アズカバンの囚人編
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それから季節は瞬く間に流れた。
先日赤く色づき始めたと思ったホグワーツの木々は、学期が終わる二週間前には枝の先に霜を纏っていた。
黒い犬のパッドフット──シリウス・ブラックはといえば、私が朝食のサンドイッチや昼食のチキンを週に三度は持って行っているので、毛艶や体格がずいぶん立派になっていた。そしてその度に私がハリーたちとの話の他にスネイプ先生が大好きだという話をするので、ここ最近はスネイプ先生のスの字を聞こうものなら吠えて話を遮るようになった。ダンブルドア先生のように私を真っ赤にさせる一言を言わないからか、それとも──未来で一度も関わったことがないからだろうか、私は彼につい遠慮せず話してしまう気がする。いつか意図せず未来から来たこともしゃべってしまいそうで、少し怖い。
城の中はスネイプ先生の研究室を除き、クリスマス・ムードで満ち溢れていた。あまりにも季節感の欠片もない部屋だったので、雪が降ったら小さな雪だるまに保存魔法をかけて持っていこうと考えている。
そして目前に迫ったクリスマス休暇は、帰る家のない私、帰りたくないハリーはもちろんとして、ロンとハーマイオニーもホグワーツに居残ることを決めていた。二人ともなんだかんだ理由を付けていたが、ハリー──そしてなんと私──のそばにいたいと思っての行動であることは丸わかりで。少し耳を赤く染めたロンとハーマイオニーに見えないように、二人に負けず耳を真っ赤にした私とハリーは顔を見合わせて笑った。
学期の最後の週末には再びホグズミード行きが決まり、当然私とハリー以外はクリスマス・ショッピングがすませられると大喜びだった。クリスマス・プレゼントといえば、ついにオリバンダ-さんから出来上がった杖が届いた。マホガニーにヘドウィグの羽根を芯材とした、三十センチほどのよくしなる杖。オリバンダ-さんのご厚意で、持ち手には金色で“ニンバス2000”の文字が輝いていた。杖として使えるかどうかはハリーに持たせてみてのお楽しみだ、と手紙に書かれていたので、私は今からクリスマスの朝が待ちきれなかった。
他のみんなには、せっかく魔法薬学を頑張っているのでスネイプ先生に魔法の化粧品や頭が冴えるドリンクなんかの作り方を無理やり聞き出し、コリンから借りたカメラで撮った写真でポストカードと一緒に渡そうと思っている。
迎えた学期最後の週末、ロンとハーマイオニーをホグズミードに見送って、大理石の床を歩きながらハリーは「そういえば」と私を見た。
「サチはスネイプに結局、誕生日じゃなくてクリスマスに何かすることに決めたって言ってたよね」
「うん」
スネイプ先生の誕生日は一月九日で、クリスマスに近かった。生徒に誕生日を知られているなんてスネイプ先生みたいな性格の人は嫌がりそうなので、直接教えてもらえる日まではクリスマスに焦点を当てることに決めたのだ。
「カードと手袋をあげることにしたよ」
これは過去にさかのぼる前、入学したときのクリスマスにあのひとへ贈ったものと同じだった。その時と違うのは、購入したものではなくて編んだものだということ。
腕の怪我はとっくに完治していたし、祖母が編み物は大の得意で私に教えてくれていたのでそこまで苦労もなく、同じくおばあさんが編み物好きなネビルに助言をもらいながら、先月からコツコツ編み続けていた。指先を外してボタンで留められるミトンタイプの黒い手袋で、スネイプ先生の袖口の詰まったフロックコートを少し覆うくらいの大きさを目標にしている。
スネイプ先生と手の大きさの近いルーピン先生に大きさを測らせてもらっていて、ダンブルドア先生には毛糸を買ってもらったので、普段お世話になっているマクゴナガル先生と合わせて三人分の肩掛けも追加で編んでいた。
それを話すとハリーはとてもびっくりしていた。
「うわあ、どうりで最近は女子寮か談話室にこもりっきりなわけだ」
「そ、そうなの!もうちょっと早くから先に始めればよかった」
