無い物ねだり
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期末試験の最終日でいつもより早く帰宅すると、2階から琴の音が響いていた。
この曲は、知らない。初めて聞く。
奏者は4人。
一人、押し手が弱い。斗の音が少し低い人がいる。
すくい爪が拍内で均一じゃない人がいる。
曲が終わって人の話し声がするけれど何を話しているのかは聞こえない。
リビングのテーブルに郵便物が置かれている。
厚みのある赤い封筒2通、箱3つ。全て私宛。
全て持って自室に入る。
鞄を置いて着替えてから、封筒を開いてみる。
1通目は妹から。
この時期に赤い封筒といえば、クリスマスカード。
可愛いキャラクターのクリスマスカードと小さな袋が入っている。
袋はクリスマスプレゼントらしい。
プレゼントは袋のままテーブルの上に置かれたミニツリーと聖家族の置物の横に置いて、カードは壁に立て掛けたボードに磁石で貼る。
2通目を開けようとしたところで、
「さやぎ、おかえりなさい。ちょっとよろしいですか?」
と扉の外から的場さんの声が聞こえた。足音が近づいて来ていたのはわかっていたけれど、部屋を訪ねてくるのは珍しい。
「はい」
封筒を置いて扉を開ける。
「今日は早かったんですね」
「期末試験の最終日だったので早かったです」
質問の意図が分からずそのまま答える。
「リビングに君宛の郵便物を置いていたようなのですが、受け取りましたか?」
的場さんは部屋の中に視線を向けて訊く。
「はい、勝手に持って来てしまいましたけど…」
「文也くんから何が届いたか、もう見ましたか?」
草摩文也くん、私の母方のいとこ。
「いえ、まだどちらも開けていませんけど、多分クリスマスカードとクリスマスプレゼントだと思います。毎年くれるから」
「へぇ、仲が良いんですね。草摩家とは基本的に没交渉なのかと思っていました」
「基本的に没交渉なんですが、何故かいとこは毎年クリスマスカードとプレゼントを送ってくれます。日本にいた時は、私は嫌われていると思っていたんですが」
「…見せていただいてもいいですか?」
「え?例年もらっていたものはもうないですけど、今年のものですか?」
「はい」
何故?と思いつつも特に断る理由もないので、テーブルから封筒を取って開く。
中にはやはりクリスマスカードが入っていた。
『Merry Christmas!久しぶりの日本の冬はどう?高校生活楽しんでる?オレは大学合格して少しゆったりしてるけど、共通テストも受けるからそろそろ本腰入れないとと思ってるところ…。プレゼントはいつも通り別で送ったよ。楽しいクリスマスになりますように!』
赤い表紙を開くと黒地に金色の星の箔押しと白いレーザーカットのクリスマスツリーがデザインされたカード。
手渡すと的場さんは、少し目を細めて丁寧にカードを眺める。
普通のカード、当たり障りのないメッセージに見えるけれど、何かあるのか?強いて言えば、いとこが進学するのがわかるくらいか。
「いつもこんなもんですか?」
カードを私に返して的場さんは訊く。
こんなもんってどんなもん?何年前のカードでも一字一句、絵の一つ一つを思い出せる私には、『こんなもん』がどの程度の類似性に使う言葉なのかわからない。そもそも字だって内容だって年齢と共に変わるものだし。
「1年に1回のことなのでなんとも…。最初にカードをくれた時いとこは8歳でしたが今は17歳です。28歳から37歳に比べて選ぶカードも字も内容も変化が大きいのではないでしょうか?」
「…ええ、まあ、そうでしょうけど」
微妙な返答。質問の意図を取り違えたか?
「…ちょっとした近況報告と定型の挨拶という意味なら、毎年そんな感じですけど。というか、クリスマスカードって大体そんなものじゃないでしょうか?」
「そういうものですか…」
いまいち煮え切らない返答。いとこの例年のカードと他の人のカードの使用単語や絵柄や配色の割合を分析して、今年のカードとの類似性を数値化して明示すべき?
