お伽話の法則
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水の音。雨?シャワー?怖くて目を開けない。
「…Regen…」
「ん?なんですか?」
無意識のつぶやきに返事が返ってきたが大して不思議にも思わなかった。
日本語の問いかけに、思考がドイツ語から日本語に切り替わる。
「雨?雨が降っているの?」
「ええ、降っていますよ」
目を開けると的場さんがいつもの微笑でのぞきこんでいた。
「妖怪にあてられたんです。もう少し横になっていなさい」
「…」
「手荒なことをしてすみませんでしたね。でも、もう毒気は抜けましたよ」
左手を見ると、手首に呪符が巻いてあった。
「それは、君がここから逃げられないようにするためについでに付けた呪符です。普通の人には見えないので安心して下さい。門限は夜7時。それまでに邸に戻らないと手首が落ちますから忘れないように」
端をめくろうとしたが、少しもはがれなかった。
「それは君を私に繋ぎ止めるものなので私にしかはがせません」
私に見えるように挙げた彼の手首にも似たような呪符が巻いてある。
「手に、怪我をしています」
手の甲のちょうど中指の付け根の関節が赤くなっているのを指摘すると
「そうですね。どこかにぶつけたんでしょうかね」
と首をかしげる彼。
「妹が、来ませんでしたか?」
「ああ、それで出て行こうとしていたんでしたね。あの男の嘘ですよ。君のお姉さんに確認したら、ホテルで一緒に映画を観ていると言っていたので大丈夫です」
「そうですか、ありがとうございます」
確認までしてくれているとは。
「あの男の式が見ていたので多少大げさに責めましたが、君の行動に腹を立てているのは本当ですよ。あの男に妖怪が取り憑いていると気がついていたでしょう?妹が来ているはずなどないこともわかるでしょうに」
「呪いをかけられるなら、姉だと…」
的場さんが初めて驚いたような顔をした。
「妖怪にあてられたわけじゃなく、呪いをかけられたんですよね、私は」
「気づいていたんですか…。まあ、祓い屋の間ではよくあることです。的場は敵も多いんでね」
「…そうですか。ご迷惑をお掛けしました」
「べつに構いません。むしろ巻き込んだのはこちらですし、言ったでしょう?よくあることなんです。大したことじゃない。それに最近一般人に呪いを提供している祓い屋がいて目障りだったのですが、あの男も一枚噛んでいそうだったのでこちらとしても結構な収穫でしたし」
「大変なところに来てしまった、と思っていますよね?家の中には他人が多く出入りするし、的場一門自体が多くの恨みや妬みの対象になっているし、その上婚約者が私のような者では、ここはここで君には厳しい場所かもしれませんね」
「姉に何か言われたんですか?」
「…あからさまに策略的な婚約なのに、お姉さんは私にあまり反感を持っていないようだったので不思議だったのですが、『叔父、叔母のところにおいておくよりはよっぽどマシ。一度結婚すれば未成年じゃなくなるから、あの子も少しは楽になるはず』だそうです。離婚前提で考えているんでしょうね」
「そんなことはないと思います。…姉はイタリア人だから離婚というのは恐ろしく面倒なものだと思っているはずです」
「…そうなんですか。そうだとしても、彼女はこうも言ってましたよ。『お伽話で3姉妹が出てくると、いつも末っ子が一番いい子で野獣や魔物に嫁いでいくのはいつも末っ子だけど、実際末っ子なんて一番ちゃっかり者で、現実では真ん中が一番気立てが良くて貧乏くじ引く役回りなんですよ』と。まさに私は彼女にとって野獣で魔物で貧乏くじというわけですね」
「…それは、姉が私に宿題を手伝わせためにおだてる時の常套句なんです」
何なら私達3姉妹で一番ちゃっかり者はお姉ちゃんだ。
「それに、お伽話の最後は…女の子は、魔法の解けた王子様と末永く幸せに暮らしました、で終わるんですよ」
微笑みを作った顔を向けるとあからさまに「不可解だ」という顔をされた。
「…魔法が解けるも何も私は素で非情な人間ですが。一応自覚はあるんですよ。直す気はありませんが。あまり逃げるようならさっさと手篭めにしてしまおうかというのも、脅しではなく本気ですしね」
「手に怪我をしています」
自嘲的に笑う的場さんにさっきと同じ言葉を繰り返す。
「…ええ、いつの間にかぶつけたんでしょうが、大したことないですよ」
的場さんは手を軽く振って見せる。
「私、頭を打たなかったんです」
「…何のことですか?」
