黒の瞳は私を離さない。
数多の感情を塗り重ね濁り、限りなく闇に近い黒となった目が、何故だか今にも泣き出しそうに見えた。
「見つけてくれて、ありがとうございます」
「……遅くなった」
待っていました、ずっと。前の私も、今の私が生まれてからも、ずっと。嘘じゃない。私が海を越えてこの土地へたどり着いたのは、きっとあなたに会うためだ。あなたに会うために、また生まれてきたのだと。
たとえどれ程疎まれようと、憎まれようと、それでも傍にいると決めたのだ。そう誓ったのは以前の私だけれど、今の私も、幸い心変わりはないらしい。尾形さん、ともう一度名前を呼べば、腰に巻かれた腕に力がこもる。
「以前はっきりと言葉にしたことはありませんでした。でも今回は、言わせてください」
“前回”のような障害は、きっともうないだろう。あったとしても、今の私なら臆さない。逃げる方が余程辛いものだと思い知っている。
「私、尾形さんのことが好きです」
そのポーカーフェイスを一日に二度も崩せるのは、私だけだと自惚れてもいいだろうか。
「いやていうかそういえば、尾形さんなんでいるんですか?」
「お前がLINE無視するからアシリパに連絡とったんだよ」
「LINE?……ぅわっ通知50件!?」
「お前が無視するから」
「いや授業中でスマホ見てなかっただけで……にしても90分で50件行きます!?」
「尾形……やりすぎだ」
「こいつが無視するから」
「相手によっては犯罪だぞ」
「私だからいいですけど……」
「お前以外にやってどうすんだよ」
「お前がLINE無視するからアシリパに連絡とったんだよ」
「LINE?……ぅわっ通知50件!?」
「お前が無視するから」
「いや授業中でスマホ見てなかっただけで……にしても90分で50件行きます!?」
「尾形……やりすぎだ」
「こいつが無視するから」
「相手によっては犯罪だぞ」
「私だからいいですけど……」
「お前以外にやってどうすんだよ」