転生と卵とそれから私
あなたのおなまえは?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
- 1ー② -
ここは新世界海上。
太陽に反射し、キラキラと光る無限に広がる青海の中に、悠然と浮かぶ白い鯨型の大船が1つ。
メイン・マスト、ミズン・マスト、フォア・マストの天辺にはそれぞれ1つずつ黒地の旗が見える。
旗に描かれるは白い髭が特徴の髑髏マーク。
彼の四皇、白ひげ海賊団の母船だ。
1600人以上もの船員を有するこの巨大な海賊船は、普段はたくさんの喧騒に溢れている。が、今は不気味な静けさに包まれていた。
船の甲板の縁にずらりと並んで釣り糸を垂らす男たち。
彼らは無言で釣り糸の先を睨みつける。
釣り糸が引かれる度、力に任せて引き上げようとするも、なかなか上手くいっていないようだった。
その中で、1人立って何かを集計していた男は船内から出てきた男に気づき声をかけた。
「イゾウ隊長?」
洋装の多い船で、かなり目を引く薄い桜色の生地の着物を着た女形のような男。
白ひげ海賊団16番隊隊長のイゾウである。
煙管を手に現れたイゾウは甲板を見渡し、くくっ、と小さく笑った。
「他の隊長たちは?」
「まだ会議中だ。2番隊の状況はどうだ?上手くいってるかい?」
周りを見れば一目瞭然だろうに、笑いながら聞いてくるイゾウに、男は小さくため息を漏らす。
「意地が悪いっすよ隊長。見てわかる通り惨敗です。」
集計中の用紙を見せれば、あぁー。と、笑いが苦笑に変わった。
「こりゃあ、本格的にまずいな。」
紙には甲板に釣り上げられた魚の集計がされていた。
小物、大物、海王類と3種類に分類されており、その下に正の字で釣れた数が示されている。
小物はどうやらそれなりに釣れているようだが、大物は数匹、海王類に至っては1匹も釣れていない状況が見て取れた。
「次の島までは…」
「航海士達によればこのまま順調に行けば四日で着くらしいが…ここは新世界。何が起こっても不思議じゃねぇからなぁ」
「あぁー……。うちの隊長が…ホントすいません……。」
眉を下げて心底謝る男に、イゾウはもう一度苦笑した。
* * *
事の起こりは数時間前の事だ。
あと数日で目的の島に着くということで、白ひげ海賊団では各隊に別れて備品や食料、武器の補充点検が行われていた。
3番隊、6番隊、7番隊が備品の確認。4番隊を筆頭に、11番隊、14番隊が食料の確認。2番隊、5番隊、9番隊、15番隊が武器の確認。8番隊を筆頭に、10番隊、13番隊が船の破損確認。そして12番隊、16番隊が医療用品やけが人の確認を行い、その全ての集計が甲板にいた1番隊に集められた。
あと少しでそれぞれの隊の確認が終わるという所に現れたのは、厳つい顔を強ばらせ慌てたように走る4番隊の隊員だった。
「おぅ、どうした?」
丁度甲板に出ていた4番隊の隊長であるサッチが青ざめた表情の男に声をかける。
この強面の隊員、体格は大きく、顔も子供100人が見れば100人とも泣き出すような面だが、こう見えて戦闘はからっきしの非戦闘員。
根っからの料理人であった。
そのためか普段は海賊に似つかわしく無くとても静かな男なので、ここまで音を荒立てて走ってくるのはとても珍しい事だった。
「何かあったか?」
あまりの形相で現れたため、甲板にいたもの達に見つめられ一瞬萎縮してしまった隊員は、しかし直ぐに気を取り直して声を上げた。
「そ、それが…食料があと1日分しかないんです!!」
「「「「「「「「「……は?」」」」」」」」」
「え、待って。俺、ちゃんと前回の島で1ヶ月分仕入れたよね?あと最低でも4日は持つはずじゃ?」
1番混乱したのは食料の仕入れを担当する4番隊の隊長であるサッチだ。
前回の島から次の島まで約4週間と少しかかると分かっていたために1ヶ月分も仕入れ、それに合わせて日々料理を作っていたのだから足りなくなるなど有り得ない事だった。
「ちゃんと確認したのかよい?」
集計を取っていた1番隊隊長のマルコも椅子から立ち上がり、サッチと隊員に歩み寄る。
宴が続いた時などに食料不足はままあるが、3日分も足りない事態は久しく無かった。
「は、はい。4番隊と11番隊総出で確認したんですが…やはりあと1日分しか…」