ハリーたちには黙っているが、実は先生方のぶんは終わっていて、今編んでいるのはハリーとロン、ハーマイオニーに渡すものなのだ。自分のマフラーと合わせて四人分編んでいるので、これだとクリスマス直前まで時間がかかりそうだった。けれど、それくらい三人には仲良くしてもらっているし、そのおかげで私は置いてきた人たちを寂しく思わないで済んでいた。
今日はグリフィンドール塔で箒選びの本を読むことにする、と言ったハリーに手を振って──私は箒がさっぱりなので──、地下牢に続く階段に向かった。さっきスネイプ先生のことを話していたので、なんだか無性に顔を見たくなってしまったのだ。
「ジングルベル、ジングルベル、鈴が──あ」
鼻歌を歌いながら廊下を歩き、冷たい風を感じて何気なく窓の外を見ると、ちらちらと雪が降っていた。過去をさかのぼった日の空に似ていたからか、それともこれがこの世界が過去であることを最初に教えた窓だったからか、私は思わず立ち止まって窓辺に寄りかかった。
「────!」
「うん?」
しばらく雪が中庭を白く染め上げていく様子を見守っていると、人っ子一人いない上の階からハリーの声が聞こえたような気がした。何かあったのかと階段の上に顔を出すと、ちょうど角からこちらを見ていたハリーと目が合った。
「サチ!」
ハリーの頬は薔薇色に輝いていて、手には古びた羊皮紙が握られている。
「サチ!見つけた!」
「どうしたの?」
「一緒に行こう!」
説明もそこそこにハリーは私を引っ張って階段を駆け上がり、四階にある隻眼の魔女の象の影に滑り込んだ。ハリーは羊皮紙──どうやら地図だったらしい──と石像の間で視線を何往復かさせ、杖で石像のコブを叩いた。
「ディセンディウム!降下!」
するとどんなに押しても動きそうになかった像のコブが割れ、細身の人間が通れるくらいの割れ目が現れた。ハリーは地図をしまって中の様子を確認すると、「僕のあとについてきて」と言って滑り降りていった。そうやら石の滑り台のような道になっているらしい。コブが閉じない内に、ハリーに続いて私も急いで頭から中につっこんだ。
ハリーが呪文を唱えたらしく、どことなくじめじめした地面に足を降ろした時には杖先に光が灯っていたので、中のトンネルの様子がよく見えた。
「いたずら完了!」
ハリーがそう言って杖で地図を叩くと、それはすっかり古い羊皮紙に戻ってしまった。
「ハリー、その地図って?」
「フレッドとジョージがくれたんだ」
嬉しそうにそう言って、ハリーはことの経緯を説明しながら歩き出した。
これは“忍びの地図”といって、「われ、ここに誓う。われ、よからぬことを企む者なり」と唱えることでホグワーツ城と学校の敷地全体を浮かび上がらせ、ホグワーツにいる人間やゴーストがどこにいるのか一目でわかるのだという。そこにはホグワーツの誰も知らない抜け道も載っていて、今通った石像もその一つ。ホグズミードの菓子店であるハニーデュークスの地下室に直通の通路らしかった。製作者は自らをいたずら仕掛人と称する四人組──ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングス──で、私は“パッドフット”という名前に思わず目を丸くした。
何か考えられそうだった時に、手を引いていたハリーが立ち止まった。
「階段だ」
またまた顔を見合わせた後、ハリーが先陣を切って狭い石段を上っていった。百段を超えたあたりから私は数えるのをやめた。しばらくしてようやくハリーの足が止まり、天井の観音開きの撥ね戸がきしむ音が聞こえた。ハリーに続いて外に出ると、そこはお菓子の入った箱が積まれた倉庫だった。入ってきた店員が視界から外れるのを待って、私たちは急いで倉庫の階段を上がり、ハニーデュークスのカウンター裏に飛び出した。
幸運にも店内は人でごった返していて、誰一人として私たちが出てきたのを目撃した人はいなかったし、見咎める人もいなかった。
「無理やり連れてきちゃってごめんね」
こんなにぎわっているホグズミードに来たのは初めてだったので、つい棚という棚にずらりと並べられたお菓子に目を奪われていると、前を歩いていたハリーがそう言った。