「今年のカード貼ってあるけど見てみます?」
「いいですか?」
さっき妹のカードを貼ったボードを指すと、彼はボードの前に立ち顎に手を当てて眺めるけれど、さほどじっくり見ている様子はなく、視線はすぐにテーブルの上の郵送物に向けられた。
「見てもわかりませんでした」
ふふっと彼は軽く笑ってみせる。
いとこと妹のカード以外、ドイツ語かイタリア語だった。
なんとなくだけど、彼は何か別のことを気にしているように見えた。
「プレゼントは開けないんですか?」
「プレゼントはクリスマスの朝に開けます」
「そうですか」
「あ、毎年そんな感じと言いましたが、例年は『何々を贈ります』ってプレゼントの内容が書いてあったけど、今年はそれがないです」
「ほお…毎年どんなものを送りあっているんですか?」
「文也くんと?」
「はい、文也くんと」
「…去年は修学旅行のお土産で、熊が鮭を咥えているぬいぐるみのキーホルダーと小さな丸い瓶に入ったラベンダーの香水でした。私からは、ベーレンタッツェンという熊の手型のお菓子とカバンのゴミゴミしたのを取るベタベタが入ってるアミアミのボールです」
「……へえ…他には?」
今の説明がわからなかったのかな?3.5秒も間を置いてから返事が返ってきた。鞄を持たない人にはわからないか。
「一昨年はリップグロスとハンドクリームをもらったので、パンに塗るチョコレートとバターナイフを送りました。その前は修学旅行のお土産で木製の櫛と椿油をもらって、オリーブオイルと静電気防止ブレスレットを送りました」
「…熊と丸、塗る物、オイルと静電気対策…君の方はいつも食べ物と物品を送っているんですか?」
的場さんには、私のプレゼントの選定基準がわかったようだ。
「はい」
「何が送られてきたのかわからないなら、今年は何をおくるんですか?」
「んー…数日考えます」
高校生の男の子って、どんなものが欲しいんだろう?クラスメイトにでも訊いてみるか。
「そうですか」
何か気になることがあるのだろうか?何故文也くんにこだわるのかいまいちわからない。草摩家と何かあるのか?
「先程、文也くんに嫌われてると思っていたと言っていましたが、どうしてですか?」
ふと思い出したように訊かれた。
「んー…文也くんと会ったことは3回しかないんですが、3回目に会った時に怒らせてしまったので…」
「どうして怒らせてしまったんです?」
「んー…草摩家では妖怪が見えるかどうかより、草摩の目を持っているかどうかの方が重要視される傾向があるんですが、一族の子供を集めて草摩の目の能力試験みたいなものをする日があるんです。その時に、目の能力のある文也くんが6問正答で、目の能力のない私が文也くんと同じ能力試験で10問全問に正答したんです」
「それはそれは…」
納得したように的場さんは笑う。文也くんの気持ちがわかるのだろうか?
「それで『この子、実は目の能力があるのか?』ということを大人たちが議論し始めたので、『統計学的推論と論理的推論を組み合わせたら96%この答えになるとわかるのに、1時間もかけてどうして確率的に0%になっているものをわざわざ選ぶの?』と統計学的数値と組み合わせをそれぞれ提示して尋ねたら怒って出て行ってしまったんです」
「まあ彼の気持ちもわからなくはないですね…」
「純粋に疑問に思ったから訊いたんですが、人の気持ちがわからなくて、こういう失敗をしがちです」
「占いに頼るのは馬鹿馬鹿しいと思っているわけではないんですか?」
「『目』があるから頭を使わなくていいってことにはならないとは思っていますけど、人間の脳は無意識下でたくさんの情報処理を行なっているので、論理的思考だけが全てではないという認識です。その上で、無意識下から答えのみを引っ張ってくる直感と『草摩の目』で見ることの違いは何なのかと疑問に思ったから訊いたつもりでした。『目』を持たない私にはわからない感覚なので」
「なるほど」
納得したように頷く的場さんを他所に、私の思考は当時を鮮やかに映し出す。
微かに見える答えを『見よう』とした文也くん。
『目』の能力がなく、何も『見えない』私。
答えを外した文也くん。
答えを解き明かした私。
私が抱いた感情は、本当は疑問ではなく、羨望と呼ぶべきものなのかもしれない…。
「クリスマスプレゼントを送り合うようになったのはそれからどのくらい経ってからですか?」
的場さんの声で過去の追体験から思考を引き戻された。
「クリスマスプレゼントを送り合うようになったのはそれからどのくらい経ってからですか?」
思わず質問を繰り返してしまったが、彼はにこにこと黙って答えを促す。
