4-2 サンプル(標本)
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「……」
「……」
沈黙…。
天井の絵のような文字が動いている。枝が伸びるように葉が芽吹くように花が咲くようにゆっくりとくるくると広がって、最初の一文字を残して一気に消えた。
「ん?」
消えたことに驚いて目を見開いたからか、『どうかしたのか?』と言うように顔を覗き込まれた。
「…あれは、何ですか?文字?絵?」
また少しずつ広がり出した文字を指差して尋ねる。
「ほう、あれが見えるんですね。あれは多分この家が建てられた時かそれより前に書かれた護符文字です。かなり古いですが、それなりに強い守護の力があるものです」
的場さんも天井を見上げる。
「…きれいですね。花が咲いていくみたい」
「…そうですね。幼い頃は好きでよくこれを眺めていたものですが、広がっていく文字は妖力が強くないと見えないようですよ。私の父でさえ、見えていなかった…同じ物が見える人がいるというのは、いいものですね」
視える人に囲まれていて、多くのものを持っているけれど、その中に居るが故の閉塞感や孤独のようなものを感じる微笑。
それを苦にしているかどうかは別として。
くるくると広がりゆく文字。きれい。
「……」
「……」
沈黙…。
「…妖怪に食べられたら、…痛いんでしょうか?」
沈黙に耐えきれなくて、とりあえず何か訊いてみる。
「普通に痛いと思いますよ」
なんでそんな当然のことを訊くのだろうというような顔をされた。
「音羽の女性は妖怪に狙われやすいと言っていましたが、不幸が続いたり、病気がちになったり、気力がなくなったりして死んでしまうとか、妖怪ってそういうイメージなんですけど、…そういうじわじわ系の妖怪の他に、身体を食べちゃうむしゃむしゃ系の妖怪もいるってことですか?」
「むしゃむしゃ系って表現、可愛いですね。そうですねえ…妖力がない人は妖怪を見ることも触ることもできなし妖怪の側から触れようとしても基本的にはすり抜けてしまうので、むしゃむしゃ系には害されにくい気はします。代わって妖力の強い人は、強いと知られるとむしゃむしゃ系に狙われやすいという傾向はありますね。妖怪の間では、妖力を強い人を喰うと力を得られるというのがあるようですし」
「それなら、食べられてしまった人の遺体は帰ってこないんですね…」
「ええ、まぁ…全て食べる妖怪なら」
何故そこを気にするのかと思われただろうか?
「…目を…妖怪から守っているんですか?」
目について訊いた方がいいのかなと思っていたことを思い出して尋ねてみる。
「ああ、これはとても強い妖に狙われているんです」
自分の右目の眼帯を指差して、口角を上げる。
「昔、大妖に仕事を手伝う代わりに右目を喰わせてやると約束した者がいたのですが、結局約束を破って喰わせず終いだったので、以来的場の頭首は代々その妖に右目を狙われているんです」
右目を喰わせてやるって…現代ならともかく、どうやって摘出するつもりだったんだろう?
