転生と卵とそれから私
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- 1ー① -
吾輩は卵である。
名前はまだ無い…どころか、まだ生まれてすらいない。
真っ暗な空間で手足を動かせばコンコンと硬質な壁に当たり、重心をずらせばゴロンッと勢いよく転がる。
紛れもない卵なのである。
「(どうしてこうなった…)」
しかし、数時間前まで私は歴とした人間だった。
生まれは日本。育ちも日本。都会ではないけれど田舎と言うほど人口も少なくない、平々凡々な所に育った社会人2年目。
それが私であった。
会社はブラックでは無いけれどホワイトとも言いにくい所で、残業は少ないけれどその分休みも少なく、昨日やっと2週間ぶりにとれた全休をゲーム(ポケットモンスター)と漫画(ONEPIECE)で費やしていた、そんな22歳の女だった。はずなのだが…。
「(…あぁ、そうだ)」
私は2週間ぶりの休みに浮かれすぎていたのだ。貯めていたゲームの進行と漫画に集中しすぎて時間を忘れて楽しんでいた。その結果が翌日の遅刻である。
1時間近く寝過ごしたせいで、どれだけ急いでもアパートを出る時間が普段より30分は遅れていた。
いつも履いているパンプスを手に持ち、スニーカーを履いて通勤道路を猛ダッシュする。
急いでいる時にこそ何故か毎回引っかかる赤信号にイライラしながら走って走って走って、
そして私は思わぬ事故に合って死んだのだ。
断じて言うが私に過失は一切ない。
持病が悪化したお爺さんが誤ってアクセルを踏んでしまい前の車に激突。
激突された軽自動車がその衝撃で街灯に突っ込み、老朽化が進んでいた街灯が倒れ込んで建設中のビルに衝突して、そのビルから落ちた鉄骨が私の上に降ってきたのである。
なんていう悪夢のピタ〇ラスイッチ。
ちなみになんでこんなに詳しく事故状況が分かるのかといえば、鉄骨が落ちるまでに少しタイムラグがあったためだ。
あまりの事故に呆然としながら、軽自動車からはい出てきた女性と、通行人に救命処置を受けているお爺さんを、急いでいることすら忘れて野次馬根性で見ていた所に鉄骨が降ってきたのである。
鉄骨が当たる直前に同じく野次馬をしていた人達が、何やら「危ない!」や、「きゃぁっ!」や、「上っ!上っ!」などと叫んでいたために、まじかで自分に迫る鉄骨を見てしまった訳だが。
「(あれで生きてたら私はゾンビだな)」
うん、あれで私は確実に死んだのだろう。そして卵に生まれ変わった、と。
簡単に納得してしまったが、別に達観している訳では無い。
彼氏はいない歴歳の数だし、親も2年前に無くしているが、親友と呼べる友達も仕事の同期や先輩だって私にとって大切な人は沢山居たのだ。
それに新しいゲームや漫画の続きなど、後悔は少なからずある。
しかし私はそれよりも同じことを繰り返す毎日に飽き飽きしていた。
もし生まれ変わるならと考えたことも、片手では足りない。
ポケモンの世界があったら?ワンピースの世界が本当にあったら…。
あぁ…その世界は、一日一日が新鮮な驚きに溢れていることだろう。
まぁ、考えるだけで本当に行きたいかは別だが。
…だって生きていける気がしない。
「(しかし、私はなんの卵なんだろ?卵だから鳥類だとは思うけど…)」
手を動かせばカンカンコンコンとなる殻。
十分な硬度を保っているが、呼吸は出来るし、耳をすませば外の音も微かに聞こえた。
〝サワサワ〟
「(これは葉っぱの揺れる音…)」
〝ちょろちょろ〟
「(これは…水、川の音か)」
〝リーリーリリリッ…リー〟
「(これは鈴虫…ということは、今は夜?)」
日本の田舎の、夏の夜の大合唱に近い音がそこら中から響き渡る。
しかしどれだけ耳を澄ませても鳥の声は聞こえない。
「(まぁ、鳥は鳥目が多いから夜に行動してるのも珍しいとは思うけど…)」
しかし、だからこそおかしいのだ。
休眠しているなら親鳥は巣の中で卵を温めているはずである。
でも、温かさを感じなければ、何かに包まれているという感覚もない。
そもそも重心を動かしただけで卵が転がるということは、前提として卵の周りに何もないことが考えられる。
つまり巣の中でない可能性が高い。
「(なんという人生ハードモードッ!)」
私は人間で言う手だと思われる部分を動かして頭を抱えた。
そもそも死に方ですらピタゴ〇スイッチ的な普通ならあまり無い死に方をしたというのに、転生したらしたで卵から孵る前に死にかけていると言う、この最悪な状況。
「(私は神様に嫌われてるのか!?いるかどうかも分からないけど!!)」
とりあえず、テンションを上げないとやってられない。
「(でも…これからどうするか…。)」
親から捨てられた卵を暖める鳥はいるだろうか?