「…私の元にプレゼントが届いたのは、能力試験から301日後です」
「301日…その年のクリスマスか…その時は何をもらったんですか?」
「友達と海に行った時のお土産らしいおみくじキーホルダーです」
「おみくじ…何というか…なかなかですね…」
「なかなか?」
「占いに頼るのが馬鹿馬鹿しいと言った相手におみくじキーホルダーを贈るというのは、なかなかにイヤミだなと」
馬鹿馬鹿しいとは言っていないけど。
「…あー…今言われて初めて気づきました。意図を汲んだり、イヤミを読み取ったりするのって苦手で…。おみくじキーホルダーは単に日本のお土産の定番なのかと思っていました」
「定番ではないと思いますが…」
「そうですか…日本人学校の小学校35人の中で2人同じもの持っていたので、その時は流行りなのかと思いましたが、帰国したら日本の駅や観光施設でよく見かけるし、オコジョ、龍の巻きついた剣、蓄光クローバーと並んで、『ザ・日本のお土産』なのか納得していたんですが」
「あはは…たしかに…どこにでもありますね、オコジョと龍の巻きついた剣と蓄光クローバーとおみくじ…。思えば修学旅行で買っているクラスメイトもいました…。ちなみにカードには何と?」
懐かしいのか面白いのか、笑いながら頷く的場さん。
「『メリークリスマス!学校でとび出すカードを作ったよ。夏に姉妹都市交流会でともだちと海に行ったおみやげだよ。貝を取ろうとしたけどわかめしか取れなかったからお店で買った。冬休みは宿題と家のしゅぎょうで大へんです。毎日さむいので、かぜひかないようにね。』」
「…なるほど…そうですね、私が間違っていたようです。小学生男子ですからね…女の子相手でも渡しやすく、男の子でも手に取りやすいからおみくじだったのでしょうね。君は何を贈ったんですか?」
「冬季休暇で帰国して東北に着いてから送ったので、ずんだポッキーと龍の巻きついた剣を送りました」
「細長いものと定番キーホルダー、ですね」
「はい」
「君は何と返事したんです?」
「『メリークリスマス!カード飛び出しておもしろかったよ。キーホルダーもありがとう。カバンの外に付けて行ったら結露して凍ったからカバン中に付けることにしたよ。毎日寒いけど、中は暑いから大変。宿題と修行頑張ってね。』」
今考えると、『修行頑張ってね』と龍の巻きついた剣を贈るって『なかなか』かも…?魔王も倒せそう。
「微笑ましい、ですね」
何か含みのある口調…。
この曲は、知らない。初めて聞く。
奏者は4人。
一人、押し手が弱い。斗の音が少し低い人がいる。
すくい爪が拍内で均一じゃない人がいる。
曲が終わって人の話し声がするけれど何を話しているのかは聞こえない。
リビングのテーブルに郵便物が置かれている。
厚みのある赤い封筒2通、箱3つ。全て私宛。
全て持って自室に入る。
鞄を置いて着替えてから、封筒を開いてみる。
1通目は妹から。
この時期に赤い封筒といえば、クリスマスカード。
可愛いキャラクターのクリスマスカードと小さな袋が入っている。
袋はクリスマスプレゼントらしい。
プレゼントは袋のままテーブルの上に置かれたミニツリーと聖家族の置物の横に置いて、カードは壁に立て掛けたボードに磁石で貼る。
2通目を開けようとしたところで、
「さやぎ、おかえりなさい。ちょっとよろしいですか?」
と扉の外から的場さんの声が聞こえた。足音が近づいて来ていたのはわかっていたけれど、部屋を訪ねてくるのは珍しい。
「はい」
封筒を置いて扉を開ける。
「今日は早かったんですね」
「期末試験の最終日だったので早かったです」
質問の意図が分からずそのまま答える。
「リビングに君宛の郵便物を置いていたようなのですが、受け取りましたか?」
的場さんは部屋の中に視線を向けて訊く。
「はい、勝手に持って来てしまいましたけど…」
「文也くんから何が届いたか、もう見ましたか?」
草摩文也くん、私の母方のいとこ。
「いえ、まだどちらも開けていませんけど、多分クリスマスカードとクリスマスプレゼントだと思います。毎年くれるから」
「へぇ、仲が良いんですね。草摩家とは基本的に没交渉なのかと思っていました」
「基本的に没交渉なんですが、何故かいとこは毎年クリスマスカードとプレゼントを送ってくれます。日本にいた時は、私は嫌われていると思っていたんですが」
「…見せていただいてもいいですか?」
「え?例年もらっていたものはもうないですけど、今年のものですか?」
「はい」
何故?と思いつつも特に断る理由もないので、テーブルから封筒を取って開く。