「でもどうして守っていると?」
「眼球が既にないなら護符の書かれた布を掛ける意味がないし、基本的に両眼視している目や顔の動きなので」
「なるほど。まあ、その通りですが、顔には酷い傷があるんですよ」
「…そうなんですか…」
こういう時どんな返事をするべきか、よくわからない。
医療情報から推測は出来ていたけれど『でしょうね』と答えるのは感じ悪い気がするし…。
「その大妖がだいたいひと月に一度右目を狙ってやって来るので、毎回そいつをかわす必要があるんです。この契約不履行のために、的場一門はまともな妖とは式の契約が出来ないのですが、強力な妖との縁や執着が強ければ強いほど、その一族や傘下の者の力は強くなると云われているので、今もこうして続けているというわけです」
「……」
的場家も代々背負うものがあって大変なんだなと思ったけれど、それを口に出すと軽々しく聞こえそうなのでやめておく。
「本当はやり過ごした後で君をお迎えに伺う予定だったのですが、別の事情でお迎えが早まってしまいましてね。右目の妖怪は力が強くほとんどの結界が役に立たないので、邸内に長居もできず碌な説明も出来ずに閉じ込めてすみませんでした」
それよりも…
「いえ、お家の結界を解いて中の人たちを危険に晒してしまってすみませんでした…」
「君が出る時に一時的に解けただけなので問題ありません。それより、あれはどうやったんです?」
「………わかりません」
「…本当に?」
顔を寄せて瞳を覗き込む。…近い。
「…思い当たることはあるけど…わかったらお話しするのでは、だめでしょうか?」
「…まぁいいですよ。では、またいずれ。ちなみに、人用の結界を少し変えたので、今度はそう上手くはいかないと思いますよ」
寄せていた顔を離して、どこか楽しそうに言う。
「…はい」
「試してみてもいいですが、外へは出ないで下さいね。忘れてはいないでしょうけど、『逃げたり抵抗したりしない限り、手荒なことはしません』と最初にお伝えしたとおり、逃げたり抵抗したりするなら手荒な手段も選択肢に挙がるということを心に留めておいてください」
「…はい」
「今回は遠くへ行く気はなさそうだし、何をするのか興味があったので様子を見ていましたが、あまり頻繁に逃げ出されるのは面倒なので、式への指示も変えてありますから、『多少傷つけてでも連れ戻せ』と」
ことさらにっこりと笑いながら不穏なことを言う。
「あの白面はあまり繊細な動きや力の加減が出来ないので気をつけてください」
「…はい」
「まあ、逃げようとさえしなければ、式たちも基本的には君を守るために動く妖怪なのでご安心ください」
微笑まれても安心できるかどうかは微妙なところだ。
やっぱり人間である一門の人は逃げようとする私に声掛けするだけで、直接的に私に触れて制止するのは妖怪であり常人には見えない式に任せているのだろう。本当に抜け目がない。
ここには本当に私の味方はいないのだと思い知らされる。
…叔母の所にいた時だっていなかったけれど。
「……」
沈黙…。
天井の絵のような文字が動いている。枝が伸びるように葉が芽吹くように花が咲くようにゆっくりとくるくると広がって、最初の一文字を残して一気に消えた。
「ん?」
消えたことに驚いて目を見開いたからか、『どうかしたのか?』と言うように顔を覗き込まれた。
「…あれは、何ですか?文字?絵?」
また少しずつ広がり出した文字を指差して尋ねる。
「ほう、あれが見えるんですね。あれは多分この家が建てられた時かそれより前に書かれた護符文字です。かなり古いですが、それなりに強い守護の力があるものです」
的場さんも天井を見上げる。
「…きれいですね。花が咲いていくみたい」
「…そうですね。幼い頃は好きでよくこれを眺めていたものですが、広がっていく文字は妖力が強くないと見えないようですよ。私の父でさえ、見えていなかった…同じ物が見える人がいるというのは、いいものですね」
視える人に囲まれていて、多くのものを持っているけれど、その中に居るが故の閉塞感や孤独のようなものを感じる微笑。
それを苦にしているかどうかは別として。
くるくると広がりゆく文字。きれい。
「……」
「……」
沈黙…。
「…妖怪に食べられたら、…痛いんでしょうか?」
沈黙に耐えきれなくて、とりあえず何か訊いてみる。
「普通に痛いと思いますよ」
なんでそんな当然のことを訊くのだろうというような顔をされた。
「音羽の女性は妖怪に狙われやすいと言っていましたが、不幸が続いたり、病気がちになったり、気力がなくなったりして死んでしまうとか、妖怪ってそういうイメージなんですけど、…そういうじわじわ系の妖怪の他に、身体を食べちゃうむしゃむしゃ系の妖怪もいるってことですか?」
「むしゃむしゃ系って表現、可愛いですね。そうですねえ…妖力がない人は妖怪を見ることも触ることもできなし妖怪の側から触れようとしても基本的にはすり抜けてしまうので、むしゃむしゃ系には害されにくい気はします。代わって妖力の強い人は、強いと知られるとむしゃむしゃ系に狙われやすいという傾向はありますね。妖怪の間では、妖力を強い人を喰うと力を得られるというのがあるようですし」
「それなら、食べられてしまった人の遺体は帰ってこないんですね…」
「ええ、まぁ…全て食べる妖怪なら」
何故そこを気にするのかと思われただろうか?