「陣の中で押し倒された時、頭を打たなかったんです。的場さんが、私の頭の後ろに手を当てていたから」
「……」
的場さんは少し首を傾げて自分の手の甲を見る。
「無意識な行動にこそ、その人の本質が現れるものです」
「…と言われても、べつに君を気づかったつもりはないんですけどね」
「特別に思う人に心を配ることは普通のことです。特別でない人にも心を配るなら、それは思いやりのある人だということだと思います」
「買いかぶりすぎですよ。そんなんでは後々幻滅しますよ」
自分がどういう人間かは自分自身にはわからない部分もある。
「意識的でないからこそ、行動や言動の端々に本質が見え隠れするんです」
頭を打たないようした。どこへ行っても厄介者で帰りたい場所がなかった私に「君の帰るところはここです」と言ってくれた。妖怪を祓うところを私に見せなかった。お姉ちゃんに確認までしてくれた。呪いのあざに私が気づかないよう、残ってしまった呪いのあざの上に束縛の呪符を貼ったのだろう。
「買いかぶりすぎです。私は君の力を利用するために君を閉じ込め、他人に横取りされないようにし、その力が遺伝することを期待して婚姻を結ぼうとしている。君の逃げ道を非情に断ち切った、そういう男ですよ」
「…有無を言わさず連れてこられたから言う機会がなかっただけで、私はたぶん的場さんが思うほど嫌々来たわけではないんです。ここにいたいというわけではないけど、今のところ他に行く所もないし」
的場さんが私の逃げ道だと切っていったものは、私にとっては囲いであって檻だった。姉の言う通り『叔父、叔母のところよりはよっぽどマシ』。
私を囲う茨を1つずつ断ち切って私を連れ出した人。
それは、お伽話なら王子様の役目。
私は自ら進んで彼の鳥かごに戻った。
「残念ながら、お伽話のお姫様のように美人ではないし心配性で臆病者だけれど、どこでもそれなりに幸せには暮らせるとは思ってます」
「…そうですか…まぁ、元々それなりに幸せにしてあげられるよう努力はするつもりでしたが。ただ、前に言ったように、女性経験はそれなりにあるので、押し倒す時に頭を支えるのは割と普通のことだと思ってますよ」
ふふふと笑う彼に、自分が子供なのだと思い知らさせる。
「そんなわけで、お伽話と違って中身はただの野獣かもしれませんから覚悟しておいてくださいね」
取って付けたような微笑ではない、意地悪そうで妖艶な微笑。
「…Regen…」
「ん?なんですか?」
無意識のつぶやきに返事が返ってきたが大して不思議にも思わなかった。
日本語の問いかけに、思考がドイツ語から日本語に切り替わる。
「雨?雨が降っているの?」
「ええ、降っていますよ」
目を開けると的場さんがいつもの微笑でのぞきこんでいた。
「妖怪にあてられたんです。もう少し横になっていなさい」
「…」
「手荒なことをしてすみませんでしたね。でも、もう毒気は抜けましたよ」
左手を見ると、手首に呪符が巻いてあった。
「それは、君がここから逃げられないようにするためについでに付けた呪符です。普通の人には見えないので安心して下さい。門限は夜7時。それまでに邸に戻らないと手首が落ちますから忘れないように」
端をめくろうとしたが、少しもはがれなかった。
「それは君を私に繋ぎ止めるものなので私にしかはがせません」
私に見えるように挙げた彼の手首にも似たような呪符が巻いてある。
「手に、怪我をしています」
手の甲のちょうど中指の付け根の関節が赤くなっているのを指摘すると
「そうですね。どこかにぶつけたんでしょうかね」
と首をかしげる彼。
「妹が、来ませんでしたか?」
「ああ、それで出て行こうとしていたんでしたね。あの男の嘘ですよ。君のお姉さんに確認したら、ホテルで一緒に映画を観ていると言っていたので大丈夫です」
「そうですか、ありがとうございます」
確認までしてくれているとは。
「あの男の式が見ていたので多少大げさに責めましたが、君の行動に腹を立てているのは本当ですよ。あの男に妖怪が取り憑いていると気がついていたでしょう?妹が来ているはずなどないこともわかるでしょうに」
「呪いをかけられるなら、姉だと…」
的場さんが初めて驚いたような顔をした。
「妖怪にあてられたわけじゃなく、呪いをかけられたんですよね、私は」
「気づいていたんですか…。まあ、祓い屋の間ではよくあることです。的場は敵も多いんでね」
「…そうですか。ご迷惑をお掛けしました」
「べつに構いません。むしろ巻き込んだのはこちらですし、言ったでしょう?よくあることなんです。大したことじゃない。それに最近一般人に呪いを提供している祓い屋がいて目障りだったのですが、あの男も一枚噛んでいそうだったのでこちらとしても結構な収穫でしたし」
