今回は
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縁もゆかりも無い北海道に進学しようと決めたのは、北海道が大好きだからだ。地元の友達にそんな話をすると、「行ったこともないくせに」と決まっておかしそうに笑われた。
確かに行ったことはない。無いんだけど、行ったこともない北海道のことを考えると、テレビや雑誌、SNSで北海道の風景を見かけると、言いようのない懐かしさを感じるのだ。不思議だけど、実は住んでたことがあるんじゃないかと思うほどに。昔から何度も両親に尋ねているが、やはりそんな事実はない。都道府県魅力度第一位の所以はこういうところにあるのかもしれない。
実家から通える大学でいいじゃないか、どうしてまた北海道なんて遠いところに!と否定的な両親を説得するため、全国的に有名な札幌の国立大を受けると決めた。そもそも高校卒業後は一人暮らしをしたかったし、近くの私立と遠くの国立なら、後者の方が両親の負担は少ない。何よりこの学歴社会だ。一つでも上の大学に進んだ方がいいに決まってる。そう熱弁を重ね、一人娘と離れる寂しさを訴える両親をなんとか説得し、必死に勉強して、何とか合格へと至った。
入学後、こんな経緯を道民の同級生に話すと、みんなどこか喜んでくれた。北海道に住む人は、北海道のことが好きで住んでいる人が多いと思う。住んでみて尚思うが、やっぱりここは素敵な土地だ。入学して二ヶ月ほど経った今、私は大満足の学生生活を送っていた。
「……華?」
お昼休みの食堂で、名前を呼ばれる。華、なんて名前は知らない。そのはずなのに、ハッキリと自分が呼ばれたと思った私は声の出処へ顔を上げた。
「華!私だ!」
綺麗な女の子だ。やはり私の顔を見て、私を「華」と呼んでいる。変だなあ、私の名前とはかすりもしないのに。なのに自分が呼ばれたと思った私も、相当変だ。
駆け寄ってきて尚「名前」を呼ぶ彼女の、およそ見慣れた日本人のそれとは思えない深い青の瞳を、ぼうっと見つめる。きれい。吸い込まれるみたい。
おかしいな。私、この子のこと、知らない。でもこの目は、知ってる気がする。
「覚えていないか……!?」
「……アシリパさん?」
すっと、口が動いた。何度も何度も呼び慣れた名前を呼ぶように。
「! そうだ、華!アシリパだ!」
「アシリパさん……」
そんな名前も、知らない。いや、知ってる。よく知ってる。知らないのに、知ってる。毎日呼んでいた、気がする。とても、大切な、
「……えっと」
「華、覚えているか?」
頭が、痛い。
私の様子がおかしいと気付いた「アシリパさん」が、声のトーンを落としてこちらを窺い見る。一緒に昼食を摂っていた友人達も、心配そうに声をかけてくれて、その声が、すごく遠くに聞こえた。
頭が痛い。
視界が眩んで、その中に色んな映像が浮かんでは消える。声が、響く。白い雪原。私を呼ぶ声。暖かい掌。懐かしい顔触れ。劈く痛み。逞しい温もり。焚き火の明かり。松ヤニの匂い。仲間たち。
「アシリパさん……」
「大丈夫か?華?」
「……背、伸びた?」
那浜華が、生き返った。
確かに行ったことはない。無いんだけど、行ったこともない北海道のことを考えると、テレビや雑誌、SNSで北海道の風景を見かけると、言いようのない懐かしさを感じるのだ。不思議だけど、実は住んでたことがあるんじゃないかと思うほどに。昔から何度も両親に尋ねているが、やはりそんな事実はない。都道府県魅力度第一位の所以はこういうところにあるのかもしれない。
実家から通える大学でいいじゃないか、どうしてまた北海道なんて遠いところに!と否定的な両親を説得するため、全国的に有名な札幌の国立大を受けると決めた。そもそも高校卒業後は一人暮らしをしたかったし、近くの私立と遠くの国立なら、後者の方が両親の負担は少ない。何よりこの学歴社会だ。一つでも上の大学に進んだ方がいいに決まってる。そう熱弁を重ね、一人娘と離れる寂しさを訴える両親をなんとか説得し、必死に勉強して、何とか合格へと至った。
入学後、こんな経緯を道民の同級生に話すと、みんなどこか喜んでくれた。北海道に住む人は、北海道のことが好きで住んでいる人が多いと思う。住んでみて尚思うが、やっぱりここは素敵な土地だ。入学して二ヶ月ほど経った今、私は大満足の学生生活を送っていた。
「……華?」
お昼休みの食堂で、名前を呼ばれる。華、なんて名前は知らない。そのはずなのに、ハッキリと自分が呼ばれたと思った私は声の出処へ顔を上げた。
「華!私だ!」
綺麗な女の子だ。やはり私の顔を見て、私を「華」と呼んでいる。変だなあ、私の名前とはかすりもしないのに。なのに自分が呼ばれたと思った私も、相当変だ。
駆け寄ってきて尚「名前」を呼ぶ彼女の、およそ見慣れた日本人のそれとは思えない深い青の瞳を、ぼうっと見つめる。きれい。吸い込まれるみたい。
おかしいな。私、この子のこと、知らない。でもこの目は、知ってる気がする。
「覚えていないか……!?」
「……アシリパさん?」
すっと、口が動いた。何度も何度も呼び慣れた名前を呼ぶように。
「! そうだ、華!アシリパだ!」
「アシリパさん……」
そんな名前も、知らない。いや、知ってる。よく知ってる。知らないのに、知ってる。毎日呼んでいた、気がする。とても、大切な、
「……えっと」
「華、覚えているか?」
頭が、痛い。
私の様子がおかしいと気付いた「アシリパさん」が、声のトーンを落としてこちらを窺い見る。一緒に昼食を摂っていた友人達も、心配そうに声をかけてくれて、その声が、すごく遠くに聞こえた。
頭が痛い。
視界が眩んで、その中に色んな映像が浮かんでは消える。声が、響く。白い雪原。私を呼ぶ声。暖かい掌。懐かしい顔触れ。劈く痛み。逞しい温もり。焚き火の明かり。松ヤニの匂い。仲間たち。
「アシリパさん……」
「大丈夫か?華?」
「……背、伸びた?」
那浜華が、生き返った。
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