「え、そんな。ついてきたのは私だし・・・・・・むしろ、私に地図のこと教えてよかったの?」
「フレッドとジョージからこれを受け取って、僕だけ黙って行くなんてできないよ」
ハリーは私を振り返って照れくさそうに笑った。
「知ってる?サチだって僕の大切な親友なんだよ」
店の一番奥まったところまで行って、“異常な味”と書かれた看板の下で血の味がするペロペロ・キャンディを品定めするロンとハーマイオニーを見つけたが、私の顔はキャンディと同じくらい真っ赤になっていたと断言できる。
一方泣きそうなほど嬉しいことを言ってくれたハリーはといえば、動かなくなってしまった私をひっぱって、ロンとハーマイオニーの背後に忍び寄った。
「ウー、だめ。ハリーとサチはこんなものほしがらないわ。これって吸血鬼用だと思う」
ハーマイオニーがそう言うと、ロンは「じゃーこれは?」と“ゴキブリ・ゴソゴソ豆板”の瓶を彼女の鼻先に突き付けた。
「絶対イヤだよ」
ハリーが答えたので、ロンは危うく瓶を落とすところだったし、ハーマイオニーは金切り声で私たちの名前を呼んだ。
「どうしたの、こんなところで?ど──どうやってここに──?」
「ウワー!君たち、“姿現し術”ができるようになったんだ!」
「まさか、違うよ」
ハリーは声を落として、先ほど私に説明した内容を繰り返した。
ハーマイオニーはシリウス・ブラックがハリーを狙っていることを心配しているようで、もしこの地図に載っている抜け道をシリウス・ブラックが知っていて先生が知らなかった場合、それはとても危険なことだと主張した。ハリーはもちろん反論した。七つの抜け道の中でフィルチさんが知らない三つのうち、一つは崩れて使えず、一つは暴れ柳の真下にあって誰も使えない、今さっき通った道は出入口があると知らなければ見つけるのは難しい、と。ハリーが反対を聞き入れないと察すると、ハーマイオニーは顔の赤みがだいぶ引いた私をきっとにらんだ。
「サチ!どうしてハリーを止めなかったの?」
「うん。・・・・・・ごめん」
やっぱり止めた方がよかったんだろうか。けれどハリーはこんなに喜んでいるし、シリウス・ブラックは冤罪だし・・・・・・それは私しか知らないことだけど・・・・・・。
私とハリーがハーマイオニーの剣幕に口ごもってしまうと、ロンが大げさに咳払いし、、店の出入り口のドアの内側に張り付けてある掲示を指差した。それは魔法省からのお達しで、日没後は毎晩吸魂鬼がパトロールしていることが書かれていた。
「な?吸魂鬼がこの村にわんさか集まるんだぜ。ブラックがハニーデュークス店に押し入ったりするのを拝見したいもんだ」
肩をすくめながらロンは続ける。
「それに、ハーマイオニー、ハニーデュークスのオーナーが物音に気づくだろう?だってみんな店の上に住んでるんだ!」
「そりゃそうだけど──」
ハーマイオニーは逡巡して、でも、と息せき切って口を開いた。
「ハリーとサチはやっぱりホグズミードに来ちゃいけないはずでしょ。許可証にサインをもらってないんだから!誰かに見つかったら、それこそ大変よ!特にハリーは──今日シリウス・ブラックが現れたらどうするの?たったいま?」
「こんな時にハリーを見つけるのは大仕事だろうさ」
ロンが顎をしゃくった外は、いつの間にか大雪が吹き荒れていた。
「いいじゃないかハーマイオニー、クリスマスだぜ。ハリー、それにサチだって楽しまなきゃ」
「僕たちのこと、言いつける?」
ロンに続いて、ハリーがニヤッと笑った。
「まあ──そんなことしないわよ。──でも、ねえ、ハリー──」
言葉の途中で、ロンがハリーを“フィフィ・フィズビー”の樽の方へ引っ張っていった。残されたハーマイオニーは、私の肩に両手を乗せてうなだれた。
「ああ、サチ──あなたはこんなことしないって信じてたのに──」
ハーマイオニーには申し訳ないけれど、シリウス・ブラックのことに関して私は心配していないのだ。ただひたすら謝るしかできない私に、とうとうハーマイオニーは諦めたようにため息をついた。
ロンとハーマイオニーが会計をすませてから、私たちは吹雪の中を“三本の箒”まで歩いた。城からそのまま抜け出してきたので、私はハリーとお互いくっついて移動しなければ今にも凍えてしまいそうだった。
