3-2 白黒のアドレッセンス・後編
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「緊張してます?さっきから少し震えていますが」
「…緊張…でもないけど…」
これがなんという気持ちなのかわからない。不安?怯え?震えを抑えようと、右手で左手の拳を掴んだけれど、汗ばんだ冷たい手の感触に震えは止まらなかった。
「べつに今回の件でペナルティを与えようとは思ってませんよ。市役所で、帰らないとか車に乗らないとか駄々をこねるようなら多少強引な手段を取ることになったしでしょうけど、大人しく戻ってくるのならこちらとしては不問にふすつもりでしたし」
多少強引な手段って何だろう?
「正直、君の行動をどう解釈したらいいかわからない。逃げたいのかと思っていたんですが、遠くへ行く電車や新幹線に乗るでもなく、町の中に留まっている。高校の出願書類は書いてあるし、学校口コミを調べている。かと思えば、市役所に現状を訴えて対応してもらおうとする。ここで生活するための情報収集をしているのか、逃げようとしているのか」
そんなことは、私もわからない。
どこに行きたい、どこにもいたくない。
何をしたい、何も知りたくない。
何が嫌?
「…そんなに先のことは…考えていないです。痛いのが嫌で出てきてしまっただけで、その後は行き当たりばったりで…」
「痛いのが嫌?」
「集力の陣の中は痛くて苦しいから、陣に入れられるのが…怖くて…逃げました」
本当の理由がそれなのかは自分でもよくわからない。なんだか、悪いことをして叱られている子供のようだ。実際迷惑をかけているのだけれど。
当の的場さんは怒っていると言うより不思議そうに私を見る。
「確かに今夜翼の妖力を取らせて頂くつもりで集力の陣の準備はしているはずですが、誰からそれを?」
「誰とかないけど…出かける前の的場さんの様子とか、邸に残っている人の様子とか…具体的な根拠を挙げろと言われると難しいけれど…」
「…勘がいいのも考えものですねぇ。逃げられるのを危惧して伝えなかったのですが、バレていたとは…あぁ、それで緊張しているんですね」
私の手元をちらりと見てから、再び顔に視線を戻す。
「こちらとしてはべつに今日でなくてもいいんですが、どちらかと言うと君の側の事情で今日が都合がいいかと」
一度言葉を切って、何かを見出そうとするかのように1秒ほど目を細めてから言葉を続ける。
「自覚があるわかりませんが、何故か君は妖怪達から見てとても目立っているようですよ。音羽の女性は15、6歳を越えると妖怪に狙われやすくなるようで、喰われて亡くなっている人が何人かいると記録に残っていますし。翼の妖力を抜くことで多少目立たなくなるようですが、そうでもしないとおちおち1人で外出もさせられない。現に今日も教会に逃げ込んだんじゃないですか?市役所でも七瀬が1匹追い払ったし、こちらに来る直前も下校途中に襲われていたでしょう?」
15、16歳…ちょうど今頃。
そういえば、下校中罠張る大きな妖怪がいたっけ。
あれは一体どうなったんだろう?
眠すぎてよく覚えていない…雨と水溜りと、虹を見たような…?
「君の叔父様に翼を見せる陣として集力の陣を提供した術師がいたから、なんとかなっていたのでしょうけど、あんな効率悪い陣で妖力を多少抜いたところで大して効果は続かないでしょうし、一体どうやって切り抜けていたんです?」
「一体どうやって切り抜けていたんです?」
無意識に質問を繰り返してしまったからか、彼は眉をひそめて
「無自覚に対処できているんでしょうか?」
と私の顔を覗き込む。
「…カトリック校で校内に聖堂もあるし、敷地に神父様のいる教会もあるからか、学園内には悪意のあるものはほとんど入れないみたいでした。家は家で…いろいろ…」
「いろいろ?」
聞き返されたけれど、その話を詳しくしてもいいか判断できるほど私は的場さんを信用していない。
「妖怪に追われやすくなったのは最近の気がするので、正直よくわかりません」
「…なるほど、まぁ年齢的にちょうど狙われやすくなってきたばかりというわけか…」
話を逸らしたことを追求されなくて、少しほっとした。
ほっとしたけれど、傾きかけた夕陽を背に、車は元の的場邸へ着いてしまった。
「…緊張…でもないけど…」
これがなんという気持ちなのかわからない。不安?怯え?震えを抑えようと、右手で左手の拳を掴んだけれど、汗ばんだ冷たい手の感触に震えは止まらなかった。
「べつに今回の件でペナルティを与えようとは思ってませんよ。市役所で、帰らないとか車に乗らないとか駄々をこねるようなら多少強引な手段を取ることになったしでしょうけど、大人しく戻ってくるのならこちらとしては不問にふすつもりでしたし」
多少強引な手段って何だろう?