「…目を…妖怪から守っているんですか?」
目について訊いた方がいいのかなと思っていたことを思い出して尋ねてみる。
「ああ、これはとても強い妖に狙われているんです」
自分の右目の眼帯を指差して、口角を上げる。
「昔、大妖に仕事を手伝う代わりに右目を喰わせてやると約束した者がいたのですが、結局約束を破って喰わせず終いだったので、以来的場の頭首は代々その妖に右目を狙われているんです」
右目を喰わせてやるって…現代ならともかく、どうやって摘出するつもりだったんだろう?
「でもどうして守っていると?」
「眼球が既にないなら護符の書かれた布を掛ける意味がないし、基本的に両眼視している目や顔の動きなので」
「なるほど。まあ、その通りですが、顔には酷い傷があるんですよ」
「…そうなんですか…」
こういう時どんな返事をするべきか、よくわからない。
医療情報から推測は出来ていたけれど『でしょうね』と答えるのは感じ悪い気がするし…。
「その大妖がだいたいひと月に一度右目を狙ってやって来るので、毎回そいつをかわす必要があるんです。この契約不履行のために、的場一門はまともな妖とは式の契約が出来ないのですが、強力な妖との縁や執着が強ければ強いほど、その一族や傘下の者の力は強くなると云われているので、今もこうして続けているというわけです」
「……」
的場家も代々背負うものがあって大変なんだなと思ったけれど、それを口に出すと軽々しく聞こえそうなのでやめておく。
「本当はやり過ごした後で君をお迎えに伺う予定だったのですが、別の事情でお迎えが早まってしまいましてね。右目の妖怪は力が強くほとんどの結界が役に立たないので、邸内に長居もできず碌な説明も出来ずに閉じ込めてすみませんでした」
それよりも…
「いえ、お家の結界を解いて中の人たちを危険に晒してしまってすみませんでした…」
「君が出る時に一時的に解けただけなので問題ありません。それより、あれはどうやったんです?」
「………わかりません」
「…本当に?」
顔を寄せて瞳を覗き込む。…近い。
「…思い当たることはあるけど…わかったらお話しするのでは、だめでしょうか?」
「…まぁいいですよ。では、またいずれ。ちなみに、人用の結界を少し変えたので、今度はそう上手くはいかないと思いますよ」
寄せていた顔を離して、どこか楽しそうに言う。
「…はい」
「試してみてもいいですが、外へは出ないで下さいね。忘れてはいないでしょうけど、『逃げたり抵抗したりしない限り、手荒なことはしません』と最初にお伝えしたとおり、逃げたり抵抗したりするなら手荒な手段も選択肢に挙がるということを心に留めておいてください」
「…はい」
「今回は遠くへ行く気はなさそうだし、何をするのか興味があったので様子を見ていましたが、あまり頻繁に逃げ出されるのは面倒なので、式への指示も変えてありますから、『多少傷つけてでも連れ戻せ』と」
ことさらにっこりと笑いながら不穏なことを言う。
「あの白面はあまり繊細な動きや力の加減が出来ないので気をつけてください」
「…はい」
「まあ、逃げようとさえしなければ、式たちも基本的には君を守るために動く妖怪なのでご安心ください」
微笑まれても安心できるかどうかは微妙なところだ。
やっぱり人間である一門の人は逃げようとする私に声掛けするだけで、直接的に私に触れて制止するのは妖怪であり常人には見えない式に任せているのだろう。本当に抜け目がない。
ここには本当に私の味方はいないのだと思い知らされる。
…叔母の所にいた時だっていなかったけれど。