たった数分でまつ毛は凍りつき、肩には雪が積もるような寒さがったけれど、ライトアップされたホグズミード村はまるで、クリスマス・カードから飛び出してきたようだった。ここがこんなに活気のある村だったことを、私は知らなかったのだ。
三本の箒に入ると体中が暖かさと喧騒に包まれた。カウンターではマダム・ロスメルタが荒くれ者の魔法戦士たちに飲み物を出していた、私たちは奥のこぢんまりとしたテーブル席に腰を下ろした。前の暖炉脇にはシンプルに飾られたクリスマス・ツリーが立っていて、背後の窓からは雪の吹き荒れるのがよく見えた。五分もするとロンがバタービールの入った大ジョッキを四本も抱えながら戻ってきたので、私たちは「メリー・クリスマス!」と少し早めの祝杯を挙げた。
ひゅう、と室内の暖かな空気に一瞬、刺すような冷たさが混じった。
ハリーが思いっきりむせたので入り口に目をやると、マクゴナガル先生、フリットウィック先生、ハリウッド、そして魔法大臣のコーネリウス・ファッジが入ってきたのが見えた。
私とハリーは思いっきりテーブルの下に押し込まれたので、せっかくのバタービールが衝撃でこぼれてしまった。先生方とファッジは私たちの席の方に近づいてきたのを見たハーマイオニーは呪文を唱え、私とハリーを隠せるようにクリスマス・ツリーを動かした。先生たちが話すのを聞きながら、そういえばこの時はまだファッジが魔法大臣だったのか、と私は思い出していた。
入学したときはルーファス・スクリムジョールが就任していて、しかし、二年生の時に彼は殺され、魔法省がヴォルデモートに掌握──決戦後は不死鳥の騎士団の一員でもあったキングスリー・シャックルボルトさんがその席に座ることになっていた。
ファッジはヴォルデモートの復活をずいぶん長く認めずにダンブルドア先生のいるホグワーツを一年ほど敵視していて、その結果対応が後手後手にまわったのだとキングスリーさんは言っていた。だから正直に言うと私はファッジを好きではないし、もしシリウス・ブラックの無実がダンブルドア先生に証明できたとしても、信じてくれないのではないかと疑っている。
先生方は吸魂鬼に始まり、マダム・ロスメルタを加えて次第にシリウス・ブラックのことを話すようになっていた。
「ブラックの一番の親友が誰だったか、覚えていますか?」
つぶやくように言ったマクゴナガル先生に、ここにはしょっちゅう来てましたわ、とマダム・ロスメルタはちらっと笑った。
「ああ、あの二人にはよく笑わされました。まるで漫才だったわ、シリウス・ブラックとジェームズ・ポッター!」
ハリーが机の下で大ジョッキを落とし、大きな音を立てた。ロンがハリーを蹴ったのが視界の端に映った。運よく騒がしい酒場で先生が物音に気を留めることはなかった。フリットウィック先生が「正に一心同体だった」と甲高い声で言うと、ファッジが大きくうなずいた。
「ポッターはほかの誰よりブラックを信用した。卒業しても変わらなかった。ブラックはジェームズがリリーと結婚した時、新郎の付添役を務めた。二人はブラックをハリーの名付け親にした。ハリーはもちろんまったく知らないがね。知ったら、ハリーがどんなに辛い思いをするか」
「ブラックの正体が“例のあの人”の一味だったからですの?」
マダム・ロスメルタがささやくと、ファッジは「もっと悪い」と声を落とした。
ダンブルドア先生がハリーの両親に身を隠すため“忠誠の術”を教えたこと。それは恐ろしく複雑な術で、秘密の守り人を選び、その人の中に秘密を魔法で封じ込め、守り人が暴露しない限り情報を見つけることを不可能にするものなのだそう。例えヴォルデモートの目と鼻の先にハリーの両親がいたとしても、絶対に見つけることはできない、とフリットウィック先生が説明した。
それじゃあきっと、シリウス・ブラックは、秘密の守り人じゃなかったんだ。
先生たちはシリウス・ブラックが守り人で、ヴォルデモートに密告したと話しているけれど、彼は無実。ということは、それはカモフラージュで、別の人間に任せたのだろう。ハリーの父親を狙うなら、当然闇の陣営は彼の親友がシリウス・ブラックであるとわかっていたし、一番に追手を差し向けていたはず。