中にはやはりクリスマスカードが入っていた。
『Merry Christmas!久しぶりの日本の冬はどう?高校生活楽しんでる?オレは大学合格して少しゆったりしてるけど、共通テストも受けるからそろそろ本腰入れないとと思ってるところ…。プレゼントはいつも通り別で送ったよ。楽しいクリスマスになりますように!』
赤い表紙を開くと黒地に金色の星の箔押しと白いレーザーカットのクリスマスツリーがデザインされたカード。
手渡すと的場さんは、少し目を細めて丁寧にカードを眺める。
普通のカード、当たり障りのないメッセージに見えるけれど、何かあるのか?強いて言えば、いとこが進学するのがわかるくらいか。
「いつもこんなもんですか?」
カードを私に返して的場さんは訊く。
こんなもんってどんなもん?何年前のカードでも一字一句、絵の一つ一つを思い出せる私には、『こんなもん』がどの程度の類似性に使う言葉なのかわからない。そもそも字だって内容だって年齢と共に変わるものだし。
「1年に1回のことなのでなんとも…。最初にカードをくれた時いとこは8歳でしたが今は17歳です。28歳から37歳に比べて選ぶカードも字も内容も変化が大きいのではないでしょうか?」
「…ええ、まあ、そうでしょうけど」
微妙な返答。質問の意図を取り違えたか?
「…ちょっとした近況報告と定型の挨拶という意味なら、毎年そんな感じですけど。というか、クリスマスカードって大体そんなものじゃないでしょうか?」
「そういうものですか…」
いまいち煮え切らない返答。いとこの例年のカードと他の人のカードの使用単語や絵柄や配色の割合を分析して、今年のカードとの類似性を数値化して明示すべき?
「今年のカード貼ってあるけど見てみます?」
「いいですか?」
さっき妹のカードを貼ったボードを指すと、彼はボードの前に立ち顎に手を当てて眺めるけれど、さほどじっくり見ている様子はなく、視線はすぐにテーブルの上の郵送物に向けられた。
「見てもわかりませんでした」
ふふっと彼は軽く笑ってみせる。
いとこと妹のカード以外、ドイツ語かイタリア語だった。
なんとなくだけど、彼は何か別のことを気にしているように見えた。
「プレゼントは開けないんですか?」
「プレゼントはクリスマスの朝に開けます」
「そうですか」
「あ、毎年そんな感じと言いましたが、例年は『何々を贈ります』ってプレゼントの内容が書いてあったけど、今年はそれがないです」
「ほお…毎年どんなものを送りあっているんですか?」
「文也くんと?」
「はい、文也くんと」
「…去年は修学旅行のお土産で、熊が鮭を咥えているぬいぐるみのキーホルダーと小さな丸い瓶に入ったラベンダーの香水でした。私からは、ベーレンタッツェンという熊の手型のお菓子とカバンのゴミゴミしたのを取るベタベタが入ってるアミアミのボールです」
「……へえ…他には?」
今の説明がわからなかったのかな?3.5秒も間を置いてから返事が返ってきた。鞄を持たない人にはわからないか。
「一昨年はリップグロスとハンドクリームをもらったので、パンに塗るチョコレートとバターナイフを送りました。その前は修学旅行のお土産で木製の櫛と椿油をもらって、オリーブオイルと静電気防止ブレスレットを送りました」
「…熊と丸、塗る物、オイルと静電気対策…君の方はいつも食べ物と物品を送っているんですか?」
的場さんには、私のプレゼントの選定基準がわかったようだ。
「はい」
「何が送られてきたのかわからないなら、今年は何をおくるんですか?」
「んー…数日考えます」
高校生の男の子って、どんなものが欲しいんだろう?クラスメイトにでも訊いてみるか。
「そうですか」
何か気になることがあるのだろうか?何故文也くんにこだわるのかいまいちわからない。草摩家と何かあるのか?
「先程、文也くんに嫌われてると思っていたと言っていましたが、どうしてですか?」
ふと思い出したように訊かれた。
「んー…文也くんと会ったことは3回しかないんですが、3回目に会った時に怒らせてしまったので…」
「どうして怒らせてしまったんです?」
「んー…草摩家では妖怪が見えるかどうかより、草摩の目を持っているかどうかの方が重要視される傾向があるんですが、一族の子供を集めて草摩の目の能力試験みたいなものをする日があるんです。その時に、目の能力のある文也くんが6問正答で、目の能力のない私が文也くんと同じ能力試験で10問全問に正答したんです」
「それはそれは…」
納得したように的場さんは笑う。文也くんの気持ちがわかるのだろうか?
