1-1 邂逅
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「…早く…」
「なんですか?」
ほぼ1日中眠り続けているさやぎがうわ言を言うたび声をかけるが、なかなか目覚める気配がない。うわ言も日本語の時もあれば外国語やはっきりしない何かの時もあり、繋がりがあるのかないのか全くわからない。
「雨が、降ってるの?」
急にはっきりした言葉。
「降ってましたが、やみましたよ」
答えると、急に目が覚めたのか彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに怯えた表情に変わった。目が覚めて見知らぬ人物がそばにいたのだから当然だ。
彼女に外が見えるように、障子を少し開ける。
「おはようございます。私は的場静司と申します。月代さやぎさん、具合が悪いところはありませんか?」
「…」
怯えた表情のまま動かない。
「驚かせてすみません。ここは的場家の本邸です。約束の日にお迎えに行ったのですが、目を覚まされなかったのでそのまま来ていただきました」
「…」
「君には私の婚約者として今日からここで過ごしていただきますね」
「…」
何も答えないので勝手に話を進めておく。目覚めたばかりで混乱しているようだが、冷静になってゴネられても面倒なので、有無を言わせず決定事項として話す。
隻眼の容姿に怯えているのか、有無を言わせぬ態度に怯えているのか、この状況自体に怯えているのか。どうだとしても、怯えた目で見られるのには慣れているし、今更何とも思わない。
「どうして…?」
予想通りの質問がきた。もとより進んで縁談を受け入れてここにくることなどないだろうとは思ってはいた。
「一目惚れしましてね、というのは冗談で、君の力にとても興味があって、是非的場(うち)にと願い出たところ、月代家の方も快く承諾して下さったので」
騙しても仕方がないので本音を柔らかくして答える。
「どうして?」
また同じ事を問う。
「…どうして、水の音がするの?」
予想外の質問だった。何のことかわからず答えに詰まると、彼女は不安げに切羽詰まったように質問を重ねる。
「どうして、雨が降っていないのに、水の音がするの?」
「…雨が上がったばかりだから、雨樋を水が流れているんだと思いますよ」
質問の意図がわからないがとりあえず答える。そもそも水音など耳を澄ましてやっと聞こえる程度だ。
「…そうですか…雨の音ですか…」
どこかホッとしたようにつぶやいて、彼女はまた目を閉じてしまった。
「…お母さんの親戚ですか?」
数秒経ってから、再び目を開いて彼女が問う。
「ええ、そうですよ。ただ、聞いているとは思いますが、親戚として引き取ったのではなく、婚約者として結婚前に早めに来てもらったと思っていてください」
「……」
今まで以上に酷く怯えた顔をして布団をかぶろうとする。
「そんなに怯えなくても、逃げたり反抗したりしない限り手荒なことはしませんから」
裏を返せば、逃げたり反抗したりすれば容赦はしない、ということだ。
「草摩(そうま)の人みたいに…」
布団から顔の上半分だけ出して小さな声で問う姿が小動物を思わせる。
草摩というのは彼女の養母と実母の実家で、祓い屋の一族だが、現在は見える者がほとんどいないため事実上廃業している。
「的場一門は草摩のように力が弱くはない。だから何日も拘束して搾取するようなことはしませんよ」
苦痛を伴う術に数時間は拘束されるのだから、安心させるには不十分すぎるが事実だから仕方がない。
的場家に売られてきて、否が応でもここにいるしかない。家族なのか何なのかわからない人間や妖怪がうろつく屋敷内に閉じ込められて、突然の婚約、何を要求されるかわからない状況、息が詰まるどころの話ではないのだろう。
「なんですか?」
ほぼ1日中眠り続けているさやぎがうわ言を言うたび声をかけるが、なかなか目覚める気配がない。うわ言も日本語の時もあれば外国語やはっきりしない何かの時もあり、繋がりがあるのかないのか全くわからない。
「雨が、降ってるの?」
急にはっきりした言葉。
「降ってましたが、やみましたよ」
答えると、急に目が覚めたのか彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに怯えた表情に変わった。目が覚めて見知らぬ人物がそばにいたのだから当然だ。
彼女に外が見えるように、障子を少し開ける。
「おはようございます。私は的場静司と申します。月代さやぎさん、具合が悪いところはありませんか?」
「…」
怯えた表情のまま動かない。
「驚かせてすみません。ここは的場家の本邸です。約束の日にお迎えに行ったのですが、目を覚まされなかったのでそのまま来ていただきました」
「…」
「君には私の婚約者として今日からここで過ごしていただきますね」
「…」
何も答えないので勝手に話を進めておく。目覚めたばかりで混乱しているようだが、冷静になってゴネられても面倒なので、有無を言わせず決定事項として話す。
隻眼の容姿に怯えているのか、有無を言わせぬ態度に怯えているのか、この状況自体に怯えているのか。どうだとしても、怯えた目で見られるのには慣れているし、今更何とも思わない。
「どうして…?」
予想通りの質問がきた。もとより進んで縁談を受け入れてここにくることなどないだろうとは思ってはいた。
「一目惚れしましてね、というのは冗談で、君の力にとても興味があって、是非的場(うち)にと願い出たところ、月代家の方も快く承諾して下さったので」
騙しても仕方がないので本音を柔らかくして答える。
「どうして?」
また同じ事を問う。
「…どうして、水の音がするの?」
予想外の質問だった。何のことかわからず答えに詰まると、彼女は不安げに切羽詰まったように質問を重ねる。
「どうして、雨が降っていないのに、水の音がするの?」
「…雨が上がったばかりだから、雨樋を水が流れているんだと思いますよ」
質問の意図がわからないがとりあえず答える。そもそも水音など耳を澄ましてやっと聞こえる程度だ。
「…そうですか…雨の音ですか…」
どこかホッとしたようにつぶやいて、彼女はまた目を閉じてしまった。
「…お母さんの親戚ですか?」
数秒経ってから、再び目を開いて彼女が問う。
「ええ、そうですよ。ただ、聞いているとは思いますが、親戚として引き取ったのではなく、婚約者として結婚前に早めに来てもらったと思っていてください」
「……」
今まで以上に酷く怯えた顔をして布団をかぶろうとする。
「そんなに怯えなくても、逃げたり反抗したりしない限り手荒なことはしませんから」
裏を返せば、逃げたり反抗したりすれば容赦はしない、ということだ。
「草摩(そうま)の人みたいに…」
布団から顔の上半分だけ出して小さな声で問う姿が小動物を思わせる。
草摩というのは彼女の養母と実母の実家で、祓い屋の一族だが、現在は見える者がほとんどいないため事実上廃業している。
「的場一門は草摩のように力が弱くはない。だから何日も拘束して搾取するようなことはしませんよ」
苦痛を伴う術に数時間は拘束されるのだから、安心させるには不十分すぎるが事実だから仕方がない。
的場家に売られてきて、否が応でもここにいるしかない。家族なのか何なのかわからない人間や妖怪がうろつく屋敷内に閉じ込められて、突然の婚約、何を要求されるかわからない状況、息が詰まるどころの話ではないのだろう。