「くそったれのあほんだらの裏切り者め!」
ハグリッドの罵声に、私の意識は先生たちに引き戻された。ハグリッドは歯噛みして、シリウス・ブラックに最後に会ったのは自分だろう、と言った。彼がハリーの両親が死んでしまって崩れた家から、額に傷を刻まれた赤ん坊のハリーを連れ出したところで、シリウス・ブラックは空飛ぶオートバイに乗って現れた。
「ヤツがリリーとジェームズの秘密の守り人だとは知らんかった。例のあの人の襲撃の知らせを聞きつけて、何かできることはねえかと駆けつけてきたんだと思った。ヤツめ、真っ青になって震えとったわ。そんで、俺が何したと思うか?俺は殺人者の裏切り者を慰めたんだ!」
私の隣で、ハリーの指先は真っ白になっていた。ハグリッドは激昂したまま話を続けた。ハリーを預かろうと言ったのを、ハグリッドは叔父叔母の家に預けるようダンブルドア先生から言われていたので断ったらしい。するとシリウス・ブラックは、彼のお気に入りのオートバイをハグリッドが使うように渡した。
そして次の日、登場したのがピーター・ペティグリューだった。
ファッジが彼について語れば語るほど、私の頭の中でパズルのピースがはまっていく。ペティグリューはわずかな肉片を残して殺されてしまった──ように見せかけた。魔法省は目撃者の記憶を修正してしまったので、もし本当のことを知っている人がいたとしても、もう公にはならない。周囲のマグルを巻き添えにして、ペティグリューはシリウス・ブラックという真実を知る人をそれだけ闇に葬り去りたいと願ったのだろう。自分自身の保身のために。そしてこの間、ハリーはなんと言っていたっけ。
「ハリー・・・・・・スキャバーズって病気だったの?」
「うん、ダイアゴン横丁で会った時にはやせ細ってたよ・・・・・・」
ダイアゴン横丁で会った時。
あんなにガリガリになっているのはホグワーツでクルックシャンクスに追いかけられているからではない。シリウス・ブラックが脱獄したというニュースを見たからだ。
ファッジの声の合間に、鼻をかむ音が聞こえた。
「ブラックは魔法警察部隊が二十人がかりで連行し、ペティグリューは勲一等マーリン勲章を授与された。哀れなお母上にとってはこれが少しは慰めになったことだろう。ブラックはそれからずっとアズカバンに──そういえば、シラユキの娘さんが編入してきたというのは本当かね?」
ふと、ファッジが思い出したように言った。父親のこと。私の知らない話に、心臓が大きく跳ねた。
「シラユキとは私も何度か仕事をしたことがある。心優しく誠実で──本当に優秀な闇祓いだった。仲の良かったブラックの無実をただ一人訴え続けていた」
「そうでしょうとも」
マクゴナガル先生が頷いたのがわかった。ファッジが話を続ける。
「本当の秘密の守り人を探すと言って、ずっと死喰い人の残党と戦っていた。どこまでも仲間思いな男だったが、それが仇になった。レストレンジ家の連中を捕まえる時に部下を庇って──」
そうだったんだ。
父親を殺した死喰い人の名前が思ってもいないところで明かされたけど、私にはそれよりも、父親がシリウス・ブラックを無実だと言い続けていたということの方が重要だった。
父親は──お父さんは、私と違ってスキャバーズがペティグリューだとか、シリウス・ブラックが無実だと知らなかったけれど、それでも友達を信じていたんだ。
父親からバトンを手渡されたような気がした。こうなったら、絶対にペティグリューを捕まえてシリウス・ブラックが潔白であることを証明したい。私が入学する前に亡くなってしまったシリウス・ブラックに、この先をどうにか生きていてほしい。ハリーの話でしか知らなかった“シリウス”の存在が、今はずっと身近に感じられた。この間雨の中で黒い犬と出会った時より、ずっと近くに彼は存在していた。
「ハリー、サチ?」
先生たちが三本の箒から出て行く背中を見つめながら、決意を新たにしていると、いつの間にかロンとハーマイオニーが机の下をのぞいていた。
ハリーは呆然としていて、その目には何も映っていなかった。