「マジか」
「それと、その食料を保存していた第5週倉庫の鍵が壊れてまして…」
「マジか」
白ひげ海賊団は1600人と船員の数が多いため、今回のような長旅だとかなりの食料を買い込むことになる。
そのため、買った食料を保存する部屋は第1週倉庫から第5週倉庫の5つつあり、ひとつひとつの部屋にそれぞれ7日分の食料を保存し、頑丈な鍵をかけていた。
明日から第5週倉庫の食料を使用する予定だったため、今まで誰も気づかなかったのだ。
「あの、それでですね…これ……」
そう言いながら隊員が見せたのは、件の第5週倉庫の壊された鍵である。
大柄な隊員の大きな手にも余る程の巨大な錠前は、何かで溶かされたように歪に壊れていた。
こんな芸当ができるのはこの船では一人しかいない。
「「エーーーースーーーーー!!!!」」
ボボッとマルコの身体から青い炎が立ち上り、サッチの顔に青筋が浮かぶ。甲板にたっていた船員数名は、ビクリと体を震わせて1歩下がり、甲板に報告に来た者達も、その状況を見てすぐさま船内に戻っていった。
「あ、あの……ど、どうします?」
震える声をできるだけ抑えながら、隊員は目の前で怒り心頭の隊長2人に聞く。
「どうつったって……」
いくらなんでも3日分など、この何も無い大海原では確保できないのは明白である。
「どうする、マルコ」
「…はぁー。……とりあえずサッチ、お前はエース見つけてオヤジの部屋まで連れて行けよい。途中で他の隊長見つけたらオヤジの部屋に行くよう言っとけぃ。」
最悪3日何も食べなくても人は死にはしないが、やはりオヤジと隊長格による会議は必要であろう。途中で何処かの島にによるか、そのまま進むかの最終判断は船長であるオヤジが決めることだ。
「2番隊!!」
「「「「「は、はい!」」」」」
「お前らは他の2番隊員連れて甲板で釣りだよい。連帯責任だい」
「「「「「り、了解しました!!!!」」」」」
* * *
そして今に到るわけである。
「やっぱり何処かの島によるんすかね?」
「だろうなぁ。今ナミュールがこの近くに島がないか探しているところだ」
魚人である8番隊隊長のナミュールは魚と話が出来る。
そのためこのような食料不足の際や、嵐によってふねが破損した際などに、近くに寄れる島がないか探すことが多い。
「多分もうすぐ…」
不意に途切れた言葉に、イゾウが視線を向けた先を追えば、マルコが甲板に出てくるところだった。
「よう、マルコ。会議は終わったかい?」
「何が、よう。だよいっ!途中で抜け出しやがって」
「俺が居なくても変わらねぇだろ」
「そう言う問題じゃないよい!」
ガリガリと南国果実のような特徴的な頭をかいたマルコは、はぁ。とため息を吐いた。
マルコの手には1枚の海図が開かれている。
赤い印がつけられているところを見るに、どうやら何処かの島に停泊することに決めたようだ。
「進路から外れるのか?」
「いや、ほとんどこのままだよい。」
「へぇ、運がいい」
「ナミュールが言うにはここから1日と半日の所に小さな島があるみたいでねい」
無人島らしい。
そう言うマルコに、本当に運がいいものだとイゾウは少し目を見開いた。
人の手が入っていない無人島には野生の動物が多い。
食料として動物を狩るには最適の場所と言えた。
「降りるのは2番隊と4番隊と1番隊だよい。おめぇ等は好きにしてろい」
「ん?お前さんも行くのか?」
「無人島なら薬草があるかもしれないからねい。一応な」
そう言うとマルコは船内に戻って言った。
どうやらイゾウに報告するためにわざわざ甲板に出てきたらしい。
「ホント律儀な奴だ」
ふわりと紫煙を揺らす。
1番隊隊長と船医を兼任するマルコはこの船で随一のワーカーホリックだ。
本人がどう思っているかは知らないが、船員達は常に彼の体調に気を揉んでいる。
本人には言わないがイゾウもその1人であった。
「どっかに我が家の長男が休める切っ掛けでもあればなぁ。」
不意にそんな言葉が出るくらいには切っ掛けを欲していたし、隣で二人の会話を聞いていた隊員が強く頷くくらいには皆が思っている事だった。
そんな望んでいた切っ掛けが、これから行く無人島に待っているとは露知らず。
彼らが乗る白い鯨は優雅に海を進んで行った。