「正直、君の行動をどう解釈したらいいかわからない。逃げたいのかと思っていたんですが、遠くへ行く電車や新幹線に乗るでもなく、町の中に留まっている。高校の出願書類は書いてあるし、学校口コミを調べている。かと思えば、市役所に現状を訴えて対応してもらおうとする。ここで生活するための情報収集をしているのか、逃げようとしているのか」
そんなことは、私もわからない。
どこに行きたい、どこにもいたくない。
何をしたい、何も知りたくない。
何が嫌?
「…そんなに先のことは…考えていないです。痛いのが嫌で出てきてしまっただけで、その後は行き当たりばったりで…」
「痛いのが嫌?」
「集力の陣の中は痛くて苦しいから、陣に入れられるのが…怖くて…逃げました」
本当の理由がそれなのかは自分でもよくわからない。なんだか、悪いことをして叱られている子供のようだ。実際迷惑をかけているのだけれど。
当の的場さんは怒っていると言うより不思議そうに私を見る。
「確かに今夜翼の妖力を取らせて頂くつもりで集力の陣の準備はしているはずですが、誰からそれを?」
「誰とかないけど…出かける前の的場さんの様子とか、邸に残っている人の様子とか…具体的な根拠を挙げろと言われると難しいけれど…」
「…勘がいいのも考えものですねぇ。逃げられるのを危惧して伝えなかったのですが、バレていたとは…あぁ、それで緊張しているんですね」
私の手元をちらりと見てから、再び顔に視線を戻す。
「こちらとしてはべつに今日でなくてもいいんですが、どちらかと言うと君の側の事情で今日が都合がいいかと」
一度言葉を切って、何かを見出そうとするかのように1秒ほど目を細めてから言葉を続ける。
「自覚があるわかりませんが、何故か君は妖怪達から見てとても目立っているようですよ。音羽の女性は15、6歳を越えると妖怪に狙われやすくなるようで、喰われて亡くなっている人が何人かいると記録に残っていますし。翼の妖力を抜くことで多少目立たなくなるようですが、そうでもしないとおちおち1人で外出もさせられない。現に今日も教会に逃げ込んだんじゃないですか?市役所でも七瀬が1匹追い払ったし、こちらに来る直前も下校途中に襲われていたでしょう?」
15、16歳…ちょうど今頃。
そういえば、下校中罠張る大きな妖怪がいたっけ。
あれは一体どうなったんだろう?
眠すぎてよく覚えていない…雨と水溜りと、虹を見たような…?
「君の叔父様に翼を見せる陣として集力の陣を提供した術師がいたから、なんとかなっていたのでしょうけど、あんな効率悪い陣で妖力を多少抜いたところで大して効果は続かないでしょうし、一体どうやって切り抜けていたんです?」
「一体どうやって切り抜けていたんです?」
無意識に質問を繰り返してしまったからか、彼は眉をひそめて
「無自覚に対処できているんでしょうか?」
と私の顔を覗き込む。
「…カトリック校で校内に聖堂もあるし、敷地に神父様のいる教会もあるからか、学園内には悪意のあるものはほとんど入れないみたいでした。家は家で…いろいろ…」
「いろいろ?」
聞き返されたけれど、その話を詳しくしてもいいか判断できるほど私は的場さんを信用していない。
「妖怪に追われやすくなったのは最近の気がするので、正直よくわかりません」
「…なるほど、まぁ年齢的にちょうど狙われやすくなってきたばかりというわけか…」
話を逸らしたことを追求されなくて、少しほっとした。
ほっとしたけれど、傾きかけた夕陽を背に、車は元の的場邸へ着いてしまった。
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