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旅人の話


拝啓 フユヅタ先生

 手紙を書き始めてみたはいいのですが、僕は先生があの日何処へ行ってしまったのか、今何処にいるのか、これから何処へ行くつもりなのか、未だに見当がつきません。
 確かな住所を持たない先生宛に、この手紙を送るすべはないし、何かの奇跡で届いたとしても、きっと先生は口元で笑い、それきりお返事はくれないのでしょう。
 だからこの手紙は僕の自己満足で一杯です。思い返せば夢にも似たあの1年に満たぬ日常を、記憶するだけでは心許なくなって、忘れるのが惜しくなって、ここに書き出そうとしているわけですから。
 どうか笑わないでください。…いいえ、笑ってくれて構いません。先生が、ほんのいっときでも暮らしていた僕の町の情景を、何百何千ページある旅の記憶のその1ページに留めておいてさえくれるのなら、それだけで僕は幸せです。


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