そして彼らは出会うのだ。
ゆらゆらと揺れる、摩訶不思議なひとつの卵に──────。
ここは新世界海上。
太陽に反射し、キラキラと光る無限に広がる青海の中に、悠然と浮かぶ白い鯨型の大船が1つ。
メイン・マスト、ミズン・マスト、フォア・マストの天辺にはそれぞれ1つずつ黒地の旗が見える。
旗に描かれるは白い髭が特徴の髑髏マーク。
彼の四皇、白ひげ海賊団の母船だ。
1600人以上もの船員を有するこの巨大な海賊船は、普段はたくさんの喧騒に溢れている。が、今は不気味な静けさに包まれていた。
船の甲板の縁にずらりと並んで釣り糸を垂らす男たち。
彼らは無言で釣り糸の先を睨みつける。
釣り糸が引かれる度、力に任せて引き上げようとするも、なかなか上手くいっていないようだった。
その中で、1人立って何かを集計していた男は船内から出てきた男に気づき声をかけた。
「イゾウ隊長?」
洋装の多い船で、かなり目を引く薄い桜色の生地の着物を着た女形のような男。
白ひげ海賊団16番隊隊長のイゾウである。
煙管を手に現れたイゾウは甲板を見渡し、くくっ、と小さく笑った。
「他の隊長たちは?」
「まだ会議中だ。2番隊の状況はどうだ?上手くいってるかい?」
周りを見れば一目瞭然だろうに、笑いながら聞いてくるイゾウに、男は小さくため息を漏らす。
「意地が悪いっすよ隊長。見てわかる通り惨敗です。」
集計中の用紙を見せれば、あぁー。と、笑いが苦笑に変わった。
「こりゃあ、本格的にまずいな。」
紙には甲板に釣り上げられた魚の集計がされていた。
小物、大物、海王類と3種類に分類されており、その下に正の字で釣れた数が示されている。
小物はどうやらそれなりに釣れているようだが、大物は数匹、海王類に至っては1匹も釣れていない状況が見て取れた。
「次の島までは…」
「航海士達によればこのまま順調に行けば四日で着くらしいが…ここは新世界。何が起こっても不思議じゃねぇからなぁ」
「あぁー……。うちの隊長が…ホントすいません……。」
眉を下げて心底謝る男に、イゾウはもう一度苦笑した。
* * *
事の起こりは数時間前の事だ。
あと数日で目的の島に着くということで、白ひげ海賊団では各隊に別れて備品や食料、武器の補充点検が行われていた。
3番隊、6番隊、7番隊が備品の確認。4番隊を筆頭に、11番隊、14番隊が食料の確認。2番隊、5番隊、9番隊、15番隊が武器の確認。8番隊を筆頭に、10番隊、13番隊が船の破損確認。そして12番隊、16番隊が医療用品やけが人の確認を行い、その全ての集計が甲板にいた1番隊に集められた。
あと少しでそれぞれの隊の確認が終わるという所に現れたのは、厳つい顔を強ばらせ慌てたように走る4番隊の隊員だった。
「おぅ、どうした?」
丁度甲板に出ていた4番隊の隊長であるサッチが青ざめた表情の男に声をかける。
この強面の隊員、体格は大きく、顔も子供100人が見れば100人とも泣き出すような面だが、こう見えて戦闘はからっきしの非戦闘員。
根っからの料理人であった。
そのためか普段は海賊に似つかわしく無くとても静かな男なので、ここまで音を荒立てて走ってくるのはとても珍しい事だった。
「何かあったか?」
あまりの形相で現れたため、甲板にいたもの達に見つめられ一瞬萎縮してしまった隊員は、しかし直ぐに気を取り直して声を上げた。
「そ、それが…食料があと1日分しかないんです!!」
「「「「「「「「「……は?」」」」」」」」」
「え、待って。俺、ちゃんと前回の島で1ヶ月分仕入れたよね?あと最低でも4日は持つはずじゃ?」
1番混乱したのは食料の仕入れを担当する4番隊の隊長であるサッチだ。
前回の島から次の島まで約4週間と少しかかると分かっていたために1ヶ月分も仕入れ、それに合わせて日々料理を作っていたのだから足りなくなるなど有り得ない事だった。
「ちゃんと確認したのかよい?」
集計を取っていた1番隊隊長のマルコも椅子から立ち上がり、サッチと隊員に歩み寄る。
宴が続いた時などに食料不足はままあるが、3日分も足りない事態は久しく無かった。
「は、はい。4番隊と11番隊総出で確認したんですが…やはりあと1日分しか…」
「マジか」
「それと、その食料を保存していた第5週倉庫の鍵が壊れてまして…」
