3-2 白黒のアドレッセンス・後編
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暑くも寒くもない、暗くも眩しくもない、曇り空。
つい1週間前まで通っていたミッション系高校の習慣でマリア像に手を合わせて一礼してから、教会の敷地を出る。
黒い大きな妖怪は見当たらない。
図書館で見た画面上の地図を思い出しながらゆっくり歩いて市役所にたどり着いた。
「ええと、もう一度経緯を説明してもらってもいいですか?」
窓口から離れた別の個室に通されて、優しそうな中年の女性職員と向き合って考え込む。
経緯…保険証がどうなっているのか調べて欲しかっただけなのに、なんで二度も経緯を説明しなきゃいけないんだろう。しかも、彼女は「児童や家族に関する相談窓口の担当者」らしい。
ああ、確かに「保護者だった叔母夫婦が決めた婚約者の家に、婚約相手の家の都合で引っ越してきた」って、なんか謎すぎるか。そんなことある!?ってかんじだろうけど、当の私が一番「そんなことってある!?」って思っている。
どういう経緯で私がここにいるのかの説明…正直私もわからない…。
「婚約者さんというのは、親同士というか親戚同士が決めたということ?」
的場さんの口振りや邸内の人達の態度からすると、的場一門の少なくとも上の方の人達の総意ではあるんだろうけど、彼らは親戚?みんな親戚ということはなさそうだけど、「仕事関係者が決めたみたい」って微妙?
何と答えようか考えあぐねていると、ノックと共に「ちょっといいですか?」と、女性職員の上司らしい男性職員がドアから覗いて女性を呼んだ。
「すみません、ちょっとお待ちくださいね」
と女性は席を立って、上司について部屋から出て行く。
「あの子の件はもういい。私達が介入すべき話じゃない」
「えっどうしてですか?」
「理由など探らなくていい。とにかく…」
話しながら部屋から遠ざかっているらしく2人の話の内容は聞き取れなくなっていった。
戻ってきたらどう話したものかと考えて窓の外に目をやると、ぞくりと鳥肌が立った。
何か、いる。
黒くて細くて人の形をした何か。
何か、良くないかんじ。
見なかったふりをしてサッと目を離したけれど、遅かった。
窓をすり抜けて入って来る。
見ないように目を逸らしていてもわかる、動きはゆっくりだけど、ゆらゆらと歩いて来ている。逃げようにも立ち上がれない。
あと2m、1m…ガチャリとドアが開いてさっきの職員2人が戻って来た。
「お迎えの方が来ましたよ」
男性職員の声掛けと共に紺色のパンツスーツの女の人、的場さんに「七瀬」と紹介された女性が入って来た。
七瀬さんは私の背後を一瞥しツカツカとこちらへ歩いて来て、さりげない仕草でパッと黒い妖怪に札を貼り、
「住所変更の手続きが済んだから、そろそろ帰りますよ」
と何事も無かったかのように私に話しかけてきた。
実際、黒い妖怪はまるで最初からいなかったかのように消えていった。
部屋の出口で職員2人と別れて市役所の廊下を七瀬さんと2人で歩く。
「帰らない」と駄々をこねても仕方ない雰囲気だったので、特に食い下がることもなく着いてはきたけれど…。
「怪我はないかい?」
「はい。ありがとうございました」
不機嫌だと思われないように、七瀬さんの目を見てお礼を言ってから視線を足元に戻す。
「町の散策はいいけれど、あんまり面倒事を起こさない方がいいよ」
「……」
「うちのボスは、短気だよ」
警告というより助言のような比較的柔らかい口調で言われたけれど、怒らせるとどうなるかあまり考えたくはなかった。
つい1週間前まで通っていたミッション系高校の習慣でマリア像に手を合わせて一礼してから、教会の敷地を出る。
黒い大きな妖怪は見当たらない。
図書館で見た画面上の地図を思い出しながらゆっくり歩いて市役所にたどり着いた。
「ええと、もう一度経緯を説明してもらってもいいですか?」
窓口から離れた別の個室に通されて、優しそうな中年の女性職員と向き合って考え込む。
経緯…保険証がどうなっているのか調べて欲しかっただけなのに、なんで二度も経緯を説明しなきゃいけないんだろう。しかも、彼女は「児童や家族に関する相談窓口の担当者」らしい。
ああ、確かに「保護者だった叔母夫婦が決めた婚約者の家に、婚約相手の家の都合で引っ越してきた」って、なんか謎すぎるか。そんなことある!?ってかんじだろうけど、当の私が一番「そんなことってある!?」って思っている。
どういう経緯で私がここにいるのかの説明…正直私もわからない…。
「婚約者さんというのは、親同士というか親戚同士が決めたということ?」
的場さんの口振りや邸内の人達の態度からすると、的場一門の少なくとも上の方の人達の総意ではあるんだろうけど、彼らは親戚?みんな親戚ということはなさそうだけど、「仕事関係者が決めたみたい」って微妙?
何と答えようか考えあぐねていると、ノックと共に「ちょっといいですか?」と、女性職員の上司らしい男性職員がドアから覗いて女性を呼んだ。
「すみません、ちょっとお待ちくださいね」
と女性は席を立って、上司について部屋から出て行く。
「あの子の件はもういい。私達が介入すべき話じゃない」
「えっどうしてですか?」
「理由など探らなくていい。とにかく…」
話しながら部屋から遠ざかっているらしく2人の話の内容は聞き取れなくなっていった。
戻ってきたらどう話したものかと考えて窓の外に目をやると、ぞくりと鳥肌が立った。
何か、いる。
黒くて細くて人の形をした何か。
何か、良くないかんじ。
見なかったふりをしてサッと目を離したけれど、遅かった。
窓をすり抜けて入って来る。
見ないように目を逸らしていてもわかる、動きはゆっくりだけど、ゆらゆらと歩いて来ている。逃げようにも立ち上がれない。
あと2m、1m…ガチャリとドアが開いてさっきの職員2人が戻って来た。
「お迎えの方が来ましたよ」
男性職員の声掛けと共に紺色のパンツスーツの女の人、的場さんに「七瀬」と紹介された女性が入って来た。
七瀬さんは私の背後を一瞥しツカツカとこちらへ歩いて来て、さりげない仕草でパッと黒い妖怪に札を貼り、
「住所変更の手続きが済んだから、そろそろ帰りますよ」
と何事も無かったかのように私に話しかけてきた。
実際、黒い妖怪はまるで最初からいなかったかのように消えていった。
部屋の出口で職員2人と別れて市役所の廊下を七瀬さんと2人で歩く。
「帰らない」と駄々をこねても仕方ない雰囲気だったので、特に食い下がることもなく着いてはきたけれど…。
「怪我はないかい?」
「はい。ありがとうございました」
不機嫌だと思われないように、七瀬さんの目を見てお礼を言ってから視線を足元に戻す。
「町の散策はいいけれど、あんまり面倒事を起こさない方がいいよ」
「……」
「うちのボスは、短気だよ」
警告というより助言のような比較的柔らかい口調で言われたけれど、怒らせるとどうなるかあまり考えたくはなかった。