そもそも私は鳥の生態を知らない。
知っていることといえば、卵は暖めると孵る。鳥目だから夜目は効かない。空を飛べる。この3つくらいだ。
子供でも知ってる知識くらいしかなかった。
「(ダー〇ィンが来たでも見てればよかった…)」
それでどうにかなったとも思わないが、もしかしたら1mmでも、ほんの少しは希望があったかもしれない。多分、もしかしたら。
「(卵を暖めて孵せないなら…中から破るとか?)」
手足は意外と自由に動かせるし、呼吸も可能。聴覚も正常に働いているためほとんど身体はできているだろう。
動かせる四脚と頭を殻に押しつけて中からこじ開けようと力を入れる。が、
「(…ビクともしないッ)」
やはり力が足りないのだろうか。
殻はミシリとも言わず、依然その球形を保っている。
「(そうなると次は、何かにぶつけて割るか)」
割れそうな所を探すため重心を動かしてゴロンゴロンと転がる。
コツンと何か(多分、石か木の幹)に当たった所で1度戻り、今度は勢いをつけてぶつかった。
「(ッ!…おおぅ。ぐわんぐわんするぅ〜)」
ゴツンと言う音と共に卵の殻に反響して、ものすごい振動が私の身体に伝わる。
しかし勢いがなかったのか卵の殻にはヒビ1つ入らない。
「(ぐぬぬ…重心移動じゃ勢いがあんまつけらんないか)」
その後何回か続けたが、結果は変わらなかった。
「(となると後は…外から破ってもらう?)」
外から聴こえる音を察するに、卵があるのは何処かの森のなかであることは分かる。
野生動物の2匹や3匹はいるであろう。
中でも肉食動物には卵を食べる者もいる。
肉食動物が卵を食べるために殻を割った瞬間に外に出る。
後はこのくらいしか思い浮かばなかった。
「(もうこれしかない。死ぬかもしれないけど…と言うか死ぬ可能性の方が高いけど!)」
どうせこのままで居ても孵れなくて死ぬのだ。
「(よし!とりあえず見つけてもらうために揺れるか。)」
重心をかるく動かして、ゆらゆら、ゆらゆら。
「(誰でもいいから早く見つけてくれ〜!)」
月明かりしかない薄暗い夜の森でゆらゆら揺れるひとつの卵。
そんな不思議な卵を見つけてくれる者は、まだ居ない……。
しかし数日後、彼女は出会うのだ。
彼女にとって運命となる人達と──────。
吾輩は卵である。
名前はまだ無い…どころか、まだ生まれてすらいない。
真っ暗な空間で手足を動かせばコンコンと硬質な壁に当たり、重心をずらせばゴロンッと勢いよく転がる。
紛れもない卵なのである。
「(どうしてこうなった…)」
しかし、数時間前まで私は歴とした人間だった。
生まれは日本。育ちも日本。都会ではないけれど田舎と言うほど人口も少なくない、平々凡々な所に育った社会人2年目。
それが私であった。
会社はブラックでは無いけれどホワイトとも言いにくい所で、残業は少ないけれどその分休みも少なく、昨日やっと2週間ぶりにとれた全休をゲーム(ポケットモンスター)と漫画(ONEPIECE)で費やしていた、そんな22歳の女だった。はずなのだが…。
「(…あぁ、そうだ)」
私は2週間ぶりの休みに浮かれすぎていたのだ。貯めていたゲームの進行と漫画に集中しすぎて時間を忘れて楽しんでいた。その結果が翌日の遅刻である。
1時間近く寝過ごしたせいで、どれだけ急いでもアパートを出る時間が普段より30分は遅れていた。
いつも履いているパンプスを手に持ち、スニーカーを履いて通勤道路を猛ダッシュする。
急いでいる時にこそ何故か毎回引っかかる赤信号にイライラしながら走って走って走って、
そして私は思わぬ事故に合って死んだのだ。
断じて言うが私に過失は一切ない。
持病が悪化したお爺さんが誤ってアクセルを踏んでしまい前の車に激突。
激突された軽自動車がその衝撃で街灯に突っ込み、老朽化が進んでいた街灯が倒れ込んで建設中のビルに衝突して、そのビルから落ちた鉄骨が私の上に降ってきたのである。
なんていう悪夢のピタ〇ラスイッチ。
ちなみになんでこんなに詳しく事故状況が分かるのかといえば、鉄骨が落ちるまでに少しタイムラグがあったためだ。
あまりの事故に呆然としながら、軽自動車からはい出てきた女性と、通行人に救命処置を受けているお爺さんを、急いでいることすら忘れて野次馬根性で見ていた所に鉄骨が降ってきたのである。
鉄骨が当たる直前に同じく野次馬をしていた人達が、何やら「危ない!」や、「きゃぁっ!」や、「上っ!上っ!」などと叫んでいたために、まじかで自分に迫る鉄骨を見てしまった訳だが。
「(あれで生きてたら私はゾンビだな)」
うん、あれで私は確実に死んだのだろう。そして卵に生まれ変わった、と。