「マジか」
白ひげ海賊団は1600人と船員の数が多いため、今回のような長旅だとかなりの食料を買い込むことになる。
そのため、買った食料を保存する部屋は第1週倉庫から第5週倉庫の5つつあり、ひとつひとつの部屋にそれぞれ7日分の食料を保存し、頑丈な鍵をかけていた。
明日から第5週倉庫の食料を使用する予定だったため、今まで誰も気づかなかったのだ。
「あの、それでですね…これ……」
そう言いながら隊員が見せたのは、件の第5週倉庫の壊された鍵である。
大柄な隊員の大きな手にも余る程の巨大な錠前は、何かで溶かされたように歪に壊れていた。
こんな芸当ができるのはこの船では一人しかいない。
「「エーーーースーーーーー!!!!」」
ボボッとマルコの身体から青い炎が立ち上り、サッチの顔に青筋が浮かぶ。甲板にたっていた船員数名は、ビクリと体を震わせて1歩下がり、甲板に報告に来た者達も、その状況を見てすぐさま船内に戻っていった。
「あ、あの……ど、どうします?」
震える声をできるだけ抑えながら、隊員は目の前で怒り心頭の隊長2人に聞く。
「どうつったって……」
いくらなんでも3日分など、この何も無い大海原では確保できないのは明白である。
「どうする、マルコ」
「…はぁー。……とりあえずサッチ、お前はエース見つけてオヤジの部屋まで連れて行けよい。途中で他の隊長見つけたらオヤジの部屋に行くよう言っとけぃ。」
最悪3日何も食べなくても人は死にはしないが、やはりオヤジと隊長格による会議は必要であろう。途中で何処かの島にによるか、そのまま進むかの最終判断は船長であるオヤジが決めることだ。
「2番隊!!」
「「「「「は、はい!」」」」」
「お前らは他の2番隊員連れて甲板で釣りだよい。連帯責任だい」
「「「「「り、了解しました!!!!」」」」」
* * *
そして今に到るわけである。
「やっぱり何処かの島によるんすかね?」
「だろうなぁ。今ナミュールがこの近くに島がないか探しているところだ」
魚人である8番隊隊長のナミュールは魚と話が出来る。
そのためこのような食料不足の際や、嵐によってふねが破損した際などに、近くに寄れる島がないか探すことが多い。
「多分もうすぐ…」
不意に途切れた言葉に、イゾウが視線を向けた先を追えば、マルコが甲板に出てくるところだった。
「よう、マルコ。会議は終わったかい?」
「何が、よう。だよいっ!途中で抜け出しやがって」
「俺が居なくても変わらねぇだろ」
「そう言う問題じゃないよい!」
ガリガリと南国果実のような特徴的な頭をかいたマルコは、はぁ。とため息を吐いた。
マルコの手には1枚の海図が開かれている。
赤い印がつけられているところを見るに、どうやら何処かの島に停泊することに決めたようだ。
「進路から外れるのか?」
「いや、ほとんどこのままだよい。」
「へぇ、運がいい」
「ナミュールが言うにはここから1日と半日の所に小さな島があるみたいでねい」
無人島らしい。
そう言うマルコに、本当に運がいいものだとイゾウは少し目を見開いた。
人の手が入っていない無人島には野生の動物が多い。
食料として動物を狩るには最適の場所と言えた。
「降りるのは2番隊と4番隊と1番隊だよい。おめぇ等は好きにしてろい」
「ん?お前さんも行くのか?」
「無人島なら薬草があるかもしれないからねい。一応な」
そう言うとマルコは船内に戻って言った。
どうやらイゾウに報告するためにわざわざ甲板に出てきたらしい。
「ホント律儀な奴だ」
ふわりと紫煙を揺らす。
1番隊隊長と船医を兼任するマルコはこの船で随一のワーカーホリックだ。
本人がどう思っているかは知らないが、船員達は常に彼の体調に気を揉んでいる。
本人には言わないがイゾウもその1人であった。
「どっかに我が家の長男が休める切っ掛けでもあればなぁ。」
不意にそんな言葉が出るくらいには切っ掛けを欲していたし、隣で二人の会話を聞いていた隊員が強く頷くくらいには皆が思っている事だった。
そんな望んでいた切っ掛けが、これから行く無人島に待っているとは露知らず。
彼らが乗る白い鯨は優雅に海を進んで行った。
そして彼らは出会うのだ。
ゆらゆらと揺れる、摩訶不思議なひとつの卵に──────。
2/2ページ