「それで『この子、実は目の能力があるのか?』ということを大人たちが議論し始めたので、『統計学的推論と論理的推論を組み合わせたら96%この答えになるとわかるのに、1時間もかけてどうして確率的に0%になっているものをわざわざ選ぶの?』と統計学的数値と組み合わせをそれぞれ提示して尋ねたら怒って出て行ってしまったんです」
「まあ彼の気持ちもわからなくはないですね…」
「純粋に疑問に思ったから訊いたんですが、人の気持ちがわからなくて、こういう失敗をしがちです」
「占いに頼るのは馬鹿馬鹿しいと思っているわけではないんですか?」
「『目』があるから頭を使わなくていいってことにはならないとは思っていますけど、人間の脳は無意識下でたくさんの情報処理を行なっているので、論理的思考だけが全てではないという認識です。その上で、無意識下から答えのみを引っ張ってくる直感と『草摩の目』で見ることの違いは何なのかと疑問に思ったから訊いたつもりでした。『目』を持たない私にはわからない感覚なので」
「なるほど」
納得したように頷く的場さんを他所に、私の思考は当時を鮮やかに映し出す。
微かに見える答えを『見よう』とした文也くん。
『目』の能力がなく、何も『見えない』私。
答えを外した文也くん。
答えを解き明かした私。
私が抱いた感情は、本当は疑問ではなく、羨望と呼ぶべきものなのかもしれない…。
「クリスマスプレゼントを送り合うようになったのはそれからどのくらい経ってからですか?」
的場さんの声で過去の追体験から思考を引き戻された。
「クリスマスプレゼントを送り合うようになったのはそれからどのくらい経ってからですか?」
思わず質問を繰り返してしまったが、彼はにこにこと黙って答えを促す。
「…私の元にプレゼントが届いたのは、能力試験から301日後です」
「301日…その年のクリスマスか…その時は何をもらったんですか?」
「友達と海に行った時のお土産らしいおみくじキーホルダーです」
「おみくじ…何というか…なかなかですね…」
「なかなか?」
「占いに頼るのが馬鹿馬鹿しいと言った相手におみくじキーホルダーを贈るというのは、なかなかにイヤミだなと」
馬鹿馬鹿しいとは言っていないけど。
「…あー…今言われて初めて気づきました。意図を汲んだり、イヤミを読み取ったりするのって苦手で…。おみくじキーホルダーは単に日本のお土産の定番なのかと思っていました」
「定番ではないと思いますが…」
「そうですか…日本人学校の小学校35人の中で2人同じもの持っていたので、その時は流行りなのかと思いましたが、帰国したら日本の駅や観光施設でよく見かけるし、オコジョ、龍の巻きついた剣、蓄光クローバーと並んで、『ザ・日本のお土産』なのか納得していたんですが」
「あはは…たしかに…どこにでもありますね、オコジョと龍の巻きついた剣と蓄光クローバーとおみくじ…。思えば修学旅行で買っているクラスメイトもいました…。ちなみにカードには何と?」
懐かしいのか面白いのか、笑いながら頷く的場さん。
「『メリークリスマス!学校でとび出すカードを作ったよ。夏に姉妹都市交流会でともだちと海に行ったおみやげだよ。貝を取ろうとしたけどわかめしか取れなかったからお店で買った。冬休みは宿題と家のしゅぎょうで大へんです。毎日さむいので、かぜひかないようにね。』」
「…なるほど…そうですね、私が間違っていたようです。小学生男子ですからね…女の子相手でも渡しやすく、男の子でも手に取りやすいからおみくじだったのでしょうね。君は何を贈ったんですか?」
「冬季休暇で帰国して東北に着いてから送ったので、ずんだポッキーと龍の巻きついた剣を送りました」
「細長いものと定番キーホルダー、ですね」
「はい」
「君は何と返事したんです?」
「『メリークリスマス!カード飛び出しておもしろかったよ。キーホルダーもありがとう。カバンの外に付けて行ったら結露して凍ったからカバン中に付けることにしたよ。毎日寒いけど、中は暑いから大変。宿題と修行頑張ってね。』」
今考えると、『修行頑張ってね』と龍の巻きついた剣を贈るって『なかなか』かも…?魔王も倒せそう。
「微笑ましい、ですね」
何か含みのある口調…。