「大変なところに来てしまった、と思っていますよね?家の中には他人が多く出入りするし、的場一門自体が多くの恨みや妬みの対象になっているし、その上婚約者が私のような者では、ここはここで君には厳しい場所かもしれませんね」
「姉に何か言われたんですか?」
「…あからさまに策略的な婚約なのに、お姉さんは私にあまり反感を持っていないようだったので不思議だったのですが、『叔父、叔母のところにおいておくよりはよっぽどマシ。一度結婚すれば未成年じゃなくなるから、あの子も少しは楽になるはず』だそうです。離婚前提で考えているんでしょうね」
「そんなことはないと思います。…姉はイタリア人だから離婚というのは恐ろしく面倒なものだと思っているはずです」
「…そうなんですか。そうだとしても、彼女はこうも言ってましたよ。『お伽話で3姉妹が出てくると、いつも末っ子が一番いい子で野獣や魔物に嫁いでいくのはいつも末っ子だけど、実際末っ子なんて一番ちゃっかり者で、現実では真ん中が一番気立てが良くて貧乏くじ引く役回りなんですよ』と。まさに私は彼女にとって野獣で魔物で貧乏くじというわけですね」
「…それは、姉が私に宿題を手伝わせためにおだてる時の常套句なんです」
何なら私達3姉妹で一番ちゃっかり者はお姉ちゃんだ。
「それに、お伽話の最後は…女の子は、魔法の解けた王子様と末永く幸せに暮らしました、で終わるんですよ」
微笑みを作った顔を向けるとあからさまに「不可解だ」という顔をされた。
「…魔法が解けるも何も私は素で非情な人間ですが。一応自覚はあるんですよ。直す気はありませんが。あまり逃げるようならさっさと手篭めにしてしまおうかというのも、脅しではなく本気ですしね」
「手に怪我をしています」
自嘲的に笑う的場さんにさっきと同じ言葉を繰り返す。
「…ええ、いつの間にかぶつけたんでしょうが、大したことないですよ」
的場さんは手を軽く振って見せる。
「私、頭を打たなかったんです」
「…何のことですか?」
「陣の中で押し倒された時、頭を打たなかったんです。的場さんが、私の頭の後ろに手を当てていたから」
「……」
的場さんは少し首を傾げて自分の手の甲を見る。
「無意識な行動にこそ、その人の本質が現れるものです」
「…と言われても、べつに君を気づかったつもりはないんですけどね」
「特別に思う人に心を配ることは普通のことです。特別でない人にも心を配るなら、それは思いやりのある人だということだと思います」
「買いかぶりすぎですよ。そんなんでは後々幻滅しますよ」
自分がどういう人間かは自分自身にはわからない部分もある。
「意識的でないからこそ、行動や言動の端々に本質が見え隠れするんです」
頭を打たないようした。どこへ行っても厄介者で帰りたい場所がなかった私に「君の帰るところはここです」と言ってくれた。妖怪を祓うところを私に見せなかった。お姉ちゃんに確認までしてくれた。呪いのあざに私が気づかないよう、残ってしまった呪いのあざの上に束縛の呪符を貼ったのだろう。
「買いかぶりすぎです。私は君の力を利用するために君を閉じ込め、他人に横取りされないようにし、その力が遺伝することを期待して婚姻を結ぼうとしている。君の逃げ道を非情に断ち切った、そういう男ですよ」
「…有無を言わさず連れてこられたから言う機会がなかっただけで、私はたぶん的場さんが思うほど嫌々来たわけではないんです。ここにいたいというわけではないけど、今のところ他に行く所もないし」
的場さんが私の逃げ道だと切っていったものは、私にとっては囲いであって檻だった。姉の言う通り『叔父、叔母のところよりはよっぽどマシ』。
私を囲う茨を1つずつ断ち切って私を連れ出した人。
それは、お伽話なら王子様の役目。
私は自ら進んで彼の鳥かごに戻った。
「残念ながら、お伽話のお姫様のように美人ではないし心配性で臆病者だけれど、どこでもそれなりに幸せには暮らせるとは思ってます」
「…そうですか…まぁ、元々それなりに幸せにしてあげられるよう努力はするつもりでしたが。ただ、前に言ったように、女性経験はそれなりにあるので、押し倒す時に頭を支えるのは割と普通のことだと思ってますよ」
ふふふと笑う彼に、自分が子供なのだと思い知らさせる。
「そんなわけで、お伽話と違って中身はただの野獣かもしれませんから覚悟しておいてくださいね」
取って付けたような微笑ではない、意地悪そうで妖艶な微笑。