簡単に納得してしまったが、別に達観している訳では無い。
彼氏はいない歴歳の数だし、親も2年前に無くしているが、親友と呼べる友達も仕事の同期や先輩だって私にとって大切な人は沢山居たのだ。
それに新しいゲームや漫画の続きなど、後悔は少なからずある。
しかし私はそれよりも同じことを繰り返す毎日に飽き飽きしていた。
もし生まれ変わるならと考えたことも、片手では足りない。
ポケモンの世界があったら?ワンピースの世界が本当にあったら…。
あぁ…その世界は、一日一日が新鮮な驚きに溢れていることだろう。
まぁ、考えるだけで本当に行きたいかは別だが。
…だって生きていける気がしない。
「(しかし、私はなんの卵なんだろ?卵だから鳥類だとは思うけど…)」
手を動かせばカンカンコンコンとなる殻。
十分な硬度を保っているが、呼吸は出来るし、耳をすませば外の音も微かに聞こえた。
〝サワサワ〟
「(これは葉っぱの揺れる音…)」
〝ちょろちょろ〟
「(これは…水、川の音か)」
〝リーリーリリリッ…リー〟
「(これは鈴虫…ということは、今は夜?)」
日本の田舎の、夏の夜の大合唱に近い音がそこら中から響き渡る。
しかしどれだけ耳を澄ませても鳥の声は聞こえない。
「(まぁ、鳥は鳥目が多いから夜に行動してるのも珍しいとは思うけど…)」
しかし、だからこそおかしいのだ。
休眠しているなら親鳥は巣の中で卵を温めているはずである。
でも、温かさを感じなければ、何かに包まれているという感覚もない。
そもそも重心を動かしただけで卵が転がるということは、前提として卵の周りに何もないことが考えられる。
つまり巣の中でない可能性が高い。
「(なんという人生ハードモードッ!)」
私は人間で言う手だと思われる部分を動かして頭を抱えた。
そもそも死に方ですらピタゴ〇スイッチ的な普通ならあまり無い死に方をしたというのに、転生したらしたで卵から孵る前に死にかけていると言う、この最悪な状況。
「(私は神様に嫌われてるのか!?いるかどうかも分からないけど!!)」
とりあえず、テンションを上げないとやってられない。
「(でも…これからどうするか…。)」
親から捨てられた卵を暖める鳥はいるだろうか?
そもそも私は鳥の生態を知らない。
知っていることといえば、卵は暖めると孵る。鳥目だから夜目は効かない。空を飛べる。この3つくらいだ。
子供でも知ってる知識くらいしかなかった。
「(ダー〇ィンが来たでも見てればよかった…)」
それでどうにかなったとも思わないが、もしかしたら1mmでも、ほんの少しは希望があったかもしれない。多分、もしかしたら。
「(卵を暖めて孵せないなら…中から破るとか?)」
手足は意外と自由に動かせるし、呼吸も可能。聴覚も正常に働いているためほとんど身体はできているだろう。
動かせる四脚と頭を殻に押しつけて中からこじ開けようと力を入れる。が、
「(…ビクともしないッ)」
やはり力が足りないのだろうか。
殻はミシリとも言わず、依然その球形を保っている。
「(そうなると次は、何かにぶつけて割るか)」
割れそうな所を探すため重心を動かしてゴロンゴロンと転がる。
コツンと何か(多分、石か木の幹)に当たった所で1度戻り、今度は勢いをつけてぶつかった。
「(ッ!…おおぅ。ぐわんぐわんするぅ〜)」
ゴツンと言う音と共に卵の殻に反響して、ものすごい振動が私の身体に伝わる。
しかし勢いがなかったのか卵の殻にはヒビ1つ入らない。
「(ぐぬぬ…重心移動じゃ勢いがあんまつけらんないか)」
その後何回か続けたが、結果は変わらなかった。
「(となると後は…外から破ってもらう?)」
外から聴こえる音を察するに、卵があるのは何処かの森のなかであることは分かる。
野生動物の2匹や3匹はいるであろう。
中でも肉食動物には卵を食べる者もいる。
肉食動物が卵を食べるために殻を割った瞬間に外に出る。
後はこのくらいしか思い浮かばなかった。
「(もうこれしかない。死ぬかもしれないけど…と言うか死ぬ可能性の方が高いけど!)」
どうせこのままで居ても孵れなくて死ぬのだ。
「(よし!とりあえず見つけてもらうために揺れるか。)」
重心をかるく動かして、ゆらゆら、ゆらゆら。
「(誰でもいいから早く見つけてくれ〜!)」
月明かりしかない薄暗い夜の森でゆらゆら揺れるひとつの卵。
そんな不思議な卵を見つけてくれる者は、まだ居ない……。
しかし数日後、彼女は出会うのだ。
彼女にとって運命となる人達と──────。
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